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第四章 戦いの果てに見出すもの
第二百五十話 フェルドナージュの杞憂
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「……フェドラートか。メルザはどうじゃ」
「心配はしておりますが、今のところ落ち着いております」
「そうか。其方の教育の賜物だろう。直情で無邪気。そして童を慕う。まるで……」
妹のフェルデシアを思い返していた。
フェルドナージュを慕い、無邪気な笑顔を見せ、直情で思いやりがある。
メルザのような無礼を働くわけではないが、元気いっぱいで美しい。
もう会えぬと考えるだけで、どれほど当たり散らした事かわからない。
「フェルドナージュ様?」
「……なんでもない。童は少し湯に浸かる。フェドラートよ、其方もそろそろ休むがよい」
「一つ、お話しておきたい事が御座います。常苦のクルエダの事です」
「捕らわれのあの者がどうかしたのか?」
「どうにもおかしいのです。確かにクルエダは強い妖魔です。しかし不死ではなかった。
幽閉の辿りで何をしていたかも気になりますが、地上の様子が計り知れない現状、十分
注意して進む方がよいかと」
「うむ……杞憂であればよいが、分隊で行動する者を用意すべきであろう。
実はな。再度ルシアという傭兵に依頼を出した。報酬に変わった物を欲しがる奴でな。
良いというたら喜んで出ていきおった。明日の早朝までには戻って来よう」
「……彼女に頼んでおられたのですね。あの者たちは極めて優秀な情報収集能力を
持っているようです。これでしたら安心して眠れます」
「うむ。それとあちらの町へは援軍に一人向かわせた。童たちとは別行動の奇襲部隊となって
戻って来るであろう。ではな」
すっと立ち上がり温泉へ向かう。悩みの種は多いが、大きくバランスを崩したベルータスは
排除せねばならない。
最も恐ろしきはフェルドナーガ。今回の一件で何もしてこなければよいが……動きは無かった。
あ奴はきっと、地底を統べるつもりなのだろう。そうはさせぬ……タルタロスと童で防がなければ。
そう思案しながら温泉へ着き、身を清めて湯に浸かる。もう随分と手慣れた。
ここにいる間は肩ひじを張らずのんびりとする事ができる。
「フェルドナージュ様。こちらでしたか」
「アネスタか。ここはいいのう。童も余生はここで過ごしたいものだ」
「あら。そうすると皇国が無くなってしまいます。けれどフェルドナージュ様が望むのなら、それも
いいのかもしれないですね」
「ふふふ、アネスタよ。其方は相変わらず優しいのう。気に入らぬ男にはとことん厳しくはあるが」
「ありがとうございます。この場所、気に入っていますから気持ちはわかるんです。
それにあの男性なら、もしかするとフェルドナージュ様の願いすら、叶えてしまう。そんな気がします」
「ルインじゃな。童もそんな気がする。亡き父上のような内に秘める強さ、苛烈さを持ちながらも
全ての仲間に対する優しさを持つ。メルザがいなければ、童の婿にしてやってもよいくらいじゃ」
「まぁ。それを聞けば彼も喜ぶでしょうね」
「どうであろうな。あの者の興味は皆を守る事や、町を守る事。それに主を守り抜く術を身に着ける事で
一杯であろう。色恋沙汰にさほど興味を持つとは到底、思えぬな」
「彼のそんな気持ちはわかります。今やラートも立派になりましたが、このアネスタ……未だに殿方との
お付き合い経験がありませんから」
「……すまぬのう。其方を大分こき使ってしまっておる」
「いえ! ですから先ほどおっしゃったように、色恋沙汰に興味を持つより、任務の方が性分に
あっているのですよ。落ち着いたら、その時にでも考えるとします」
「ではその時には、二人で良き男探しでもするか。アネスタよ」
「ふふふっ、そうですね。そうしましょう」
二人はゆっくりと湯舟から出て、休息に向かった。
――――――――
依頼を受けたルシアはその頃、夜の闇をツヴァイで走っていた。
「確かに船はいやがるが、数が少ねぇな。進軍としちゃ異常だ。
ロッドの町方面なんざ小舟が百隻もいねぇ。あれじゃいても兵士はたかだか数千人くれーだろ」
「頭! ベッツェンの方面から戻ってきた奴の報告ですと
百隻程度だそうですぜ」
「なんだと? 数万いた軍勢にしちゃ明らかに少ねぇ。どこから攻めて来やがるつもりだ」
「わかりやせん。何か意表を突く作戦でもあるんでやしょうかねぇ?」
「このままじゃいい報告ができねぇ。侵入するぞ」
「まじっすか頭? どうやるんです?」
「俺だけでいく。おめぇらは今の報告をフェルドナージュ様に伝えに行け」
「大丈夫ですかい? お一人で」
「あたりめぇだ! さっさと行ってこい!」
「へい! ご武運を!」
彼女はツヴァイ……ヴァイスより密偵察に優れる機体で一隻の船へ気付かれぬように降りて行く。
ツヴァイに乗っている間彼女の姿を目視する事は出来ない。
船に降り立った彼女はその場で様子を見る。その船に乗っていたのは武装しているモンスター。
或いは剣を、或いは斧を手に持ち、船をうろうろしている。
兵士らしい兵士は見当たらない。どういうことだ……これほどのモンスターを操ってやがるのか?
