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第二部 主と働く道 第一章 地上の妖魔

第百四十七話 囮と罠とだまし討ち

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 一晩明けて俺たちはカッツェルの町の状況を改善すべく
相談をしあっていた。
 
 アルカーンさんやフェドラートさんはあまり興味を持っていなかったが
 不逞な輩にまた絡まれた時の話をしたら協力してくれた。
 ニーメやマーナには刺激が強いので、シーファン老師に預ける。
 
カイさんとヨナさんに護衛を任せる事にしてある。

「めんどくさいから町ごと水で流すじゃダメなの? その方が綺麗になるじゃない」
「何の罪もない人たちまで巻き込んだら俺たちが悪者です」
「そりゃそうだけどどうやって悪い奴らだけ倒すのよ」
「囮と罠、トラップって言うんですけどね。これを張り巡らせましょう。
なんせこっちには、向こうが言う所の美人美男子揃い。
悪漢悪女どちらも簡単におびき出せるでしょう」
「そううまくいくもんかな。昨日出会った奴らは頭が悪かったけど
そうじゃない奴もいるんじゃない?」
「勿論誘惑で引き抜けるのは三下ばかりだろう。
上を引っ張り出すには大立ち振る舞いが必要ってわけさ。
つまり俺達の中から裏切って
俺達を襲う奴を出せばいい。
そうすれば味方に引き入れようとするだろ」
「成程。裏切りを想定させて返り討ちか。
面白そうだなぁ。僕がやりたいけど」
「いや、俺とメルザが適任だろう。町で手出ししなかったから」
「そういえばそうだったね。僕らはアイツら叩きのめしちゃった」
「配役としてなら多分大丈夫だけどね。ライラロさんとシュウさん、フェドラートさんとファナ、アルカーンさんとサラ。
シュウさんは俺と戦ってもらう」
「ああ、わかった」
「ココットはシュウさんと一緒に大騒ぎしといてくれ。
お前が騒げば人がいっぱいくる」
「ココット!」
「メルザは俺に続いて演技してくれ。
特訓の成果を見せる時だな!」
「おー! 任せろ!」
「相手の人数はかなり多いと思う。
リル。呪術って罠っぽいの作れるか?」
「出来るよ。その辺の草とか喋らせたり
恐慌させて同士討ちさせたり」
「それじゃ後で……」
「わかった、やってみるよ。楽しみだね」
「サラも邪術で……」
「いいわよ。うふふ」
「ファナはこのタイミングで……」
「あら、いいの? それやっても」
「フェドラートさんとアルカーンさんはこんな感じで……」
「……まぁいいだろう。」
「ええ、わかりました」
「それじゃ作戦開始と行こうか」

 俺たちは夜まで待ち作戦を始める。

「ココーット! ここっここっ!」
「うふふ、今日はどこにいこうかしらね。アルカ……お兄様」
「妹よ。今宵もいい月になりそうだぞ」
「フェドラート様。わたしたちもどこにいこうかしらね」
「美しい夜ですから、夜景の綺麗な場所にでも参りましょう」
「ベルディスぅー、今日はどこに行くのぉ?」
「しゅ、シュウですって。ライラロさん!」

 三組のカップルのような者達を少し離れた位置から
やるせなく見るような表情で後ろを歩く俺とメルザ。

 本当は手を繋ぎたいのか、メルザはちょっと寂しそうにしてる。演技頑張れ! 

 すると前方からぞろぞろと武装した集団が現れる。
 早速お出ましだ。三十人程だろうか。

「おいおい兄ちゃん達、日が沈んだら家にいないと危ないぜ」
「あらぁ、いい男いるじゃない。貰ってっていい? アレ」
「女は頭に献上する。他は好きにしな」
「顔を傷つけるんじゃないよ!」

 この間見た奴らよりは定番ぽくないが、結局こいつらも
似たり寄ったり
だな。まぁいい。演技を続けよう。

「おいおい、多勢に無勢だぜ。俺達はここで降りる。
あんたらでそいつらの相手をしろよ」
「おう、俺様も抜ける。お前らといるとあちこちでからまれる
からよ。もうこりごりだ」
「俺達二人はあんたらに付くぜ!」

「おう、後ろの二人は物分かりがいいじゃねえか。
働きによっちゃ頭にあわせてやるよ」
「それはありがてぇ。こいつらには愛想がつきてたんだ。
いつもイチャイチャしやがって。いくぜ!」
「お、おいおい裏切るのか。容赦しないぞ」

 シュウさん大根役者だわ! ええい演技でごまかせ! 

 俺はアドレスからカットラスを抜き、あらかじめ打ち合わせ通りに
シュウさんに切りかかる。
 
 シュウさんも二刀で応戦する。
 斬りあいに関しちゃお互い割と真剣だ。その間に他のメンバーは逃げる。

 案の定後ろの奴らは観戦モードと追っかけモードになった。

「おい、あいつシュウじゃねえか。あの野郎
シュウと互角に戦ってるぜ」
「本当だわ。結構いい男じゃない」
「後ろの女は術使いだな。ありゃ使えるぜ」
「おい、報告に行け! 残りは逃げた奴らを追うぞ!」

 おーおー十分に連れたな。ちょいと場所を移動しますかね! 

 俺はシュウを押し込むように、ギャラリーがいなくなった
奥へ進む。
 シュウさんもそれに合わせて動く。
 メルザも燃斗を外しながら追っかける。

 中央付近でしばらく切りあうとしよう。




 アルカーンとサラを追っていた者達は東の町外れに来ていた。

「冗談だろ、なんで一気にこんなモンスターが。
しかも吊るされてやがる」
「ひぃ! 助けてくれ」

 アルカーンの空間より放出されたゴブリンやウルフ達が
サラの邪術で
操られ、次々と漢達を襲う。
悲痛な断末魔がそこかしこに聞こえる。


 フェドラートとファナを追っていた者達は北の森付近に来ていた。

「くすくす。うふふ」
「綺麗ね。素敵だわ」

「へっへっへ、どこかなー、お嬢さん。いいことしようねー」
「げっへっへ。頭に献上する前に楽しもうぜ」

「やだー、うふふ」
「クスクス」

「ここかなー、おじょうさ……ひぃーー!」

 女の声はリルの言霊だった。
 そいつの目の前にいたのは巨大な牛鬼。
 ファナがジョブコンバートで新たに獲得した変身体の牛鬼は
既に近接戦闘でも十二分に戦える実力を、この半年で身に着けていた。

 漢達は逃げようとするが身体は動かない。
 フェドラートの術により縛られている。
 ファナの持つ牛刀が男たちを両断した。


 ライラロを追ってきた者達は南の門付近にいた。

「私は容赦しないわよ。なんでベルディスじゃない相手に
ベルディスって言わなきゃいけないのよ! 
もれなく全員水に流してあげるわ! 
水竜の息!」

 喋る暇も与えず全員水に飲み込まれ流されていった。

「全く、やっぱり全部水に流す方が楽よね。
後は任せて私は休んでよっと」


 襲ってきた者たちを全員返り討ちにし、各々町まで
ゆっくり戻って行った。
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