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第四章 諦めない者たち 妖魔の国編

第七十二話 虚ろいの中で

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 狭い部屋の隅で、アルコールを飲む俺。

 いつも通りのつまらない日常。
 かすかに見える目でパソコンを操作して
 音声で電子書籍を読む毎日。

 たまにはゲームなんかもするが、そんな日々。

 普通に人とも接するけど、家にいる方が落ち着く。
 外を歩くのも大変だし、ぶつかって怒られる事は日常的。

 生まれ変わったらもっと酷かった。父親はいない。母親一人。

 食事は適度に与えられた。
 
 転生していなければ、会話すらできなかっただろう。
 
 そして教えてないのに会話ができる俺は気味悪がられていたのだろう。
 
 捨てたくなるのも無理はない……かな。

 でも今の俺は、捨てられたことに感謝すらしている。

 そのおかげでメルザと会えたのだから。





「ここ……は」
 
 再び意識が戻った俺は、ゆっくりと目を開けた。

 真っ白い部屋だ。天井の淵などどこにも見えない。

「やあ。今度こそはっきりと目覚めたかな? どう?身体は動く?」

「……ダメだ、全く動かない」
 
 身体がぴくりとも動かないが痛みはないようだ。

「やっと意識までは戻したようだね」
「その声……は」

 頭の意識がうつろげだ。
 どれ位の時間、意識がなかったのだろう。

「どこから説明すればいいのかな」

 俺は目を開けていられず閉じた。

「無理にしゃべらなくてもいいよ。今つなげるから」

 つなげる? 何をだ? だめだ、何度やっても力が入らない。
 麻酔打ったみたいだな。

「麻酔であってるよ。幻術だけどね」

 そんな幻術もあるのか。俺はこの世界のことをいまだによく知らない。

「そういえば君は、二度生きているんだったね。実に興味深い」

 あんた、誰だ? 

「僕はリルカーン。妖魔だ」

 妖魔? 人間じゃないのか? 妖魔なんて初めて聞いた。

「人間? 人間とは違うな。そもそも君も人間じゃない」


 え? 俺が人間じゃないってどういうことだ? 人間だろ。どう見ても。

「君は君自身が何者なのか知らないのかい?」

 生まれた時から目が見えず、閉じ込められて育ったから知らない。

「そうか。妖魔はあまり他人事に関心がないからね。
けれど君は妖魔。これは事実さ」

 で、その妖魔さんが何で俺を助けたんだ。そもそも俺は助かったのか。

「うーん、気まぐれ……いや違うな。君に興味があるのは事実だし。
 けどすごく面白い状態だったから、つい手をだしたくなっちゃって。目的の物もあるし」

 面白い? あの状況が? どこが面白いんだ。弱者が強者に殺されただけだろう。

 それに目的の物ってなんだ。

「違うよ。君を殺しそこねた奴に相当深手を負わせたよ。目的の物っていうのは、君が使っていた
網が欲しくてね」

 そういえば最後、せめて一撃をと思ったな。
 網っていうのはラーンの捕縛網か? あれは確かにいい物だが、なんだっていうんだ。

「君、それがなんだかよくわかってないで使ってただろ?それ神話級アーティファクトだよ。
普通の人間は使えない。妖魔族か一握りの種族しか使用できない」

 アーティファクトってそんな代物だったのか。けどそれなら死んだ後奪えばいいだろ。

「全てのアーティファクトが神話級って訳じゃない。
神話級アーティファクトは所有者が死ねば封印される。ざっと千年ほどね」

 ……それでそのアーティファクトをどうするんだ。

「献上しないといけない。我が主のフェルドナージュ様に。
そのためには君を助けて所有権を放棄してもらう必要がある」

 ……つまりその所有権があるうちは、安全なわけだ。

「そうなるね。殺したりはしないよ。ギリギリまで持っててくれて構わない。
他にもいくつか君にはやってもらいたいこともあるしね。
今はもう少し休んでいなよ。
もう一度起きたときに、君の質問に答えてあげるから。
僕は妖魔の中では話好きの変わり者だからね」

 ……そうさせてもらう。とにかく生きているならもう一度会えるかな……主に。
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