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第四章 戦いの果てに見出すもの

間話 過去編 連続話 シーザー・ベルディス ライラロとの出会い~その三

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 ライラロと合流してから一日。十分休んだ。あの声が聞こえてから何日目だ? 
 もうあまり時間がねぇ。どうなるかもわからねえが、状況から察するにただじゃ済まねぇだろう。
 適当な家の中に手頃な両手斧があった。一番しっくり武器がこいつだ。
 昔じゃ重くて使い勝手が悪かったが、この体はやたらと頑強で腕力もありやがる。以前よりつえぇ技も
繰り出せる。

「おいライラロ。おめぇは俺の懐から術を使え。こいつでくくりつけるが落ちるんじゃねえぞ」
「いやよ。危ないじゃない」
「だからっておめぇが狙われたらあっという間にお陀仏だろうが」
「それはそうだけど……ははーん。あんた、さては私から離れたくなくなったのね」
「……今の提案は無しだ。やっぱり勝手にくたばれ」
「やーだーー。ちゃんと守ってよ! くくりつけるから、言う事きくからー!」
「はぁ……何やってんだ俺ぁ。まったく」

 渋々ロープでライラロをくくりつけるシーザー。
 いやがってた癖に笑みを浮かべるライラロを見てさらに深いため息をつく。

「あと何人いるかもわからねぇ。時間もきっと少ねぇ。行くぞ!」
「うん。もうへっちゃらよ。これならうまく歩けない心配もないわ!」

 泊まっていたその辺の家を飛び出すと、周りを見渡す。
 エデンの都がいくら広いといっても、中央にある巨大な鐘のある舞台から見渡せば
 残ってるやつの数人くれぇはみつかるだろう。
 そう思い、急ぎ足で駆け抜ける。
 道すがら襲ってくる者は今のところいない。
 
 ……戦わなければ死ぬのであれば、きっとあの場所に集まるにちげぇねぇ。
 確か豊穣の鐘とかいう場所だ。誰も鳴らさなくなって久しい。神への供物ねぇ……
 俺もくだらねぇと思ったが、自分の強欲を突き詰めた報いがこの始末か……くそが。
 菓子もねぇんじゃ供え物なんざできねえだろうが……いや、何でもいいから供えろ敬えってか。
 どんな神に目ぇつけられたんだこの都はよ……。


「シーザー! あっちにいるわ……でもおかしい。あれって」
「獣人か? おめぇ以外にも奴隷で連れてこられたやつがいやがったか。獣人二人……ウェアウルフ一。
こっちにはまだ気づいていねぇ」
「あの子たち、鎖につながれてるし、私と同じ足よ。ひどい。がりがりに痩せてる。何も食べてないんだわ」
「悪ぃが助けられるかはわからねぇぞ。おめぇで手一杯だ」
「……お願い、シーザー。どうにかしてあげて。お願い……」
「……ちっ。努力はするが期待するんじゃねぇ。いくぞ!」

 ウェアウルフに突撃するシーザー。正面からではなく右から回り込み、獣人たちがいるのとは逆方向
から向かう。

「っ! まだいたか。俺が勝つ! おら奴隷共、役に立て! 解放されたいんだろうが!」
「燃斗! ごめんなさい……」
「氷斗! うぅっ おなか空いたよぅ」
「こいつ、喋りやがった!」
「水流神の盾! 術の防御は任せて!」

 左から放たれる術をライラロが水盾で防ぐ。シーザーは両手斧を振りかざして、剣と盾を
持つウェアウルフに斬りかかった。剣では両手斧を防ぎきるには不十分。
 だが、防いだ衝撃とバックステップを重ねて大きく後退する。ウェアウルフの身体能力をフルに活かした
動き。

 ……こいつぁ強ええな。
 あいつも少しこちらの出方を伺っている。

「おら奴隷共、さっさと働け! 解放してやるって約束したろうが。おめぇらのためだぞ!」
「酷い……シーザーと全然違うじゃない。何よ、あれ……」
「あいつは奴隷商人だ。俺みてぇな護衛で雇われただけの奴じゃねぇ。ホンモノってやつだ。
奴隷は道具としか思ってねぇな」
「なんだおめぇ。同業者かよ。クックック。取引しねぇか? どうせ殺し合わなくても死にゃしねぇよ。
この都を一緒に支配しようぜ。悪い話じゃねぇだろ?」
「こんな場所に興味はねえな。俺ぁこの都を出ようと思ってたところだ。残念だった……な!」

 一気に近づき斧を振るうが、簡単に剣でいなされ、切り返してくる。

「……成程。剣抗流か。どうりで手強いはずだぜ」
「何で知ってる。この大陸に嫌がったのか?」
「さぁな。おめぇにゃ関係ねえよ。ふんっ!」
「グハッ……てめぇ」

 思い切り蹴り飛ばして距離を離す。柔軟な動きだ。さして効いてねぇ。

「燃斗!」
「くっ……しまった。ライラロ!」
「きゃあーーーっ 水斗! あつい、あついよぉ。ロープが……」

 奴隷の放った燃斗を背中に受け、ロープが焼き切れる。ライラロが火傷をしてしまい、どさりと地面に
落ちる。

「おいおい、そいつは奴隷だろ? まさかなぁ。クックック。そうかい。おい奴隷共。その女を
攻撃しろ!」
「は、はい。燃斗!」
「風斗!」

 術が重なり猛炎がライラロに迫る。

「水流神の盾! ううっ、熱いよぉ」
「オラァ! この程度の炎ちゃんと防ぎやがれ!」
「燃斗! ごめん、ごめんなさい」

 ライラロの水盾がはじかれる。
 シーザーはライラロの正面に立ち背中で燃斗を受ける。

「……俺ぁいってぇ何やってるんだ」
「隙ありだぜ。グッハッハッハッハ!」

 その背中をウェアウルフが剣で斬り伏せる。
 ……しかしシーザーは倒れなかった。

「何? なぜその傷で倒れねぇ!」
「ここで倒れたらてめぇ如きに負けた……ことになるだろう……がっ!」

 ウェアウルフの背後に回り背中から羽交い絞めにする。
 そのままバックドロップをかまして頭部を地面にたたきつけた。

「がっ……ばか……な」
「これ……で、てめぇの……負け」
「いやぁああああ! シーザー! シーザー!」
「どっちも倒れた? 私たち、どうなるの……」
「うぅ、おなか空いたよぉ」

 シーザーとウェアウルフはどちらも動かない。
 周囲に児玉するのは、ライラロの鳴き声と、奴隷二人のかすかな声だけだった。

 それから直ぐの事。強い突風が吹き、豊穣の鐘が都全体に鳴り響いた。
 戦いの終わりを告げる様に。
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