上 下
246 / 1,085
第三章 知令由学園 後編

第二百十五話 妖魔の国でのお知り合い

しおりを挟む
 メルザ達が術の訓練をしている頃、リルとサラ、カノンは三人で妖魔の町へ来ていた。

「すごい綺麗な場所ね。ここがリルさんとサラさんの故郷なの?」
「正確には少し違うかな。僕らのいた都はもう無いんだよ」
「そうだったの……私と同じなのね」
「けれどカノン。僕らにはもう、ルーンの町があるじゃない。あそこが僕らの故郷に
なるさ」
「そうね。私とルインの新居を用意しないと」
「それはダメだぞサラ。取り合いになって家が壊れる」
「なんでよー、別にいいじゃない家の一軒や二軒位」

 ぷーっと膨れるサラにリルは少し困惑する。サラはルインが好きなようだがルインは
妹をどう思っているのだろうか……と。

「それでリルさん。今日はどちらまで行く予定なの? もしよければお城も見たいなーと」
「今日は僕が洋服を買ってあげるよ。 その後お城にも行こう」
「お二人さんは熱々ねー! 私ルインの方に行けばよかったわー……お兄ちゃん私のも買ってよね!」
「サラは自分で買いなよ。お金はちゃんと持ってるんだろう?」
「そりゃ散々傭兵の仕事をしたからあるけど、たまにはいいじゃない」
「はぁ……わかったよ。その代わりしばらくはちゃんとカノンを見てやってくれよ」
「はーい、わかったわ。カノンちゃんはライバルじゃないし、ちゃんと仲良くするわ! 
そうだ、このネックチョーカーあげるね。紫と赤の色。クインとニーナを
結びつける色よ」

 そう言って微笑むサラに、嬉し泣きしてしまうカノン。

「ごめんなさい、私そんなつもりじゃ……」
「違うの。嬉しくて……みんな本当に暖かくて。私も何か恩返し出来るように頑張るから」
「君が傍にいてくれるだけで、僕には十分恩返しなんだけどね」
「お兄ちゃん惚気すぎ! いこ、カノンちゃん!」
「おーいおいてかないでくれよー。あれ? あそこにいるのはアネスタじゃないか?」

 鮮やかな緑の短めな髪で、少しボーイッシュな美しい女性が洋服屋の前にいた。

「おや、リルじゃない。ラートは一緒じゃないの?」
「彼は今地上にいるよ。任務……かな、一応。アネスタは何してるの?」
「買い物が終わった所だよ。サラも久しぶり。その子はお友達?」

 少し隠れるカノン。やっぱりまだまだ慣れていないようだ。

「怖がらなくても平気だよカノン。彼女はフェドラートのお姉さん。少しボーイッシュな
所はあるけど優しいから。
アネスタと少し話がしたいんだ。サラ達は買い物しておいでよ」
「わかった。行こっ、カノンちゃん」
「はい。失礼します」

 元気よくカノンを引っ張っていく。人が大勢いるところは苦手なのか、サラに隠れながら
お店に入っていった。

「それで。話ってあの子の事?」
「それもあるかな。もし僕に何かあったとき、あの子を守ってやってくれないか?」
「まるで何かが起こりそうな言い方だね。どうしたんだい?」
「ベルータスを退けてそれなりに月日が流れた。四皇国がそれぞれの均衡を保ってきたけど
このままじゃいられないと思う。僕はフェルドナージュ様を守らないといけない。
友達のとこにいれればいいけど、その友達も忙しいんだ。
他にも色々な友達が出来たけど、アネスタのようなタイプの女性はいないんだよ」
「そう。それなら私もその場所に行っていいの? ラートも
お邪魔してるなら、尚更挨拶しないとね」
「アネスタみたいな落ち着いた女性なら大歓迎じゃないかな。
ただ主とルインに許可を貰わないと入れないから、話しておくよ」
「フェルドナージュ様が興味を持たれる人物。凄く興味があるよ。楽しみにしてる」
「フェルス皇国で右に出る者はいない程氷術に長けた君が来れば、いいお菓子も作れそうだしね……」
「ん? お菓子?」
「いや、こっちの話だよ。気にしないで」
「お兄ちゃんー! お金ー!」
「呼んでるようだよ。それじゃまたね、リル」
「ああ。今度はルーンの町で会おう、アネスタ」

 アネスタに別れを告げ、高い洋服代を払って、三人は
ペシュメルガ城に向かった。

「大きくて、青銀色でなんて綺麗なの……凄いわ!」

 カノンの目がキラキラしているのに見とれているリル。

「……リルカーンか。何用だ」
「……だからびっくりさせないでよベルローゼ。カノンに城を見せてやりたくて。
だめかい?」
「用が無いのに入れるわけがなかろう。去れ……いや、そうだな。中に入れてもいいが
任務を手伝え。どうせ地上には行かぬのだろう?」
「いや、僕はカノンを……」
「ならカノン。貴様とサラでいい。俺と一緒に来い。無論褒美も出そう」
「私、やります! お世話になってるだけじゃいやなんです。ルインさんの先生なら
信用できますし」
「じゃあお兄ちゃんはこれ、ルーンの町に持って行って。私カノンちゃんと
もっと仲良くなりたいから。よろしくね!」
「え? 僕も……」
「早く持って行け。案ずるな、俺がいる」
「あれー、僕カノンとデートしてたはずなんだけどなぁ」

 リルはサラに無理やり荷物を預けられ、一人とぼとぼと
泉からルーンの町に帰っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて
ファンタジー
謎のダンジョン、真実クエスト、カウントダウン、これは、夢であるが、ただの夢ではない。――それは世界のルールが書き変わる、最初のダンジョン。  無自覚ド善人高校生、真瀬敬命が眠りにつくと、気がつけばそこはダンジョンだった。得たスキルは『ガチャ』! クラスメイトの穏やか美少女、有坂琴音と何故か共にいた見知らぬ男性2人とパーティーを組み、悪意の見え隠れする不穏な謎のダンジョンをガチャスキルを使って善人パーティーで無双攻略をしていくが…… 1部夢現《ムゲン》ダンジョン編、2部アポカリプスサウンド編、完結済。現代ダンジョンによるアポカリプスが本格的に始まるのは2部からになります。毎日12時頃更新中。楽しんで頂ければ幸いです。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...