9 / 57
アルベルト・バーンシュタイン
第8話 脱出と──
しおりを挟む
「ふざけんなぁあああああ!!」
俺の中で理不尽さへの怒りが爆発。魔道書から黒い霧が発生してゴーレムの脚へと向かっていく。
ちょうどまたいでいる最中に脚に到達。霧が接触した箇所から石造りの柱が消失。脚を失い支えのなくなったゴーレムは重力に引かれて落とし穴へと落下──しなかった。
轟音と共に両腕が床と接触。落とし穴に落ちきることなく、ゴーレムは入り口で引っかかったのだった。
俺の作戦は大失敗だったが、ゴーレムが動けなくなったのは事実なので成功だとしておく。
「古代の石の味わいも中々だな」
戻ってきた霧が味の感想を言う。石の味なんてものは全く想像がつかない。
「ところで、ゴーレムの破壊は報酬に関わるのか?」
「当たり前だろ。見つかったら死ぬほど怒られるが、この際どうでもいい」
もはや遺跡探索は失敗と言っていいような状況だったが、どうせバレるまで時間がかかる。報酬もらって逃げれば問題ない、はず。多分。
俺のプランはがたがただった。溜息が出る。
「とっとと帰りてえぜ」
1号が女を床に降ろす。何か言いたげな顔をしていた。
「んだよ」
「……一応、礼を言っとく」
顔を背けながらだったが、女はそう言った。
「礼を言える気分ならよ、お前のこと運んでいいか? その方がお互いのためだろ」
俺の提案に女は黙って首肯。1号の触手が再び女を持ち上げた。やっと機嫌が直ったらしい。
「なんで、あたしのこと置いて逃げなかったんだ?」
俺が歩き始めると女が話しかけてきた。
「協力して脱出するっつっただろ。もう忘れたのか?」
「協力ってのは、お互いを利用するって意味だと思ってたよ」
女の意見は間違ってない。俺は首肯してやる。
「まだ俺は脱出できてない。お前が必要になりそうだからな」
「ふーん。まぁとにかく、助かったよ」
それから俺たちはそれなりに喋りながら遺跡を進んだ。なんでこの遺跡にやってきたのだとか、なんで冒険者みたいなことやってるのかとか、くだらない会話をした。花と4号の探査も完璧じゃないので、それを女の技術がたまに補ってくれた。おかげで、罠はそのほとんどを回避することができた。
「あんた、思ったより役に立つね」
「そりゃあどうも」
しばらく進んでいたら、女がそんなことを言ってきた。
「二人組ってのも悪くないんじゃない?」
「俺は気ままな一人旅が好きなんだよ。お前がいつでもヤらせてくれるんなら考えてやるよ」
俺の軽口に女は口を真っ直ぐに引き結んだ。が、次の瞬間には軽い笑みを浮かべた。
「その下衆な性格がなけりゃ、本当に良かったんだけどね」
「そう褒めるなよ」
「褒めてないよ」
そんな会話を続けているうちに上へと移動する階段をいくつか発見した。二つか三つぐらい登ったところで、見覚えのある通路に出た。いや、嘘だ。俺に見覚えなんかない。
「ここ、多分入り口の階層だ」
「ほんとか?」
女が俺に教えてきた。なので、そうらしい。
そこからは女の道案内に従って通路を進んだ。すると、ものの数分で明かりが差し込む箇所を見つけることができた。
「お、出口だ」
明かりの下へ行って見上げる。俺にも見覚えのある亀裂が入っていた。
「ロープか何かないと、登れないかな」
「任せろ」
1号の触手を亀裂に引っ掛けて、俺と女を持ち上げさせる。同じ要領で亀裂から地面へと降りる。
ついに外に出られた。ちょっとした感動もんだ。
「やっと出られたぜ」
「ほんとだね。苦労したよ」
1号が女を地面に降ろす。明かりが不要になったので、4号を魔道書へと戻した。
空の明るさに軽く目が眩む。手をかざして影を作る。
「あんたのおかげで助かったよ」
「気にすんなって。お礼はもうもらったしな」
女の声が背後からした。振り返らずに俺は返事をする。
次の瞬間に、俺は魔道書を開いて背後に向かって1号を呼び出す。触手が俺に向かってナイフを振りかざす姿勢の女に巻きついて固定した。女の表情には驚愕。
