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アルベルト・バーンシュタインその2:アルベルト、異世界転移した人間と出会う
第6話 おばあちゃんの幻聴が聞こえるんだが
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俺の目の前でクソガキが剣を振り上げて、今にも俺の身体を真っ二つにしようとしている。
冗談じゃなく、こいつの膂力なら俺の身体を右と左に分けやがるだろう。1号の触手をぶった斬ったこいつの力なら。本来なら1号の触手は人間じゃ斬れないぐらい頑丈だからだ。
って、呑気に解説している場合じゃねえ。
「死ねっ!!」
「うぉおおおっ!!」
キョウスケの物騒な掛け声に対して恐怖のあまり俺は絶叫する。
だが、あいつの剣は俺には届かなかった。数分前までリズを貪りキョウスケにぶっ飛ばされた男どもが飛び出して盾となった。
折り重なった男どもに剣が食い込む。キョウスケの前に立つ巨漢の肩から胸まで刃が斬り裂き、その後ろに立つ長身の男の胸から腹までを貫いたところで凶刃が止まった。
「なっ……!?」
キョウスケの表情が驚愕に染まる。その隙に俺は飛び退いて距離を取る。
恐らくは二人の身体を完全に両断もできたんだろうが、無実の人間を殺すつもりはないために途中で止めたんだろう。俺の予想どおりだ、甘ちゃんめ。
俺の背後で青い粒子状の魔力が寄り集まり、根となり茎を形作り花弁を咲かせる。現れたのは赤紫の巨大な被子植物。花だ。
……いや、そりゃ花なんだが花ってのは名前だ。1号、2号、その次が花だ。3号じゃなくて花だ。
花の無数の根が床の上に伸ばされ、俺の前で盾となった巨漢と長身の男の身体に入り込んでいた。こいつは根を体内に侵入させることで肉体を操作できる。4号のような催眠じゃなく、物理的な操作だ。
とにかくこれで俺は一命をとりとめた。あとは──。
「ぅ、あ……あぁ……!」
キョウスケが顔面蒼白となっていた。剣を引き抜き崩れ落ちる二つの死体を見て、信じられないものを見る目となる。
返り血を浴びた自分の手を見つめた瞬間、何かを堪えた表情をする。
「人を殺すのは初めてかよ、坊ちゃん」
俺はほくそ笑んで言ってやる。返事はなかった。する余裕がないんだろう。
「こ、こんなの酷すぎますっ!!」
代わりにリーシャが叫ぶ。
「酷い? 酷いってのは何だよ。殺したのはそいつだぜ? そいつが酷いってことか?」
「違いますっ! 殺したのはあなたじゃないですか!」
「ははっ。そのガキは俺を殺そうとしたんだ。自分の身を守って何が悪いっていうんだ?」
リーシャが絶句していた。手応えがなくてつまらねえが、俺みたいな本物のクソ野郎と遭遇したことがないんだろうな。
「キョウスケ、しっかりして! こいつをここで倒さないと大変なことになっちゃう!」
素っ裸な上、まだ全身が汚れたままのリズがそれでもキョウスケに語りかける。健気なこった。
その一言で、どういう理屈か俺にはさっぱり分からねえが、何故だかキョウスケの奴は戦意を取り戻した。
いやいや。人殺したって事実に何ら変わりはねえのに、女にちょっと言われただけで気にならなくなるのかよ。怖いな。
「お前だけは、絶対に許さない」
再びキョウスケが俺に切っ先を向けてきた。
意味は分からねえが、しかしまだへこたれてもらっちゃ困る。俺の復讐はまだ終わってねえんだからな。
といってもこいつと真正面から戦うのは勘弁してほしい。4号の催眠が効かなくなるっていう理由で女どもがキョウスケとお手々繋いでるから実質、重りが二つついている状態だとしてもだ。
「行くよ、二人とも」
「うん!」
「はい!」
ご丁寧に攻撃の合図をしてくれたので、俺は身構える。
「でやぁああっ!!」
キョウスケが剣を掲げて真っ直ぐに振り下ろしてくる。予想していた俺は身体を半身にして躱した……と思ったが、剣が床に激突しただけで衝撃波のようなものが全身を叩いてきた。
「ぐぉわぁっ!?」
その一発で俺の身体が宙を飛び壁に叩きつけられる。背中を強打。さらに落下して床にケツをぶつける。痛い。
痛みを堪えて立ち上がると、すでにキョウスケが眼前に迫っていた。水平に迫る剣を屈んで躱し、続く蹴りを横に身を投げ出して回避。壁が蹴り抜かれて破片が飛び散り、それがケツに刺さる。痛すぎる!
