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アルベルト・バーンシュタインその2:アルベルト、異世界転移した人間と出会う

第5話 メインディッシュ

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 で、だ。
 俺の仕返しは姉を食ったぐらいじゃ収まらねえ。俺の股間だって収まらねえ。
 あの気弱で胸のでかい妹も食わねえと無礼ってもんだし、あのクソガキにも世の中の厳しさをお勉強してもらわないといけねえ。
 そういうわけだから、ガキどものところには置き手紙を残しておいた。文はこうだ。『お前らの姉ちゃんは頂いた。俺と一緒に町外れの廃墟で楽しくやってる』

 これであいつらが来たって俺が呼んだことにはならねえから約束も破ってないってわけだ。頭いいだろ。

「どこがよ」
「そういうのは屁理屈って言うんじゃぞ」

 1号と2号も俺の頭の良さを褒めていやがる。

「褒めてないわよ」
「頭の悪さなら褒めておるかもしれんな」
「マスターはちょっと耳と頭が悪いですからねぇ」
「うるせえ!!」

 思わず怒鳴っちまった。こいつらは俺を馬鹿にすることについて手を抜かねえ。もうちょっと主人に敬意を持ってほしいもんだ。

 さて。リズはどうなったか見てみるか。そう思って俺はの方を見る。
 家屋がなぎ倒された部屋の隅に男が群がってる。その群れの隙間から女の肢体が見える。太った男にのしかかられている最中だ。
 その男が身体を震わせると、それに合わせて女の脚と手が痙攣したようにびくつく。男は「ごめんよ、ごめんよ」とうわ言のように呟いている。

 何してるかって? 街の野郎どもにおすそ分けさ。
 こいつらはどうにも欲望に素直でなかったもんで、4号に身体を操作させてる。精神操作で身体を無理やり動かしてるが、あいつら自身の意識はちゃんとある。
 おかげであいつらは自分の意思じゃないって言い訳しながら、若い女の身体を楽しめるってわけよ。
 な? 俺って優しいだろ?

「どこがよ」「こういうのを下衆って言うんじゃろ?」「私たちには何もないんですか?」「あー忙しい忙しい……」「暇だ」「zzZ」

 うるせえ。

「たまには黙って頷いたらどうだお前らは」
「頷くって何よ」「頭をこう、下げることじゃ」「頭ないんだけど」「花弁でもいいですか?」「忙しい忙しい」「俺様も頭部ってものはないな」「zzZ」「作れば良いのではないか?」「触手下げたらダメ?」「霧を固めて頭部って言えるのか?」「忙しい」「zzZ」
「うるせぇええええっ!!」

 こいつらは油断するとくっちゃべりやがる。俺の堪忍袋の尾も限界だ。

 男どもが何周か終わって体力が尽きたらしく、4号が引き離させる。リズのやつは……あー……液体の海に沈んでるって感じだな。目が死んでるのが俺にも分かるっつうか、意識あんのかね、これ。

「おい、あれ起きてるのか?」
「うむ。寝かせるなと言ったのはマスターではないか」

 4号が少年のような声で伝えてくる。そういえばそうだった。
 もう一度リズの姿を見ると、ちょっとばかりやる気が出てきたので水で洗い流してやることにする。そう思って立ち上がったとき、扉が勢いよく破壊された。

「リズ、無事か!?」
「お姉ちゃん!!」

 お客さんがいらっしゃったようだ。キョウスケとかいうクソガキとリズの妹のリーシャが血相変えてやってきた。
 二人は揃って床に転がされているリズを見て血の気が引いた顔となる。リーシャが口に手を当てて目を見開き、キョウスケの奴は信じられないものを見る目となっていた。

「……リー……シャ?」

 リズが二人に気がつく。瞳に生気が戻るが、それと同時に怯えるような表情を浮かべる。

「い、いやっ! 二人とも見ないで!!」

 身体を引きずり、寝たままうずくまって全身を隠そうとしていた。
 まぁ、そうするよな。今までの女どももヤられた後を見られそうになると大抵、こうしてたしな。
 自称異世界転移の勇者サマがブチギレた様子で俺を睨んできた。よし、準備は整った。