背筋に鳥肌が立ち、急ぎ船から離脱して上空からよく見る。
何か違和感を感じるが、やはりわからない。
「くそっ、モンスターしかのってねぇのにどうやって攻めるつもりだ。まさか見境なく全部殺す
つもりかよ。円陣の王は気が狂ってるとしか思えねぇ」
数日以内に戦争は始まる。もう回避は出来ない。
ルシアは急ぎルーンの町へ戻っていった。
――――――――――――
ベルドとシュウはそのころ、一足早く出発していた。
道中はルクス傭兵団の一員が送ってくれるので、すぐに目的地へと着く。
向かう方面が同じなので、ベルドはシュウと同じくカッツェル経由でロッドへ向かう事にした。
「シュウ殿、体はもういいのかい? 以前は思い切りやってしまってすまない」
「気にしないでくれ。むしろ感謝しているくらいだ。またおかしく感じたら容赦なく頼みたい」
「いや、味方はなるべく傷つけたくないんだ。だからこそこうやって
行動を共にして、警戒しあいたいんだ」
「そうだな。俺たちはまだまだあの中では未熟な方だ。強い人だらけで驚くよ。特に妖魔の面々は
恐ろしい程の強さだ」
「そうだね。僕も人と人魚のハーフだ。これは秘密なんだけどね」
「……そうか。俺もエルグ族という潜伏に長けた種族。人といっていいのかどうか定かではないな」
「シュウさんはカッツェル出身だったね。この大陸は亜人や獣人で溢れている。珍しい事じゃないだろう?」
「エルグ族はもうほとんどいない。俺はみなしごで、シン師匠に拾ってもらった。
師匠の元で学ぶうち、カイとヨナという二人を拾って育ててくれた。
父であり師匠であり、命の恩人でもある。だからこそ長生きしてほしいんだ」
「そうか。僕には父も母もいる。兄弟にも恵まれた。勿論父は尊敬しているが、シュウさん
のように考えられない分、僕はまだまだ甘いし未熟だ」
「ベルド殿は十分に強い。それでもまだ甘くて未熟だと?」
「ああ。僕は成長を感じられていない。人である事に固執し、人魚の術を何一つ使えないでいる。
なまじ槍が使える分、相手になる者も少なかった。ルインに会うまでは」
「同じ位の年齢の強者に出会えた事は、俺たちにとって幸運だったな」
「そうだね。彼は強い。そしてその強さの秘訣は、我々の主。
彼を見習い、あの子のために身を粉にして働いてみようと決めた。まずはこの戦局、乗り切ってみせよう」
「ああ!」
カッツェルの町へ着く二人は、シン氏と合流。事前に許可をもらっていたため
シン氏とカイ、ヨナを乗せルクス傭兵団員はルーンの町へ戻る。
そして……フー・トウヤに事情を説明するため彼の屋敷を訪れる。
以前町長が使っていた建物を大きく取り壊し、和風の建物にされているそこは
豪邸とは程遠く質素で物がなかった。
「初めまして、フー・トウヤ殿。僕はベルド、こちらはシュウです」
「シン殿のお弟子さんですね。話は聞いております。要件は……この峠向こうの
ロッドの町へ進軍している軍勢がいる……とのことでしょうか?」
「御存知だったのですか? その通りです。ここも巻き込まれる可能性があるのでは?」
「いえ、大丈夫です。この町に他の大陸の軍勢が攻めてくることはないでしょう。
ここには特産品も何もないですからね」
「しかし……」
「それに、私はこれからロッドの町へ向かいます。ある男に頼まれていましてね。
攻めてきたら容赦なく撃退してくれと。遠慮はしません」
「出来れば僕らも同行したいんです。足は引っ張りません」
「……いいでしょう。お二人ともまだまだですが、修行になれば今後この大陸を
守ってくれる立派な戦士になる目をしている。多少危険ですが共に戦うとしましょう」
『ありがとうございます!』
こうしてシュウとベルドはフー・トウヤと共にロッドへと向かう事になった。
「心配はしておりますが、今のところ落ち着いております」
「そうか。其方の教育の賜物だろう。直情で無邪気。そして童を慕う。まるで……」
妹のフェルデシアを思い返していた。
フェルドナージュを慕い、無邪気な笑顔を見せ、直情で思いやりがある。
メルザのような無礼を働くわけではないが、元気いっぱいで美しい。
もう会えぬと考えるだけで、どれほど当たり散らした事かわからない。
「フェルドナージュ様?」
「……なんでもない。童は少し湯に浸かる。フェドラートよ、其方もそろそろ休むがよい」