「な、なんで」
「馬鹿が。油断させようと媚を売るのが下手すぎなんだよ」
俺を油断させて殺そうという企みが失敗した女の双眸に憤怒と憎悪が宿る。反比例するように俺はほくそ笑んでいた。
「お前からしても、やっぱり脱出するためには俺が必要だったからな。遺跡の中で殺すわけにはいかなかったんだろ?」
「そうだ。でももう用済みになったから殺してやる!!」
動こうとするが触手が完全に締め上げていて全身が全く動かない。俺は余裕を持って続ける。
「まぁそうだよな。けどよ、逆も考えられるだろ?」
動けない女へと近づいていく。
「俺からしても、お前はもう用済みだ。お前が俺を殺すように、俺もお前を殺してもいい、ってな」
女の顔に理解の色。それと同時に恐怖が怒りと憎悪を上書きして、表情を染め上げていく。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「じゃあな。いい締まりだったから、今度はこっちが締め上げてやるよ」
女の口から苦鳴が漏れる。漆黒の触手が腕を、脚を、首を、腰を、圧倒的な膂力で締め上げていき、骨が軋む音を響かせて全身を圧し潰す。
生物が潰れる粘着質な音と共に血が地面に飛び散った。触手がするすると戻っていき、奇妙な形状になった女が崩れ落ちた。
「いやぁ、我儘な女を殺すのは気分がいいぜ」
「最低ね、マスター」
1号を魔道書へと引き戻して、魔道書をベルトに戻す。
あとは報酬もらって、今日は終わりだな。
俺の中で理不尽さへの怒りが爆発。魔道書から黒い霧が発生してゴーレムの脚へと向かっていく。
ちょうどまたいでいる最中に脚に到達。霧が接触した箇所から石造りの柱が消失。脚を失い支えのなくなったゴーレムは重力に引かれて落とし穴へと落下──しなかった。
轟音と共に両腕が床と接触。落とし穴に落ちきることなく、ゴーレムは入り口で引っかかったのだった。
俺の作戦は大失敗だったが、ゴーレムが動けなくなったのは事実なので成功だとしておく。
「古代の石の味わいも中々だな」
戻ってきた霧が味の感想を言う。石の味なんてものは全く想像がつかない。
「ところで、ゴーレムの破壊は報酬に関わるのか?」
「当たり前だろ。見つかったら死ぬほど怒られるが、この際どうでもいい」
もはや遺跡探索は失敗と言っていいような状況だったが、どうせバレるまで時間がかかる。報酬もらって逃げれば問題ない、はず。多分。
俺のプランはがたがただった。溜息が出る。
「とっとと帰りてえぜ」
1号が女を床に降ろす。何か言いたげな顔をしていた。
「んだよ」
「……一応、礼を言っとく」
顔を背けながらだったが、女はそう言った。
「礼を言える気分ならよ、お前のこと運んでいいか? その方がお互いのためだろ」
俺の提案に女は黙って首肯。1号の触手が再び女を持ち上げた。やっと機嫌が直ったらしい。
「なんで、あたしのこと置いて逃げなかったんだ?」
俺が歩き始めると女が話しかけてきた。
「協力して脱出するっつっただろ。もう忘れたのか?」
「協力ってのは、お互いを利用するって意味だと思ってたよ」
女の意見は間違ってない。俺は首肯してやる。
「まだ俺は脱出できてない。お前が必要になりそうだからな」
「ふーん。まぁとにかく、助かったよ」
それから俺たちはそれなりに喋りながら遺跡を進んだ。なんでこの遺跡にやってきたのだとか、なんで冒険者みたいなことやってるのかとか、くだらない会話をした。花と4号の探査も完璧じゃないので、それを女の技術がたまに補ってくれた。おかげで、罠はそのほとんどを回避することができた。
「あんた、思ったより役に立つね」
「そりゃあどうも」
しばらく進んでいたら、女がそんなことを言ってきた。
「二人組ってのも悪くないんじゃない?」
「俺は気ままな一人旅が好きなんだよ。お前がいつでもヤらせてくれるんなら考えてやるよ」
