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第四章 戦いの果てに見出すもの

第二百三十一話 シュウの地下城潜入

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 ルインたちが素材探しをしに向かった頃、シュウはトリノポートのベッツェンを
訪れていた。
 シーザーは面が割れているので、ここへ来るには向かない。
 そのためバルドス、メディルという人物の元へ向かうと言っていた。 

「思っていたより静かだ。本当に常闇のカイナと通じているのか? 大臣のジムロは」
「どうでしょうね。あっしも仕事で来る事はありやすが、いい町っていう印象しかないですぜ」
「やはり地下にある城を探ってみる必要があるな。君は外で待っていてくれ。
落ち合う場所を決めておこう」
「わかりやした。お気をつけて」

 ルクス傭兵団員にそう告げて、シュウは行動を開始した。
 あらかじめイーファ王に情報を聞いていたので、目的地ははっきりしている。
 ここに来る前何者かに操作された自分を戒めるためにも、十分気を付けて
行動せねばならない。

 ルインは出発前にシュウへ自分の装備を渡していた。
 アイドスキュエネイ……潜入にこれほど優れたものはない。

 この国の地下城は隠れるように存在しており、上空から攻撃するのは不可能。
 また王の話だと、地下からそのまま多方面の外へ出れる仕掛けがあるらしく
脱出は容易らしい。もし見つかってもその場所から脱出するように
道を教わっていた。

 ベッツェンの港に着き、様子を伺う。既に何人か兵士は見かけるが、まじめに仕事をして
いるようにはみえない。こんな状況で他国が攻めてくればあっという間に占拠されてしまう。

 そう思っていた矢先……一人の男に目が止まる。
 あの人物は知っている……確かライデン! ここにいたのか。

「お主たち、たるんでいるぞ。この国を守る気があるのか?」
「ラ、ライデン様!? もうお戻りだったのですか、失礼しました!」
「国を守るのが兵士の務め。しっかりと守れ。ジムロの奴めはどこだ」
「……城内にいると思われます。こちらです」

 シュウはチャンスと思い、ルインから聞いていた通りアイドスキュエネイで侵入する。
 効果時間はそう長くないが、忍術も併用すれば
かなりの時間身を消しておくことができる。

 地下城内に侵入することができたシュウは、ライデンと兵士に続き、不思議な城を
見渡す。そこはまるで水族館のような構造。
 海の中を一望できるような特殊加工が施され、外からこそ見えないが、非常に美しい
内部を誇る。

 時折凶悪そうな海の生物もいるが、城内へ侵入することはない。
 幸い隠れられそうな場所は多くあり、城内に兵士は多くないようだ。

「風景同化の術」

 シュウは忍術に切り替え、周りの壁へと溶け込んでいった。

「おやライデン殿、お戻りですかな」
「うむ。貴様はもう戻ってよい。さぼらずしっかり守れ」
「はっ! 失礼しました!」
「……まったく、兵士がたるんでおる。貴様どういう管理をしていた」
「はて、軍事は管轄外ですからな。それにこの国はイーファ殿がしっかりと
王国を守っている……ではありませんか」
「どうやらかぎつけられたようだ。そのため急ぎ戻って参った」
「なんですと? どういうことか……情報がどこかに漏洩を?」
「わからぬ。だが状況が他国にばれるのも時間の問題だろう」
「……そうですな。それよりちょうどいいところに戻られた。
実はシーブルー大陸よりライデン殿に直接要請がありましてな。
取り急ぎ向かって欲しいのです」
「新たなアーティファクトでも見つかったのか?」
「そこまではわかりませんな。いかんせんここからかなり距離がある故」
「ならばすぐにでも向かうとしよう。くれぐれも守りを固めておくよう。よいな」
「承った。こちらはご安心くだされ。ライデン殿、くれぐれもお気をつけて」

