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アルベルト・バーンシュタインその2:アルベルト、異世界転移した人間と出会う
第3話 覗き見
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獲物を奪い返すことを決意した俺はお空の上にいた。
別に怒りのあまり死んだわけじゃねえ。上から追跡することにしただけだ。
胡座をかいて座る俺の真下には銀色の球体。4号だ。実際には胡座をかけるほどでかくない。魔力的な力場を発生させて、その平面の上に座ってる。
空中を4号で漂いながら、地上では2号の子機が飛び回る。匂いは覚えさせたからすぐに見つかるだろう。
「しかしなマスター。一体どうするのだ? 相手は1号の触手を両断できる剣を持っているのだぞ」
4号の少年のような声が聞いてくるので俺は鼻で笑ってやる。
「そんなもん頭の使い方一つよ。ただ強いだけの人間だったらいくらでも倒せる」
俺には絶対の自信があった。
俺自体は別に強くない。酒場の喧嘩でちょっと連勝するぐらいが限界だ。だが俺の持ってる召喚物どもははっきり言って最強だ。
異世界転移だか何だか知らねえが、ちょっと強いぐらいで調子に乗ってるクソガキ一人殺すぐらいわけはない。
世の中と大人の怖さを思い知らせてやる。
「そう言って何度も死にかけていたような気がするのだが」
「うるせえ!」
余計なことを言いやがる4号を足で蹴っ飛ばす。硬質な音が響いて衝撃が返ってくる。いてえ。
「うむ、見つけたぞマスター」
2号が知らせてきた。4号が方向転換してその場所に向かう。
宿屋の真上で停止。どうやら宿で部屋を取っているらしい。上空からじゃ当然見えないが、そこは2号の出番だ。
2号の子機から映像が送られてくる。どういう理屈か未だによく分からねえが便利だ。
音は4号が拾う。これで完璧に盗聴と覗き見が出来るってわけだ。
さて、あの野郎どもは何をしてるのかね。
§§§§
部屋の中には三人の男女がいた。姉妹と少年だ。金色の長髪の少女がベッドに腰掛けており、よく似た見た目で同色のショートヘアの少女が隣に座る。対面のベッドには少年が座っていた。黒色のシャツとストレートパンツに、冒険者が好む頑丈なコートを羽織っている。
「あの、さっきは本当にありがとうございます!」
姉妹の妹──リーシャが自分を助けてくれた少年に向かって礼を言う。気弱そうな雰囲気とは裏腹のはっきりとした言葉に、少年は少々驚きながらも嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「いや、いいんだ。あんな状況じゃ誰だって助けに入るよ」
「えっと、私、リーシャって言います」
「俺は……」
名乗り返そうとした少年が口ごもる。小声で「名乗っていいのかな」と呟く。そのせいでリーシャが首を可愛らしく傾げてしまう。
「俺はキョウスケ。変な名前だと思うけど気にしないで」
「そんな、命の恩人の名前を変だなんて言いませんよ!」
勢いよく迫るリーシャにキョウスケが気圧されて仰け反っていた。はっと我に返ったリーシャが頬を赤らめる。
「す、すいません……」
「いや、いいんだ」
手を振ってキョウスケは気にしていないと伝える。
俯くリーシャだったが、何かを言いたげにもじもじしだす。少しの間そうしてから、キョウスケをじっと見つめ、意を決したように口を開く。
「あ、あの! ……キョウスケさんって、お呼びしてもいいですか?」
勢いが良かったのは最初の一言だけで、残りの部分は消え入るような声だった。
その内容が名前の呼び方だというのだから、キョウスケは何だかくすぐったい気分になってしまった。もちろん、悪い気はしないが。
「もちろんいいよ。俺はリーシャちゃんって呼べばいいかな?」
「は、はい! お好きなようにお呼びください!」
キョウスケの返事にリーシャが顔を赤らめながらもにこりと微笑む。そして「キョウスケさん……」と小声で呟いてさらに顔を綻ばせる。
当人は聞こえてないと思っているようだがキョウスケにはしっかり聞こえていた。自分の顔まで熱くなってきてしまう。
リーシャがキョウスケを見る視線には明らかに熱がこもっていた。
「あー、こほん」
姉のリズがわざとらしく咳払いをする。