や、やばい。殺される。調子に乗ってる場合じゃねえ。一発でも当たったら去年の暮れに死んだあの世のおばあちゃんと再会しちまう。
四つん這いになったまま俺は床を必死で這い回る。背中に殺気。横っ飛びすると俺がいた場所に剣がぶっ刺さる。何とか躱したと思った次の瞬間、俺の脇腹に蹴りが突き刺さる。
「ごはぁっ!!」
鋭い痛みが走り俺の身体が宙を舞う。数メートルも先にある壁に叩きつけられ、肺の中の空気が全て吐き出される。
間違いなく骨が折れていた。し、死ぬほど痛い。痛みのあまり俺はおばあちゃんの幻聴が聞こえていた。
「こら、アルベルト。またお前は近所の女の子のスカートを捲ったのかいっ!」
「おばあちゃんちがうよ……お隣のミーナちゃんは男みたいだから捲ってもいいんだよ……」
俺はわけの分からないことを言っていた。いや、内容がじゃなく、おばあちゃんに返事するって意味で。
壁に背を預ける俺の前にキョウスケが立つ。絶体絶命の状況だ。
目の前で剣が振り上がる。数秒前と同じ状況になっちまった。
さて。もちろん、俺は無意味に逃げ回っていたわけじゃない。こいつは既に致命的なミスをいくつかやらかしている。この手の戦い慣れてない奴がよく犯すミスだ。
一つ目は俺と召喚物が別々だということ。すなわち、俺を狙っている間、召喚物は自由だ。
二つ目はその中でも花を放置したということ。触手で攻防を担当する1号や、獣と似た姿の2号と違って、花は戦闘能力は低いが色々とできる。
そして三つ目は──俺が女を殺さないと思っていることだ。
「……え?」
冗談じゃなく、こいつの膂力なら俺の身体を右と左に分けやがるだろう。1号の触手をぶった斬ったこいつの力なら。本来なら1号の触手は人間じゃ斬れないぐらい頑丈だからだ。
って、呑気に解説している場合じゃねえ。
「死ねっ!!」
「うぉおおおっ!!」
キョウスケの物騒な掛け声に対して恐怖のあまり俺は絶叫する。
だが、あいつの剣は俺には届かなかった。数分前までリズを貪りキョウスケにぶっ飛ばされた男どもが飛び出して盾となった。
折り重なった男どもに剣が食い込む。キョウスケの前に立つ巨漢の肩から胸まで刃が斬り裂き、その後ろに立つ長身の男の胸から腹までを貫いたところで凶刃が止まった。
「なっ……!?」
キョウスケの表情が驚愕に染まる。その隙に俺は飛び退いて距離を取る。
恐らくは二人の身体を完全に両断もできたんだろうが、無実の人間を殺すつもりはないために途中で止めたんだろう。俺の予想どおりだ、甘ちゃんめ。
俺の背後で青い粒子状の魔力が寄り集まり、根となり茎を形作り花弁を咲かせる。現れたのは赤紫の巨大な被子植物。花だ。
……いや、そりゃ花なんだが花ってのは名前だ。1号、2号、その次が花だ。3号じゃなくて花だ。
花の無数の根が床の上に伸ばされ、俺の前で盾となった巨漢と長身の男の身体に入り込んでいた。こいつは根を体内に侵入させることで肉体を操作できる。4号のような催眠じゃなく、物理的な操作だ。
とにかくこれで俺は一命をとりとめた。あとは──。
「ぅ、あ……あぁ……!」
キョウスケが顔面蒼白となっていた。剣を引き抜き崩れ落ちる二つの死体を見て、信じられないものを見る目となる。
返り血を浴びた自分の手を見つめた瞬間、何かを堪えた表情をする。
「人を殺すのは初めてかよ、坊ちゃん」
俺はほくそ笑んで言ってやる。返事はなかった。する余裕がないんだろう。
「こ、こんなの酷すぎますっ!!」
代わりにリーシャが叫ぶ。
「酷い? 酷いってのは何だよ。殺したのはそいつだぜ? そいつが酷いってことか?」
