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第四章 戦いの果てに見出すもの

第二百五十二話 妖真化の本質

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「燃臥斗! ……こいつら町の亜人共よりつぇぇぞ。気を抜くな!」
「氷塊のツララ! くそ、一体何人いやがるんだ、こいつら」
「まずいっしょ。洞窟帰りで寝て無いし。ジリ貧」
「弱音いってんじゃないわよ! ルインなんてもっと疲れてるはずよ!」

 幻魔神殿をあとに、真なる闇のエリアを目指していたが、おかしい。
 この町は三つの夜があったはずなのに、暗さが薄れてる。結界がやぶれそうなのか? 

「っ! コラーダの一閃」
「ぐあーー、おい報告に回れ! キャノー、シャーピーも呼べ! こいつアーティファクト
を持ってやがる!」
「てめぇが呼びにいけよヒルチ! ぐああ、くそが。右腕をやれれた!」
「赤星の小星! くそ、きりがない。……ん? あれは……」
「敵来たれり。数五。ドルドー、参られ」
「やっすよ。ただでさえブレンドとかいうのを縛ってるんすよ? これ以上は無理っす!」
「じゃかあし! 参られ! ファナ、おんぶ」
「先生は相変わらずね……ほら、レウスさん。浮かせてあげて」
「俺の出番か? いいのか? 最大戦力が荷物持ちでいいんだな? な?」
「ルインよすまぬ。遅れた。お主、コラーダを私無しでも使いこなせるようになったか」
「イーファ、気をつけろ! こいつらも多分幹部クラスだ!」

 謎の幼女と犬を連れてる。あれがブレアリアとドルドロスってやつらなのか? 

「ちっ、やるしかねえか。ぬかるんじゃねえぞトシハー」
「誰にいってやがる! おめえから殺すぞ! 絶暗鬼!」

 何かを頭に乗せシュルシュルと巨大化していく二人のカイナ。
 片方は紫色の一つ角の鬼、片方は黄色色の一つ角の鬼に変貌した。

「げぇー、またこういうやつっすよ。どうするんすか?」
「ドルドー、知人、来たれり?」
「なんでそうなるっすか! さっきも似たような奴倒したっすよね?」
「おい、あんたらがイーファの知人か?」
「誰? 否、知人。汝、妖魔」
「え?」
「それよりみんなボロボロじゃない。こいつらはまかせて……」

 そうファナが口走った刹那……突如として変身した暗鬼二体が吹き飛ぶ。
 近隣にいた常闇のカイナの部下も吹き飛んだ。

「味方……いや! 違う! みんな俺の封印に入れ! 急げ!」

 ファナ、イーファ、ドーグル、レウスさん、ベルディア、サラを急ぎ封印した。
 まずい、目の前にいるのは……普通の存在じゃない! 

「犬とあんた! 捕まれ!」
「救世主、来たれり? 汝、我、解放?」
「なんなんすか、あのサイクロプスは! どっから湧いたっすか! このままじゃ町が!」
「言ってる場合じゃねえ! あれはもしかしたら!」

 山をも越える巨体に二本の剣を携えたそれは、おそらく……ギル・ドーガ。
 メルザの片腕を消し、村を、町を破壊しつくす存在。
 圧倒的な存在が目の前に湧き、常闇のカイナもろとも、三夜の町を……両断した。

