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第三章 舞踏会と武闘会
第三百七十三話 幻初の手
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「さてジェネスト。守り手である君がルインの中にある存在となったことは承知しているよ。
これもまた結果の一つ。彼は実に面白い。彼の許でなら君も、大きく変われるかもしれない。
そして君はある幻魔人のことを気にしているね」
「……はい。おっしゃる通りです」
「よろしい。ならば君にこれを。ディーンの力なくとも、彼を使役し共に戦う事が出来るだろう。
幻形具現首輪を授ける」
「……ディーン様を、代わりにディーン様を許に戻すことは叶いませんか?」
「そちらは彼に託した。君がそれを強く願うなら、彼に協力し、彼と共にあれ」
「はっ。必ずやディーン様を」
「このイネービュにとってはどうでもいい事だが、君の戦いは実に楽しかった。
彼ともうまくやるんだよ。試合で使用しても構わないから」
「畏まりました」
「さて……こちらが先かな」
再びイネービュがふわりと浮かび上がり、全ての人の子を見下ろす。
「人の子らよ。舞踏会と武闘会。大いに楽しめた。だがこれは終わりではなく始まりだ。
私にもしばしなさねばならぬ事柄が増えている。
また、君らにもやらねばならぬことが多くあるだろう。
特に今回、神の遣いたる者たちへ衣装を誂えた者よ。深く感謝しよう。
実に素晴らしい出来栄えだ。恐らく他の神々の間でこれらは流行となる。
エーテル布を託す故、数着さらに誂えて欲しい。当然、ルーンの町でだよ。
ここ四層と町を結びつけるわけにはいかない。そのため第三層にある種族を映し、町となる
拠点を設けよう。その町と取引を出来るようにしてほしい」
フォモルの隣で話を聞いていたフォニーが青ざめ、ドサリと倒れる。
心配したフォモルが揺すぶるが、嬉しさのあまり卒倒してしまったようだ。
「手の事で一つ。ルインへの褒美を考えていたんだ。彼には新しい遊び道具も教えてもらう
予定だから……これはきっと、彼ならそう望むだろうという私の予測も含むんだけどね」
イネービュが手を上に翳すと、一本の右腕が下りてくる。
「いいかいメルザよ。これを身につければ君の右腕は機能するようになるだろう。ただし
君の持ち前の力は失われ、そして半年は眠りから目を覚まさない。どうだ、これを付けてみる気はあるか」
「俺様か? 急にそんなこと言われてもよ。俺様ルインが心配で……それに俺様、強くなりてーのに
弱くなるなんてよ」
「彼なら大丈夫だ。しばらくまた、目が開かないだろうから手を引いてあげるんだよ。
彼の目は特殊すぎる。既にウガヤの目となりつつあるが、命には別段影響はない。それと、君は弱く
なるわけじゃない。右手に大量の幻魔人の力が集約されると思ってくれ。ただしウガヤの影響を
右手に集約させるから、右手だけ異常に疲れやすくなる。君の持つ才能でウガヤの影響を最小限に
封じ込めるんだ」
「……俺様、よくわからねー。むつかしくてよ」
「イネービュ様、それなら私が後ほどわかるように話しておきましょう。しかしよいのですか?」
「いいんだブネ。お前も左腕を託したのだろう。それにレピュトの手甲もルインが所持している。
きっと彼女なら使いこなせると信じているよ」
「……わかりました」
「けどよ。俺様……俺様嫌だよ。みんなと半年もあえねーんだろ? そんなの、さみしーじゃねえか!
それにその……ルインとは結婚したばかりだしよ」
「君にとっては一瞬の事だ。周りの皆は長く感じるかもしれないけれど」
「けどよ。その半年の間俺様はどーなるんだ? 飯も食えねーんだろ?」
「メルザよ。半年の間お前には私の中にいてもらう。もっとも安全な場所だろう」
「俺様がブネ様の中に?」
「そうだ。イネービュ様が幻初の手を託すということはつまり、このブネがお前たちと
常に行動をしろという意味でもある。しかし……イネービュ様の御世話は一体誰が?」
「エカトーを招集して彼に任せるつもりだ。それとブネ以外にもう一名地上へ向かわせる」
「……一体誰をですか」
「エプタだ。ルインに同行させるつもりだよ」
「本気ですか?」
「ああ。エプタには従うよう伝えた。不満そうだったけどね」
「それはそうでしょう。しかし、絶対神であるあなたがおっしゃるのです。
お考えあっての事でしょう」
「そういうこと。どうだいメルザ。君はブネに貰った片腕で、幻獣ウガヤの脅威を感じながらこのまま
生きるか、それとも幻初の手を得て、実力は振り出しに戻るが己の右腕を取り戻して生きるか
どちらを選ぶ?」
「俺様……俺様どうしたらいいんだ。いつも考えるのはルインだった。俺様頼ってばっかりだったから。
なぁ、時間くれねーか?」
「あまり時間は無いと思う。彼が起きてもしばらく目が見えない。
それはわかっているね」
「ああ。だいじょぶだ。前もそうだった。ルインが見えても見えなくても関係ねーんだ。
