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第二章
夢のマイホームを求めて
しおりを挟む「──というわけでイベントと今後の活動を考えて、チームハウスを買おうと思うんだけど良いかな?」
「欲しい、シエルとのマイホーム!」
「私も賛成よ。……ってリッカ、あんた最近ブレーキ壊れてるわね」
「チームハウス、夢のマイルーム……」
ボクの提案に三人は賛成してくれる。
チームハウスとは正式にチーム登録する事で解禁される、アップデートで追加されたコンテンツの事。
現在ボク達はチームを結成した事で、ホームの購入権が解禁されている。
この状態で大量の資金を塔のシスター達に支払うと、好きな規模の一軒家を獲得する事ができるのだ。
しかもグレードアップすると建物の規模も大きくなる。
アップデート内容に目を通したが、最大三十部屋のマンションにできるらしい。
「それでそのマイホームを購入する金額だけど、なんと六人パーティー用だと300万必要なんだ。──先に言っておくけど、ボクは最近弾丸作製用の道具買ったから一文無しだよ!」
「さ、さんびゃくまん……オレ最近リアルマネーにして防具もアップデートしたから金ないんだけど」
「一人当たり75万エル必要ね。もちろん私は、槍を新調したから当然お金はないわよ」
「ミカゲが全部出そうか……?」
金欠後輩三人に対して、ミカゲ先輩が恐る恐る手を上げる。
しかしボクは首を横に振り、彼女の申し出をお断りした。
「ダメですよ、ミカゲ先輩。みんなの活動拠点なんですから、先輩一人だけが払うのはノーです」
「今回だけ借りて、後で返せば良いんじゃないか?」
「リッカ、シエルはみんなの拠点って言ってるじゃない。こういうのは気持ちが肝心なのよ」
「つまり?」
首を傾げるリッカに、ボクは右拳を高らかに上げて告げる。
「今から四人で金策だー!」
「という事は、アレしかないな!」
「第二階層の金策といえば、アレしかないわよね!」
「まさか……」
そう第二階層には、素晴らしい高効率の金策が一つだけある。
それは森マップではド定番のクエスト。
「みんなで〈リトルビートル〉採りだー!」
「やっぱりビートル採りぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
どうやらビートルが嫌いらしいミカゲ先輩の悲鳴が、ノースエリア中に響き渡った。
セカンドエリアにいる、ビートル大好き大富豪のNPC。
名前はカブトマンという、いかにもカブトムシを愛する思いにあふれている青年だ。
ビートルを無限回収する彼から、何度も受ける事ができる最強の金策クエスト。
タイトルはシンプルに〈黄金のビートルを求めて〉。
内容は単純明快、この森の中にいる〈リトルビートル〉を捕まえてカブトマンに提出するだけ。
通常カラーは一匹に付き1万エル。黄金カラーは一匹に付き10万エルだ。
今回の目標金額は各自75万エルを獲得する事。
「大体通常カラーだと75匹だね」
「黄金を捕まえると10匹分減るから、ハチミツ集めに比べたら天国だな!」
「そうね、ハチミツ集めに比べたら天国ね!」
「み、ミカゲもがんばりますぅ……」
ハチミツ集めで地獄を見た後だからか、リッカとユウは余裕の表情を見せる。
一方で虫がダメっぽいミカゲ先輩は、一人だけ恐怖に震えていた。
「あれ、でも〈リトルホーネット〉を相手にしていた時は普通に戦っていたような」
「見てる分は大丈夫なの。でも手掴みするってなると、あの地球外生物的なフォルムに背筋がぞわぞわして恐怖に固まっちゃう……」
「なるほど、というかミカゲ先輩はお金持ってるんですから別に無理して参加する必要はないんですが」
「やる、やりたい。だってみんなで買うのに、一人だけ離れて見ているなんてしたくない」
「わかりました、それならメタちゃんと一緒に採取してください。それだったら多少は負担が軽減できると思うので」
「メッター!」
まかせろー、と言ってミカゲ先輩の肩に乗るメタちゃん。
役に立つ姿を見せる為に彼は手をぐいーんと伸ばし、近くの大木にくっ付いていた〈リトルビートル〉を捕まえて見せた。
「ぴぇ!?」
サイズはリアルのカブトムシと同じ。
ワサワサ動く六本の脚に、ミカゲ先輩は怯えて固まった。
虫が嫌いな人にとって、確かにあの動きは地獄でしかないだろう。
「ミカゲ先輩、ストレージを!」
「う、うん!」
促される形で彼女がストレージを開くと、メタちゃんがホールドしていた〈リトルビートル〉は光の粒子となって収納された。
本来は虫取り網で捕まえたのを収納するのだが、彼は手掴みで同じ事ができる。
「すごい……」
「メタメタ~」
「なんて言ってるのかは分からないけど、メタスラちゃんのおかげで頑張れそう」
やる気を出したミカゲ先輩は、メタちゃんが捕まえた〈リトルビートル〉を次々にストレージに収納する。
あのペースならば、確実にボク達よりも早く集め終えるだろう。
「ボク達も負けてられないね。それじゃ固まると効率悪くなるから各自散会しようか」
「「「了解!」」」
虫取り網を手にボク達は、各々違う方角に向けて駆け出す。
こうして夢のマイホームを入手するための金策クエストが始まった。
虫取り網を手に森の中をシエルが走り回っている。
夏休みの一ページみたいな懐かしい光景に、一眼レフカメラを手にする女性達は涙を流していた。
「なんて美しいの……」
「森でカブトムシを追いかける姿は、正しく森の妖精……」
「可愛いって本当に罪ね。それだけで最高の一枚なるんだから」
「ただ動きはえげつないくらいガチ勢だけどな」
「なにあの加速、えぐいって! 敏捷値どんだけ盛ったらあんな動きできるの!?」
「某が敏捷200でござるから、あの戦闘機のような加速は恐らく弾丸の強化値を合計して300以上はありそうでござるな」
「「「「「300って人間に扱える数値なのか!!?」」」」」
このゲームのAGIは髙ければ高いほど、動きの速度が増していく。
ただ速ければ強いというわけではなく、速すぎると当然だが人間が扱えない化け物アバターになってしまう。
簡単な例として時速300キロの車を走行させる感覚に近い。
当然周りにオブジェクトがある上に、四輪と違って人間は二足で走るのだから僅かな制御にミスればすっこける。
走るだけでも大変なのに、そこから獲物に対してアクションをするのは人外の所業と言っても過言ではない。
「まぁ、シエル殿は扱えてるでござるから、人ならざるセンスをもっているのでござるな……」
「流石は剣聖の妹様だ……」
「ふふふ、私の推し可愛くてすっごく強いんだ……」
「早速マイホームをシエル様の博物館風にしちゃったからね」
「お金がどんどん溶けていくから頑張って稼がなきゃ……」
「今日も見届けたらカブトムシ集めするんだ……えへ、えへへへ……」
彼女達の可視化する程の邪なオーラを背に、純真無垢なシエルは黄金のカブトムシを手に大喜びしていた。
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