 ──ここからが、だ。


「貴様ぁああああっ!!」

 怒号をあげながらキョウスケが一歩を踏み出す。普通、貴様とか使わねえだろ。
 その前に街の住民たちが立ちはだかる。何人かが裸で不格好だが仕方ねえ。

「退けぇっ!!」
「待て、待ってくれ! 俺たちは操られているだけなんだ!!」

 キョウスケが剣を振り上げると斬られそうになった男が大声で叫ぶ。その男は涙を流していた。何でかは知らねえが。

「う、ぐ……そう、なのか……」
「あの女の子に酷いことがしたかったわけじゃないんだ。でも、身体が言うことを聞かないんだよ!!」

 言葉とは裏腹に男はクソガキを捕まえようと迫り、キョウスケが飛び退いて躱す。
 どうでもいいが、下半身丸出しだと何か光景が微妙だな。服ぐらい着せておくべきだったか。

「このっ……お前、何でこんな酷いことができるんだよっ!!」

 住民たちに罪がないと分かって、改めて勇者サマが俺に文句を垂れてくる。

「は? 別に酷くねえだろ。リズは下半身の穴を俺たちに提供して身体が慣れてハッピー。俺たちはいい気持ちになれてハッピー。何か問題か?」

 笑いながら俺は続けて言ってやる。

「大体な、処女は痛いって言ってめんどくせえんだぞ。お前がヤるときは処女じゃねえからいい声で鳴いてくれるだろうよ。だから、お前も得してんだよ」
「この人でなしめっ!!」

 うーん、男に言われても嬉しくねえな。

 キョウスケは何とか住民たちの包囲をくぐり抜けようとするが、隙間が見つからない。そうしている間にも少しずつ野郎どもが迫っていき、二人が壁際に追い詰められていく。

 一応は無実ってことになってる住民たちをキョウスケの奴は斬れないでいる。そうだろうと思ったからこそ、俺はこいつらを連れてきた。こういういい子ちゃんぶってる奴には肉の壁が最も効果的だ。

「うぅっ! ど、どうしましょう……!」
「……こうなったら」

 何かを思いついた様子のキョウスケが一歩踏み込んで、拳を最前列の男に叩き込む。

「ごほぁっ!?」

 男が後ろの別の男に激突して、さらに吹き飛び背後にあった壁に衝突。うげぇ、骨ぐらいはいってるな、あれ。
 どうやら、死ななければいい、ぐらいの考えになったらしい。俺が思ってるよりはいい子ちゃんじゃないが、確かに正解だろう。

「ごめんよっ!」

 謝りながらキョウスケが拳や蹴りを叩き入れ、男どもの群れを削り取っていく。裸の巨漢が宙を舞って床に衝突、床材を突き抜ける。細身の男が朽ち果てた棚に突っ込み、力なく垂れ下がる。筋肉質の男が俺の横を通過して、隣の部屋まで吹っ飛ばされる。
 打撃と激突音が連続して響き、十人で構成された肉の壁はその全てが散り散りとなっていた。

 それなりの運動だったはずだが、キョウスケに息切れする様子はない。異世界転移とやらが事実かはさておいて、こいつが強靭的な身体能力を持つことだけはやはり本当らしい。
 当人としちゃ加減したつもりなんだろうが、何人かは本当に死んだぞ、これ。

「さぁ次はお前だ。覚悟はできてるんだろうな」

 頑張って怖い声を出そうとしてるが、そもそもがガキの声だから大して怖くないな。
 俺は椅子に座ったまま考える、振りをする。

「おっかねえなぁ。覚悟する時間がほしいし、とりあえずお嬢ちゃんを介抱してやったらどうだい」
「断る。それはリーシャちゃんの仕事だ。お前にやる時間なんてない」

 律儀にキョウスケは俺に答える。だからダメなんだよ。時間が稼げちまう。
 横目でリズに駆け寄るリーシャを確認する。ちょっと遠いが、まぁいいだろう。
 突然だが、この廃墟には光源がある。俺たちのいる部屋の天井は崩落していて、上階の天井にあるが部屋を照らしている。

「悪いが、お前は生かしてはおかない」
「やれ」

 俺は言う。ただし、クソガキに向かってじゃない。
 キョウスケが剣を振りかぶり、斬りかかろうとした瞬間。俺と奴の間に割って入る人間がいた。リズとリーシャだ。
 二人は揃って両腕を広げて俺を守る。リズに至っては裸な上、全身が汚れているっていうのにその体勢だ。俺の位置からも丸みを帯びた尻が見えている。

