きっといつかのプレイリスト

ミネ

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 熀雅は42歳。
 子供は15歳男、13歳女。
 歳の離れた腹違いの妹がいる。
 趣味は動画撮影とジョギング。
 犬を二匹と猫を一匹飼っている。
 子供の頃の習い事はバイオリンと乗馬。
 
 

 "おぼっちゃま?"
 そんなことを知るようになり、お互いのプレイリストに同じ曲が溜まってきた頃には熀雅に対して気を使わず、自由に振る舞えるようになっていた。

 "そんなところ"
 紅丸には伝えなかったが、熀雅の父親は組織の上層部の人間で熀雅は随分と贅沢に甘やかされて育った。

 "俺って役に立ってるの?"
 音楽を聴いて、ご飯に行って、たまにホテルで音楽聴きながら寝てしまっても文句も言わない。何が楽しくて熀雅はこんなことをしているのだろう。
 最初は早く解放されることを望んでいたが、今は熀雅からの連絡を待つ自分がいる。

 "うん"

 "わがまま言ってもいい?"

 "いいよ"

 "ハイ・シティに行きたい!"

 "どこに行きたいの"

 "『エン・ターファ』と『伍弍』には絶対行きたい!"
 両方とも若者も憧れるショップだ。

 "わかった"

 "あともういっこ!学校までむかえにきて"

 ハイ・シティは猥雑なロー・シティとは違い管理が徹底されたハイクラスな商業施設や高級住宅地などがある都の中心部だ。

 紅丸は熀雅との約束の日を待ち遠しく思った。
 


 
 



「わ、ほんとにきた」
 
 璃央が教室の窓から顔を出し、学校前に止められている高級車を見る。

「じゃあ、俺行くね」
 紅丸は迎えにきてもらえ、ちょっと自慢気だ。

「はいはい。がんばってたらし込んで貢いでもらいなさい」

「そんなんじゃないってば」

「そんな格好して?」

「いいだろ、俺、似合ってっし」

「まーねー」

 
 紅丸は私服の中学校でわざわざ有名私立の制服を着ている。
 紺のブレザーにチェックのスカート、紺のハイソックス。
 こんな女みたいな風貌の自分に紅丸はそれなりに自信があった。
 何度か遊びで女装の男の子が好きな男性と遊びに行ったことがあり、その時にはお小遣いを貰えるし、何度も褒められまた会いたいと誘いを受けるからだ。
 ちょっと熀雅の反応が見てみたかった。




「こんちわ‥」


「やあ」

 熀雅は紅丸を見ると、似合うねと笑った。

 助手席のシートに乗り込むとスカートから細くて白い脚が覗く。

「下着はどうしてるの」

 熀雅の質問に紅丸は少しわくわくした。
「‥知りたい?」

「男性用のフリルのついたやつ?」

「知ってんじゃん」

 軽口を交わしながらも、冗談なのか興味があるのか紅丸は熀雅の様子に変化はないかじっと気配を探っていた。
 熀雅の態度はなんら普段と変わらず単なる一つの話題でしかないようだ。
 男性用のショーツまで用意した自分を少し恥ずかしく思った。



 二人は紅丸の希望したショップを巡りハイ・シティの美しい街並みを一緒に歩いた。

 熀雅がおすすめの店で一息つこうと提案してきた。

 ガラス細工のような高層ビルのエレベーターで52階まで上がる。シルバーの市松模様が華やかで印象的な抹茶の専門店に入った。

 ガラス張りの店内からは街が一望出来、晴れ渡る青空とハイ・シティのさまざまな建物が遠くまでよく見渡せた。


 熀雅の器を扱う手つきは丁寧で美しい。なんとなく目が離せなかった。
 左手の薬指には指輪が嵌まっている。
 熀雅は結婚してる。子供もいる。
 ぼんやりとわかっている事実を改めて認識した。

 視線に気づいた熀雅が不思議そうな顔をした。

「あー‥、時計、見てた。なんで腕時計なんてすんの?時間なんてスマホでわかるじゃん」

 指輪や美しい手に見惚れていたことを話題にするのはなんとなく憚られて袖口から覗く腕時計に話を持っていった。

「この時計、気に入ってるんだ。それ以上特に理由はないよ」
 確かにその腕時計は熀雅によく似合い、彼の魅力をさらに引き立てていた。

「似合ってる」

 時計を見る振りをして指輪を再び眺め、自分は彼にとってどんな存在なのか考えた。


「俺たちってどういう関係に見えるかな」
 落ち着きなさそうに指を遊ばせたあと、ぱちぱちまばたきをしてから、小さな声で問う。

「‥親子?」
 熀雅は紅丸を顔を見ずに抹茶を愉しむ。

 紅丸は答えに気を落とし、つまんなそうな顔をして窓を眺めた。


 
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