25 / 43
25
しおりを挟む◇◇◇
「瀧、これは蓋して蒸さないと中まで火が通らないよ」
「瀧、赤唐辛子は最初に油に入れて辛みを出すんだよ。‥‥代わりに後で七味唐辛子入れるの?うーん。今日はやめとこうか」
温かな日差しが窓から入る気分の良い日曜日。瀧とヒューはいつもより一時間多めに眠って、そのあと布団の中で戯れて、カフェラテとスイーツの軽い朝食を取った後、二人で駅ナカのスーパーに買い出しに出掛けた。
季節はあっという間に冬を迎え12月。街行く人々は温かなコートに身を包んで歩いている。
今日は自宅で手料理を作りながら少し早いクリスマスを二人っきりで祝う予定だ。
クリスマス当日はアメリカでヒューの家族と過ごす約束をしていて、ヒューはせっかくのクリスマスだからと外食に誘ってくれたが、瀧は家で過ごしたいと断った。
仕事をしているヒューだけにずっと料理を任しているのも気になっていたし、それを上手くできなくて拗ねていた自分を省みて、この二人だけで過ごすちょっと早めのクリスマスはいい機会だと素直にヒューに料理を教えてほしいと頼んだのだ。
もちろんヒューは二つ返事でOKしてくれた。
大きな通りを並んで歩く二人の間にもひゅっ、と北風が吹いて瀧の前髪を揺らした。
少し乱れた髪をかき上げた瀧の手には婚約の証の腕時計と薬指にはシンプルなリングが嵌まっている。その指輪はヒューの左手の薬指にも嵌っていて同じ輝きを放っていた。
ヒューが日本に帰ってきて仲直りした後、瀧はずっと結婚指輪は自分が贈ろうと考えていて、ついに先週デートと称してヒューを街に連れ出した。
目星をつけていた手の届きやすい価格と洗練されたデザインで人気のジュエリーショップにふらっと入ったふりをして、ヒューはどんなデザインが好きかなんて聞きながら、なんとか貯めた(一部静湖に借りた)バイト代で瀧はヒューにこの指輪をプレゼントをした。
ヒューは大喜びでその帰りにお祝いしようとワインショップに入り、指輪より高いワインになんの迷いもなく手を伸ばした。瀧の視線に気づいたヒューが掴んだワインを棚に戻し、他の手頃な銘柄を探し始めた様子が可笑しくて瀧は笑った。
結局、瀧が最初に手を取ったワインを飲みたいと言って話は付いた。
瀧も最近はヒューから贈られるプレゼントや連れて行って貰う外食を享受することを覚えた。
素直に受け取れば質の良いそれらは瀧の生活を豊かにしたし、ヒューと一緒に楽しめる事柄の幅も広がったからだ。
スーパーで買い出しをした後、二人でキッチンに立った。メニューは真鯛とアサリがたくさん入ったアクアパッツァ、ペペロンチーノ、牛肉の切り身が入ったマスタードのサラダ。
ヒューのサポートもあって美味しく作れた。アクアパッツァをひと口食べた瀧の顔には自然と笑みが溢れる。
ヒューは片手を上げ、二人は軽いハイタッチを交わした。それからふれるだけの柔らかなキス。
瀧とヒューは小さな幸せを感じながら毎日を過ごしていた。
10
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる