外国人御曹司と結婚を前提にお付き合いすることになりました。が、

ミネ

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たき!ちょっとこっちきて」

家に帰るなり、姉の静湖しずこに呼ばれた瀧は羽織っていたスプリングコートを脱ぎながらリビングへと向かった。

今年の春大学二年になった19歳の瀧は今日も遊んだ帰りだ。どうやら静湖は帰りの遅くなった瀧をわざわざ待っていたらしい。


名のある大学ではないが、ほどほどの成績でほどほどの大学に入り、学業、サークル、バイトどれを取ってもそれなりにこなしながら、瀧は毎日を楽しんでいる。


リビングのソファに腰掛ける姉の向かいに座るとスマホが震えた。

今日のメンバーの一人だった女の子からだ。簡単なメッセージだがそこからは好意が感じられた。
そういえば瀧が彼女と別れたばかりだと話したら、目が輝いていた。

開いたメッセージアプリの友だちの数は男よりも女の方が多く、数人の女の子からきたメッセージが未読で溜まっていた。


「瀧にお願いがあんだけどー」

静湖のなにやらいつもより優しい口調に瀧はスマホから目を離し顔を上げた。姉の不自然な笑顔に瀧はなんとなく嫌な予感を受け、咄嗟に返した。

「やだよ」

「まだ何も言ってない!」

6つ上の似ていない姉弟の静湖は顔の地味さを隠したバッチリメイクでこちらを強く見た。

「私の代わりにお見合いに行ってくんない?」


突然何を言い出すのかと呆れてしまい、瀧は返す言葉が出てこない。

「私の服をかー、‥す、わけには行かないけど、ま、メイクキめて、そーね‥、あんた身長175くらい?ワンピでいっか?それでちょっと料亭行ってご飯食べて帰って来ればいいから」

瀧が唖然としてる間に静湖はどんどん話を進めていった。

「場所は麻布ね。あとでスマホに送っとく、だから土曜は私と買い物行くから。絶対予定入れないように」

「ちょ‥」

ちょっと、待て。

「無茶言うなよ、ねーちゃん!」


確かに瀧の顔は静湖よりはるかに整っている。だが、どこからどう見ても瀧は男だ。

ライトを浴びると少し淡くなる程度に色を染めた髪は目に掛かるくらいのセンターパートにしていて動くと目元でチラリと揺れて艶かしく、切長で涼しげな綺麗な二重の瞳は薄いブラウンに縁取られており吸い込まれそうな印象を与える。
鼻の形は細く高い。まるで線で描いたようにスッと通っている。やや厚めで色を差したような唇とそれを囲う中性的というよりはやや男らしい顎のライン。
身長は177センチ、すらっとしているが程よく締まっていて、しっかりとした肩、腰の位置の高い長い脚、小さな顔、そのスタイルの良さに街を歩けばチラチラと注目を集める。中学の時から彼女はほとんど途切れたことがない。

「どう考えても、‥オカマ。オカマが出来上がる」

「それでいいの!」
静湖は自信を持って答えた。

「あんたが行ってくれればそれでいいから!

静湖の話によると、どうやらこのお見合いはかなり無理矢理にセッティングされたものらしく、とにかく今後二度と同じ事をされないよう阻止するため、女装した男を相手に連れて行くと言う無謀な作戦を静湖は思いついたそうだ。


「無茶だよ、ねーちゃん‥。俺、やだかんね」


「32万」

静湖の声に瀧はびくりと肩を揺らした。


「この間の台湾旅行、彼女へのクリスマスのプレゼントの代金、中学からの服代、髪代、交際費‥」

瀧が静湖にしている借金とその内容をとつとつと語り出す。
瀧は静湖が大学を卒業して働き出したころからちょこちょことお金を借りる様になった。
瀧も高校生になってからバイトを始めたがそんなに真面目に働いているわけでもなく、遊ぶ金額はそれを上回る。バイト代が入れば少しは返したりする時もあるが、借金の額は増えていくばかりで一向に減らない。

実家住まいで、ほどほどな出来の弟とは違い努力家な姉はエリート街道まっしぐらで歳の割には稼ぎが良いのもあり、ついつい歳の離れた美形の弟の甘えを許してしまっている。


それが今、静湖の武器になり、瀧が姉に逆らえない理由でもあった。

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