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第二章 神と人

第三百十九話 神剣ティソーナ

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 手を伸ばすと、上空からクルクルと回転しながら一本の剣が吸い込まれるように降りてきた。
 その剣は、刀身が真っすぐで細い。一見すると頼りなさそうに見えるが、先端が禍々しい程
紅色に染まっている。それ以外は白い。
 これが神剣……? コラーダの方が余程神剣に見えるし能力もすさまじかったが……。

「ちょっとアンタ! 今疑ったでごじゃろ?」
「え、あの、はい」
「これだから最近の若いのは! ほんとに困ったでごじゃった」
「えっと、その、すみません」
「別にいいでごじゃろ。ティーちゃん貰われたでごじゃろ」
「……」

 えーっと。まず喋った。これはあまり驚かなかった。
 なんせ前世で散々喋る剣だのはよくみた。
 しかしなんだこのしゃべり方は。まるで麿とかいいだしそうだ……。

「早く手にとるでごじゃろ。麿、疲れるでごじゃろ」
「言っちゃったよ。麿って言っちゃったよ! あの、ティソーナさん! 
もうちょっと雰囲気出してもらえませんかね!?」
「雰囲気? こうでごじゃろ?」
「うわわわわわ! 落雷を辺り一面に落としてきた!? 麿言葉なのに半端ないぞこいつ……」
「こいつとは失礼でごじゃろ! それより御前はコラちゃん持ってるでごじゃろ?」
「コラちゃんてコケコーラみたいな言い方になってるよ……」
「な、なぁルイン。それが……すげー剣……なのか?」
「い、いや。どの場面で見た剣よりやばさが感じられない……」
「だから、失礼でごじゃろ! この世に二つとない名剣でごじゃろ!」
「あ、あの。とりあえずティソーナ本体であるなら受け取らせてもらいますね……」

 勢いに押されて敬語になる俺。どうもこの手のやつに弱い気がする。
 社畜体制だからだろうか。

「うむ。大事に扱うでごじゃろ。して、御前は何者でごじゃろ? モリアーエルフには
見えぬでごじゃろ」
「あ、ああ。俺は……ルイン・ラインバウト。妖魔……あれ? 俺って何者なんだ? 
妖魔で神魔になって……元人間の転生者で、うーん」
「ルインは俺様の子分で……その、旦那……」
「め、メルザ!? 気が早いよ!?」

 ボンッと真っ赤になるメルザ。

「ほうほう、御前たち不思議な関係でごじゃろ。なんだか愉快そうでごじゃろ。
ふうむしかし、なぜこんなにも力が感じられんでごじゃろうな。喋れるのなんて
久方ぶりでごじゃろ。アルファラース以来でごじゃろ」
「アルファラース?」
「気になるでごじゃろ? 初代の使い手にして最強のモリアーエルフでごじゃろ」
「ああ。あの時見えた光景の……エグゼキューション!とかいう凄まじい技ぶっ放してた
あいつか」
「御前、見えたでごじゃろうか? これは愉快な逸材かもしれぬでごじゃろ」
「そうでごじゃろうか? ……ああっ、うつった……」
「これは本当にティソーナなのでしょうか。どうにも信じられない」
「失礼でごじゃろ! おや、幻魔人形でごじゃろ」
「ジェネストの事も知っているのか……おっと、あまり喋ってもたもたしている場合じゃなかった。
なぁティソーナよ。喋れるなら都合がいい。お前を封印していたバラム……ブレアリア・ディーン
について、何か知らないか?」
「当然知ってるでごじゃろ。麿を守り、麿と共に使命を全うし、幾度も生死を繰り返す存在でごじゃろ」
「今回、バラム……ブレアリア・ディーンは死んでいない」
「ほよ? どういうことでごじゃろ? バラムをやり過ごして封印を解いたでごじゃろ? 
そんなこと、神でも不可能でごじゃろ?」
「それがどうにかなったっぽいんだが、戻し方がわからなくて。バラムは夢幻級アーティファクト
の内に強化用素材として封印された……と思うんだが」
「ふうむ。イネちゃんに聞いてみるでごじゃろ。四層にいくでごじゃろ?」
「その予定ではあるんだが……一体イネービュって何を考えているんだ。
舞踏会と武闘会を開くって言ったっきり音沙汰無いんだよ」
「……それはまずいでごじゃろ。神の舞踏会、武闘会でごじゃろ? 非常にまずいでごじゃろ」
「いい予感は全くしないけど、一体何が起こるっていうのさ」
「麿にもわからないでごじゃろ」
「もうええわ! はぁ……とりあえずこいつ持ってみんなに笑われるとしよう……」
「笑われるとは失礼でごじゃろ! さぁこの鞘に納めるでごじゃろ」
「ん? ああ。鞘はかっこいいな。どこにつけようか」
「利き腕の逆手側で鞘を持つでごじゃろ」
「ん? 右手で持てばいいのか。最近めっきり左利きに……うおお! 鞘が手のひらに吸い込まれて
いく! な、なんだこれ!?」
「その右の手のひらが今日から鞘でごじゃろ」
「おいおい、冗談はコラーダだけにしてくれ。消える剣の次は体内に収納だと!?」
「そうでごじゃろ。ほら、行くでごじゃろ。どっこいしょうざぶろ」
「お前! 最後ろで終わるためにわざと言っただろー!」

 ずぶりと俺の右手に剣が突き刺さるようにみえ……そのまますーっと手のひらに
剣が飲み込まれていった。

「そうそう、麿を使用したければ……お願いしますティーちゃん出てきてください
何でも一つ言う事ききますからお願い! でごじゃろ。というでごじゃろ」
「死んでも言わねえよ!」
「ひょ!? それは困るでごじゃろ……仕方ないでごじゃろ。封剣と呼びながら人差し指と薬指を
手のひらに当てて引っ張りだすでごじゃろ」
「最初からそう言え! 滅茶苦茶恥ずかしい呼び出し方させようとしたな!」
「むふふでごじゃろ。それでは麿はしばらく寝るでごじゃろ」

 はぁ……これ以上突っ込んでるとリルたちに会うのがどんどん遅くなる……外に……。
 
「あれ、外、どうやって出るんだ? セーレ、行けるか?」
「ああ。それなら心配ないでごじゃろ。全員手をつないだら、賢者の石を右手で握りしめ、脱出と
唱えるでごじゃろ」
「そんなので出れんのか。そーいやこの賢者の石……これがブレディーをつなぐ生命線だよな……」

 俺はジェネストとセーレを封印に戻し、メルザと手をつないだ。
いつもとは反対の左手。右手でつかむと賢者の石が握れないので左手で握った。
 ……いつものメルザの手ではないけれど、そんな事、もう気にはさせない。
 たとえメルザがどれほど不自由しようとも、全て俺が支えて見せる。
 我が主のために、新しい力全てを使って。
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