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第2章 血霧の彼方
決着
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目が覚めたとき、僕は地面に横たわっていた。
慌てて起き上がる。周囲を見回すけど、あの魔剣士の姿も『魔王』の姿もなかった。
ただ破壊し尽くされた大地が広がるだけだった。抉れた地面に焼き払われた森林。外壁しか残らなかった要塞に、巨大な穴の穿たれた山脈。
僕の後方にも破壊の痕跡は広がっていた。草花が吹き飛ばされて草原は荒野へと姿を変えていた。
妙な違和感がある。自分が倒れていることも不思議だし、生きていることも不思議だ。他にも何かがおかしい。何があったのか思い出せない。
自分の身体を確認するためのあちこち動かしてみる。鋭い痛みが走った。両腕の表面が焼け焦げていた。
痛みの原因はこれか、と納得すると同時に戦慄が走る。こんなことはあり得ないと思うけど、実際に僕の身体には傷がついていた。
そう──傷がついていた。ただそれだけのことが、僕にとっては驚くべきことだった。
光の精霊から力を手に入れてから、魔族との戦いで傷を負ったことなどただの一度たりともなかった。さっきの魔剣士との戦いでさえそうだ。どれほど強力な魔族であったとしても、『勇者』の身体に傷はつけられなかった。
だったらどうしてこんなことになっているのか。思い出すしかなかった。
莫大な魔力を込めて剣を振り下ろした。魔力は全てを飲み込む勢いで『魔王』へと迫った。
閃光の中で黒い人影が片手を掲げるのが見えた。手が振り下ろされると、漆黒の魔力が水平の瀑布となってこちらの魔力と激突した。
──そして、景色が漆黒色に染まった。
こちらの放った魔力は相手のそれに打ち負け、飲み込まれた。漆黒の魔力は勢いを増しながら迫り僕の身体をも飲み込んだ。
思い出した。
全身を焼かれる苦痛が想起される。両腕の負傷が激しいのは剣を構えていた都合で身体の前方にあったからだ。
違和感の正体も判明した。魔剣士との戦いで、僕より後方にこんな破壊痕が残るような行動はしていなかった。これは、あの『魔王』の魔力による破壊の痕だ。
改めて現実的な恐怖が全身を駆け巡った。全身から力が抜けて、代わりに震えが走る。
つまり──僕は『魔王』に負けたのだ。
どうして僕が生きているのか、どうして『魔王』が止めを刺さなかったのかは分からない。けど、事実として僕は完全に敗北していた。
「……嘘、だろ」
思わず口走る。両腕で身体を抱こうとするが痛みが走った。その痛みが全ては現実だと僕に突きつけていた。
震える僕の脳内に魔族の情報が流し込まれる。光の精霊の仕業だ。こんなときぐらい放っておいてほしい。
精霊が伝える情報、感覚は、付近から魔族が一切いないことを知らせてきていた。それどころか、人間界のどこにもいなかった。
どうやら拠点が壊滅したことを理由に完全に撤退したようだった。
安堵の息が漏れる。もしも『魔王』が残っていて侵略を続けるようであれば、そのときは今度こそ……。
そう考えて、別の考えに至る。まだ『魔王』は生きている。僕も生きている。人間たちは残っているし、魔族も残っている。
つまり、戦いは何も終わってなんていない。だから僕に自由はない。
まだ、戦わなければならなかった。
視線を景色の向こう側へと向ける。崩壊した森林の奥深く、その先へと。
全ての魔族が人間界から撤退した今、ただ一つ彼らの魔力を感じ取ることができる場所。
魔族たちが人間界に侵略するための場所。魔界と人間界を繋ぐ門が、その先にはあった。
次に僕が行くべき場所は、あそこなのだろう。
──きっと、人間たちは僕にそう要求するのだろう。
慌てて起き上がる。周囲を見回すけど、あの魔剣士の姿も『魔王』の姿もなかった。
ただ破壊し尽くされた大地が広がるだけだった。抉れた地面に焼き払われた森林。外壁しか残らなかった要塞に、巨大な穴の穿たれた山脈。
僕の後方にも破壊の痕跡は広がっていた。草花が吹き飛ばされて草原は荒野へと姿を変えていた。
妙な違和感がある。自分が倒れていることも不思議だし、生きていることも不思議だ。他にも何かがおかしい。何があったのか思い出せない。
自分の身体を確認するためのあちこち動かしてみる。鋭い痛みが走った。両腕の表面が焼け焦げていた。
痛みの原因はこれか、と納得すると同時に戦慄が走る。こんなことはあり得ないと思うけど、実際に僕の身体には傷がついていた。
そう──傷がついていた。ただそれだけのことが、僕にとっては驚くべきことだった。
光の精霊から力を手に入れてから、魔族との戦いで傷を負ったことなどただの一度たりともなかった。さっきの魔剣士との戦いでさえそうだ。どれほど強力な魔族であったとしても、『勇者』の身体に傷はつけられなかった。
だったらどうしてこんなことになっているのか。思い出すしかなかった。
莫大な魔力を込めて剣を振り下ろした。魔力は全てを飲み込む勢いで『魔王』へと迫った。
閃光の中で黒い人影が片手を掲げるのが見えた。手が振り下ろされると、漆黒の魔力が水平の瀑布となってこちらの魔力と激突した。
──そして、景色が漆黒色に染まった。
こちらの放った魔力は相手のそれに打ち負け、飲み込まれた。漆黒の魔力は勢いを増しながら迫り僕の身体をも飲み込んだ。
思い出した。
全身を焼かれる苦痛が想起される。両腕の負傷が激しいのは剣を構えていた都合で身体の前方にあったからだ。
違和感の正体も判明した。魔剣士との戦いで、僕より後方にこんな破壊痕が残るような行動はしていなかった。これは、あの『魔王』の魔力による破壊の痕だ。
改めて現実的な恐怖が全身を駆け巡った。全身から力が抜けて、代わりに震えが走る。
つまり──僕は『魔王』に負けたのだ。
どうして僕が生きているのか、どうして『魔王』が止めを刺さなかったのかは分からない。けど、事実として僕は完全に敗北していた。
「……嘘、だろ」
思わず口走る。両腕で身体を抱こうとするが痛みが走った。その痛みが全ては現実だと僕に突きつけていた。
震える僕の脳内に魔族の情報が流し込まれる。光の精霊の仕業だ。こんなときぐらい放っておいてほしい。
精霊が伝える情報、感覚は、付近から魔族が一切いないことを知らせてきていた。それどころか、人間界のどこにもいなかった。
どうやら拠点が壊滅したことを理由に完全に撤退したようだった。
安堵の息が漏れる。もしも『魔王』が残っていて侵略を続けるようであれば、そのときは今度こそ……。
そう考えて、別の考えに至る。まだ『魔王』は生きている。僕も生きている。人間たちは残っているし、魔族も残っている。
つまり、戦いは何も終わってなんていない。だから僕に自由はない。
まだ、戦わなければならなかった。
視線を景色の向こう側へと向ける。崩壊した森林の奥深く、その先へと。
全ての魔族が人間界から撤退した今、ただ一つ彼らの魔力を感じ取ることができる場所。
魔族たちが人間界に侵略するための場所。魔界と人間界を繋ぐ門が、その先にはあった。
次に僕が行くべき場所は、あそこなのだろう。
──きっと、人間たちは僕にそう要求するのだろう。
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