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第三章 知令由学園 後編

第二百十一話 ベルディアを救え!

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 俺たちは移動牢の中にくまなく点在する牢屋群を走っている。

「こっち方面に連れて行かれたんじゃがみあたらんのう」
「いったいいくつ牢屋があるんだここは」
「相当な亜人を収容しては殺しを繰り返しておる」
「胸糞悪すぎる。吐き気がする」
「お主は人間なのにそう思うのか?」
「俺は人間じゃないらしい。妖魔だそうだ」
「妖魔じゃと? 地上に妖魔がいるなぞ聞いた事が無いが」
「普通の妖魔じゃないけどな……婆さんストップ!」

 すぐ近くに人の気配。一人かな。
 見張りの兵士か? にしては物凄いオドオドしているし見るからに弱そうだ。

「あー、絶対ダメだよ。あの女の子、助けないと……でも僕なんかじゃ……
どうしよう。こんな所へ配属なんて……」

 なんだあれは、いや構ってる暇はないか。悪いが一気にいかせてもらう。

「妖赤星の矢・速」
「うわわああああああ、痛い、痛いよぉおーーーー! 助けて、助けて! 
殺さないで」
「なんだお前、ここの兵士だろう!」
「僕はやりたくてこんなことしてるんじゃないよぉーーー! さっきの
女の子助けたくて!」
「おい、女ってのは髪をこう結んだ赤い髪の子で、身軽そうなやつだったか?」

 ベルディアはツインテールの赤髪。比較的特徴がある見た目だ。

「うう、痛いよ。うん、多分そう。他の兵士が連れてっちゃった。やばいよ絶対。
あの子は人間だと思うし……ってうわぁ、魔族だ!」
「静かにしろ。そうしなければ殺す」
「ひっ……僕、悪い事してないから食べないで」
「誰が食うか! 俺たちは人間と変わらない! なぜ見た目が違う者を……いや
今はそれどころじゃない。ベルディアはどこだ!」
「ぼ、僕が案内する。あの子を助けてよ。お願いだ。
あんな可愛い子がひどい目にあうのは許せなくて」
「……お前から色々聞くことがある。信用したわけじゃない。
婆さん、さっきのでこいつの傷治せるか? 完治しててもこいつくらいなら瞬殺出来る」
「こいつらにわしは随分とひどい目にあわされてるんだけどねぇ」
「こいつ……がやったわけじゃないだろ?」
「……わかったよ。治してやるからこっちへきな」

 そいつはビビりながらも婆さんの回復術を受けた。
 あの回復術、かなり治りが早い。

「ありがとうお婆さん。その……魔族だと怖がってごめんなさい。
僕はイビンっていうんだ。よ、よろしくね。怖いお兄さんも……」
「俺はルインだ。婆さんはマァヤ。傷が治ったんならさっさと行くぞイビン。
ベルディアが手遅れになるといけない」
「あの子、ベルディアっていうんだね。わかった、急ごうルイン!」

 ちょっと調子狂うな。敵の真っただ中にあってこいつはまるで敵っぽくない。
 ……だが油断はできない。状況も場所もまるで把握できていない。

 この移動牢というのは文字通り動いているのだろう。地震のような揺れがそれなりの
頻度で起こる。
 ここはかなり上の方なのか、下へと降りる階段を進んでいく。
 階段を下りて右回りへ壁沿いに進み、突き当たった所でイビンは立ち止った。
 ベルディアの衣服が破れて落ちている。この部屋の先か! 

「イビン、ここにいろ! ベルディアーーー!」
「なんだこいつ! どこからわきやがった! いいところなのによぉ!」
「アイアンクラッシャー!」

 無事だがぎりぎりだ。くそ野郎どもが全部で五人! 俺はアイアンクラッシャーを
放つと同時に狭い部屋の上空へ跳躍して円月輪を投げる。

「妖赤星の矢・速」

 鉄球、円月輪、赤星の矢の三種類が、三人の男にそれぞれ飛来する。
 もう二匹! 
「氷塊のツララ! 汚い手で仲間に触るんじゃねえ!」
「ぐああー、手が!」

 ツララが一匹の男の手に突き刺さった。

「念動力、剣」

 ドーグルが、男たちの持っていた武器の一部を念動力で操った。
 そのまま剣が男たちを襲う。

「イビン、お前がベルディアを助けろ! こいつらと一緒に始末されたくなければ!」
「う、うん! 僕はこんな奴らと一緒じゃない。怖いけど。臆病なだけなんだ」

 イビンがベルディアに駆け寄り破れた服をベルディアにかける。
 それを確認してから狙いをそれ以外に定めた。
 イビンがベルディアをかばい、男の一人がイビンに剣を振るおうとした。

