上 下
360 / 1,085
第二章 神と人

第三百十話 紫色の門前で

しおりを挟む
 戦車形態で闇の中を疾走した俺たち。あっという間に最初の間へと到着する。

「ヒヒン! 君を運んだのはもう一つ先の間だよね。一気に行くよ」
「おい……いくら何でも早すぎ……」
「ヒヒン! 自由に動けるって楽しいね! ヒヒン!」

 セーレは凄い速さで移動する。広大なフィールドの場所に出た。かなり荒れ放題なその場所に、ぽかりと
空いた穴がある。あそこが次の試練に向かう場所か? 

「一気に行くよ! ヒヒン!」
「まじかよ。最初の試練ですらやばかったんだぞ。一体何がいるのか」

 そこから下へ降りた先は紫色の臭気を放つ部屋だった。これは……毒か? 
 しかしその部屋をとんでもない速さで潜り抜けたので、ほぼ毒を見ることはなかった。

 次の虫が大量に蠢く部屋も空を駆け抜け、変なガラスの入れ物に閉じ込められているモンスター群も
ガラスをぶち割りながら一気に駆け抜けてしまう。

「……これ、試練なのか? イネービュ、怒らないかこれ」
「ヒヒン! 平気だよ。これが試練だったら作り手がまぬけだね。そう思うよね。だって簡単に突破できたよ」
「そりゃ、相手が対人だったらの話だろう。今の俺たち、人じゃなくて乗り物だぞ……」
「ヒヒーン! 乗り物とは失礼だね。僕は乗せるための道具じゃないよね。守護者だよね」
「あ、ああ。悪い、そういう意味で言ったんじゃない。そういう形態って意味だ」
「わかってるよ。ヒヒン! からかいがいがあるよね。楽しいね。ルインと喋るの楽しいね。そうだよね。
やっぱりベリアルって呼んじゃだめ?」
「別にいいよ。俺の名前がルイン・ラインバウトってのだけ覚えておいてくれればさ。
呼ばれ方は既に色々さ。ベリアールだったりツインだったり」
「ヒヒン! ベリアルが帰って来たみたいで嬉しいね。みんな喜ぶよね。でも悲しいね。守護者だから
戦わないといけないよね。意思ある守護者は半分しかいないけどね」
「その守護者っての何なんだ? ……いや、今は聞いてる場合じゃなかったか。そろそろこの反則移動も
終了だ。でかい門が見える」
「そうだねこの門はただじゃくぐれないね。くぐれそうにないね。下に降りようそうしよう」

 目の前には紫色の高さ、幅数十メートルはある巨大な門が見えた。通り抜けれるのはここだけという門。
 先ほどと違って地面には何もないし、モンスターの気配はしない。
 元の姿へと戻り、セーレに二人を乗せて、門の開け方を調べる。


「なんだこの門。取っ手とかないぞ。どうやって開けるんだ?」
「ヒヒン! わからないね。彼女に聞いてみたらいいんじゃない? 気ッと知ってるね。そうだよね」
「うん? ……ブレディー、起きてたのか」
「ツイン? ここ、天国? ブレディー、召された? ツイン、一緒? 助からなかった?」
「ここは現実世界だ。俺もブレディーも生きてる。いや、現実は地獄……か。
今は……だけどな!」
「……なぜ? ブレディー、ツインと、一体化、出来たのに。それに、主、メルちゃん、一緒?」
「ブネが連れて来たんだ。なぁブレディー。助けてくれてありがとう。お前のおかげでこうして
まだ生きてる。俺のボロボロだった獣の体を元に戻したのも、ブレディーの体を戻したのも、全部
メルザの力の影響だ。その代わり、自分の腕を失った」
「……本当? ブレディー、でも……」
「ブネから聞いた。安心しろ。どんな試練でもお前を殺したりなどしない。ティソーナは手に入れる。
お前が死なない方法を考える。それが俺の役目だ」
「不可能。ブレディー、使命から、逃れられない。だから、先に、殺して」
「つまりブレディーはメルザの行為を無駄に終わらせたいってのか?」
「違う。でも、多分、私、ツインを、襲う。それは、嫌、絶対に」
「だからメルザが生かしてくれて、こうしてまた俺と話せるのに、それを棒に振るってのかい?」
「違う、嫌。いたい……ずっと、ここ、いたい……」

 俺はブレディーに近づき、頭を撫でてやる。

「お前もメルザと同じくらい、素直だな。二人並んでるとまるで、姉妹みたいだ。
安心しろ。ちっと殴られるくらいで倒れるたまか? 俺は」

 首を横に振るブレディー。だが、とても悲しそうだ。

「そうだな。ブレディー、こう考えてみなよ。仮にお前が俺を襲ったとしても、それはそう……痴話喧嘩だと」
「痴話喧嘩? 何、それ。賢者の石にも、載ってない」
「ははは、そりゃそうだろ。そんな知識、賢者の石には必要ないだろうし。仮にあったとしても調べないだろう」
「どういう、意味?」
「仲がいい夫婦なんかが、互いを思いやりすぎ、愛情が溢れすぎて起こる、たわいもない喧嘩さ」
「だって、絶対、痛い。ひどい、怪我も、する。それに、ブレディーは、きっと……」

 ほっぺをつねって可愛い顔を伸ばしながら言う。

「大丈夫だ。先に仕返ししといた。だから幾らでも攻撃してこい。そしてお前が死なないよう
死力を尽くして戦う。それでもお前が死ぬのなら、俺も一緒に死んでやる。それだけの覚悟で挑む」
「ツイン。いらひ。いらひ。いらひよ……」
「おっと。悪い悪い。さ、俺はいいからメルザに思いっきりお礼を込めて、抱きしめてやんな。
ブレディーは俺の一部。絶対失っちゃいけない一部なんだから」

 ブレディーはメルザにキスをして、力強く抱きしめ呟いた。

「ありがと、メルちゃん。大好き。やっぱり、ずっと、一緒にいたい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

変身シートマスク

廣瀬純一
ファンタジー
変身するシートマスクで女性に変身する男の話

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて
ファンタジー
謎のダンジョン、真実クエスト、カウントダウン、これは、夢であるが、ただの夢ではない。――それは世界のルールが書き変わる、最初のダンジョン。  無自覚ド善人高校生、真瀬敬命が眠りにつくと、気がつけばそこはダンジョンだった。得たスキルは『ガチャ』! クラスメイトの穏やか美少女、有坂琴音と何故か共にいた見知らぬ男性2人とパーティーを組み、悪意の見え隠れする不穏な謎のダンジョンをガチャスキルを使って善人パーティーで無双攻略をしていくが…… 1部夢現《ムゲン》ダンジョン編、2部アポカリプスサウンド編、完結済。現代ダンジョンによるアポカリプスが本格的に始まるのは2部からになります。毎日12時頃更新中。楽しんで頂ければ幸いです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...