「一つ、お話しておきたい事が御座います。常苦のクルエダの事です」
「捕らわれのあの者がどうかしたのか?」
「どうにもおかしいのです。確かにクルエダは強い妖魔です。しかし不死ではなかった。
幽閉の辿りで何をしていたかも気になりますが、地上の様子が計り知れない現状、十分
注意して進む方がよいかと」
「うむ……杞憂であればよいが、分隊で行動する者を用意すべきであろう。
実はな。再度ルシアという傭兵に依頼を出した。報酬に変わった物を欲しがる奴でな。
良いというたら喜んで出ていきおった。明日の早朝までには戻って来よう」
「……彼女に頼んでおられたのですね。あの者たちは極めて優秀な情報収集能力を
持っているようです。これでしたら安心して眠れます」
「うむ。それとあちらの町へは援軍に一人向かわせた。童たちとは別行動の奇襲部隊となって
戻って来るであろう。ではな」
すっと立ち上がり温泉へ向かう。悩みの種は多いが、大きくバランスを崩したベルータスは
排除せねばならない。
最も恐ろしきはフェルドナーガ。今回の一件で何もしてこなければよいが……動きは無かった。
あ奴はきっと、地底を統べるつもりなのだろう。そうはさせぬ……タルタロスと童で防がなければ。
そう思案しながら温泉へ着き、身を清めて湯に浸かる。もう随分と手慣れた。
ここにいる間は肩ひじを張らずのんびりとする事ができる。
「フェルドナージュ様。こちらでしたか」
「アネスタか。ここはいいのう。童も余生はここで過ごしたいものだ」
「あら。そうすると皇国が無くなってしまいます。けれどフェルドナージュ様が望むのなら、それも
いいのかもしれないですね」
「ふふふ、アネスタよ。其方は相変わらず優しいのう。気に入らぬ男にはとことん厳しくはあるが」
「ありがとうございます。この場所、気に入っていますから気持ちはわかるんです。
それにあの男性なら、もしかするとフェルドナージュ様の願いすら、叶えてしまう。そんな気がします」
「ルインじゃな。童もそんな気がする。亡き父上のような内に秘める強さ、苛烈さを持ちながらも
全ての仲間に対する優しさを持つ。メルザがいなければ、童の婿にしてやってもよいくらいじゃ」
「まぁ。それを聞けば彼も喜ぶでしょうね」
「どうであろうな。あの者の興味は皆を守る事や、町を守る事。それに主を守り抜く術を身に着ける事で
一杯であろう。色恋沙汰にさほど興味を持つとは到底、思えぬな」
「彼のそんな気持ちはわかります。今やラートも立派になりましたが、このアネスタ……未だに殿方との
お付き合い経験がありませんから」
「……すまぬのう。其方を大分こき使ってしまっておる」
「いえ! ですから先ほどおっしゃったように、色恋沙汰に興味を持つより、任務の方が性分に
あっているのですよ。落ち着いたら、その時にでも考えるとします」
「ではその時には、二人で良き男探しでもするか。アネスタよ」
「ふふふっ、そうですね。そうしましょう」
二人はゆっくりと湯舟から出て、休息に向かった。
――――――――
依頼を受けたルシアはその頃、夜の闇をツヴァイで走っていた。
「確かに船はいやがるが、数が少ねぇな。進軍としちゃ異常だ。
ロッドの町方面なんざ小舟が百隻もいねぇ。あれじゃいても兵士はたかだか数千人くれーだろ」
「頭! ベッツェンの方面から戻ってきた奴の報告ですと
百隻程度だそうですぜ」
「なんだと? 数万いた軍勢にしちゃ明らかに少ねぇ。どこから攻めて来やがるつもりだ」
「わかりやせん。何か意表を突く作戦でもあるんでやしょうかねぇ?」
「このままじゃいい報告ができねぇ。侵入するぞ」
「まじっすか頭? どうやるんです?」
「俺だけでいく。おめぇらは今の報告をフェルドナージュ様に伝えに行け」
「大丈夫ですかい? お一人で」
「あたりめぇだ! さっさと行ってこい!」
「へい! ご武運を!」
彼女はツヴァイ……ヴァイスより密偵察に優れる機体で一隻の船へ気付かれぬように降りて行く。
ツヴァイに乗っている間彼女の姿を目視する事は出来ない。
船に降り立った彼女はその場で様子を見る。その船に乗っていたのは武装しているモンスター。
或いは剣を、或いは斧を手に持ち、船をうろうろしている。
兵士らしい兵士は見当たらない。どういうことだ……これほどのモンスターを操ってやがるのか?