「私がいることも思い出してくれてもいいと思うんだけど、二人とも」
「ご、ごめんお姉ちゃん」
「いや、忘れてないよ!」
すっかり二人だけで話が進んでいってることにリズは不満そうだった。妹の態度もそれに拍車をかけていた。
「私の名前はリズ。リーシャの姉よ。さっきはありがとね」
「リーシャちゃんにも言ったけど、気にしなくていいよ」
リズが自己紹介をしている間もリーシャはぼーっとキョウスケを見つめていた。
それに気がついたリズがリーシャの頬をつねる。
「いひゃい! いひゃいよおねえひゃん!」
「この子、どうにも白馬の王子様みたいなのに憧れがあってね~。すっかり君のことをそういう風に見ちゃってるみたい」
「え、そうなの?」
リズにつねられたまま「あう」とリーシャが俯く。しかし目線だけはキョウスケの方を向いていた。
「そりゃあ、あんなびっくりするぐらいの悪い奴に酷い目に遭わされそうなところを、あんな風にさくっと助けられたらね。この子みたいなのはころっといくわけよ」
でも、とリズが付け加えて。
「変なことするのはダメよ! そういうのはちゃんと仲良くしてからにしてね」
「いや、しないよ!」
会ったばかりの女の子に手を出すほどキョウスケは倫理観のない人間ではなかった。もっとも、異世界人ではあるため常識を持っているとは言い難いが。
それでもリーシャに好意を向けられているのは悪い気はしなかった。むしろ、かなり良い気分で嬉しく思っていた。異世界に来たばかりで初めて出来た友人だということを差し引いても、だ。
キョウスケから見てリーシャははっきり言って可愛い。美しく輝く金色の髪に見惚れるような淡い青の瞳。傷一つない肌、守ってあげたくなるような細身の身体。それでいて出るところは出ている。
こんな子に好かれていて嫌な男などいるはずがない、とさえ思う。
なのでリズの忠告はありがたかった。倫理観はあっても、それが働き続けるとは限らない。
「そ。ならいいわ」
「お、お姉ちゃん……」
あれこれ暴露されたリーシャは茹で蛸のように真っ赤になっていた。そうなりつつも、一切否定はしなかった。
そして今度はリズがもじもじしだす。
「それはそうとして……命を助けられたからお礼しないといけないわよね」
「別にいいってば。大したことじゃないし、さ」
「ううん。私たちにとっては大したことよ。だからお礼をしたいの、ね?」
小首を傾げながらリズが言うと、その所作の愛くるしさに「う」とキョウスケは言葉に詰まる。リーシャに負けず劣らずリズも美少女だ。その動作の一つ一つが心を打ってくる。
「だから、えっと……ちょっと、じっとしててね」
そう言ってリズがキョウスケの隣に座る。キョウスケが何かと思っている間に、彼の頬に口付けをする。
「えっ!?」
「あ、お姉ちゃんずるい!」
驚くキョウスケに、姉の抜け駆けに怒ったリーシャも隣に座って頬に口付けをする。
「リ、リーシャちゃんまで……」
「あ、えっと、ごめんなさい……つい」
三人が揃って顔を赤くして俯いていた。
「……これがお礼ってことで、どう?」
「い、一回で足りないなら、もっといっぱいします、よ?」
「じゅ……十分すぎます」
二人の言葉にキョウスケは壊れた人形のように頷く。両隣を可愛い姉妹に挟まれて頬にキスまでもらって、文句などあるはずがなかった。
§§§§
「……は?」
何だこりゃ。どんだけイチャついてんだ、あいつら。
もうこれは殺すしかねえ。完膚なきまでに叩きのめしてぶっ殺すしかねえ。
「すっかりダシに使われちゃったわね、マスター」
1号が残酷な現実を、わざわざ言葉にして突きつけてきやがった。
「……許せねえ。ぜっっっっっっっったいに許せねえ」
「この世界には男の嫉妬は醜い、という言葉があったと思うんじゃが」
「マスターは元々醜いらしいので、あんまり関係ないんじゃないですかぁ?」
2号と花が余計なことを言ってくるが、怒りが爆発してる俺の耳には届いてない。ということにする。
「それで、具体的には?」
「そうだな、まずは──」
4号が聞いてきた。俺は怒りの赴くままに奴らをぶちのめす計画を全員に話してやる。
「相変わらずね、マスターは」「じゃからモテないのでは?」「うふふ、酷いこと考えますねぇ」「今回は出番がありそうだな!」「逆に俺様は退屈だ」「zzZ」