 マントを翻して去っていくライデン。シーブルー大陸に向かう情報をつかんだが
それよりもライデンはこの国へ円陣の都が戦争を仕掛けようとしている事を知らないようだ。

 ライデンが出ていくのを確認し、ジムロは何者かを呼んで話している。

「危ないタイミングだった。急ぎあちら側に連絡をしておけ。あの男がいると
邪魔だ」
「もうつけてあるぜぇ。あれでもこの国の近衛隊長さんだろ? 殺らなくていいのか?」
「前にも言ったはずだ。奴は強い。円陣とトリノポート双方を手中に収めてから
対処すればよいのだ」
「どうにも円陣の王は気が狂ってるとか別人だとか聞くぜ、本当に戦争を起こさせていいのか?」
「構わん。所詮は人間の王だ。王子は厄介だがニンファを人質にすれば問題ない。
これからニンファの元へ向かう。貴様はキゾナ大陸へ迎え」
「その前に報告がある。イプシオが何者かに殺られたらしい」
「なんだと!? どういうことだ!」
「わからねぇ。部下一人すら姿形もみあたらねぇ。
ただ争った形跡が知床農林に見つかった。おまけに……」
「……まさかイーファ王が殺されたとはいわんだろうな」
「……言いにくいが、いねぇ。死んだかどうかはわからねぇな。起爆はされてない。
だが呪いで死んだやつも見つからず、労は開いていた」
「どういうことだ。あり得ぬ。姿だけ消えただと? あんな目立つスライムだぞ?」
「一応部下に辺りを探させてる所だ。円陣までは探しにいけねぇ。今のところ
付近に痕跡すら見つかってねぇのは確かだ」
「くっ……このままでは計画が! おのれ、なんとしてでも見つけだせ! 
行け!」
「まぁ死んでると思うがな。一応行ってくるわ。そんじゃなジムロ殿よぅ」
「まさかこんな事になるとは……どこのどいつだ、計画を邪魔しおったのは……
ただではすまさぬ。それよりニンファの元へ急がねば」

 ジムロの元を去る謎の男。急いで再び姿を消したシュウの横を通って城から出ていく。
 歩き出したジムロの後をおい、城の奥へと進んでいく。
 封印されたような扉を開錠して、立派な扉の中へ入った。忍び足でシュウも中へ侵入に成功する。

「ニンファ王女。お元気ですかな、ジムロです」
「出ていって頂戴。気分が悪いの」
「おや、そうですか……しかし王がこれ程長い間見つからぬのです。
そろそろ王女が王となられるべき時です。儀式を
行いませんと」
「まだ無理よ。あの儀式は二十歳にならないと受けられませんのよ? 
何度もそう言っているでしょう?」
「やってみなければ本当かどうかわからぬではないか。
今までは慎重だったが、王が不在である事がどこかからか漏れたようでしてな。
この国は大変な状況なのです。お分かりいただけなければ、近々他国が攻めてくるやも
しれませんぞ」
「なんですって? そんな……この国が……考えておきますの。時間をください」
「では明日にでもまた伺いましょう。今日はお休みください。よい返事を待っておりますぞ」

 そういって出ていくジムロ。ベッド脇に身を潜めて隠れていたシュウは、気配を探り
音がないのを確認してから姿を現した

「ああ、どうすればいいの……困りました」
「……王女様、どうかお静かに聞いていただきたい。俺はシュウと言います。
イーファ様に頼まれてこちらへ参りました。くれぐれも驚いて声をあげぬよう」
「……承知しました。シュウ様……ですの。ここまで入ってこられたとは相当に手練れの
方なのでしょう……お話の続きを」
「はっ。イーファ様は無事です。侵入不可能な町にてこれから変身させられた王を
元に戻す手筈。俺と共にその場所まで同行してもらえますか? ここにいては危険です。
円陣の都が戦争をしかけようとしております」 
「ここから見つからず、出れる術をお持ちですの?」
「ええ。必ず無事に脱出してみせます。入浴などのついでに、部屋から出た際
姿を消して向かいましょう。隠し通路からの脱出口を使用して、ルクス傭兵団と共に
空中でも姿を消して移動します」
「そこまでの準備を……わかりました。これから丁度入浴へ向かう時間ですの。
参りましょう」

 シュウはしばらく部屋内で支度する王女を見守り、身を隠しながら時を待つ。
 王女の入浴につき従うのは気が引けるが、扉が開いた後ばれないよう
事前に浴室の位置を聞き、先に潜入した。
 こちらにも女性の護衛兵が入口に立っているが、扉などはない。
 兵士の横は通過出来る。 
 王女の肌を気軽には見せないためか、室内には誰もいない。
 念のため浴室で落ち合う事となっていた。

「シュウ様……」
「こちらです。お話通り身軽な恰好になさいましたね。では背中にお乗りください。
飛ばして参りますのでしっかりお捕まりください」
「はい! よろしくお願いしますの」

 アイドスキュエネイで姿を消し、兵士の横を通り抜け外に出る
隠し通路へと向かった。
 こちら側は誰もおらず、何もない壁の隅に王女の手を触れさせると
イーファの言った通り隠し通路が現れる。二人が中に通路内に入ると無音で再び元に戻った。

 駆け足で通路を抜けると、ベッツェンの外へ出られた。
 姿を消したまま、あらかじめ落ち合う予定だった場所に待機する
ルクス傭兵団員に声をかける。

「成功だ。すぐ三夜の町に向かおう」
「……へい、わかりやした」

 こうして無事王女を連れだしたシュウは、ライラロが待つ三夜の町にあるレジンの快鉄屋へ
向かった。
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