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第二章 知令由学園 前編

第百六十六話 追われるルインとリル

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「急ぐぞリル! 早く!」
「わかってるよ! 僕も死にたくない!」

 俺たちは追われていた。ここはキゾナ大陸の港町鈴鈴という場所だ。

 だが町を散策して楽しんでいる暇など今の俺達にはない。
 とても危険な状態だ。走っていると、通りには謎の店がある。

 魚群といういかにも旨そうな魚料理が食えそうな店を魚群が流れるが如く
スルーして先を急ぐ。

「こっちだ。走るぞ!」
「もう一回シャドウムーブ使ったら僕倒れるよ。封印に戻っていいかな」
「駄目だ! 今は走るしかない!」

 地図を買っていたからそれを見ながら目的地へ急ぐ。
 だが……「遅かったな。貴様らは徒歩だ。俺たちは先に行くぞ。
現地で甘味処を探すとしよう。
金はこれだけだ。ではな」

 そう、俺たちは時間に追われていた……そして間に合わなかった。


 グリーンドラゴンを倒してから三か月程、俺はリルと共にベルローゼさんの特訓を
一緒に受ける事になった。

 ベルローゼさんの特訓は当然地獄だが、
 
 お互いプログレスウェポンを持ち、特殊な力を持つ以上鍛え上げてフェルドナージュ様の
役に立たせたいらしい。

 プログレスウェポンにかなりの数のモンスターを封印したため俺たちは強くなった。そう、そして調子にのってしまったのだ。

 メルザ達は、ライラロさんが飛び出したくなったので、先に現地へ
向かう事になった。

 残ったのは俺とリルとベルローゼさん。特訓を終えて俺達がキゾナ大陸に向かう時にある提案を出された。

「貴様らが二日早く出発して後から俺が出る。貴様らが早く港町入口まで着けば
あちらでの特訓メニューを軽くしてやろう。先に着いたのが俺なら、貴様らは
歩いて古代樹の図書館を目指せ。更に特訓は倍だ」
「え? それっていくら何でも俺達が先に着きませんか?」
「そうかもな。問題ないようなら早速向かうがいい」
 
 今のまま特訓を続けると、いつか死ぬんじゃないかと思っていたので
俺とリルは藁にも縋る思いで承諾してしまった。
 そもそも断ったらどうとか考えていなかった。


 船に乗って数日。俺たち二人は快適な船旅をしていた。
 甲板に出て外から海を眺める。

「見てみろよリル。結構魚がいるぞ。メルザも見てたんだろうな。美味そうな目で」
「そうだろうね。彼女はとにかく食いしん坊だからね。何匹か捕まえようか?」
「さすがに危ないだろう……ん?」

 とんでもないものを見た。
 海をキラキラとした黒い流れ星が流れているんだ。
 俺は何度も目をゴシゴシしたが、その流れ星は消えない。

 一瞬「ふっ、ばかめ」という声が聞こえた気がしたが、幻聴だと信じていた。

「……僕ら、まずくない? ねぇ、ルイン、ルイン?」
「あ、ああ。黒星ってさ。あんなのアリなの?」
「さあ、彼の事を良く知ってるのは多分君だけだと思うんだけど」
「俺にも良くわからないよ……なにせあの人は黒星のベルローゼ。
妖貴戦、黒星のベルローゼさんですよ……」

 港付近からシャドウムーブで一気にショートカットした。
 だが俺たちは勝負に負けて徒歩で古代樹の図書館を目指す事になってしまったのだ。
 与えられたのはレギオン金貨一枚のみ。
 道中を考えると全然足りない。

 俺とリルの新しい冒険が幕を開けようとしていた……が腹が鳴る。

「なぁ、食事にするか。もう徒歩確定だし馬車使ったら絶対ばれる」
「そ、そうだね。なんせ相手はあのベルローゼだからね。さっき見かけたお店にしよう」

 俺たちは来た道を戻り、食事処魚群へと流れて行く。

「おう、いらっしゃい。二人かい? 奥のテーブルへ行きな」
 元気のいいマスターが話しかけてくれる。店内は綺麗で
 透明な入れ物に魚がそこそこ浮かんでいる。
 メルザが見たらよだれを垂らしそうだな。

「兄ちゃん達は旅人かい? おすすめはこいつと、後これだな」
「それじゃ俺はギョエイの塩焼きで。このミゾルテってのは?」
「ミゾーンていう果実を絞ったやつだ。甘くて美味いぜ!」
「じゃあそれも。リルはどうする?」
「僕も同じでいいよ。二人で銀貨一枚でしょ、そうすれば」
「ああ、少し待っててくれ」

 そう言うとマスターは料理をしに厨房へ向かう。
 一人で経営してるのかな。大変そうだ。

「ここからだと円陣の都まではどのくらいかかるんだろうね。
ミドーがいるけど道中かなり襲われるよきっと」
「ついでに封印して来いって事だと思うけど、後で俺らのプログレスウェポン
確認しようか。リルは封印箇所余ってるか? 装備も見直しとかないとな」

 俺たちはため息をつく。先に行かせたメルザ達には心配かけてしまうな。

 暫くして料理が届いた。めちゃくちゃ美味そうだ! 相変わらず米に出会えないが。

 淡泊な味わいの塩焼きに舌鼓をうち、満足のいく食事を堪能できた。
 やっぱ港町は魚が美味しくていいな。

「兄ちゃん達はこれから何処へ? 入学希望者かい?」
「俺たちは古代樹の図書館へ向かう所です。ここから歩いてどの位かかります?」
「バカいっちゃいけねぇ。歩いてなんてとても向かえないぞ。
幻術馬車で
姿を消しながら町間を移動しないといつ襲われるかわかったもんじゃねぇ」
「あー、やっぱり。まぁ訳ありで。おおよその日数でいいですから」
「そうさなぁ。十日……いや十五日位か?」
「やっぱそれくらいはかかりますよね……」
「ところで最近は古代樹の図書館へ行くのが流行ってるのか? 
こないだも綺麗なお嬢さんを連れた人らがそこへ行くって言ってたぞ。
随分とキラキラした目で魚を見る嬢ちゃんもいたな」
「あー……それ多分仲間です。僕らは後発組なので……」
「そうか、だいぶ前に来たお嬢さんもその口かねぇ……古代樹の図書館は
学園生か招待者しか入れねぇって言ったら随分と驚いていたようだが」
「……どのみち学園には用事があるけど入学が必要なのか。全員……」
 予定と大分狂いそうだな。困った。

「お兄さん達、歩いて円陣に向かうって本当?」

 誰だろう? お客さんが話しかけて来た。
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