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アルベルト・バーンシュタインその3:アルベルトと百合の騎士

俺は別に捕まったわけじゃない

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 よう、俺だ。下衆だ。違う、アルベルトだ。
 俺は今ちょっと変わったところにいる。石床に直に座っているせいでケツがつめてえ。
 周りは何やら同じ石の壁に囲まれている。部屋は長方形って感じだ。

「──大体ですね、あなたのようなそういう汚らしい格好をしているのは信じがたいことなのです。知性のある人間なのであれば相応の振る舞いというものがあるでしょう。もっとも獣のような頭脳しか持ち得ないあなたには理解できないことかもしれませんが、しかし──」

 俺の目の前には鉄の棒が横や縦に並んだものがある。鉄格子ってものに似てるような似てないような気がする。

「──つまり今のあなたは人間とは呼べず、薄汚い獣と呼ぶ他ないわけです。だからこそあのような外道な行いができるのでしょう。是非ともここで反省をした上で、しっかりと謝罪をして──」

 その鉄格子に似た何かの向こうで女がさっきから喋っている。かれこれ一時間ぐらい俺に説教していやがる。
 それはさておき、一体ここはどこだろうって思うだろう。俺も思う。ここはどこだ?

「いや、牢屋じゃろ」

 俺の肩に乗った獣の口みたいな小さな生き物、通称2号が女の声で言ってきた。
 牢屋ってあれだろ。犯罪者を捕まえたあと、閉じ込めるためのあれだろ。つまり捕まった奴が入る場所だ。ここに入ってるってことは捕まったってことだ。そんな間抜けなことを、この俺がすると思うか?

「現実を見なさいよ」

 俺の頭の上にいる小さな触手みたいな生き物、通称1号がやはり女の声(こっちの方がちょっと色っぽい)で言ってきた。
 いや、俺は現実を見てる。現実を見た上で、ここは牢屋に似ていることを認めつつも、牢屋とは違うのではないかと言っている。

「いや、だから牢屋じゃろ」「牢屋よ」
「あなた、私の話をちゃんと聞いているのですか!?」
「うるせぇええええええええええっ!!」

 思わず俺は叫んじまった。どいつもこいつもうるせえ。俺は捕まってない。
 いきなり怒鳴ったせいで牢屋の外にいる女が驚いた顔になり、すぐに怒りが露わとなる。

「うるさいとは何事ですか、まだ反省していないようですね! これはさらに説教する必要が──」

 また説教を再開しやがった。
 俺はそれを聞き流しながら女の姿を見る。中々の美人だ。白銀色の長い髪は滑らかそうだし輝いていて綺麗。気の強そうなつり目も喘ぐときにはいい表情をしそうでそそる。胸の下で両腕を組んでるが、それは胸がでかいからだ。特注品だろう鎧は胸の部分がかなり丸みを帯びている。今すぐひっぺがして吸い付きたくなる。
 それでいて鍛えてるせいで腰はきゅっと締まってるし、ちらっと見た尻もいい感じだった。いい身体の女だ。顔も悪くない。

 ……あー、分かった分かった。俺が何で牢屋に放り込まれて、そんな美人に襲いかからず説教食らってるか、だよな。話せばいいんだろ、話せば。
 なぁに、そんなに時間はかからねえよ。

 そうだな、あれはまず、昨日のことだ──。
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