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第二章 知令由学園 前編

第百七十九話 真相解明に近づく

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「準備が出来た。念話を行ってみるがよい」

 ドーグルにそう言われ、青銀スライムになった王様。
 イーファから声が聞こえてきた。

「イーファ・ウルトリノである。イーファで良い。あの場より救ってくれた事、まずは
礼を言う。それと、主従で言うならば、私が従う立場だ。楽に話してくれて構わない。
よもや私が妖魔に封印され行動する事になろうとは思わなかったが……いや、あのまま
では可愛いスライムとして飼い殺しであった。口惜しい……全てはライデンと、常闇の
カイナ双方の企みによるものだ」

 さり気なく可愛いをアピールする王様。可愛い物好きなのだろうか。
 あえて突っ込まないでおく。

「ライデンとは、ライデン・ガーランドの事なのか? ベッツェンで近衛隊長を
している、あの」
「そうだ。有名な人物故知っている者も多い。あ奴は私の部下にして
死流七支の一角。ガーランド傭兵団の団長でもある」
「それにしてはおかしい。ハーヴァルさんが王様を探していると言っていた。
ガーランドの命で、死流七支も王様を探しているはずだ。俺自身も最近、ガーラ
ンド傭兵団の支団、幻妖団メルとして活動し始めたばかりだぞ?」

 辻褄が合わないだろう。なぜ王様をこんな姿に? 常闇のカイナはともかく、ライデ
ンさんとは一度お会いしたが、そんなおかしな人物には見えなかったぞ。

「ライデンは恐らくだが、強さを求めるあまり私の隠し持つ神話級アーティファクト
に魅入られたのだろう。神話級アーティファクトについては知っておるか? あれは所有者の
権利を保持したまま持ち主が死ねば千年は封印される。そこであ奴は私を奇妙なポーションで
スライムに変異させた。その後権利の譲渡をさせるべく、準備を行っていた。
奴に協力していたのが大臣のジムロだ。だが、ジムロは常闇のカイナと通じておった。
ジムロの狙いが何なのかまではわからぬが、ガーランド不在時に、奴は常闇のカイナを引き入
れ、私を持ち出させたのだ。あ奴は口が達者。裏切りに気づかぬライデンは、私を探し回って
いるに違いない」

 様々な事柄が神話級アーティファクトで繋がってしまった。
 以前闘技大会で俺を狙った常闇のカイナもアーティファクト、ラーンの捕縛網を狙っていた。
 ラーンの捕縛網は神話級アーティファクトであり、闘技大会で使用したのがまずかった。
 ガーランドの目的は王の捜索とアーティファクトの入手か。
 他国に知られてはいけない、王不在では戦争になるとも言われた。
 あれも神話級アーティファクトによる争いを危惧するものかもしれない。
 しかし……俺が闘技大会で使用していたのをライデンが見ていたら襲われていた可能性も
あったのか。
 大臣ジムロに関しては、名前しか知らない。王不在の中代理で王政をこなしているとの事
だが、カッツェルの町にいた町長がクズだった。
 まともに機能しているとは思えない。
 それにロッドの町でライデン宛てにあいつらを送った。
 大失敗な結果となったな。
 まぁ、カッツェルにはフー・トウヤさんがいるし、きっと大丈夫だろう。

 ライデンとジムロは一枚岩ではない……というのはいい知らせかもしれない。
 ライデンはジムロの件を把握していないようだし、ジムロの手のひらで踊らされ
ている感じがするな。

 大臣てのはどうしてこうも、分かり易くダメなんだろうな。
 常闇のカイナが裏にいるとは。
 そういえば……「俺たち、ここに来る途中で常闇のカイナと遭遇し、戦闘
になったんだ。命は助かったけど、奴らがどうなったのかがわからない。倒
したのか撤退したのか……状況からみて俺たちを逃がすとは思えない。どう
やったかはわからないが、前者なんだと思う」
「なんと、そうであったか。この場所は常闇のカイナが使用する隠れアジトの一つ。
いずれ取引の材料に使うべく、厳重に保管されておった。この体は食事が無くても
生きられる故。ここの警備は基本的に手薄だ。なぜならば、あの扉には強力な死の
呪いが掛かっておったはず。更に私が普通に表に出れば大爆発が起こるように仕掛
けが施されてあった。全て無駄に終わったようだがな」

