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その瞳の遺したもの
第15話 必然性
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冷たい床の上で俺は目が覚めた。ぼやける視界が少しずつ晴れていき、ここが牢屋の中だということを思い出す。
なにか夢を見ていたような気がする。昔の夢だったような気がしたが、俺はすぐにそれを忘れてしまった。
ぼんやりとした頭で最近のことを思い出す。確か、怜司を殺そうとして失敗して、ここに叩き込まれたんだったか。あれから三日は経っている。牢屋に時計はないので、正確な時間は分からないが。
腹時計に聞いてみると、昼過ぎだと答えてくれた、気がする。まぁ、何時でもいい。
すっかり頭が冴えてしまったが、牢屋の中が退屈なのは言うまでもない。なにかないかと、俺はあたりを確認してみる。
八畳ほどの広さの長方形に、寝所とトイレと洗面台がある。以上。
どこから見ても立派な牢屋の内装だった。牢屋度というものがあれば、多分一◯◯パーセントだろう。
ちなみに、俺は寝所ではなく床の上で起きた。もともとこの牢屋に寝所なんてものはなくて、後になって薄いシーツと毛布が運び込まれたのだが、使う気にならなかった。
理由は簡単で、その待遇を言い出したのが怜司だからだ。あいつは自分を殺そうとした人間の牢屋の環境を気にしたらしい。はっきり言って、馬鹿げている。
硬い床の上で寝ていたせいで痛む身体を引きずって、俺は牢屋の壁際に移動。壁に背中を預けるように座った。
右腕を持ち上げた瞬間、痛みが走る。右手首を見てみると、ちょっとした痣ができていた。桜に捻りあげられたときにできたのだろう。
俺の脳が自動的に、あの夜の記憶を呼び起こした。桜の拘束は、予想していたよりずっと痛かった。
怜司の部屋に忍び込んだが、俺は失敗した。失敗するだろうと思っていた。だから、桜や蒼麻たちが来たことにもなにも驚きはしなかった。
怜司はとにかく運が良い。そうでなければ、こんなことにはなっていないだろう。だから俺は驚かなかった。相手が怜司で実行犯が俺なら、失敗以外はありえないのだ。
失敗して牢屋に入ることになったとしても、あるいは殺されることになったとしても、俺はああするしかなかった。もうこれ以上、感情を無視することができなかったのだ。
そういえば、襲撃した次の日に怜司がここに来ていた。俺から話すことはなにもないので、黙っていたらさっさと帰っていった。きっと理由を知りたがっていたのだろうが、言うつもりはない。ナイフを振り向けることはできても、言葉を振り向けるような勇気は俺にはなかった。
俺の心にあるのは虚無感だけだった。いったい、なにをどうすれば良かったのだろう。問いかけてみても、誰も答えてはくれない。
なにかを、どこかで間違えてしまった。俺のせいなのか、俺以外のせいなのかは、もうどうでもいいことだった。重要なのは、俺の人生がもう修正不可能なところに来てしまっている、ということだけだ。
だから、きっと俺が幸福になるためには──。
なにか夢を見ていたような気がする。昔の夢だったような気がしたが、俺はすぐにそれを忘れてしまった。
ぼんやりとした頭で最近のことを思い出す。確か、怜司を殺そうとして失敗して、ここに叩き込まれたんだったか。あれから三日は経っている。牢屋に時計はないので、正確な時間は分からないが。
腹時計に聞いてみると、昼過ぎだと答えてくれた、気がする。まぁ、何時でもいい。
すっかり頭が冴えてしまったが、牢屋の中が退屈なのは言うまでもない。なにかないかと、俺はあたりを確認してみる。
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どこから見ても立派な牢屋の内装だった。牢屋度というものがあれば、多分一◯◯パーセントだろう。
ちなみに、俺は寝所ではなく床の上で起きた。もともとこの牢屋に寝所なんてものはなくて、後になって薄いシーツと毛布が運び込まれたのだが、使う気にならなかった。
理由は簡単で、その待遇を言い出したのが怜司だからだ。あいつは自分を殺そうとした人間の牢屋の環境を気にしたらしい。はっきり言って、馬鹿げている。
硬い床の上で寝ていたせいで痛む身体を引きずって、俺は牢屋の壁際に移動。壁に背中を預けるように座った。
右腕を持ち上げた瞬間、痛みが走る。右手首を見てみると、ちょっとした痣ができていた。桜に捻りあげられたときにできたのだろう。
俺の脳が自動的に、あの夜の記憶を呼び起こした。桜の拘束は、予想していたよりずっと痛かった。
怜司の部屋に忍び込んだが、俺は失敗した。失敗するだろうと思っていた。だから、桜や蒼麻たちが来たことにもなにも驚きはしなかった。
怜司はとにかく運が良い。そうでなければ、こんなことにはなっていないだろう。だから俺は驚かなかった。相手が怜司で実行犯が俺なら、失敗以外はありえないのだ。
失敗して牢屋に入ることになったとしても、あるいは殺されることになったとしても、俺はああするしかなかった。もうこれ以上、感情を無視することができなかったのだ。
そういえば、襲撃した次の日に怜司がここに来ていた。俺から話すことはなにもないので、黙っていたらさっさと帰っていった。きっと理由を知りたがっていたのだろうが、言うつもりはない。ナイフを振り向けることはできても、言葉を振り向けるような勇気は俺にはなかった。
俺の心にあるのは虚無感だけだった。いったい、なにをどうすれば良かったのだろう。問いかけてみても、誰も答えてはくれない。
なにかを、どこかで間違えてしまった。俺のせいなのか、俺以外のせいなのかは、もうどうでもいいことだった。重要なのは、俺の人生がもう修正不可能なところに来てしまっている、ということだけだ。
だから、きっと俺が幸福になるためには──。
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