上 下
271 / 1,085
第四章 戦いの果てに見出すもの

第二百三十七話 ペンギンを作ろう! 

しおりを挟む
 ルーンの町彫刻場。入って直ぐは展示室になっており、現在作品は時計しかない。
 そう……ここにはまだニーメとアルカーン製作の時計しか飾られていないのだ。この世界には
幾度か絵画やツボ、木彫りの物などは見たのだが、さして芸術文化は進んでいない。

 妖魔の国の方が美しさを重んじる文化があるように思える。
 いい絵描きさんや彫刻にはまってくれる者がいたら嬉しいんだけどな。

 彫刻場の奥が一応工房になっている。全員を奥へ案内すると、ブルザさんがいた。

「やぁブルザさん。こちらへいらしてたんですね」
「おう、ルイン君。最初は半信半疑だったが、来てみたらとんでもない所だった。
言われた通りにガンツとモギにも話しておいたぞ」
「ガンツさんはいいけどモギさんは入れるのかな。メルザの許可をもらわないと……」
「もう来ていたぞ? まずかったか?」
「え? いえそういうわけでは。おかしいな。メルザの許可が無くても入れるのか? 
後で試してみよう」
「とにかく、ガンツと二人でこの町を盛り上げるよ。ここの彫刻室? というところに
以前話していたような道具をおいておいた。好きに使ってくれて構わん」
「ありがとうございます。お金は……」
「いらんいらん。ここはなんでもキゾナ大陸に一瞬で行けるそうじゃないか。
あっちで商売すればすぐ儲けなど出てしまうと、話し合っていた所だよ」
「そうでしたか。ただ、全員にお話ししたとおり……」
「今は危険だから待ってくれってことだったな。俺たちも仕入れなどを少し控えて
先に町の把握や畑作業なんかを手伝っているところだ。落ち着いたらまた教えてくれ」
「ええ。ではまた」

 去っていくブルザさんを見送って部屋の道具を確かめる。十分揃っているな。
 ブルザさんを見送っていると、入れ違いにサラ、イビン、ニンファ、イーファ、それにマァヤが入って来た。婆さんが来るのは想定してなかったな。
 サラはとても上機嫌だ。……これは予測がつく。

「やったわ! 私はこっちでいいって。主ちゃんに凄い表情されたけど!」
「ちっ。余計な奴が増えたわね。足引っ張るんじゃないわよ」
「はぁこんな奴いてもいなくても変わらんっしょ」
「なんですって?」
「ほらほら三人とも。そろそろ始めるよ」
「婆さん、それに王様もだけど二人とも妖術適性とかあるのかい? イビンは勉強がてらしっかり見た方がいいな」
「わしは教える方じゃよ。魔術じゃが。もちろん妖魔の術に興味はあるがね」
「娘が見学したいので連れてきた。それから私とニンファ……モリアーエルフの特性についてを
後で話そう。今は術を見るのが待ち遠しい」
「僕は術の才能が無いって言われたからなぁ。何か強くなる方法がないかなって思って」
「適性を調べた事はありませんの。妖術なんて見たことがないから楽しみですわ!」

 かなりの人数になったが、姉さんの妖術……これは秘術なのか? その素晴らしさをみんなで見る
事とする。

「アネさん、お願いします!」
「任せて。妖雪造形の術・銀企鵝!」
「ウェーイー」
「ウェーイー」

 雪で出来た愛らしいペンギンが二体造形された。素晴らしい……まさに芸術そのものだ。

「この造形術は妖術でも特殊でね。アルカーンやフェルドナージュ様など一部の妖魔にしか
使用出来ないんだ。似たような魔術なんかはあるみたいだけどね」
「似た魔術だとネクロマンサーなどが使用する魂魄を用いる術かのう」
「魂魄!? ゾゾーッ」
「幻術だと似ているのは招来術かな。僕やベルディアには到底使えないけどね」
「サラはどうだ? 出来そうか? 邪術も使えるしいけたりするか?」
「難しいわね。うまくイメージ出来ないの、この雪っていうものを。氷も試したんだけど
もっと難しいわ」
「ふん、情けないわね」
「氷なら出せたっしょ。これでいける?」
「それは氷斗だな。俺も試してみるか……」

 目をつぶって目の前にいる銀企鵝をイメージする。雪は降ってくる雪をイメージすればいいのか? 
 それとも積もった雪から形成するイメージか? 
 両方イメージしてみるか……
 片手を挙げてウェーイーしてるあのかわいいやつを……いや水族館のペンギンか? 
でも水族館て色々いたよなぁ……ええと、集中しないと。

