上 下
35 / 57
アルベルト・バーンシュタインその5:アルベルト、7号を手に入れる

やばい奴

しおりを挟む
 街にあった酒場に入って適当に食い物と酒を注文。テーブルがいい感じに埋まっている。

「ほ、本当にもらっちゃっていいんですか?」
「だからいいって言ってんだろ、しつこいガキだな」

 酒を煽る俺に坊主が遠慮がちに聞いてくる。ガキの割には図々しさが足りてねえな。
 名前が分からないと何か不便だな、聞いとくか。

「おい、ガキンチョ。名前はなんていうんだ?」
「えっと、ユラっていいます」
「ふぅん。俺ぁアルベルト・バーンシュタイン」
「よろしくお願いします、アルベルトさん」

 馬鹿丁寧にユラが頭を下げてくる。さん付けは何だかくすぐったいが、まぁいいか。

「今日は生き残ったお祝いだからな、好きに食えよ」
「あ、ありがとうございます」

 それから俺は気分の赴くままに酒を飲んだり飯を食ったりした。
 金は持ってねえが、別に今日ぐらいいいだろ!

「ところでアルベルトさん。どうしてあんな大怪我してたんですか?」
「ん? ん~……?」

 酒が回りきったあたりでユラが聞いてきた。酔った頭だと記憶を引っ張り出すのも手間取る。

「あれはな、えーっと……」

 俺は事の詳細をたっぷりと説明してやった。べらべらと喋るのはマズい内容だったが、酔っているのでよく分からない。
 話し終えると、ユラはドン引きしていた。

「……完全に自業自得じゃないですか」
「だろ? 凄い力持ってるからって調子に乗るから死ぬんだよなぁ」
「その人たちじゃなくってアルベルトさんのことですよ!」

 何だか真っ当なことを言ってきやがる。無視。

「それじゃ、いつか本当に死んじゃいますよ……?」
「別にいいんじゃあねえの? 人間、そのうち死ぬんだからよ」
「むむむ……」

 俺は本気でそう思っていた。どうせ死ぬんなら楽しく生きる。簡単だろ。

「お前も人のことなんかほっとけよ。ガキならガキらしく自分のことだけ考えてりゃいいんだ」
「僕は子供じゃないですよ!」
「何言ってやがんだか」

 その後、どうでもいいことを喋りながら俺は食事を続けた。途中で「飲み過ぎです!」とか言ってユラが邪魔してきたがそれも無視した。
 で、本当にちょっと飲み過ぎた。

「うーん」

 視界が揺れていやがる。いつにも増して何かいい気分だぜ。

「あーもう。だからダメって言ったのに……ほら、もう帰りましょうよ」
「うるせえなあ~」

 呂律も回らない。帰らせようとユラが袖を引っ張ってくる。

「お会計しますよ……って、アルベルトさんお金は?」
「かねぇ? そんなもんあるわきゃねえだろ~が~」
「ないのにこんなに頼んだんですか!?」

 ユラはぎょっと驚いた顔となる。
 金なんざ払わなくてもいくらでも踏み倒せる俺からすれば驚くようなことじゃない。1号あたりでちょちょいのちょいよ。
 ただ今は何だか無性に動きたくない気分なのでこうしてるだけだ。酒が回ってるからしょうがない。

「もう……しょうがないですね……」

 そう言ってユラは店員のところへと行き、ポケットから金を取り出して支払いをする。
 何だあいつ意外と金持ちだな。しかも支払ってくれるとか便利すぎだろ。よく分からねえ治癒能力も持ってるし、お人好しの気配もする。確保しておけばかなり役に立ちそうだ。眠い。
 急に眠気がきた。机に突っ伏す。

