上 下
4 / 1,085
第一部 主と紡ぐ道 第一章 出会い編

第三話 幻術の力

しおりを挟む
「んー? 見りゃわかるだろ、火起こしてるんだよ。これくらい知ってるだろ?」
「知らないよ! なんだそれ。どうやって火起こしてるんだ? 指とか焦げるだろ、それ」
「指が焦げる? なんでだ? 指先には触れてないだろ?」

 そう言うとメルザは指を俺の方に向けてみせる。あっつ! 

「これ本物の火だ……どうやって起こしてるんだ?」
「燃斗《モルド》だよ。知ってんだろ? 燃えるって意思が火を起こす。イメージが付くほど良く燃えるけど今はこんなもんだ」

 全然知らないんだが、メルザは知ってて当然という感じだった。
 親指から薬指まで順番に立てて異常現象を起こしていった。

「人差し指が氷斗《コルド》 真ん中のが風斗《フルド》薬指が土斗《ドルド》
俺様は一応ここまで出来るけどこれより強いのはまだ使えねぇんだ。適性があるからな」

 前世では存在しない特別な力。 
 現世ではそんな未知の力があるらしい。思いの力でそんな事が起こるのか? 

「しゃーねーから教えてやるよ!」と言い、近づいたメルザは俺の右手の親指を握る。

「いいか、目ぇ閉じろ。んでぼわーってなるイメージをぎゅーんとするんだ」
「ぼわーっとかぎゅーんてなんだ!? もう少しわかりやすく説明してくれ」

 メルザは説明が苦手な感覚派のようで、俺に謎表現で説明する。
 しょうがねーなと俺の親指とメルザの指が重なるようにした。

 ちょっと恥ずかしいには恥ずかしいようだ。

「んじゃ俺様が今から燃斗使うからよ、お前もその火をイメージして頭の中で想像してみろ。お前ならきっと出来るはずだ」

 そういうと再びメルザの指に火が灯る。俺はちょっと熱いんだが。
 火をよく見て目を閉じる。

「イメージしたら唱えてみろ。燃斗! ってな」

 俺はメルザの火を見てガスバーナーから出るボーーっという火のイメージを連想してみた。
 
 指から細い炎が出ているのを見た時、前世ではっきりは見えない目で見たバーナーのイメージに近い気がしたからだ。

「燃斗!」
「うぉぉー--っあっちーぃ!」

 目を開けてみるとメルザが飛び上がて指をふーふーしていた。そして俺の指先には……真っ青な火が勢いよく出ている。

 俺は慌ててフーフーして火を消す。

 意識ではそれで消えるイメージだったのか、火はすっと消えた。


「ばかやろー、あっちーじゃねーか! あんなとんでもない火出せるなら早く言えよ! しかしすげーなルイン。
あんな才能があったのか……お前全然役立たずなんかじゃねーしよ」

 そういうとメルザは俺の肩をポンポンと叩く。

 俺も嬉しくなり笑っていた。こんな風に笑ったのなんていつ以来なんだろう。

 しばらくすると、何だか焦げ臭い匂いが漂ってきた。

「メルザ……なんか焦げてないか? あの鍋」
「やべぇ! 飯が! 氷斗ー!」

 カチコチに氷で固められたコゲ鍋ができあがっていたのである。

「こりゃダメだ。喰えそうにねーや。仕方ない飯捕まえに行くぞ! ついて来いルイン! ジャンカの森で果物とモカゲ狩だ!」

 知ってる単語が果物しかない。
 食べ物が無いとわかった途端、俺もメルザもお腹がぎゅるぎゅる鳴りだした。

 メルザの家? から初めて出る。
 
 俺はずっと見えていなくて気付かなかったが、周りには幾つかの穴があり
家などは一つもなかった。
 メルザはこの辺りでずっと一人で暮らしていたのだろうか? 

 時折強い風が吹き荒れ冷たく感じた。
 道はあるようで俺はメルザの後ろをついていく。

 メルザは小柄なので速度はゆっくりだ。

「近くに食べ物が取れる場所があるのか? 森なんて見当たらないが」
「あるぞ。といっても潜るんだけどな。あっちの湖」

 湖を潜って森? どういう事だろう。
 よくわからない事だらけだ。

 この世界には俺の常識は通用しないらしい。

 少し歩くと大きな池? 湖? があった。

「お前泳げるか? どっちみち迷うといけねーから俺が引っ張っていくけどよ」
「泳いだことは一度もない。そうしてもらえると助かる」

 メルザは俺の手首のとこをわしっと掴み、俺たちは湖に飛び込んでいった。

 メルザの足はとんでもない速さでバタバタしている。これが泳ぐ……か。初めて見た。

 三十秒ほどするとメルザが俺の方を見て上を指す。もう着いたのか? 
 
 息はもうそんなに持たない。

 水面から浮かび上がると、先ほどとは全く違う景色が広がっている。
 後ろを振り返っても元の景色は見えない。
 
 どうなっているんだろう?

「なんで湖に飛び込んで泳ぐと違う景色にでるんだ?」
「あそこは俺様の領域だからな。こっちとは領域が違うんだよ。
俺様が許可した奴しか入れねーんだ。ルインを拾った場所はもっと先だ」

 だから家とか何もなかったのか。
 領域というのはよくわからないが、自分専用の部屋みたいなものだろうか。
 この世界はまだ知らない事に溢れている。改めてそう感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

処理中です...