ただ俺様がいねーとルインはどうなっちゃうのかなって。だから……」
「仕方ないね。それでは先にあの夫婦の方を決めようか」
ちらりとベルディスとライラロを見たイネービュは、何かを思案していた。
これもまた結果の一つ。彼は実に面白い。彼の許でなら君も、大きく変われるかもしれない。
そして君はある幻魔人のことを気にしているね」
「……はい。おっしゃる通りです」
「よろしい。ならば君にこれを。ディーンの力なくとも、彼を使役し共に戦う事が出来るだろう。
幻形具現首輪を授ける」
「……ディーン様を、代わりにディーン様を許に戻すことは叶いませんか?」
「そちらは彼に託した。君がそれを強く願うなら、彼に協力し、彼と共にあれ」
「はっ。必ずやディーン様を」
「このイネービュにとってはどうでもいい事だが、君の戦いは実に楽しかった。
彼ともうまくやるんだよ。試合で使用しても構わないから」
「畏まりました」
「さて……こちらが先かな」
再びイネービュがふわりと浮かび上がり、全ての人の子を見下ろす。
「人の子らよ。舞踏会と武闘会。大いに楽しめた。だがこれは終わりではなく始まりだ。
私にもしばしなさねばならぬ事柄が増えている。
また、君らにもやらねばならぬことが多くあるだろう。
特に今回、神の遣いたる者たちへ衣装を誂えた者よ。深く感謝しよう。
実に素晴らしい出来栄えだ。恐らく他の神々の間でこれらは流行となる。
エーテル布を託す故、数着さらに誂えて欲しい。当然、ルーンの町でだよ。
ここ四層と町を結びつけるわけにはいかない。そのため第三層にある種族を映し、町となる
拠点を設けよう。その町と取引を出来るようにしてほしい」
フォモルの隣で話を聞いていたフォニーが青ざめ、ドサリと倒れる。
心配したフォモルが揺すぶるが、嬉しさのあまり卒倒してしまったようだ。
「手の事で一つ。ルインへの褒美を考えていたんだ。彼には新しい遊び道具も教えてもらう
予定だから……これはきっと、彼ならそう望むだろうという私の予測も含むんだけどね」
イネービュが手を上に翳すと、一本の右腕が下りてくる。
「いいかいメルザよ。これを身につければ君の右腕は機能するようになるだろう。ただし
君の持ち前の力は失われ、そして半年は眠りから目を覚まさない。どうだ、これを付けてみる気はあるか」
「俺様か? 急にそんなこと言われてもよ。俺様ルインが心配で……それに俺様、強くなりてーのに
弱くなるなんてよ」
「彼なら大丈夫だ。しばらくまた、目が開かないだろうから手を引いてあげるんだよ。
彼の目は特殊すぎる。既にウガヤの目となりつつあるが、命には別段影響はない。それと、君は弱く
なるわけじゃない。右手に大量の幻魔人の力が集約されると思ってくれ。ただしウガヤの影響を
右手に集約させるから、右手だけ異常に疲れやすくなる。君の持つ才能でウガヤの影響を最小限に
封じ込めるんだ」
「……俺様、よくわからねー。むつかしくてよ」
「イネービュ様、それなら私が後ほどわかるように話しておきましょう。しかしよいのですか?」
「いいんだブネ。お前も左腕を託したのだろう。それにレピュトの手甲もルインが所持している。
きっと彼女なら使いこなせると信じているよ」
「……わかりました」
「けどよ。俺様……俺様嫌だよ。みんなと半年もあえねーんだろ? そんなの、さみしーじゃねえか!
それにその……ルインとは結婚したばかりだしよ」
「君にとっては一瞬の事だ。周りの皆は長く感じるかもしれないけれど」
「けどよ。その半年の間俺様はどーなるんだ? 飯も食えねーんだろ?」
「メルザよ。半年の間お前には私の中にいてもらう。もっとも安全な場所だろう」
「俺様がブネ様の中に?」
「そうだ。イネービュ様が幻初の手を託すということはつまり、このブネがお前たちと
常に行動をしろという意味でもある。しかし……イネービュ様の御世話は一体誰が?」
「エカトーを招集して彼に任せるつもりだ。それとブネ以外にもう一名地上へ向かわせる」
「……一体誰をですか」
「エプタだ。ルインに同行させるつもりだよ」
「本気ですか?」
「ああ。エプタには従うよう伝えた。不満そうだったけどね」
「それはそうでしょう。しかし、絶対神であるあなたがおっしゃるのです。
お考えあっての事でしょう」
「そういうこと。どうだいメルザ。君はブネに貰った片腕で、幻獣ウガヤの脅威を感じながらこのまま
生きるか、それとも幻初の手を得て、実力は振り出しに戻るが己の右腕を取り戻して生きるか
どちらを選ぶ?」
「俺様……俺様どうしたらいいんだ。いつも考えるのはルインだった。俺様頼ってばっかりだったから。
なぁ、時間くれねーか?」
「あまり時間は無いと思う。彼が起きてもしばらく目が見えない。
それはわかっているね」
「ああ。だいじょぶだ。前もそうだった。ルインが見えても見えなくても関係ねーんだ。
ただ俺様がいねーとルインはどうなっちゃうのかなって。だから……」
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