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第四章 戦いの果てに見出すもの

第二百四十九話 守ることも強さ

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 ルインたちが三夜の町を飛び出してしばらく。
 メルザはとても心配しているメルザにフェドラートが話しかける。

「今回は俺様も行く……とは言わないんですね。メルザさん」
「本当はいきてーよ。けどよ……俺様、我慢する。心配だけどちゃんと帰ってくるって信じる」
「そうです。我々も信じています。次の戦い、負けるわけにはいかないのです。ベルータスを
このままのさばらせれば、いずれ力をつけ大きな災いとなるに違いありません。
我々には我々の戦いがある」
「わかってるよ、フェド先生。でも心配なんだ、ルインはすぐ無茶するからよ」
「そうですね。だからこそ彼を守る術をしっかり身につけましょう」
「そういえば俺様が土蛇エレメンタルを出したら、かなりみんな守れたぞ!」
「あなたはまだまだ力にもてあそばれています。力をコントロールする術を身に着け、この大きな
町を守り抜く力を覚えていくのですよ」
「わかった。フェル様みたいにすっげー強くなって、みんなを守るよ。
そしたらルインも、ずっと傍にいてくれるだろ?」

 フェドラートはにっこりと微笑むだけだった。
 肯定してしまえばそれは嘘になってしまうのかもしれない……あの青年にはそんな危うさ
があると感じていた。
 大切な者たちを守るためなら、自らの命を進んで差し出しかねない彼にも、もっと注意を
促していくべきだと考えている。

「さぁ我々は休むのが仕事です。そろそろおやすみなさい」
「うん、わかった! あれ?」
「はぁ……はぁ。大変だよぅ。外にいっぱい避難民がいるんだ! 中にいれてもいい?」
「俺様、行ってくる!」
「困りましたね……ムーラさんを呼んで、避難民の方には申し訳ないが
管理できる場所にいてもらいましょう」

 フェドラートは急ぎムーラの元を訪れ、受け入れの体制を整える。

「こっちの一角は自由に使ってくれて構わないが、何人くらいになりそうなんだ?」
「わかりません。子供が大勢います。食料は十分ありますか?」
「ああ。カカシ殿と沢山作って備蓄は十分すぎるほどある。わしらモラコ族は狩猟も
得意で、この町近から行ける近辺は獲物も多い」
「よかった……ではこちらはお任せします。モラコ族の方々、案内を頼みます」
「任せておけ。お主は明日出陣だろう。戻って休め」
「ありがとうございます。では……」


 ――――

 ジャンカの森方面へ出たメルザは驚いた。避難してきた人は子供ばかり。
 あの町にこんなに子供がいたのにも驚いたが、どれも獣人、亜人の子ばかり。

「みんなもうだいじょぶだ。この泉に入ったら俺様の町がある! みんな今日からこの
中で安全にくらしていーぞ!」
「本当? お母さんもくる?」
「お父ちゃん、まだきてないよ?」
「だいじょぶだ。俺様の一番の子分が向かったんだ。きっとすぐ、きっと……」

 メルザは自分のいた村を思い出してうつむいてしまう。でも今自分が助けなければ
この子たちは自分と同じく苦しい道を歩むことになる。
 悲しい気持ちを振りほどき、ルインの笑顔を思い出しながらメルザは頑張った。

「みんなきっと助けてきてくれる! さぁいこう! おいしい飯だってあるぞ!」

 子供たちはメルザに元気をもらい、一人、また一人と泉へ潜っていった。

「僕、また行ってくる! ここって主様がいないと入れないよね? 
もうちょっとだけここで待っててくれる?」
「ああ。俺様なら平気だ。頼む、連れてきてくれ」

 イビンは再び三夜の町を目指し、ミドーで移動し始める。
 とても不安な気持ちになるメルザ。首をぶんぶんと振り、唇を噛みしめて
再びくるであろう避難民に備える。

「ここにいたの。お菓子もってきたから食べましょう」
「僕も手伝うよ。こんな時に助けに行けないのは初めてだ。不安だよね」
「ニンファにリル。その……ごめん、主として失格だよな俺様」
「なんでだい? 主はすごく頑張っているよ。僕からみても、君はとても魅力的な
君主だと思うし」
「本当ですの。。メルザちゃんは可愛いですしね」
「な!? からかうなよ、後ろのカノンが怒るぞ?」
「え? カノン来てたのかい? 今のは言葉の綾ってやつさ」
「わかってるわ。私もここで、傷ついた亜人たちを治すの手伝うから」
「平気かい? あまり疲れすぎないようにね」
「思いあう男女……素敵ですの」

 ニンファに言われて赤くなる二人。メルザは少し羨ましそうにそれを見ていた。
 妖魔は本来他者への関心が薄い。しかしルインに深くかかわった妖魔は
他人への関心を深めるようになっていった。

 最も彼と接していたリル。今や彼は、本当に妖魔らしくない人物となっていたことに気づいていなかった。
 彼の大切にしている主を守る。そんな単純な動機以上に、カノンとは違う魅力を持つ彼女を
守ってやりたいと思っていた。

「ふふ、やっぱり君といると楽しいんだよね。何もかもが。僕自身にすら関心をもってしまう。
変わっていく自分にね」
「リルさん? 何か言いました?」
「ううん。それより主、静かになったけど大丈夫?」
「俺様……」

 心配になる三人。どうしたのだろう? 
「腹減ったよー……」
『……はぁ……』

 大きなため息をつく二人と、お菓子を出すニンファ。
 その時泉から、ムーラさんがやってくる。

「主殿。町に戻って休んでくれ。ここに仮設小屋をたてていく。これから来るものたちはそこで泊まってもらおう」
「ほんとか? じゃあ頼んだぜ。ありがとな、ムーラ」
「うむ。わしらモラコ族は夜に強い。任せておけ」

 モラコ族が次々と泉から出てきて建築を始める。
 これから来る避難民に備えて。
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