 おいおい。そんな恐ろしい罠があったのかよ。
 アナライズが無いとやっぱり不安だな……何とかメルザ無しで出来る方法が
あればいいんだが。

「ところでイーファ。俺に封印されたせいで王様には戻れないかもしれない。
もしスライムから元の姿に戻る方法があっても、この封印を解除して自由にすると
消滅するらしい。それに俺が死ねばイーファも死んでしまう」
「其方が言うように、もう王には戻れぬだろう。其方はトリノポートの住民だった
のか?」
「正確には違うな。ジャンカの森ってわかるか? そこで捨てられていた妖魔だ。
どうやってそうされたのかはわからないけどな」
「つまり三夜の町を知る者だな。この国に亜人、獣人などが多いのは知っているか」

 ……そういえばキゾナ大陸とは違って三夜の町も、ロッドの町も
亜人だらけだった。キゾナに来てから亜人を見たのはカノンだけだ。

「そう言われれば、多くいた気がする。宿屋の女将とか骨だったし」
「三夜の町には沢山の亜人や獣人を匿っている場所なのだ。私も元は亜人だ。
モリアーエルフという体の一部をミラリルという特殊金属に変えることができる存在。
知っておるか?」
「いや、普通のエルフなら本で読んだことがある。そういったエルフがいるのは初めて
知った」

 普通のエルフだって見たら驚きそうなのにミラリル……確かモリア銀だったか? 
 そんな変化を起こせるとか、このゲンドールという世界は興味深い事が多い。

「そうか。それで、これから先何処へ向かうか聞いてよいか?」
「今は古代樹の図書館を目指してる。そこに仲間がいるんだ」
「其方はトリノポートから来た故あまり目にした事が無いかもしれぬが、キゾナ大陸
では平気で外見差別を行う。知令由学園においてはそのような場面を見る事はないがな。
そこには獣人や亜人が一切立ち入れぬからだ。当然私もそうだった」
「この国、好きじゃないね。俺が捨てられてたのがトリノポートでよかったよ、ほんと。
特にジャンカの森や三夜の町は好きだ。世話にもなったしな」
「……有難う。お主のような奴に助けられて良かったと思う。私が所有権を持つ神話級
アーティファクトの話をしようと思うのだが、いいかね?」
「いいや待ってくれ。モンスターがいる! ドーグル、一旦念話を切って戦闘準備だ。
イーファ、また後でゆっくりと話を聞かせてくれ」

 そう一言残し、一旦念話を終了する。

「敵はあれだな。ブルームバットとラミア。わらにとっては厄介な相手だ」

 ラミアは剣持ち、バットは……特別武器はない。
 蛇籠手を使用して身構え、バットを攻撃する。

「ドーグル、少し休んでてくれ。念話で疲れただろう?」
「そうさせてもらう。ここは任せる。相性がいいようだな」
「その通り」

 蛇はバットをあっという間に丸呑みにした。体力が回復するのが伝わってくる。
 疲れてた頃だったので、いいタイミングだよ! 封印はちゃんとするけどな。 

「妖赤星の小星!」

 ラミアは妖赤星の小星をもろに食らっているが、そこまで効いているように見えない。
 こちらを鋭い視線で睨んでいる。

「気をつけろ。視線を浴びると状態異常を起こす」
「え? なんともないけど」
「ちみはやはり変なようだ」
「変な自覚はあるけど、なんでなんだ」

 今でこそ目が見えてるけど、もともと見えてなかったからか? 
 蛇に呑まれたブルームバットを封印出来たので、直ぐさまアクリル板を外して
封印場所を再指定した。
 アクリル板が増え過ぎた! 今度領域に放牧しよう。
 こちらを睨んでいるラミアを後目に剣を構える。

「アイアンクラッシャー」

 鉄球がラミアを吹き飛ばし、すかさず駆け寄りカットラスで斬る。

「ギシャアアアアア!」

 ラミアは奇声を上げて仰け反るが、まだ封印出来ない。
 封印値八十二だ。
 ラミアの手から氷斗が飛び交う。
 こいつ、幻術も使えるのか! 
 だが、ただの氷斗は躱しやすい。
 斬った影響で、ラミアの動きが少し遅くなっている。

「後はこれくらいか。妖赤星の針」

 赤星の針が突き刺さり無事封印出来た。体力の多い敵は時間を浪費するな。

「もう少しで出口のはずだ。先を急ごう」
「やはりちみは強いのう」
「ルインだって!」
「そうだった。はっはっは」

 ドーグルの笑い声を聞きながら、洞窟の奥へと俺たちは進んでいった。
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