上 下
214 / 1,085
第二章 知令由学園 前編

第百八十七話 学園試験 武芸編

しおりを挟む
 夢を見ていた。土偶とスライムが俺の体の上で飛び跳ねて、カノンがあきれ顔で見る夢だ。
 夢の中でドーグルの声がする。もう起きろ、いつまで寝ている。ちみは寝坊助だなと。
 寝起きはいい方だと俺は言っているところで目が覚めた。

「もうみんな試験会場に向かった頃だぞ。いくら声をかけても全くおきんのだなちみは。
スライム王以外であればお主の意思で会話出来るようにしたぞ。双方喋る必要はない。
安心して話すがいい」
「あれ、まだ夢か? 声聞こえないけど声がするな。何言ってるかわからないけど」
「聞こえるわ。というより聞く方はいつでも聞こえるのだけど、喋らないのに喋れるのは有難いわ。
リルさんとお話したいな……」
「リルは封印だからな。夜寝る間なら封印してもいいと思うけど」
「本当!? 明日はお願いね。その……少し寂しくて」
「窮屈にさせて済まないな。何か伝えたい事があったら俺と念話してくれ。
ドーグルも有難う。さて、いくか!」

 宿屋受付の前へ行くと、ライラロさん以外は全員いた。眠そうなメルザを見るに
まだ寝ぼけているようだ。

「みんなお早う。よく休めたか?」
「やあ。一人で寝るのは久しぶりだけどよく休めたよ」
「ええ、準備は万端よ。ミリルは試験終ってるから図書館に行ってるみたいよ。
先をだいぶ越されちゃったわね」
「主ちゃん、ねむそー。私がおぶっていってあげるね」
「親分は寝たらなかなか起きないからなぁ」
「んあー、もっと寝たい……」
「ふっ。その状態で教養試験など受けれるのか?」
「メルザさん。朝はどのように挨拶するかお忘れではありませんよね……?」

 フェドラートさんにそう言われ突然しゃきっとなるメルザ。
 しかし目が開いていない。身体だけ起きたようだ。
 ……しゃっきっとするのを待ってても時間がかかるし、向かうとするか。
 サラが妹でも出来てはしゃぐようにメルザをおぶる。一番下だからきっと妹か弟が
欲しいんだろうな。ニーメもたまにおんぶしてるし。

 俺たちは試験を受ける予定の場所へと向かった。
 昨日受付を行った建物の左隣にある紫色の本の建物。この中で試験を行うらしい。

 
「ラインバウト一家の方ですね。お待ちしてました。
試験の説明を致します。試験分類は全部で五つ。全て受ける必要はありません。
武芸、術、知識、教養、製作技術の順番に行います。
まずは武芸からですが、受講される方はどなたでしょうか?

「ほぼ全員かな? ニーメとメルザは受けないだろう?」
「ううん、僕も弓で参加したいな」
「俺様は武器使えないから杖で殴るくらいしかできない……」
「棍技というものがありますが受けてみますか? 試験内容はさほど難しくはありません」
「おお、受けるぞ!」
「では全員参加でよいですね。武器はこちらでご用意いたしますのでそちらをご利用ください。
もし自分に適正がない武器しか無いと思いましたら、ご自身の武器でも構いません。
体術の方は試験時、事前にご申告くださいね。ではこちらへどうぞ」

 そういわれ、本の建物の一角へ案内される。かなり広大な空間に、試験管らしき人物が複数いる。

「それぞれ戦ってもらう相手は達人クラスの方々です。勝利する必要はありませんので、実力などを
見せてください。初心者の方でも見込みがあれば全く戦えていなくても問題ありません。
ではまずこちら側でルインさん、隣でリルカーンさん。その隣でサラカーンさんどうぞ」
「武器は曲刀と格闘武器がいい」「僕は格闘二つ」「私も格闘二つね」
「皆さんこちらをどうぞ」