「違いますっ! 殺したのはあなたじゃないですか!」
「ははっ。そのガキは俺を殺そうとしたんだ。自分の身を守って何が悪いっていうんだ?」
リーシャが絶句していた。手応えがなくてつまらねえが、俺みたいな本物のクソ野郎と遭遇したことがないんだろうな。
「キョウスケ、しっかりして! こいつをここで倒さないと大変なことになっちゃう!」
素っ裸な上、まだ全身が汚れたままのリズがそれでもキョウスケに語りかける。健気なこった。
その一言で、どういう理屈か俺にはさっぱり分からねえが、何故だかキョウスケの奴は戦意を取り戻した。
いやいや。人殺したって事実に何ら変わりはねえのに、女にちょっと言われただけで気にならなくなるのかよ。怖いな。
「お前だけは、絶対に許さない」
再びキョウスケが俺に切っ先を向けてきた。
意味は分からねえが、しかしまだへこたれてもらっちゃ困る。俺の復讐はまだ終わってねえんだからな。
といってもこいつと真正面から戦うのは勘弁してほしい。4号の催眠が効かなくなるっていう理由で女どもがキョウスケとお手々繋いでるから実質、重りが二つついている状態だとしてもだ。
「行くよ、二人とも」
「うん!」
「はい!」
ご丁寧に攻撃の合図をしてくれたので、俺は身構える。
「でやぁああっ!!」
キョウスケが剣を掲げて真っ直ぐに振り下ろしてくる。予想していた俺は身体を半身にして躱した……と思ったが、剣が床に激突しただけで衝撃波のようなものが全身を叩いてきた。
「ぐぉわぁっ!?」
その一発で俺の身体が宙を飛び壁に叩きつけられる。背中を強打。さらに落下して床にケツをぶつける。痛い。
痛みを堪えて立ち上がると、すでにキョウスケが眼前に迫っていた。水平に迫る剣を屈んで躱し、続く蹴りを横に身を投げ出して回避。壁が蹴り抜かれて破片が飛び散り、それがケツに刺さる。痛すぎる!
や、やばい。殺される。調子に乗ってる場合じゃねえ。一発でも当たったら去年の暮れに死んだあの世のおばあちゃんと再会しちまう。
四つん這いになったまま俺は床を必死で這い回る。背中に殺気。横っ飛びすると俺がいた場所に剣がぶっ刺さる。何とか躱したと思った次の瞬間、俺の脇腹に蹴りが突き刺さる。
「ごはぁっ!!」
鋭い痛みが走り俺の身体が宙を舞う。数メートルも先にある壁に叩きつけられ、肺の中の空気が全て吐き出される。
間違いなく骨が折れていた。し、死ぬほど痛い。痛みのあまり俺はおばあちゃんの幻聴が聞こえていた。
「こら、アルベルト。またお前は近所の女の子のスカートを捲ったのかいっ!」
「おばあちゃんちがうよ……お隣のミーナちゃんは男みたいだから捲ってもいいんだよ……」
俺はわけの分からないことを言っていた。いや、内容がじゃなく、おばあちゃんに返事するって意味で。
壁に背を預ける俺の前にキョウスケが立つ。絶体絶命の状況だ。
目の前で剣が振り上がる。数秒前と同じ状況になっちまった。
さて。もちろん、俺は無意味に逃げ回っていたわけじゃない。こいつは既に致命的なミスをいくつかやらかしている。この手の戦い慣れてない奴がよく犯すミスだ。
一つ目は俺と召喚物が別々だということ。すなわち、俺を狙っている間、召喚物は自由だ。
二つ目はその中でも花を放置したということ。触手で攻防を担当する1号や、獣と似た姿の2号と違って、花は戦闘能力は低いが色々とできる。
そして三つ目は──俺が女を殺さないと思っていることだ。
「……え?」
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