異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー

文字の大きさ
上 下
141 / 1,085
第六章 強くなる

第百二十四話 時間凍結の部屋で

しおりを挟む
「――しょっぱい」

 背後から、四ノ宮がぽつりと零した。

「塩素の味がしますね」
「泳いだ直後だからな……不味いだろ?」
「いいえ? 水着って感じがして、この方が興奮しますよ」
「……変態」

 オレの罵倒などお構い無しに、四ノ宮は行為を続行した。項から背の中程まで、ぬるりとナメクジの這うような感触が伝っていく。
 辿られた背筋がぞわりと痺れ、胸元に回された四ノ宮の手指すらこそばゆく感じて、息を詰めて黒板に爪を立てて堪えた。

 水泳大会中で生徒の出払っている今、校舎は閑散としている。四ノ宮的には「本当はプールの更衣室の方が雰囲気が出て良かった」らしいが、そちらは今だと人の出入りが多い為、断念したのだとか。
「それに、普段勉強している教室聖域を穢すのって、興奮しませんか? この先毎日、授業中も僕との行為を思い出すことになるんですよ」――なんて、またもや悪趣味なご意見の元、連れてこられたのは二年A組、オレの教室だった。

 カーテンの閉ざされた無点灯の室内は、まだ夕暮れ前にも関わらず随分と薄暗い。二人きり、貸し切り状態のそこには、微かに湿った音が響いている。
 肌を舐る音。濡れた水着越しに、四ノ宮の雄がオレの尻と股間に擦り付けられる音。それは断続的に続いている。執拗に、何度も。
 プールで冷えた身体は今や鴇色に火照り、じわりと全身に汗が滲んでいた。――塩っぱいのは、塩素のせいだけじゃないかもしれない。

「てかお前、水着にすら興奮すんのかよ……」

 伸縮性のある布を持ち上げて己のソレが屹立しているのを嫌でも意識してしまい、気を紛らわす為に話し掛ける。

「トキさんのせいですよ。水着姿のトキさん、随分お預けを食らいましたからね」
「ッあ……!」

 突如、四ノ宮の指先がピンと張り詰めたオレの胸の突起を弾いた。ビリリと走る電気信号に、背が反る。

「あのまま逃げられるとでも思いましたか? 甘いですよ。……さてと。折角の水着なので、今日は脱がせずに隙間から挿れるとしましょうか」

 不穏な宣言に、ハッとして後ろを振り向いた。

「ま、待って、オレ……ひっ!」
「壁から手を離すなと言いましたよね?」

 布越しに、硬い異物が蕾に浅く押し入ってくる。散々ソレで擦られていたそこは、嫌でもひくりと求めるように反応してしまう。

「隙間が嫌なら鋏で穴を空けますよ」
「ばっ、オレこの後もまだ! 出番あるんだって!」
「おや、そうでしたか。ちなみに、何の種目です?」
「……メドレーリレー」
「花形じゃないですか。クロール?」
「いや、平泳ぎブレスト。クロールはタカだ」
「タカさんとの約束ってそれですか?」
「……違う」

 タカとの約束は……もう果たせないだろうな。こうしている間にも、水上騎馬戦はきっと始まっちまってる。
 ――ごめんな、タカ。
 もう何度目かも知れない謝罪を胸中で吐き、睫毛を伏せた。

「メドレーリレーなら一番最後ですし、まだたっぷり遊べますね」
「遊っ、いや、だからオレ泳ぐから! 挿入だけはマジで勘弁して欲しいんだけど! その……手とか口なら、貸すからさ」
「駄目ですよ。トキさん下手くそなんですもん」
「っ四ノ宮!」
「大丈夫ですって。泳ぐ頃には回復してますよ。……僕が満足するまで、付き合ってくれるんでしょう?」

 また、その言葉だ。何度も確認するように言うのは、もしかして脅しとかじゃなくて……不安、なのか?