 武器を受け取ると、試験官の前に対峙する。強面だが脅威は感じられない。
 闘技大会選手レベルか。

「よろしくお願いします」
「ああ。怪我させないようにするから気楽にな」

「はじめ!」

 俺は右周りに移動して様子を伺う。試験官は目で追えてはいるが速度に驚いているようだ。
 装備は外されているから生身の速度。妖魔装備もプログレスウェポンにも頼ってはいない。
 だが……俺とリルは地獄を味わいすぎた気がする。この試験官では相手にならないだろう。

「ふっ!」

 右手に持った曲刀を試験監に打ち込む。刃は無いが金属だ。まともに受ければ骨が折れる。

「ぐっ、重い!」

 剣で受けた試験監が後ろへ吹き飛ぶ。すぐさま跳躍してナックルを顔面に叩き込む形だけとる。

「……文句なく合格だ。流派を伺っても?」
「え? 流派? 先生、流派はなんですか?」
「おお、そちらの方が師範でしたか! 私をぜひ弟子に!」
「弟子をこれ以上取るつもりはない。流派か……そうだな。星流とでもしておけ」
「……だそうです」
「……無念。師範の方は武芸試験免除で構いません」
「相手が務まるものはいないか」
「一人いると思いますが今はこちらにいないので、気になるなら後日に」
「……わかった。そうさせてもらおう」

 ベルローゼ先生は免除になりました。会場を破壊されてもこまるからな……リルと
サラもとっくに合格している。

 次はニーメとフェドラートさん、ファナの出番か。
 ニーメはマトを射る試験で的確にマトをとらえている。合格できるだろう。
 ファナもナイフさばきに磨きがかかっている。誰に教わったんだ、本当。
 足はニーメの具足に履き替えているが、問題なく歩けている。苦労したんだろうな。
 あ、フェドラートさんの試験が始まる。しっかり見てみよう。

 フェドラートさんが持っているのは……ナタか? あんなの使えたのか。

「あいつが武器を持つと少々危険だ。下がっていろ」
「まさか……」
「試験開始!」

 ナタを振り回しながら試験官と対峙するフェドラートさん。
 時折ナタが止まっているようにも見える。目の錯覚か? 
 いや、明らかに止まっている! なんだこれは。術なのか? 

「どう見えた?」
「ナタが止まっている用に見えます。たまにですが」
「あの止まったタイミングに爆発的な力が収縮されている。撃つぞ」

蓄積暴撃アキュムレーション

 蓄積されたエネルギーが一気に放出され試験官を吹き飛ばした。

「相当軽く撃ってあれだ」
「僕、あれ模倣できないんだよね。邪眼すら模倣したっていうのにさ」
「フェドラートが持つ本来の武器で撃てば地上の戦艦一つくらいは落とせるだろうな。
地底に置いていったままだが」

 フェドラートさんのやばさを目の当たりにしてしまった。リルも元々はこれくらいの実力者
だったんだよな……恐ろしい。

 残りはメルザだ。杖を持って必死にたたきに行くが全く当たらないというか
すぐ息切れしてしまう。あ、杖を奪われた。

「残念ながら適正はなさそうですね。次の試験へ進みましょう」

 メルザは残念そうに肩を落としていたが、次の試験こそメルザが猛威を振るう番だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~

すちて
ファンタジー
謎のダンジョン、真実クエスト、カウントダウン、これは、夢であるが、ただの夢ではない。――それは世界のルールが書き変わる、最初のダンジョン。  無自覚ド善人高校生、真瀬敬命が眠りにつくと、気がつけばそこはダンジョンだった。得たスキルは『ガチャ』! クラスメイトの穏やか美少女、有坂琴音と何故か共にいた見知らぬ男性2人とパーティーを組み、悪意の見え隠れする不穏な謎のダンジョンをガチャスキルを使って善人パーティーで無双攻略をしていくが…… 1部夢現《ムゲン》ダンジョン編、2部アポカリプスサウンド編、完結済。現代ダンジョンによるアポカリプスが本格的に始まるのは2部からになります。毎日12時頃更新中。楽しんで頂ければ幸いです。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

処理中です...