「あ、アルベルトさん、こんなところで寝ないでくださいよ!」
「うるせ~」
「アルベルトさんってば!」

 寝ようとしたが邪魔してくる。
 結局、俺はユラに引っ張られながら店を出るはめになった。



 宿屋に帰るために夜の街を歩く。
 通行人と肩がぶつかった。いてえ。若い姉ちゃんを俺は睨みつける。

「おいこらいてえじゃねえか」
「わー、アルベルトさん絡まないでください!」

 姉ちゃんに向かおうとする俺をユラが止めてきやがる。邪魔くせえ。その間に姉ちゃんは逃げちまった。

「お前が邪魔すっから逃げられただろぉがぁ」
「ダメですよ、そのへんの人に絡んじゃ! それに今のはアルベルトさんがぶつかったんですからね!」

 文句を言われながら路地裏へと入る。人混みを避けるためと近道のためだ。
 薄暗いし若干臭えが酔っ払ってる俺にとっちゃどっちもどうでもいい。そのへんにいい女でもいりゃ、ついでに襲うんだがな。

「ほら、ちゃんと歩いてください」

 いつの間にかユラが俺の手を握って先導していた。
 曲がり角を曲がったところで、向かう先に男が立っていた。真っ白なコートに真っ白な帽子っつう暗くても何だか見やすい格好の、俺と同年代ぐらいの黒髪の男だ。見た目はスカした感じでいかにも俺が嫌うタイプ。
 俺はその格好と顔にどうも見覚えがあるような気がした。どこで見たっけな。殺した誰かと似てるのか?

「どうしたんですか、立ち止まって?」

 足を止めた俺にユラが首を傾げる。
 男なんてどうでもいいはずなんだが、どうにもあいつのことは思い出さないとマズいような気がしていた。酔った頭が少しずつ冷えていく。
 男は写真を片手にホームレスのおっさんと何か喋っていた。こういうことする奴はまともじゃないと相場は決まっている。
 路地の隅にネズミの死体が転がっていた。無性にそれが引っかかる。
 やばい仕事……死体……死肉喰い……。

「……あ」

 俺は男が誰なのかを思い出した。全身から一気に冷や汗が出てきて酔いが完全に冷めた。あいつはバルチャーだ!
 そこら中で要人暗殺や施設破壊みたいなでかい犯罪を金で請け負ってる掛け値無しのマジの悪党だ。俺みたいな小悪党というかチンピラとは訳が違う。あちこちで指名手配されてる本物だ。
 何だってあんな化け物がこんな何にもない田舎に来てやがるんだ? 壊すものなんかないはずだぞ。

 写真を持ってるってことは誰か探しに来たってことか……もしかして、俺か?
 指名手配されていると言えば俺も一部ではされている。その仕事を請け負ってやってきたのかもしれねえ。
 だとしたらやばいぞ。今まで凄い能力を持った自称異世界人や勲章を授与されてるような騎士どもを相手取っていくらでも生き残ってきたが、バルチャーみてえなのは絶対に無理だ、死ぬ。
 ああいうおちょくれねえ奴は相性が悪すぎる。

「ねぇ、アルベルトさんってば……わっ!」

 俺はユラを抱えてその場から全力疾走。とにかく一目散に逃げ出した。
 路地を走って走って走って、そして止まる。後ろを振り返って奴が追ってきてないことを念入りに確認。どうやら大丈夫らしい。

「ど、どうしたんですか、急に走ったりして!」

 抱えられているユラは俺の服をぎゅっと握っていた。赤ん坊かよ。って、そんなことはどうでもいい。

「やべえ奴がいたんだよ。それもかなりやばい奴だ!」
「……語彙力ないですね、アルベルトさんって」

 死ぬほどどうでもいいことを言ってきやがる。だが、とりあえず振り切ったようなので安心してもいいだろう。

「そうですね。私もその説明は表現力不足だと思います」

 俺は思わず固まる。


 ──真後ろから、男の声がしやがった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ
恋愛
「それでは魔王様、勇者が攻めて来ますので我が軍を率いて何とかして下さい」「……え?」 気づけばそこは暗黒城の玉座で、目の前には金髪碧眼のイケメンが跪いている。 私が魔王の生まれ変わり?何かの間違いです勘弁して下さい。なんだか無駄に美形な人外達に囲まれるけど逆ハーとか求めてないんで家に帰して! これは、渋々ながらもリーダーを務めることになった平凡OLが(主においしいゴハンを食べる為に)先代魔王の知識やら土魔法やらを駆使して、争いのない『優しい国』を目指して建国していく物語。 ◆他サイトにも投稿

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...