異世界に行ってもモブのままの俺が主人公に一矢報いる話

じぇみにの片割れ

文字の大きさ
上 下
15 / 17
その瞳の遺したもの

第15話 必然性

しおりを挟む
 冷たい床の上で俺は目が覚めた。ぼやける視界が少しずつ晴れていき、ここが牢屋の中だということを思い出す。
 なにか夢を見ていたような気がする。昔の夢だったような気がしたが、俺はすぐにそれを忘れてしまった。

 ぼんやりとした頭で最近のことを思い出す。確か、怜司を殺そうとして失敗して、ここに叩き込まれたんだったか。あれから三日は経っている。牢屋に時計はないので、正確な時間は分からないが。
 腹時計に聞いてみると、昼過ぎだと答えてくれた、気がする。まぁ、何時でもいい。

 すっかり頭が冴えてしまったが、牢屋の中が退屈なのは言うまでもない。なにかないかと、俺はあたりを確認してみる。
 八畳ほどの広さの長方形に、寝所とトイレと洗面台がある。以上。
 どこから見ても立派な牢屋の内装だった。牢屋度というものがあれば、多分一◯◯パーセントだろう。

 ちなみに、俺は寝所ではなく床の上で起きた。もともとこの牢屋に寝所なんてものはなくて、後になって薄いシーツと毛布が運び込まれたのだが、使う気にならなかった。

 理由は簡単で、その待遇を言い出したのが怜司だからだ。あいつは自分を殺そうとした人間の牢屋の環境を気にしたらしい。はっきり言って、馬鹿げている。
 硬い床の上で寝ていたせいで痛む身体を引きずって、俺は牢屋の壁際に移動。壁に背中を預けるように座った。
 右腕を持ち上げた瞬間、痛みが走る。右手首を見てみると、ちょっとした痣ができていた。桜に捻りあげられたときにできたのだろう。

 俺の脳が自動的に、あの夜の記憶を呼び起こした。桜の拘束は、予想していたよりずっと痛かった。
 怜司の部屋に忍び込んだが、俺は失敗した。失敗するだろうと思っていた。だから、桜や蒼麻たちが来たことにもなにも驚きはしなかった。
 怜司はとにかく運が良い。そうでなければ、こんなことにはなっていないだろう。だから俺は驚かなかった。相手が怜司で実行犯が俺なら、のだ。

 失敗して牢屋に入ることになったとしても、あるいは殺されることになったとしても、俺はああするしかなかった。もうこれ以上、感情を無視することができなかったのだ。

 そういえば、襲撃した次の日に怜司がここに来ていた。俺から話すことはなにもないので、黙っていたらさっさと帰っていった。きっと理由を知りたがっていたのだろうが、言うつもりはない。ナイフを振り向けることはできても、言葉を振り向けるような勇気は俺にはなかった。

 俺の心にあるのは虚無感だけだった。いったい、なにをどうすれば良かったのだろう。問いかけてみても、誰も答えてはくれない。
 なにかを、どこかで間違えてしまった。俺のせいなのか、俺以外のせいなのかは、もうどうでもいいことだった。重要なのは、俺の人生がもう修正不可能なところに来てしまっている、ということだけだ。

 だから、きっと俺が幸福になるためには──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...