「……どうすれば、お前を満たせるんだ? こういう行為じゃ、なくってさ」

 もっと別の何かで――四ノ宮の心に寄り添いたいと思うのに。どうしたら正解なのかが分からない。
 少し間があった。そっと、蕾から四ノ宮のものが離れていく。

「四ノ」
「無理ですよ。だって貴方、絶対に僕を見ないじゃないですか」

 え?

「いくら抱いても汚しても、手に入れた気がするのはその瞬間だけで……貴方は決して僕のものにはならない」

 ズボンのポケットから、四ノ宮は鋏を取り出した。ギラリと鈍い光を放つ刃先の存在感に、息を呑む。

「だから、永遠に満足することはないんです」
「四ノ宮……お前?」
「動かないでください。うっかり手元が狂ったら、肌が切れますよ?」

 臀部の布を引っ張られ、刃先が当てられる。鋭利な刃物に対する恐怖心や、水着を切られる危機感よりも、オレは今しがたの四ノ宮の言葉に戸惑っていた。
 ジャキッ――直後切り裂かれたのは、布ではなく彼自身の心だったかもしれない。


    ◆◇◆


 奥で熱が爆ぜた。ぶるりと身を震わせて、内部で四ノ宮が果てる。広がっていく液体の感覚。溺れる酩酊感。

「はっ、ぁ……!」

 身体の中心から、ゆっくりと四ノ宮が引き抜かれていく。栓を失い、ぱっくりと開いたそこから、どろりと精が溢れ出したのを感じた。

「あーぁ、汚しちゃいましたね。トキさんが大好きなタカさんの席」

 二つ繋げた机の上。仰向けに力無く寝そべって、オレは荒い息を吐いていた。――タカの机と、九重の机。四ノ宮が最終的に選んだ場所は、そこだった。
 
 ――よごした? タカを?
 思考が上手く働かずにぼんやりとしていると、身体の上にひらりと何かが降ってきた。

「水着。僕のを使ってください。リレーに出るんでしょう?」

 りれー? なんだっけ……。

「そうですね……そのまま僕のものを中に入れたまま泳げと言いたいところですが、トキさんすぐにバレて大変なことになりそうですからね。掻き出してきてもいいですよ? 僕は先に戻っていますので、どうぞ、ごゆっくり」

 掻き……? ダメだ、目が霞む。四ノ宮が行ってしまう。
 待ってくれ。オレまだ、お前に聞きたいことが――。

 遠ざかる足音と意識を必死に手繰り寄せようとしたけれど、落ちゆく瞼の重みに抗う術もなく、数瞬後には全てが分からなくなった。


   ◆◇◆


「……、……キ」

 ――誰かが呼んでいる。

「トキ……トキ!」

 ああ、この声は。

「――タカ?」

 呼び掛けると、すぐ傍にある気配がハッとしたのを感じた。
 えらく喉が乾いてる。あれ? オレ寝てたのか。薄く目を開くと、思ったよりも近くにタカの顔があった。ひどく憔悴したような表情。……何だ、どうした? そんな顔するなよ。
 頬に手を伸ばして触れようとすると、先にその手を掴まれ、抱き寄せられる。

「トキ……!」

 いや、〝しがみつかれた〟の方が近いかもしれない。タカの腕は苦しいくらいに力強くて、何故か震えていた。
 問い掛けようとして、曲げられたお腹の奥に不意にズキリとした痛みを覚える。次いで、内部から流れ出す生々しい液体の感触に、背筋がぞくりとした――これは。

 一気に記憶が蘇る。同時に状況を理解して、血の気が引いた。思わず、タカの胸を押して身を剥がす。タカは、傷付いた表情でオレを見た。

「ぁ……み、見ないで」

 自分でも驚く程、弱々しい声が出た。
 見られた。知られた。タカに、こんな……こんな姿を。
 ――それは、オレが一番恐れていたことだった。

「見ないでっ、タカ……!」

 注がれる視線に耐えかねて、顔を逸らして覆った。
 仄暗い教室内を、暫し重い沈黙が満たした――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。 メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。 しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

処理中です...