俺の軽口に女は口を真っ直ぐに引き結んだ。が、次の瞬間には軽い笑みを浮かべた。
「その下衆な性格がなけりゃ、本当に良かったんだけどね」
「そう褒めるなよ」
「褒めてないよ」
そんな会話を続けているうちに上へと移動する階段をいくつか発見した。二つか三つぐらい登ったところで、見覚えのある通路に出た。いや、嘘だ。俺に見覚えなんかない。
「ここ、多分入り口の階層だ」
「ほんとか?」
女が俺に教えてきた。なので、そうらしい。
そこからは女の道案内に従って通路を進んだ。すると、ものの数分で明かりが差し込む箇所を見つけることができた。
「お、出口だ」
明かりの下へ行って見上げる。俺にも見覚えのある亀裂が入っていた。
「ロープか何かないと、登れないかな」
「任せろ」
1号の触手を亀裂に引っ掛けて、俺と女を持ち上げさせる。同じ要領で亀裂から地面へと降りる。
ついに外に出られた。ちょっとした感動もんだ。
「やっと出られたぜ」
「ほんとだね。苦労したよ」
1号が女を地面に降ろす。明かりが不要になったので、4号を魔道書へと戻した。
空の明るさに軽く目が眩む。手をかざして影を作る。
「あんたのおかげで助かったよ」
「気にすんなって。お礼はもうもらったしな」
女の声が背後からした。振り返らずに俺は返事をする。
次の瞬間に、俺は魔道書を開いて背後に向かって1号を呼び出す。触手が俺に向かってナイフを振りかざす姿勢の女に巻きついて固定した。女の表情には驚愕。
「な、なんで」
「馬鹿が。油断させようと媚を売るのが下手すぎなんだよ」
俺を油断させて殺そうという企みが失敗した女の双眸に憤怒と憎悪が宿る。反比例するように俺はほくそ笑んでいた。
「お前からしても、やっぱり脱出するためには俺が必要だったからな。遺跡の中で殺すわけにはいかなかったんだろ?」
「そうだ。でももう用済みになったから殺してやる!!」
動こうとするが触手が完全に締め上げていて全身が全く動かない。俺は余裕を持って続ける。
「まぁそうだよな。けどよ、逆も考えられるだろ?」
動けない女へと近づいていく。
「俺からしても、お前はもう用済みだ。お前が俺を殺すように、俺もお前を殺してもいい、ってな」
女の顔に理解の色。それと同時に恐怖が怒りと憎悪を上書きして、表情を染め上げていく。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「じゃあな。いい締まりだったから、今度はこっちが締め上げてやるよ」
女の口から苦鳴が漏れる。漆黒の触手が腕を、脚を、首を、腰を、圧倒的な膂力で締め上げていき、骨が軋む音を響かせて全身を圧し潰す。
生物が潰れる粘着質な音と共に血が地面に飛び散った。触手がするすると戻っていき、奇妙な形状になった女が崩れ落ちた。
「いやぁ、我儘な女を殺すのは気分がいいぜ」
「最低ね、マスター」
1号を魔道書へと引き戻して、魔道書をベルトに戻す。
あとは報酬もらって、今日は終わりだな。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~
紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ
恋愛
「それでは魔王様、勇者が攻めて来ますので我が軍を率いて何とかして下さい」「……え?」
気づけばそこは暗黒城の玉座で、目の前には金髪碧眼のイケメンが跪いている。
私が魔王の生まれ変わり?何かの間違いです勘弁して下さい。なんだか無駄に美形な人外達に囲まれるけど逆ハーとか求めてないんで家に帰して!
これは、渋々ながらもリーダーを務めることになった平凡OLが(主においしいゴハンを食べる為に)先代魔王の知識やら土魔法やらを駆使して、争いのない『優しい国』を目指して建国していく物語。
◆他サイトにも投稿
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる