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第二章

ミカゲ先輩の秘密

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 情報集めはエミリーさん達が行っている。
 その間ボクはレベリングを兼ねて、ハチミツ集めをすることにした。

 メンバーはボクと呼び掛けに応じてくれたミカゲ先輩、更にメタちゃんとガーディアン君とガウルフ君の三人。
 プレイヤーが五人中二人しかいない、人間より使い魔の方が多い異色パ。

 何も知らない人が見たら、ボクの職業を〈召喚士〉か〈調教師〉だと思うよね。
 森を歩きながら〈リトルホーネット〉を見つけては狩る単純作業をひたすら繰り返す。

 特にメタちゃんを乗せたガウルフ君の働きは凄く、いなくなっては最低一個獲得して戻ってくる。
 やってることはひたすらハチを狩ること。

 絵面が地味だから、今回配信用のカメラは出していない。
 他のプレイヤー達と狩りが被らないように気を付けながら、ボクは砲撃で木の上にいる敵をミカゲ先輩と一緒に撃ち落とすが。

「うーん、流石ランダムドロップ。二連続でゼロか……」

「倒してなにも落ちなかったら、しょんぼりしちゃうね」

「雑談でもしてないと心やられますよ。──というわけでズバリ聞いちゃいます。ミカゲ先輩が〈魔術師〉を選んだ理由はなんですか?」

「……それは〈魔術師〉がカッコよくて可愛いから」

「なるほど、カッコよくて可愛い。……さては小さい頃、魔法少女になりたかったタイプです?」

「分かっちゃった? 女の子だったら一度は通る道だよね」

「わかります。ただボクは初等部六年生辺りで見た夢も希望もないアニメラッシュで、魔法少女=絶望って認識が強くなっちゃいましたけど……」

「あ……」

 今でも夢に時々出て来る『You、ミーと契約して魔法少女にならない?』という害悪生物。
 他の作品も絵柄が可愛いから手に取ったら、魔法少女で願いを叶える為のKOROSIAIの泥沼胸糞展開は幼い心にトラウマを刻むのに十分すぎる破壊力があった。

 ミカゲ先輩もその作品達の事を知っているのか、顔が笑顔で固まっている。
 ふふふふ、ボクの推しは大抵死んじゃうんだぁ。

 珍しく黒いオーラを纏うボクは、遠くに出現した〈リトルホーネット〉を砲撃で消し飛ばす。
 昔は魔法少女になりたいと言ってたな、特に主人公が真っすぐで可愛くて変身すると弓で………うん?

 そこでふと鬱アニメの中に、弓を使うキャラクターがいる事を思い出した。

「……って、まさかミカゲ先輩の弓はアニメの影響?」

「た、偶々だったんだけどね。まさか弓を利用した魔術スキルを獲得するなんて思わなかったよ」

「ふぇー、ものすごい偶然ですね」

「ただ杖と違って展開する矢とかの本数が半分になるのが欠点かな、利点は弓で放つと威力と速度が二倍以上になるよ」

「ふむふむ、使用する武器で魔術に補正が掛かるのか〈魔術師〉面白いですね」

 職業がそれだから、武器もコレにしなければいけない。
 誰もが陥る固定観念を、ミカゲ先輩は憧れという思いでぶち壊したわけだ。

 ──とはいえ〈ガンブレイダー〉は弾丸を使う仕様上、ガンソード以外の武器を選べないけど。
 考えながら片手間で〈リトルホーネット〉を処理していると、隣りを歩いていたミカゲ先輩が足を止めた。

「? どうかしました?」

「えっと、その……ミカゲからも質問して良いかな」

「ボクに答えられる内容だったら、なんでもお答えしますよ」

「それなら遠慮なく聞くね。……シエルさんは、みんなに注目されてるけど怖いと思ったことある?」

 怖いと思ったことか。
 ちょっと想定していなかった質問だ。
 何回か怖いと思った事はあるけど、その中で強いて挙げるのなら、やはりこれしかない。

「ミカゲ先輩は、ボクが元は男の子だった事は知ってますか」

「うちのクラスでもファンの人達がいて、すごく可愛いって話題になってたよね」

「はい、それでリアルTSを公けにするときに、正直言って女子制服の姿で行くのが一番怖かったです。
 もしかしたら否定的な言葉を投げかけられるんじゃないかと思って、緊張してその日は余り眠れませんでした」

「……でもそれで学校に来るのすごい。ミカゲだったら、怖くて家に引きこもると思う」

「従姉さんや伯父達、そして何よりも親友達が受け入れてくれましたから。じゃなかったら、ミカゲ先輩が言ったのと同じように引きこもりになってました」

「そうなんだ……」

 そういえばあの時のお昼休みに、ミカゲ先輩が話しかけてきたのだ。
 まさかPVPのお誘いだったなんて、全く想像すらしていなかったけど。

「……み、ミカゲはあの日上手く話しかけられなかったけど、女子の制服を着たシエルさんすごく可愛いと思ったよ」

「ふふ、ありがとうございます。ミカゲ先輩も可愛いですよ」

「そ、そんなこと……」

「そんなことあります、リアルでも自信を持ってください!」

「ムリムリムリムリムリムリムリムリ!? だって人の目が怖くていつも俯いてるし、猫背だし上手く会話できないし、精神が限界になると叫んで変な行動を無意識にしちゃうし!!」

 首をブンブン横に振るミカゲ先輩。
 実に可愛らしい行動だが、口にしている内容は涙を誘う。

「……そうですか、まぁ無理強いは良くないんでこの話は此処までにしましょうか」

「うんうん、そうしよう!」

 なんせタイミング悪く、アレと遭遇してしまったから。
 視線の先には、この森に住むボスモンスター〈ツリー・トレント〉が此方をフォーカスしていた。

「ハチミツはドロップしないから、時間掛けずにさっさと倒しちゃいましょう」

「この面子なら楽勝!」

 ──その数分後〈ツリー・トレント〉は断末魔の悲鳴と共に消滅した。

 ハチミツ集めを再開したボク達が、5時間かけて集めた個数は合計で158個だった。
 五人の平均だと大体20個ちょい〈リトルホーネット〉からハチミツがドロップした。

 知っていたけど、やはり地道に集めるのは厳しい。
 そう思ったボク達に珍しく〈塔〉から一つの告知が入る。

「1週間後にイベント? PVPで最後まで生き残った上位三チームには豪華賞品が与えられる?」

 その中にある優勝景品を見たボクは、思わず自分の目を疑った。
 何故ならば、信じがたいモノがあったから。

「アダマンタイトの欠片……じゃなくてハチミツ10000!?」

「ウソ、すごい!?」

 なんと現在抱えている難問のクリア条件を満たす個数が、そこには掲載されていた。
 しかし同時に一つ問題も生じる、それはイベントの注意事項にデカデカと目立つように。

【参加条件】チームのみ。

 ──と、記載されていた。
 
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