「ルイン君! 一旦止めてね! みんな凍えてしまうよ」

 ……目を開けると雪が吹雪いていた。やっちまった! でも雪に携わる術使えた! 
 そして目の前にいたのは横長のペンギン……ではなくゴマフアザラシだ。これ……なんでこうなった。

「か、かわゆい……」
「ファウー」
「……すごいね。ルイン君、これは何ていう生物なんだい? どうやってイメージを?」
「いや、水族館をイメージしてその中からペンギンをイメージしようとしたんだけど……これゴマフアザラシ
ってやつですね」
「そうなんだ。よし……妖雪造形の術・ゴマフアザラシ」
「ファウー」

 あっという間に同じの物を作ってみせた。すげぇ! 

「ふう。出来たけど凄く疲れる……割りにこの子は地上の偵察に向いていないね。
海洋生物かな?」
「流氷上を移動する生物ですね。その辺はペンギンに近いのかな」
「そうか。この子は海上で役立ってもらえるね。それじゃもう一度やってみよう」
「こ、今度は雪を降らさないでね。この恰好じゃ寒いわ」
「お、お願いね。後で服屋にいきましょ」
「妖魔の服屋さんですの? 楽しみですの!」

 話が盛り上がる前に集中しよう……ペンギン……ペンギン……どうせなら可愛いのとたくましいのが
いいなぁ。きりっとたくましく巨大な皇帝ペンギンと、死んだ魚のような目をしている
愛くるしいアデリーペンギン……可愛かったなぁ。

「……凄い。こんな短時間で正確に銀企鵝を作りあげる造形術を成功させるなんて」
「ウェーイ!」
「ウェィ」

 おお! 喋り方がアネさんのと違ってウェーイになっちゃってるけど! 気にしないでおこう! 
 大声のウェーイ! が皇帝ペンギンで間違いない。でかい! そして強そう。
 小声のウェイがアデリーペンギン。むっちゃ可愛い。死んだ魚のような目をしているのは変わらずだ。

「出来たんですか。やったー! アザラシと合わせて三匹造っただけでもうヘトヘト。妖力どれだけ
使うんですか、これ……名前つけとこ。アザラシはゴマキチ、皇帝ペンギンはコウテイ、アデリーペンギンはアデリーでいいか。」
「そのまえに雪をあれだけ勢いよく吹雪かせていたしね。おめでとう。とても愛らしいね。
指示の出し方は後で教えるよ……おや?」
「見て、ルイン。私変身出来たみたい!」

 ファナがペンギン……の女の子のような形に変化していた。これはこれで可愛い! 

「凄いなファナ。新たな変身術か? そういや前世にも変わった色のペンギンがいるって
聞いたことがあったな」

 藍色のペンギン。ファナっぽくていいかもな。

「ずるいわよ。何その愛玩動物っぽいの……反則だわ!」
「くっ……可愛いっしょ。私も何か覚えないと!」

 こうしてしばらく皆で術の勉強をした。
 どちらかというと婆さんが教える水魔術の方が適性のある者も多く、いくつか術を
覚えている者もいた。
 へとへとになった俺は少し休憩しつつ、イーファの話を聞く。

「ルイン、お疲れ様。先ほど話していた事の続きだが、モリアーエルフは
知っての通りミスリルをまとうエルフ。この身に流れる力は術を通しやすく
発動しやすい。また、エルフは元来術に長ける。モリアーエルフはエルフの中で最も
術適性が高い種族であり、数も極僅かしかいないのだ」
「王様とニンファはその極僅かなエルフの王族……っていうわけか」
「そうだ。使用できる術を見せるのは時間がかかるから今後として、新たな力を見て欲しい。
いくぞ」
「えっ?」

 イーファはぐにゃりと体を変化させ、青銀色のスライムへ変化。
 そこから……俺の身体にまとわりつき、青銀色の防具となった! 

「あの、イーファ。これは……」
「どうだ、すごいだろう。ミスリルの鎧としてルインの防具となれるのだ」
「それは嬉しいんだけど、その……」
「なんだ? 何か不満があるのか?」
「俺、スカートなんだけど。ズボンに履き替えてくれない?」
「何を言う。似合っているぞ」

 ……どうやらスカート戦士ルインとして、新たな道を歩まされるようです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

処理中です...