「このガキが! 裏切りやがって! どうなるか……」
「剣戒! ……コラーダの一閃」

 まだ短時間しか出せないが、コラーダで薙ぎ払い、ベルディアを狙った男たち全ての息の根を絶った。

「ひえー、何あれ。ルイン、怖すぎる……こ、殺さないでね。
「お前が俺たちに敵対しなければ、殺す気はない。敵対するなら容赦はしない」
「しないよ。絶対に……そんな怖い事僕には出来ないよ。
結局僕一人じゃこの子を助けられなかった。
僕はなんてダメなんだ」

 ……本当に弱いやつは誰かを助けようとなんてせず、ただ隠れて震えてるだけなんだがな。

「う、うーん……ルイン……」
「お、よかった気付いたか?」
「ん? キャーーーーーーーーー! な、あんたが脱がしたのね! 誰っしょ! 変態!」

 あ、なんてタイミングの悪さだ。 
 思い切り顔をビンタされて吹き飛ぶイビン。
 やむなしだ! ある意味美味しいぞ。

「わ、私の服ビリビリっしょ。ひどい。あれ? 私変な男たちに襲われて」
「もう大丈夫だ。俺たちはジオに何かしらの理由でこの変な場所に
連れてこられ、牢屋に放り込まれたらしい」
「あの野郎やっぱ変態だたっしょ……ちょ、ルインも見ちゃダメ恥ず」

 俺もイビンも慌てて後ろを向く。

「婆さん、破れてる服を着付けてあげれるか?」
「もうやってるよ。全く若いってのはいいねぇ」
「僕絶対印章悪いよね……」
「あの状況と、お前のその恰好ならな」
「そういえば僕、ここの兵士として放り込まれたばかりなんだった」
「おい、イビン。お前は何者で、ここはどこだ?」
「僕は円陣の町で兵士をしてたんだけど、失敗ばかりしてて。
それで先日ここの配属にされちゃったんだ。ここは悪い兵士の吹き溜まり場所で。
イイ女が入ってきたからお前は俺らの分まで見張りをしろって……止めたんだけど
脅されて怖くて」
「お前、兵士にしては弱すぎるんじゃないか? 何で兵士なんてやってるんだ?」
「町をモンスターから守りたかっただけなんだ。
臆病だけど、弱い人が傷つくのを黙ってみてられないんだよ」
「……そのお前が弱くてどうする」
「それでも兵士が巡回すれば、少しは町も平和になるでしょ?」
「いいや。それは結局他人頼りで誰かに何とかしてもらうしかないだろう?
どれだけ平和を渇望しても、悪いやつの数が増えれば
平和は簡単に瓦解する。何千年と争いは繰り返されてきた。
誰も傷つけたくない。だからこそ武器をとって戦う必要がでてくる。
不条理に思うかもしれないが、全てを話し合いで解決できるのなら、どんな世界でも
とっくに平和だろう」
「そうはいっても僕には力も、才能もない」
「俺にはそうは見えなかったけどな。お前には弱い者を守ろうと必死になる才能が
あるように見えた」

 さっきベルディアを助けに行くときのアイツの顔。
 誰かを守りたい、自分は変わりたいんだっていう意志を感じる表情だった。

「……才能があるなんて言われたの、生まれて初めてだよ。ルインは僕を笑わないんだね」
「さあな。口だけの奴は嫌いだが、お前は戦場で俺に行動で示した。
それを称えてやっただけだ。それより……長く話している暇は無い。
ここは大陸のどのあたりだ? 円陣から離れた場所か?」
「うん、だいぶ西の方だよ。僕、兵士やめるよ。ベルディアちゃんを
ちゃんと返してやりたいけど、収容した人を逃がしたら
僕も罪人だ。でもこんなところにもう、居たくないんだ」
「ついてくるか? お前が俺たちに協力して、情報もくれるなら匿ってやることもできる」
「本当に? 行くよ、僕。ルインと一緒なら臆病な僕でも変われる気がするんだ」
「まずはここを出よう。アイアンクラッシャー!」

 俺は壁をぶちあけて外を見る。
 しかし何だこれは。生物なのか? 足みたいなのが沢山見えて歩いてるようだ。
 ……相当な高さだが、いけるだろう。 

「んじゃ、飛び降りるぞ。婆さんとベルディアは俺がおぶる。イビンは俺の上から落ちて来い」
「え? 自殺するの?」
「いや、着地付近ででかい竜がでるが気にするな。ちゃんとついて来いよ。ほら行くぞ婆さん」
「待ってくれ、空ならわしの呪文を……」
「キャーー、落ちたら死ぬっしょマジけどルインとならいいかな」
「えーーー、無理だよ死んじゃうよ! 怖いよー!」
「んじゃおいてくか。頑張れよイビン!」
「待ってよぉーーー、行くよぉー! おいてかないでよぉーーー、こ、怖いよぉー--!」

 俺は空けた穴から地上へ向けて飛び降りていった。
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