「うおおおおーーーー、マッドシールド!」
「グルァアアアアアアアアアアアアアア!」

 放った斬撃が三夜の町を越え、直線に巨大な溝を作る。風圧で数百メートル吹き飛ばされた。

「ぐっ……お前ら、大丈夫……か」
「汝、怪我。治療、不可……」
「折れたっす! 間違いなく折れたっす! 痛いっす! 術を解除するとさっきの野郎が
出てきちまうっす!」
「あんなのと戦えると思ってた自分に腹が立つ! 到底今の俺じゃ無理だ! 今の……いや」
「汝、妖魔。真化?」
「うげぇー!? たた、たんまっす。制御できるんすか?」
「いや、多分出来ない。それよりお前ら、夜が明けても生きていられるのか?」
「無理。消滅、闇、必要」
「シャドーダインは闇以外じゃ生きられないっすよ! 結界も解けたしどこかに隠れないと!」
「避難? 無理。あれ、破壊。不可能。死」
「死んでも先生は復活できるっすよね?」
「支配。改造、解剖。永遠、玩具」
「……あんまり使いたくない。だけど、もしよかったら封印されてくれ。自由に生きて行動出来る。
ファナやイーファみたいに。ただ俺が死ねば二人とも死ぬ」
「了。最良。一緒、ファナ。ドルドー、のけ者?」
「なんで自分だけのけ者っすか!? いいっすよ。封印されてやりましょー! ちゃんと逃がして
くださいよ!」
「すまない! このまま真化すれば二人を助けられるかわからないから助かる!」

 二人の了承を得た。あまり使いたくない手段だが、目の前のあいつをどうにかして、逃げれる可能性が
あるとするなら、これしかない。

「封印、中、快適。驚」
「なんすかここ。うっひゃー、ファナちゃんもろ見えっすよ!」
「どこみてんのよこの犬! ルイン、本当に平気なの?」
「ああ。暴走しても今の俺にはお前たちがいる。戦うより逃げる事に全力で考える!」
「グルァアアアアアアアアアアアアアア!」

 と考えていた時だった。ギル・ドーガがこちらへ横なぎに剣を振るう! 

「コラーダ! 負けてたまるかああああ! グギギギギ……【妖真化】……グアアアア……」

 これが、妖真化。初めて意識がある。感情が高ぶる。破壊しつくしたい、強い欲求。
 抑えられないほどの憎しみを感じる。目の前の奴を……下賎の輩が。

「控えろ。下賎の者風情が。押し流せ。赤海星の大海嘯」

 残っていた常闇のカイナ団員を潮津波が襲い流す! 
 それと同時にギル・ドーガがルインを敵として認識した。

「我と我、契約せしは三柱の戦姫。妖の力となり先兵とならん。
万物在りて汝らの魂を昇華せし。海星神イネービュの名の元に神化を許す。
ファーフナー、サラカーン、ベルディア。 行け」
『主の仰せのままに』

 三柱の戦姫が突如現れた。赤紫のオーラに身を包んだ彼女たちは、とてつもない速さでギルドーガに
接近し、攻撃を開始する。

「剣戒! 驚、懼、疑、惑。妖赤海星の海神斬、アクアシンフォニー」

 コラーダが四本展開され、三姫にそれぞれ一本ずつ持ち渡り、円舞を奏でるようにそれぞれが華麗に
ギル・ドーガを切り刻む。最後の一本をルインが持ち、上空へ斬撃を放った。
 ギルドーガの直上に斬撃が降り注ぐ! 

「グルァアアアアアアアアアアアアアア!」
「主。時間のようです。退避します」
「これでも倒しきれぬか。並大抵の体力ではない。下賎の分際が。まだこの者の力が足りぬ。
海底へ無理やり連れていくか」
「汝、やはり、海星神の使い」
「ほう、気づいておったか。流石は闇の賢者。文句は言わさぬ。貴様がいれば問題なくこれよう。
この者へ力の使い方を教えねばならぬ。よいな」
「承諾。戦況、危うい。直ぐ戻る?」
「知らぬ。地上の事など興味はない。だがこの者の意志はそうもいかぬようだ。
闇の賢者に命ずる。事が片付いたら直ぐに、この者を連れて参れ」
「了」
「妖赤海星の四重嵐」

 ルインがそう唱えると、四つの黒い竜巻と同時に暴風と暴雨が吹き荒れ、サイクロプス
の視界を黒く染める。

「ではな。この者の意思通り、ベッツェンの町とやらまで流してやる。
この先弱すぎて死ななければよいが……妖赤海星の海流道・瞬」

 自らを飲み込む海に巻かれ、ルインは西へと瞬く間に流れていった。
 黒い竜巻に覆われたギルドーガも、足場を奪われたのか忽然と姿を消していた。

 残ったのは両断され、水没し、荒廃した三夜の町跡地だけだった。
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