「なっ!?」
「なに、これっ」
「動けないっ……!」

 三人がそれぞれ驚いた声をあげていた。
 俺は目だけ動かして天井の光源を確認する。部屋を照らすにはあまりにも巨大な光球がそこにはあった。
 そう、4号だ。奴の光の下にいる限り、俺はいつでもこいつらを操れる。廃墟の中なのに明るいってことに気がつかないからこうなるんだ。
 もちろん、キョウスケを操ってもいい。だが、それじゃ興醒めだろ?
 こいつには自分自身を裏切る形で代償を支払ってもらう。

「なぁマスター」
「何だよ。今いいところなんだから黙ってろ」

 4号が水を差してきやがる。ここからが本番だから無視。

 目の前にいきなり守らなきゃならない女どもが立ちはだかり、キョウスケの奴は完全に動きが止まっていた。

「ひ、卑怯だぞっ……!」

 卑怯。確かにそのとおりだが俺はちょっとだけ、ほんの少しだけ、僅かにイラっとした。
 ちょっとぐらいは怒鳴ってやってもいいかなという気になったので、落ち着いて言葉を探す。

「てめえなんぞに言われたくねえわ!! こっちの世界に来ただけで凄い力を持ってて女にモテるお前に、卑怯なんて言われたくないわ!! バーカ、バーカ!!」

 何か思ったよりも罵声を浴びせちまった。ストレス溜まってたのかもしれねえ。

「ヤキモチでしょ」
「嫉妬は醜いのう」
「なぁマスター」

 余計なことを言ってくる1号、2号、4号を俺は完全に無視。
 何言ってんだこいつ、みたいな顔をクソガキがしてくる。余計にむかつくが、これから痛い目を見てもらうのでぐっと我慢。俺は大人だから我慢ができるんだ。

 とにかくここからが本番だ。4号に女どもをクソガキにけしかけるように命じる。ところが、4号が動かしやがらない。

「いや、だからなマスター」
「何もごもごしてんだとっととやれっ!!」

 思わず俺は怒鳴りつける。4号は溜息(4号がこっちの世界に来てから覚えた表現だ)をつくと、俺の指示どおりに女を動かす。そうだよ、それでいいんだよ。
 液体でべとべとになった裸身のリズと、リーシャがキョウスケに飛びかかって抱きつく。後は野郎をひん剥いたりしてそれから……。

 違和感。それ以上、女どもが動かなかった。

「おい、何してんだ」
「だから、さっきからそれを言おうとだな」

 何の話か俺にはさっぱりだ。異次元の生き物ってのは分かんねえな。
 三人が一緒になって立ち上がる。こんなこと命令してねえぞ。

「か、身体が動く!」
「キョウスケさん、大丈夫ですか!?」
「う、うん。何とかね。それよりリズは……」

 リズが驚き、リーシャがキョウスケを案じるように言う。キョウスケがそれに答えて、リズを気遣うように……ってそんなことはどうでもいい。
 身体が動く? からだがうごく……どういう意味だ?

「だから、そこの少年には我輩の催眠は効かぬし、接触すると催眠が解けるとさっきから言おうとしていたのだがな」
「…………………………は?」

 何言ってんだこいつ。解ける? 催眠が? 何で?
 混乱する俺の前でリズとリーシャの二人がキョウスケの左手を握り、キョウスケが右手の剣を俺に向けていた。

 〇.五秒で俺は状況を理解した。

「ってことはこいつらはお手々繋いでたらお前の催眠が効かねえってことかっ!?」
「だからさっきからそう言っているだろう!」

 天井で光ってる4号に向かって俺は大声で怒鳴りつける。すると、「なるほど」なんて声が前から聞こえてきた。しまった!

「じゃあこうしていれば二人とも平気なんだね」
「みたいね。恥ずかしいから、こっちは見ないでよ?」
「キョウスケさんと一緒なら、悪い人相手でも平気です!」

 三人が何か言ってるが俺はそれどころじゃなかった。
 馬鹿げた身体能力を持っているのはいい。催眠が効かないのもまだ許す。だが、他人の催眠まで接触するだけで解除できるってのはどういうことだっ!!

「てめえ、人のこと卑怯なんて言ってる場合かよっ!! どんだけ能力持ってりゃ気が済むんだっ!!」
「お前みたいな悪党を倒せるぐらい持ってれば、気が済むかな」

 むかつくことにちょっと小洒落た返しをしてきやがった。

「じゃあ今度こそ、さよならだ」

 剣が振り上がる。
 クソガキが、俺のことを舐めやがって。

 ──策なら、まだまだあるんだよ。
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