上 下
385 / 1,085
第三章 舞踏会と武闘会

第三百三十二話 舞い踊る調べ

しおりを挟む
 踊り終わった俺に、リルが近づいて話しかけてきた。

「かなり長く踊っていたね……どうしたんだい? 大丈夫?」
「ああ。話を聞いていたら悲しくなってしまって。神との意識の違いにさ」
「ふふふ、君らしいね。案外君は泣き虫だから、僕がそばにしっかりといてあげないとね」
「からかうなよリル。でもお前の言う通りだな。何度泣いてる姿をお前に見せてるんだろう。
昔は涙一滴、流さなかったのに」
「前世かい。君は我慢ばかりするから、そうやって吐き出す方が絶対いいよ。女性には弱い所を
見せたくないだろうしね」
「それはお互い様だよ、リル。俺はお前に助けられてばかりだ。
だからこそ……」
「さぁ、それはいいから。今度は僕と踊ろう。僕は回避に専念するから、一刀で」
「よし、いくぞリル!」

 俺はリルと向き合い舞踏を開始する。神の遣いが盛り上げるように音楽を奏でだす。
 リルは美しい。そしてとても嬉しそうだった。
 
「下段、中段、上段、突き、右斬り、左斬り、中央!」
「模倣!」

 俺の動きを完全に模倣している。寸分たがわぬ回避が続き、大いに盛り上がった。
 二人で一礼をする。
 それからエーナ、ディオ、トゥリス、テーセラ、ペンデ、エークシ、エプタ、オクト、エンネア
そしてブネ。それぞれの神の遣いと一通り踊った。

 それから女性陣と向き合う。まずはメルザ。

「お嬢さん、私と舞い踊ってくれませんか?」
「なっ!? その……うまくできるかな。俺様片手だしよ……」
「はははっ、今更何言ってんだ。たとえ両腕が無くても、俺が抱きしめて踊ってやる。
お前を一生、楽しませてあげれるように! さぁおいで、我が妻……いや、我が主よ」
「にはは! 俺様はルインの親分! ちゃんと引っ張ってくれよな!」
「ああ、もちろんだ!」

 メルザの左手を引きよせ、体をつける。細い腰に手を当て、十分にリードして踊る。
 神の遣いもちゃんと気をきかせて、メルザに無理のないような音楽にしてくれた。
 きっと周りから見ればメルザは可愛いが、美しいとは少し違って感じるのかもしれない。
 それでも俺の心には、何よりも無邪気で無垢なこいつが、美しく見える。
 今まで見た中で一番の笑顔を見せ、喜んでくれた。
 二人で手をつなぎ一礼する。

『次は私よ!』
「ファナ、サラ……完全に同時だな……」
『私が先よ!』
「あれ、ベルディアは……ああ、神に楽器の指導受けてるのか、なるほど。それじゃ二人とも、手を」
『えっ?』

 俺はファナとサラそれぞれの手を取り踊り始める。お前たちはどっちかを先にすると絶対もめる。
 だから一緒にって思ってたんだ。
 どちらも甲乙つけがたい程美しいし一途。
 そしてどちらもとびぬけた戦闘センスの持ち主。今まで幾度も助けられた。

「二人とも、感謝してもしきれないほどだ。本当に俺なんかでいいのか?」
「なんかって何よ。ルインより素敵な男なんてこの世にいないわ」
「私、あなたがいなければとっくに死んでたか、酷い奴隷になってた。一生を捧げてもたりないの。
あなた以外と結ばれるなんて絶対嫌よ」
「俺はメルザが好きだ。それを知っててなおそう言うんだから、二人の気持ちもちゃんと
受け止めないとだよな。ありがとう。二人とも、大好きだよ」
「……私もう、死んでもいいかも」
「あら奇遇ね、私もそう思ったわ……でも、死ぬなんてもったいなさ過ぎてできないわ」

 二人の手を引いて激しく舞い踊り、美しくポーズを決めて踊りを終えた。
 やっぱりこの二人は息がぴったりだ。

「次はどっちが先に一緒に寝るか決めないとね」
「えっ? あの……」
「ふん、私が先に決まってるじゃない。潜り込んでやるわよ」
「おーい、人の話を……」
『ふん!』

 スタスタと火花を飛ばしながらどこかへいってしまった。
 
「次は私、それとベルディーと踊ってもらえるかな。彼女、ちょっと自信がないみたいで」
「イーファ……わかった。ベルディア、大丈夫か? 顔色よくないけど」
「……私人魚っしょ。だから舞踏なんてできない。どうしようルインに嫌われたら」
「何いってんだ。天地がひっくり返ろうが、ベルディアを嫌う事なんてないよ。
ベルディアのいいとこは思い切りのよさ……だよな。いつもやってる格闘術で俺に向かってせめてきな!」
「え? 格闘術? それならいけるっしょ! シッ!」
「おやおや、それなら私も混ざろうかな。格闘はそこまで得意じゃないけど!」

 ベルディアの動きの速さに合わせて、神の遣いが激しい音楽を奏で始めた。
 ベルディアとイーファ両方を相手に迫りくる拳を回避していく。
 本当にベルディアは真っすぐで思い切りがいい。
 踏み込みもかなりよくなった。
 ジオのいう通り、格闘センスはベルディアが頭一つ抜けている。
 イーファは慎重だから動きが判別しやすくて助かるが、これ……ちょっ……まずい! 

「お、押される。まじか! 神魔解放! うわーっととと」
「体、軽くなった? これなら! しゅっ!」
「本当だ。先ほどまでが嘘のようだ。ルインの動きが……あっ」

 反応が上がったベルディアの動きを回避しきれず、片手を地面についてもう片方を前へ出し、迫る
反動をいかして反対へまわろうとしたら……伸ばした手がぷるぷるな何かにヒットした。

「えっち……」
「どわーっ、最初からベルディア一人相手でお願いすべきだった! すまん!」

 
 タイミングよく神たちの演奏が止まる。

「ちょ、曲そこで止めるなって! 皆見るから!」
「……なんで妻一番乗りタッチがあいつなわけ?」
「本当は王様のを触ろうとしてたんじゃない? ルインって結構イーファ好きだし」
「おいおいおいおいー! 音楽はよ! はよー!」

 しかしそんな俺の要望に、応えてくれる神はいなかった。
 そう、神は死んだのだ……決してニーチェのような無価値化の意味ではない……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く

burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。 最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。 更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。 「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」 様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは? ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。

【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて
ファンタジー
謎のダンジョン、真実クエスト、カウントダウン、これは、夢であるが、ただの夢ではない。――それは世界のルールが書き変わる、最初のダンジョン。  無自覚ド善人高校生、真瀬敬命が眠りにつくと、気がつけばそこはダンジョンだった。得たスキルは『ガチャ』! クラスメイトの穏やか美少女、有坂琴音と何故か共にいた見知らぬ男性2人とパーティーを組み、悪意の見え隠れする不穏な謎のダンジョンをガチャスキルを使って善人パーティーで無双攻略をしていくが…… 1部夢現《ムゲン》ダンジョン編、2部アポカリプスサウンド編、完結済。現代ダンジョンによるアポカリプスが本格的に始まるのは2部からになります。毎日12時頃更新中。楽しんで頂ければ幸いです。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

処理中です...