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第三章 知令由学園 後編

第二百十話 捕らわれの移動牢

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 ……夢を見ているようだ。地面が揺れている。前世では頻繁にあった地震。
 ただの人間が、自然の摂理には逆らえない。
 この世界ではどうなんだろうな。今まで地震を感じた事がなかった。
 ……なんだろう。何をしていたっけ。起きないといけない。
 起きないと……


「……うっ、げほっ……げほっ」
「おや、起きたかいお兄さんや。死んではいなさそうだったけど生きててよかったね」
「誰だ? ……ここはどこだ? ……頭がもうろうとする」
「わしはマァヤ。見ての通り水魔族のおいぼれさね。
ここは移動牢の中。あんた、見たとこ人間だけどどうして
捕まったんだい?」
「捕まった……か。警戒していたが堂々と生徒に危害を加えるとは……」
「悪人じゃなさそうだね。ちょっと待ちな。
……雄大なる魔の世界より這い出て力となれ
汝が癒す淡き水の雫をかの者へ。
ティアウオータリー」

 老婆と思われるマァヤがそう言い終わると、俺に水滴のようなものが降り注ぐ。
 すると身体に力が溢れたのがわかった。もうろうとしていた意識がはっきりする。
 今のは魔術か? 
 ……辺りを見回すと鉄格子のなかに老婆……といっても
魔族である異形の者と二人きりだった。

「婆さん、俺の装備は外されなかったのか? それに俺以外にもう一人、女の子が連れてこられなかったか?」
「元気になったかい? あんたはそのまま放り込んでいったよ。武器も見当たらないし面倒だったんじゃないかね。女の子は
違う部屋に入れられるのを見たが、意識はなさそうでぐったりしていたよ」

そうか、アドレスの仕様上よく見ないと内蔵されているカットラスはわからない。
盾だけじゃ持たせておいても仕方ないし、男をひんむく趣味はないか。
外し辛いしな。しかし……

「くそ、ジオのやつ。警戒していたのに建物の中で襲ってきやがった……俺をさらった理由は一体何だ。
何が目的だたんだ」
「お主、この大陸の者ではないな。この国では異形の者をさらい、ある実験をしておる」
「実験だと? つまり実験材料にするため俺やベルディアを?」
「わからぬ。だが、何の理由もなくさらってきたとは思えぬでな。
あんたが王国にとって危険な人物だと判断したんじゃないかえ?」

 ……その可能性はあるな。俺とベルディアの強さを確認して、脅威となる相手か
見定め始末する……か。
 だがジオは俺の装備を見ていた。脅威に感じなかったのはおかしいけどな。
 それに意識がなくなる前に色々いっていたような……いや、今はそれより脱出を考えよう。

「婆さん。俺達ここに居て助かると思うか?」
「まず助かるまい。わしのような外見のものは好きに殺していいようになっておる。
だがわしにはあの鉄格子を壊して脱出する術はない。それはお主もじゃろう?」
「……いいや、恐らく破壊できる。ベルディアを助けないといけない」

 俺は念話でドーグルへ呼びかける。

「ああ。わら達は一部始終を大人しく見ていた。あの男はちみを殺すつもりはない
ように思える。それどころかわらに気づいていたようだ。頑張れと聞こえたぞ」
「……どういうことだ?」
「ちみを殺そうとするならすぐにでもうって出るつもりだった。勝てる気はしないが。
あの男は何かしらの考えで動いているようだ」
「そうか。色々と確かめないといけない事が一気に増えたな。
今はここを出る方法を。まずは外の様子を確認しよう」

 俺は鉄格子の外の様子を伺う。兵士が二人。他は見当たらない。
 
「何か強力な術でも使えるのかい? とてもじゃないが武器もなく脱出するのは命を
捨てるようなもんじゃろう?」
「武器ならある。シールドの中と、俺の身体の中に」

ここで使えなきゃ手に入れた意味がない。頼むぞ。

「剣戒」

 左手にコラーダが出現する。

「ドーグル。念動力で兵士を襲えるか?」
「やってみよう。 念動力、石つぶて!」

 付近に転がっている石が兵士に降り注ぐ。

「何だこの石は? 何がおこった!」
「コラーダ、力を見せろ! 横なぎ!」

 俺はコラーダを真横に振るってみる。
 斬撃が目の前の鉄格子を全て切り裂いた
そのまま斜めに切り下ろし鉄格子を破壊する。

 兵士は石つぶてを真正面から受けていて、こちらに
気付いていない。

 俺は腕にジオとの練習で使用していたのと同じような円月輪が二枚両腕に
装着されていることに気付いた。
 なんであいつの円月輪があるんだ? 
 いや、今は兵士をどうにかしよう。

「婆さん。俺が兵士を始末するまでじっとしててくれ!」

 俺は牢屋から飛び出して石つぶてをくらっている兵士へ一気にせまり一閃した。

「ぐあっ、だっそ……」
「赤星の突」

 喋ろうとする兵士にトドメを刺す。

「氷塊のツララ」

 遠方の兵士に氷塊を飛ばす。追い打ちをかけないとまずい。
「妖赤星の矢・破」

 赤い矢が飛来して遠方の兵士を貫き絶命させた。

「この二人だけか、兵士は」
「普段見回っておるのはこの二人だけじゃ。お主、強いのう」
「それよりベルディアが連れ去られていったのはどっちだ、案内してくれ婆さん!」
「こっちじゃ。ついて来てくれ!」

 俺は左右を警戒しながらマァヤの後をついていった。
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