召喚物どもも俺の計画の美しさに驚いて賞賛の言葉を浴びせてきている。なんか一匹寝てるが。
まずは、リズとかいう姉を攫うところからだな。
別に怒りのあまり死んだわけじゃねえ。上から追跡することにしただけだ。
胡座をかいて座る俺の真下には銀色の球体。4号だ。実際には胡座をかけるほどでかくない。魔力的な力場を発生させて、その平面の上に座ってる。
空中を4号で漂いながら、地上では2号の子機が飛び回る。匂いは覚えさせたからすぐに見つかるだろう。
「しかしなマスター。一体どうするのだ? 相手は1号の触手を両断できる剣を持っているのだぞ」
4号の少年のような声が聞いてくるので俺は鼻で笑ってやる。
「そんなもん頭の使い方一つよ。ただ強いだけの人間だったらいくらでも倒せる」
俺には絶対の自信があった。
俺自体は別に強くない。酒場の喧嘩でちょっと連勝するぐらいが限界だ。だが俺の持ってる召喚物どもははっきり言って最強だ。
異世界転移だか何だか知らねえが、ちょっと強いぐらいで調子に乗ってるクソガキ一人殺すぐらいわけはない。
世の中と大人の怖さを思い知らせてやる。
「そう言って何度も死にかけていたような気がするのだが」
「うるせえ!」
余計なことを言いやがる4号を足で蹴っ飛ばす。硬質な音が響いて衝撃が返ってくる。いてえ。
「うむ、見つけたぞマスター」
2号が知らせてきた。4号が方向転換してその場所に向かう。
宿屋の真上で停止。どうやら宿で部屋を取っているらしい。上空からじゃ当然見えないが、そこは2号の出番だ。
2号の子機から映像が送られてくる。どういう理屈か未だによく分からねえが便利だ。
音は4号が拾う。これで完璧に盗聴と覗き見が出来るってわけだ。
さて、あの野郎どもは何をしてるのかね。
§§§§
部屋の中には三人の男女がいた。姉妹と少年だ。金色の長髪の少女がベッドに腰掛けており、よく似た見た目で同色のショートヘアの少女が隣に座る。対面のベッドには少年が座っていた。黒色のシャツとストレートパンツに、冒険者が好む頑丈なコートを羽織っている。
「あの、さっきは本当にありがとうございます!」
姉妹の妹──リーシャが自分を助けてくれた少年に向かって礼を言う。気弱そうな雰囲気とは裏腹のはっきりとした言葉に、少年は少々驚きながらも嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「いや、いいんだ。あんな状況じゃ誰だって助けに入るよ」
「えっと、私、リーシャって言います」
「俺は……」
名乗り返そうとした少年が口ごもる。小声で「名乗っていいのかな」と呟く。そのせいでリーシャが首を可愛らしく傾げてしまう。
「俺はキョウスケ。変な名前だと思うけど気にしないで」
「そんな、命の恩人の名前を変だなんて言いませんよ!」
勢いよく迫るリーシャにキョウスケが気圧されて仰け反っていた。はっと我に返ったリーシャが頬を赤らめる。
「す、すいません……」
「いや、いいんだ」
手を振ってキョウスケは気にしていないと伝える。
俯くリーシャだったが、何かを言いたげにもじもじしだす。少しの間そうしてから、キョウスケをじっと見つめ、意を決したように口を開く。
「あ、あの! ……キョウスケさんって、お呼びしてもいいですか?」
勢いが良かったのは最初の一言だけで、残りの部分は消え入るような声だった。
その内容が名前の呼び方だというのだから、キョウスケは何だかくすぐったい気分になってしまった。もちろん、悪い気はしないが。
「もちろんいいよ。俺はリーシャちゃんって呼べばいいかな?」
「は、はい! お好きなようにお呼びください!」
キョウスケの返事にリーシャが顔を赤らめながらもにこりと微笑む。そして「キョウスケさん……」と小声で呟いてさらに顔を綻ばせる。
当人は聞こえてないと思っているようだがキョウスケにはしっかり聞こえていた。自分の顔まで熱くなってきてしまう。
リーシャがキョウスケを見る視線には明らかに熱がこもっていた。
「あー、こほん」
姉のリズがわざとらしく咳払いをする。
「私がいることも思い出してくれてもいいと思うんだけど、二人とも」
「ご、ごめんお姉ちゃん」
「いや、忘れてないよ!」
すっかり二人だけで話が進んでいってることにリズは不満そうだった。妹の態度もそれに拍車をかけていた。
