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第四章 戦いの果てに見出すもの

間話 過去編 連続話 シーザー・ベルディス ライラロとの出会い~その一

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 俺はシーザー。今年で二十四になる。知令由学園を出て数年。
 エデンの都で奴隷商に腕っぷしを気に入られ、高値で雇われた。
 くそ野郎共には散々兵士になれだ騎士になれだと言いやがる。くそくらえだ。
 フーの野郎はしつこかった。あいつの熱血漢ぷりにはほとほとついていけねぇ。
 正義感溢れるハイヒューターの遺伝ってやつか。けっ、俺には関係ねぇな。

 しかし今日は蒸しやがる。奴隷も今のところ一人入って来る予定だけだ。酒でも買ってくるか。

「おいシーザー。これから奴隷の搬入だぞ。どこへ行くつもりだ」
「酒買ってくるんだよ。まだ時間あんだろ?」
「おいおい、酔っ払って大事な売り物にでも手出ししたら……」
「おいうるせぇぞ。今いらついてんだよ、てめぇが買ってきてくれんのか? あぁ?」
「……ちっ。直ぐ戻れよ。今回のは希少種だ。大事に扱え」
「へいへい。どうせ直ぐ売れていなくなんだろ。俺には関係ねぇけどな」

 ブローバーのやつ、水さしやがって。おかげで腹まで減ってきた。このエデンじゃちっとも
甘い物が売ってねぇ。いいとこ果物くれぇだ。奴隷商なんかさっさと辞めて、甘い物を
喰いつくす旅にでも行きてぇところだ。



 ふらりと酒場に行き、いつも通りの酒を飲む。シーザーは甘い物好きで、甘い酒がほとんど。
 一杯ひっかけて金を投げつけると仕事場に戻った。 
 奴隷部屋に向かうと、既に搬入を済ませたのか、小汚いガキがいた。 

「……殺さないで。助けて」
「ああん? おめぇは商売道具だ。殺すわけねえだろ」
「嘘よ。その顔、何人も殺してる顔だわ」
「おいおいおちびちゃん。殺しと顔は関係ねぇ。おめぇを案内したブローバーいたろ。
あいつはああ見えて殺人鬼だ。数百は殺してる」
「……あんな綺麗な目をした普通の男が?」
「俺よりよっぽどわりぃやつだな。ガッハッハ。どこぞでぬくぬく育ったおめぇにはわからねぇか。
普通に溶け込んでるやつの方がやべぇんだよ。見た目が派手なやつほど真面目で清潔で几帳面だったりする……勿論ただの目立ちたいだけのやつが多くて、そいつらはくそ野郎が多いがな」
「……あんたに何でそんなことがわかんのよ。この足みてよ。ひどいじゃない」
「おめぇより色々見てきてるからだ……その足は奴隷の宿命だ。運が無かったと諦めるんだな」
「……えぐっ。家に帰りたい……お菓子、食べたいよ。家にあったお菓子……」
「……そりゃ、残念だったな。本当に……おい、俺ぁシーザーだ。
しばらくおめぇの面倒を見なきゃならねぇ。よろしくな」
「……名前、思い出せない。記憶もさらわれた日の事以外ぼやけてよくわからない」
「……そうか。そういう呪いだったな。おめぇは奴隷落ちしたのによく喋る。この国の女はライラって
つけるやつが多い。女でよく口が回るからライラロ。ライラロでどうだ」
「私の名前? なんであんたが私の名前をつけるの?」
「名前がねぇと呼びづれぇだろうが。別にいいならてめぇでいいがよ」
「いいわよ、じゃあ私はライラロ。気に入らないけど気に入ったわよ」
「はぁ……おめぇが売れるまでは守ってやる。少しだけなら外に出る許可ももらってるが
うろちょろするんじゃねぇ」
「この足じゃそもそもそんなに歩けないわよ。指が……」
「……作ってやる。これも仕事だ。売れる時には外す」
「えっ?」
「おとなしくしてろ。じゃあな」

 まったく、なんであのガキは平然としてやがるんだ。
 ありゃ確かユニカ族だな。あれならすぐ売れるだろうぜ。そうすりゃおさらばだ。
 まぁせっかくの菓子を喰えねぇ残念な奴だ。いる間だけ面倒みてやるか。


 ――――しばらく義足を作る作業に没頭するシーザー。
 いつしか深い眠りについていた。

 

 ――――目が覚めてから……ふと自分の手を見ると異変を感じる。

「な、なんだこりゃ。俺ぁこんな毛深くねぇ。また夢でも見てるのか?」
「キャーーー!」
「ちっ やべぇ、何か賊でも入りやがったか!」
「ウグルァアアアア!」
「おい、ライラロ! 無事か!」
「キャアアーー! もう一匹来た! ……え? 今ライラロって……」
「おいおい、おれぁシーザーだぞ。よく見ろ」
「どう見ても別人じゃない! あんたがシーザーならそっちをなんとかしてよ!」
「ちっ どこからわきやがった……ウェアウルフか!」
「ウグルルルルル」

 シーザーは対峙するウェアウルフをよく見る。洋服はどう見てもブローバーのそれだった。

「てめぇ、まさかブローバーを……」
「ウガァアアアア!」
 
 一気に迫りくるウェアウルフ。だが鍛えに鍛えぬいたシーザーは強かった。
 何せ腕っぷしを買われて雇われた奴隷商人の護衛。大抵の相手は敵じゃない。

 シーザーへ迫りくるウェアウルフの顔面に左足で蹴りを入れると思い切り吹き飛ぶ。
 そのまま吹っ飛んだそいつを追撃し、顔面を蹴り上げた。

「なっ……なんだこの威力は。絶命させちまった」
「す、すごい……お願い、殺さないで。何でもするから許して……」
「ばかやろう、だからシーザーだって言ってんだろうが、おい!」
「そういえば、服が同じ。臭い服」
「なんだと!? 確かにちょっと匂うか……替えてくるから待ってろ」

 出ていこうとするシーザー。ライラロはこっちを見て何かを言っている。

「……ないで」
「あん?」
「置いていかないで! 一人はいやなのよ……もう、置いていかないで! 
足はいい! シーザーがいてくれればいいから!」

 目に一杯涙をためた少女は、ずっと我慢していた恐怖と本音をシーザーに吐き出した。
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