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第三章 舞踏会と武闘会

第三百四十九話 第二試合 超える力を身に着けて

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「ぐっ……あ……」
「おめぇら人間なんぞ……自分たちの事ばかり考えて生きている存在だろうが!」
「ぐ……なんとか……しない……と、足を、足を……」
「ああん!? 足がどうしたよ、おらぁ!」
「わたくしがこれ以上足を引っ張るわけにはいかないのですわ!」

 ミリルは手にした鎗を器用に使い、掴まれている首から手を引きはがした。
 後方に大きく跳躍してエプタと距離を取る。

「いいわよミリル! がんばりなさい! もっと強くなって、天国のお父さんにあんたの強さ、見せつけて
やりなさい!」
「ちみは本当にあちらの味方だな。わらもまだ、人を憎んでいる。だが……ルインのおかげで
救われたところが大きい。わらの目には、あの者ももがき苦しんでいるように見える」
「それでもあの子はお父さんを亡くしたばかりなのよ! 応援したくなるじゃない! 司会だけど
今はあの子の応援をするの!」
「まぁ、そこに同乗の余地はある。だが……そのような心配をせずとも、闘志はまるで潰えていない。
素晴らしい精神だ」

 ミリルは突き刺さった外れない矢の痛みに耐え、美しく槍を斜めに構えたまま、片足を地面につき、もう
片方のつま先を地面につけるかたちでエプタと対峙する。凄い形相だ。あんな顔のミリル、初めて見た。
 海底に行ってる間に父親を亡くしたのか……ミディさんだったかな。
 ミリルがうちの団に所属しているから、一度ご挨拶したかったのだが……残念だ。
 ミリルの父の死を聞いて、メルザの表情がとても曇っている。
 それもそうだ。ミリルはメルザを何度も助けてくれている。
 今はそれを聞いて、会場に飛び込んでいきたくて仕方ないのだろう。
 だが唇を噛みしめ、じっとミリルをみている。

「メルザ、俺たちがいない間、いろいろあったんだろう。きっと俺たちの結婚に気遣いして伝えなかった
んだろうな」
「なんかよ……俺様、ルインがいねー時、散々ミリルやライラロ師匠に泣きついたんだ。
でもよ、ミリルはすげーなって。辛い時にあんな風にできてよ。俺様、俺様なんて声かけたらいーんだ?」
「俺が聞くよりメルザが聞いた方がいいだろう。俺は親を亡くしたわけじゃない。メルザがくみ取って
あげるといい。それに……もうミリルにはこんなにたくさん、家族がいるだろ?」
「そーだな。俺様にとってもミリルは家族だ。だからよ。ルーと一緒に町で暮らすんだ。一緒に」
「む……動くぞ。あの体でまだ戦うっていうのか。あの矢、相当効くぞ」
「あれは心の矢。そのもののうちにある心のわだかまりをえぐる矢だ」

 ブネがそう指さしながらエプタを見る。心の矢? だから突然気付かずに刺さったのか。
 
「おめえは何でここで戦う。一体何がしてぇんだ。後ろのやつらとどうだってんだ」
「……見てもらいたいのですわ。わたくしは一人、身勝手な行動をしてしまいました。
他のみなさんにきっと、ご迷惑をかけてしまった。それに……わたくしは竜騎士。
誇りをもって強くあらねばならないのです。そして……大切な皆さんを守りながら、ずっと傍に、傍にいたい
んです!」
「……なんなんだ、おめえらよってかかって。気にいらねぇ!」

 ――――一方、後方では幻影竜と対峙するシュウとベルド。どう見ても旗色が悪い。
 しかし二人とも、諦めてなどいない。

「絶体絶命のピンチにこそ、大きなチャンスが巡る」
「そう教わった。強気者と対峙できることを喜びに思いなさい。自分を超えるためには、より強気者を
求めるしかない。修行とは超える力を身に着けるもの」
「俺たちは」
「絶対超えてみせる!」

 ベルドもシュウも後ろを振り返らない。ミリルを信じている。
 そして加勢に加わったルーは、一直線に後方へ走り出していた。
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