「私の名前はリズ。リーシャの姉よ。さっきはありがとね」
「リーシャちゃんにも言ったけど、気にしなくていいよ」
リズが自己紹介をしている間もリーシャはぼーっとキョウスケを見つめていた。
それに気がついたリズがリーシャの頬をつねる。
「いひゃい! いひゃいよおねえひゃん!」
「この子、どうにも白馬の王子様みたいなのに憧れがあってね~。すっかり君のことをそういう風に見ちゃってるみたい」
「え、そうなの?」
リズにつねられたまま「あう」とリーシャが俯く。しかし目線だけはキョウスケの方を向いていた。
「そりゃあ、あんなびっくりするぐらいの悪い奴に酷い目に遭わされそうなところを、あんな風にさくっと助けられたらね。この子みたいなのはころっといくわけよ」
でも、とリズが付け加えて。
「変なことするのはダメよ! そういうのはちゃんと仲良くしてからにしてね」
「いや、しないよ!」
会ったばかりの女の子に手を出すほどキョウスケは倫理観のない人間ではなかった。もっとも、異世界人ではあるため常識を持っているとは言い難いが。
それでもリーシャに好意を向けられているのは悪い気はしなかった。むしろ、かなり良い気分で嬉しく思っていた。異世界に来たばかりで初めて出来た友人だということを差し引いても、だ。
キョウスケから見てリーシャははっきり言って可愛い。美しく輝く金色の髪に見惚れるような淡い青の瞳。傷一つない肌、守ってあげたくなるような細身の身体。それでいて出るところは出ている。
こんな子に好かれていて嫌な男などいるはずがない、とさえ思う。
なのでリズの忠告はありがたかった。倫理観はあっても、それが働き続けるとは限らない。
「そ。ならいいわ」
「お、お姉ちゃん……」
あれこれ暴露されたリーシャは茹で蛸のように真っ赤になっていた。そうなりつつも、一切否定はしなかった。
そして今度はリズがもじもじしだす。
「それはそうとして……命を助けられたからお礼しないといけないわよね」
「別にいいってば。大したことじゃないし、さ」
「ううん。私たちにとっては大したことよ。だからお礼をしたいの、ね?」
小首を傾げながらリズが言うと、その所作の愛くるしさに「う」とキョウスケは言葉に詰まる。リーシャに負けず劣らずリズも美少女だ。その動作の一つ一つが心を打ってくる。
「だから、えっと……ちょっと、じっとしててね」
そう言ってリズがキョウスケの隣に座る。キョウスケが何かと思っている間に、彼の頬に口付けをする。
「えっ!?」
「あ、お姉ちゃんずるい!」
驚くキョウスケに、姉の抜け駆けに怒ったリーシャも隣に座って頬に口付けをする。
「リ、リーシャちゃんまで……」
「あ、えっと、ごめんなさい……つい」
三人が揃って顔を赤くして俯いていた。
「……これがお礼ってことで、どう?」
「い、一回で足りないなら、もっといっぱいします、よ?」
「じゅ……十分すぎます」
二人の言葉にキョウスケは壊れた人形のように頷く。両隣を可愛い姉妹に挟まれて頬にキスまでもらって、文句などあるはずがなかった。
§§§§
「……は?」
何だこりゃ。どんだけイチャついてんだ、あいつら。
もうこれは殺すしかねえ。完膚なきまでに叩きのめしてぶっ殺すしかねえ。
「すっかりダシに使われちゃったわね、マスター」
1号が残酷な現実を、わざわざ言葉にして突きつけてきやがった。
「……許せねえ。ぜっっっっっっっったいに許せねえ」
「この世界には男の嫉妬は醜い、という言葉があったと思うんじゃが」
「マスターは元々醜いらしいので、あんまり関係ないんじゃないですかぁ?」
2号と花が余計なことを言ってくるが、怒りが爆発してる俺の耳には届いてない。ということにする。
「それで、具体的には?」
「そうだな、まずは──」
4号が聞いてきた。俺は怒りの赴くままに奴らをぶちのめす計画を全員に話してやる。
「相変わらずね、マスターは」「じゃからモテないのでは?」「うふふ、酷いこと考えますねぇ」「今回は出番がありそうだな!」「逆に俺様は退屈だ」「zzZ」
召喚物どもも俺の計画の美しさに驚いて賞賛の言葉を浴びせてきている。なんか一匹寝てるが。
まずは、リズとかいう姉を攫うところからだな。
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