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第六章 強くなる

第百三十七話 お帰りなさい

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 領域への泉から浮上すると
「お帰りなさいー」
「お帰りー」
「おかえ……なさい」

 モラコ族の子供たちが水浴びをしている最中だったようで
可愛く出迎えてくれた。
 
 毎回戻るたびにこれが待っているのか! 
 なんて癒し空間になったものだ。

「みんなただいま。無事着いていてくれてよかった」

 うんーと子供たちはハモって喋る。
 
 可愛すぎるのでこのまましばらく見ていたいが、その気持ちをこらえて領域の奥へ行く。

 カカシにも道すがら挨拶する。
 
 すっかり大きくなった木々。よく育ててくれているようだ。

 俺は中央の巨木の中へ向かう。

「みんな、ただいま! 無事帰ってきたぞ!」
「おかえり! ……心配したぞ。どこも怪我とかしてないか?」

 ぴょんと俺に飛び込むメルザを抱き上げる。
 安心したのか笑顔の目からは少し涙がこぼれていた。

 リルとサラ、ファナも封印から出てくる。

「え、主様って女の子じゃない。どうしましょう……困ったわ」
「君がルインのよく話していた主かい? 想像していた人物とは
違ってホッとしたよ。僕はリル。こっちは妹のサラだよ。
ルインの主って事は、君は僕らにとって大主……いや
主と呼ぼうか。
そもそも僕はルインを主とは呼ばないしね」
「あら、私はご主人様って呼んでもいいわよ?」
「新入りがよくもまぁいけしゃあしゃあと言うわねぇ」
「ああん!?」

 あーまた始まってしまった。
 メルザは賑やかな雰囲気を見て嬉しそうだが、ちょっと落ち着いたか? 

「メルザ。少し雰囲気変わったけど何かあったのか?」
「……フェルドナージュ様にしかられたんだ。今度鍛えてやるから
覚悟するようにってよ」

 メルザの顔が青い。うん。あのお方に睨まれたら
誰だって恐怖すると思うよ。
 蛇に睨まれたカエルだよ。

「厳しいお方だけど優しいとは思うからその……がんばれ!」
「ああ! 俺様はルインより強くなって、もっともっと皆を守りてぇんだ。だからがんばる!」

 俺はメルザの頭を撫でてやる。そしてリルとサラに向き直る。

「二人とも改めて、俺達ルーンの領域へようこそ。
今日からはここが二人の居場所だ。家はあったけど
こっちに引っ越さないか?」
「いいのかい? あそこは仮住まいだから助かるよ。
人形の館は本来アルカーンの家なんだ」
「そういえばアルカーンにも世話になったんだ。
フェドラートさんに領域を開いてもらってね」
「そうなのか。それなら君はあそこへはもう入れないね。
アルカーン以外は二回しか利用できないんだ」

 あんな便利な領域、制限があって当然か。

 おかげで二人を救い出せたから十分だ。
 修行もできたし。そういえばアルカーンさんにも領域許可を出さないとな。

「メルザ。アルカーンさんとフェドラートさんにも領域に来てもらうようにしたいんだ」
「ああ、リルとサラの兄貴だっけか? 勿論だ。フェドラート先生は
もうここに来たぞ」
「フェドラート先生? フェドラートさんにも何か教えてもらったのか?」
「ああ。呆れられたけどちょくちょく教えてくれるってよ。
笑顔がこえーんだ。すごく」

 メルザはぶるっと身震いして思い出し恐怖しているようだ。
 確かにあの手の人は笑いながら恐怖を与えるタイプだ……と言う事は算術以外の講義をお願いできるか……? 

「君もベルローゼに教わるんだろう? 僕も妖魔としての力を
かなり失ったから、サラと修行をしないといけないんだが
ここに戦いに適する場所はあるかい?」
「ああ。多分出来上がってると思うんだけど。仕事早いからな。
メルザ、ムーラさんを呼んできてもらえるか?」
「わかった。ちょっと待ってろよ」

 そういうとメルザはバタバタと外に出てムーラを呼びに行く。

 しばらくしてやってきたムーラさんも元気そうだ。
 パモも一緒だったのか俺の足にすりよってくる。よしよし。
「ぱみゅー! ぱみゅぱみゅーっ」
「ただいまパモ。ムーラさんも呼び出してしまいすみません」
「おかえり。こんな素敵な所へわしらを招待してくれてありがとよ。
頼まれていた例の場所。用意しといたぞ。こっちだ」

 俺達全員はムーラさんの後を追い、巨木の隣に出来た階段を下りる。中は明るい。

 ムーラさんを送り出す時に、出来る限り広い地下訓練場を頼んだ。
 
 地上だと建物が壊れかねないのでここなら安心して
戦える。

 思った以上に広いうえ、休憩する建物まで作ってくれている。
 こちらはニーメの作った物を組み立てた二人の連携作だ。

「すごいですね。こんな短期間にここまで用意してくれるとは。さすがです」
「まだまだ作りたいものがあったら言ってくれ。わしらはいつでも
手伝うぞ。畑から美味しい果物ももらってるしな」
「凄いね。思う存分特訓が出来る。僕とサラは
随分といい環境を得られたようだね」
「ええ、ここなら存分にやれるわね」
『とりあえずは全員食事に戻ろう。フェルドナージュ様の
状況も気になるし」
「あの巨木の中はなんて言うんだい?」

 あ、名前決めてないな。ある方がいいか? 

「メルザ。何かいい名前あるか?」
「でっけぇ木の美味い物喰える部屋ってのはどうだ?」
「いやそれはちょっと……」
「うん、それはあんまりね」
「もう少し素敵な名前は付けられないのかい?」

 めった打ちにされるメルザ。
 コホンッ。ではここは一つ俺が。

「ルーンの安息所ってのはどうかな。皆の息が休められる。そんな場所って意味だ」
「流石ね。ルイン。」
「やっぱり君は素敵だね」
「うふふ、私とルインの休まる場所か……」
「むぅー、俺様もそっちの名前の方がいいなー……ルインが付けたし」

 我が主の許可ももらったし、ニーメ達に挨拶しよう。
集中して何か作っているかもしれない。

 ……と思ったらニーメとマーナがココットを連れて息を切らしてきた。

「お兄ちゃん、お帰りなさい! 無事でよかった!」
「お帰りなさいルインお兄ちゃん。ニーメちゃんといい子にして待ってたよ」
「ここっ! ココットー!」
「三人ともただいま。皆すっかり仲良しだな。お兄さんは嬉しいぞ!」
俺は全員の頭を撫でてにっこりする。
「お兄ちゃん達疲れてるでしょ? 僕らは料理のお手伝いするから
休んでて! みんながいなかった時のお話はまた後でね! いこ、マーナちゃん!」
「うん!」
「ココットー!」

ココットはくるくる回り構ってほしそうだったので持ち上げてやる。
こいつも相当心配してくれててたんだろうな。

「そう言えばミリルはどうしたんだ? 姿が見えないけど」
「ルーがかなり大きくなったから、一度国に戻って
竜の成人の儀式をしてくるって
帰ったぞ。よろしく伝えてくれって言われたの、すっかり忘れてた!」

 メルザは「ニハハ! 」と笑う。旅の最中から随分と大きくなって
きたなーとは思っていたけどもうそんなになるのか。

 仲間が全員揃うにはまだ時間がかかりそうだけど、今はこのひと時を
大切に思い少し休むとしよう。
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