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次の日、教室に行くと窓ぎわの席の一番後ろに稜冠逗が居た。

俺を見ると慌てて立ち上がりシャツの腹のあたりを両手で握ってもじもじしてる。

俺は内心、同じクラスかと舌打ちした。教室の後ろの黒板を見れば座席表が貼ってあり、名簿順で俺の名前を探せば窓ぎわ後ろから三番目。

あいつの目の前の前の席じゃねえか!
ただでさえこの距離で奴の匂いが漂ってきそうなのに冗談じゃない。

突っ立ったままの稜冠逗が顔だけこちらを向けて、まだもじもじしている。

もっさくてでっかい図体の男が立ち上がったまま動かないから周りがちらちら注目し出す。

「誰、あのでかいの。アルファ?」

「稜冠逗って、あの稜冠逗重工業の稜冠逗?」

「え?それすごくねえ?お近づきになっとく?」

アルファと繋がりを持ちたいがためにこの学園に入ったベータ達がひそひそ話してる。

俺は目の端で稜冠逗の動こうとする気配を感じ、さっさと逃げる。絶対、話しかけられたくない。

奴は小声で「あっ‥‥」とかなんとかカオナシみたいに言うとしばらく立っていたがそのうち所在なさげに再び椅子に座り直した。


あいつと一番遠い教室の出入り口の席の多分ベータだろう地味な男に俺は声を掛ける。

「井口くん?あのさ、申し訳ないんだけど俺と席交換してくれないかな?俺、目が悪くって黒板見えづらいんだ」

俺の最強オメガスマイル。

両目1.2だけど。とにかく少しでも俺はあいつと距離を置きたい。

ベータにオメガのフェロモンは効かないけどオメガの美貌は有効だ。

使えるもんは何でも使う。オメガは弱い立場だけれど俺は絶対屈したくない。

案の定、井口くんは頬を赤らめて席を代わってくれた。

空いた席に座ろうとするとちょうど目の前のドアから完全にアルファです。と言わんばかりの男が入ってきた。

神剛伊緒理だ。

伊緒理も俺がすぐ目に入ったのか上から下まで舐め回すような目で見てきた。

「ねえ、名前、なんていうの?昨日居なかったよね」

「‥美桜谷。昨日はちょっと体調崩して。よろしく」

俺は得意の笑みを浮かべる。

「オメガはいろいろ大変だね」

伊緒理は俺の首のカラーを指差すとなんか偉そうな笑みを浮かべた。謎の上から目線の笑顔がむかつくけどそんなのは一切顔に出さず微笑み続ける。

もう一度伊緒理を見れば、手入れの行き届いた髪、整った顔立ち、制服を少しだけ着崩してこなれ感のあるスタイル、少し話しただけでも伝わってくるコミュ力。こいつはカースト上位勢。んで絶対アルファ。仲良くしといて損はない。クラスを見回してもこいつより格上そうな奴はいない。


‥いや、図体だけなら稜冠逗の方が上か。まあ、デカさだけな。

ちらりとバレないようにあいつを見れば、俺が伊緒理と話しているのが気になるのかこっちをちらちらちらちら見てハラハラ(遠目にたぶん)している。

「美桜谷なに?」

「皆斗」

「じゃあ、美桜谷皆斗でミミちゃんね。あ、俺のことは伊緒理って呼んで。ミミちゃんってもろオメガだね。美人」

なんだよ。そのくそみてえな呼び名。

「伊緒理はアルファだろ?かっこいいもん」

とりあえず俺も褒めとこ。

「そ。そういうわけだから俺たち今日は一緒に帰ろ」

ああ、”そういうわけ”ね。はいはい。
飯食ってラブホ?それとも伊緒理ん家?カラオケでやるのは勘弁してほしい。

伊緒理は俺の肩に腕を回すとカラーを嵌めている首筋をすん、と嗅いだ。

「ミミちゃん、いー匂い。俺、ミミちゃんの匂い好き」

ガタッ、と後ろの方で机が動く音がする。見れば稜冠逗が立ち上がってぷるぷるしながらこっちを見てる。なんかこええ。震えてるし。

俺の肩に腕を回したまま、伊緒理も稜冠逗の方を向く。虫の好かない顔して奴の顔を見てる。自分より身体のでかい稜冠逗が気に食わないのだろう。アルファの本能かな。

これはチャンス。

「あいつ何?こっち見てきてこわいんだけど」

ちいさな声でぽそりと言う。

伊緒理がにやりと笑う。

「な。ミミちゃんのこと狙ってんじゃない?ミミちゃんきれいだから」

狙われてるどころかあいつは俺の運命の番で(認めたくないけど)もう致しちゃってんだけど。

俺はさも弱いオメガの雰囲気を出して伊緒理に媚びる。

「‥‥ならさ、俺のそばにいてくんない?」

伊緒理は頼られて男心をくすぐられたのか、俺の肩に回す腕に力を入れて引き寄せ、自信に満ちた声で言う。

「もちろん。ミミちゃんは俺のオメガだもん」

いいね。そうやって俺のナイトになってくれよ。俺は艶っぽく微笑み伊緒理に言う。

「今日、一緒に帰るの楽しみ」

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