背筋に鳥肌が立ち、急ぎ船から離脱して上空からよく見る。
何か違和感を感じるが、やはりわからない。
「くそっ、モンスターしかのってねぇのにどうやって攻めるつもりだ。まさか見境なく全部殺す
つもりかよ。円陣の王は気が狂ってるとしか思えねぇ」
数日以内に戦争は始まる。もう回避は出来ない。
ルシアは急ぎルーンの町へ戻っていった。
――――――――――――
ベルドとシュウはそのころ、一足早く出発していた。
道中はルクス傭兵団の一員が送ってくれるので、すぐに目的地へと着く。
向かう方面が同じなので、ベルドはシュウと同じくカッツェル経由でロッドへ向かう事にした。
「シュウ殿、体はもういいのかい? 以前は思い切りやってしまってすまない」
「気にしないでくれ。むしろ感謝しているくらいだ。またおかしく感じたら容赦なく頼みたい」
「いや、味方はなるべく傷つけたくないんだ。だからこそこうやって
行動を共にして、警戒しあいたいんだ」
「そうだな。俺たちはまだまだあの中では未熟な方だ。強い人だらけで驚くよ。特に妖魔の面々は
恐ろしい程の強さだ」
「そうだね。僕も人と人魚のハーフだ。これは秘密なんだけどね」
「……そうか。俺もエルグ族という潜伏に長けた種族。人といっていいのかどうか定かではないな」
「シュウさんはカッツェル出身だったね。この大陸は亜人や獣人で溢れている。珍しい事じゃないだろう?」
「エルグ族はもうほとんどいない。俺はみなしごで、シン師匠に拾ってもらった。
師匠の元で学ぶうち、カイとヨナという二人を拾って育ててくれた。
父であり師匠であり、命の恩人でもある。だからこそ長生きしてほしいんだ」
「そうか。僕には父も母もいる。兄弟にも恵まれた。勿論父は尊敬しているが、シュウさん
のように考えられない分、僕はまだまだ甘いし未熟だ」
「ベルド殿は十分に強い。それでもまだ甘くて未熟だと?」
「ああ。僕は成長を感じられていない。人である事に固執し、人魚の術を何一つ使えないでいる。
なまじ槍が使える分、相手になる者も少なかった。ルインに会うまでは」
「同じ位の年齢の強者に出会えた事は、俺たちにとって幸運だったな」
「そうだね。彼は強い。そしてその強さの秘訣は、我々の主。
彼を見習い、あの子のために身を粉にして働いてみようと決めた。まずはこの戦局、乗り切ってみせよう」
「ああ!」
カッツェルの町へ着く二人は、シン氏と合流。事前に許可をもらっていたため
シン氏とカイ、ヨナを乗せルクス傭兵団員はルーンの町へ戻る。
そして……フー・トウヤに事情を説明するため彼の屋敷を訪れる。
以前町長が使っていた建物を大きく取り壊し、和風の建物にされているそこは
豪邸とは程遠く質素で物がなかった。
「初めまして、フー・トウヤ殿。僕はベルド、こちらはシュウです」
「シン殿のお弟子さんですね。話は聞いております。要件は……この峠向こうの
ロッドの町へ進軍している軍勢がいる……とのことでしょうか?」
「御存知だったのですか? その通りです。ここも巻き込まれる可能性があるのでは?」
「いえ、大丈夫です。この町に他の大陸の軍勢が攻めてくることはないでしょう。
ここには特産品も何もないですからね」
「しかし……」
「それに、私はこれからロッドの町へ向かいます。ある男に頼まれていましてね。
攻めてきたら容赦なく撃退してくれと。遠慮はしません」
「出来れば僕らも同行したいんです。足は引っ張りません」
「……いいでしょう。お二人ともまだまだですが、修行になれば今後この大陸を
守ってくれる立派な戦士になる目をしている。多少危険ですが共に戦うとしましょう」
『ありがとうございます!』
こうしてシュウとベルドはフー・トウヤと共にロッドへと向かう事になった。
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