上 下
20 / 34

20

しおりを挟む
今日は珍しく仕事で唯継の帰りが遅い。夜の8時過ぎ、仕事を終えた俺はひとりで帰る。電車乗るの久しぶりだ。最近はほとんど行きも帰りも唯継の運転手付きの車だったからな。

電車に揺られながらぼーっとしてると目の前のカップルが酔っているのか、ほんのり赤い顔でいちゃつき出した。

「るなちゃん」「しょうちゃん」ってお互いの名前を呼び合ってハートマークを周りに飛び散らせている。

ふたりは人目も憚らず、手を握ったり髪を触ったりしていて男はさらになんなら腰に回した手を伸ばして女の子の乳に触り出しそうな勢いだ。ちくしょういいな。乳。大は小を兼ねるから乳は大きい方がいいに決まってる。まあ俺の好みだけど。るなちゃんの乳はそれなりにふんわかしてほっこりしてぽわっとしてた。

「一生一緒にいようね」とかなんとか言ってるカップルを背にして俺は電車を降り、唯継と暮らすマンションに帰る。

今日の夕食は昨日唯継が作ってくれたカレーだ。市販のルーにくっそ高い和牛の塊り肉を入れた唯継特製「肉が異常に美味いカレー」である。

それを温めて、テレビを見ながらもぐもぐ食べてる途中で俺は重大なことに気が付いてしまったのだ。



俺、唯継と一生一緒にいたら童貞のままじゃねえ?



俺は思わず持っていたスプーンをテーブルに落としてしまう。カレーが付いたままのスプーンはカラン‥!と悲しい音を立てた。

俺は食いかけのカレーもそのままに立ち上がると財布の中身を数えたあとにスマホを見る。スマホの画面に映るのは顔を隠していやらしい下着を着たお姉さんたちだ。いける、金は足りる。今の俺には泡の天国、そう、ソープしかない‥!

俺だって本当はちゃんと恋愛をして女の子と童貞を捨てたかった。男には男のロマンがあるのだ。

しかし俺には唯継がいる。寝ている時にお腹をぽりぽり掻いてても格好良くて、俺が晩飯を作る時はいつもおにぎり(塩)だけでも美味しいねって文句ひとつ言わないで食べてくれる可愛い俺の最高の恋人だ。

その唯継がいるから、俺は黙ってひっそりソープに行ってこっそり童貞を捨ててこようと思う。

それくらいはいいだろう?そうだ。今思いついたが、手に余るくらいの大きなおっぱいを鷲掴みするのが俺の夢だった。夢を今すぐ叶えに行こう。

スマホを高速でスクロールし、童貞を捧げる店に目星をつけると俺は飛び出した。唯継はまだ帰ってこないし、さらに明日は仕事が休みである。神が味方をしている。これは童貞を捨ててこいとの思し召しかもしれん。

玄関を開け、エレベーターを降り、高級ホテルのようなロビーに出ると、しかしそこにはコンシェルジュに迎えられるびしりと上質なスーツに身を包む美形男子が居た。もちろん唯継である。

こんなに心臓に悪い美形男子見たことない。唯継は俺に気がつくと「ただいま」と笑顔でこちらに向かってきた。

「どうしたの?どこ行くの」

「え、‥ああ、うん」

ちょっと今からソープ行ってくる。とはさすがに言えないだろう。俺は背中に嫌な汗をじっとりかきながら目をきょろきょろさせて丸メガネのブリッジを上げて「コンビニ行く」と嘘をついた。

唯継が当たり前のようについて来るから俺は焦って唯継の肩をやんわり押した。

「来なくていいよ。今日、遅かったし疲れたろ?俺、なんか甘いもんでも買ってくるから」

そういうと唯継の返事も待たず足早に唯継の横を通り抜け、ハイクラスでハイグレードマンションを出たのだった。




そして、歓楽街───‥。

夜風はなんて冷たいのだろう。みなさんに俺のソープの結果だけ掻い摘んでお話しますとですね。

まあ、ソープのお姉さんのおっぱいはとっても魅力的だったのに、俺の愚息はうんともすんとも言いませんでした。だから「ちょっと飼ってるザリガニが死んでナイーブになってるわ」って言って逃げ出してきた。でも乳はちょっと揉んだ。泣いた。

泣きながら俺は唯継のマンションに帰った。女の子とセックス出来なかったことが悲しかったんじゃない。俺はそん時気付いたんだ。唯継を愛してるって。だって身体は正直で、女の子にぴくりとも反応しなかった。身体が反応しないってこと心も反応してないってことだろ。

ばかな俺は他の人と触れあうまでそんなこともわからなかったんだ。

唯継、ごめんよ。って玄関を開けてリビングに行けば静かにソファに座ったままいつもみたいに出迎えもしてくれない唯継。

「唯継‥?」

いつもの穏やかでふんわりとした雰囲気がどことなく冷たい。俺はどきどきしながら唯継をもう一度呼んだ。なんだか浮気してる亭主みたいな気分だ。

「コンビニ、どこまで行ってたの?」

何もかも知ってそうな口調で俺に尋ねる唯継。恋愛慣れしている唯継は俺のぎこちない態度や雰囲気で俺が何かやましいことをしてきたのを察している素振りをみせる。

いやいや、強気だ。俺。悟られてはいまい。

しかしソープまでの往復移動時間、さくっとやってさくっと帰るつもりだった40分コース(実際居たのは20分くらいだが)の間、俺はずっと唯継を待たせていのだ。

時計をちらりと見ればもう日付けが変わろうとしている。

「そ、その食べたいスイーツが無かったからハシゴしてた‥」

「こんな時間まで?」

たしかに。不自然だ。迷子の子供が‥、いや、こんな時間に子供は無理があるな。迷子の子猫を見つけて‥。俺が必死に考えていると唯継は立ち上がり俺のそばに寄るとすん、と鼻を嗅いだ。

「いい匂いがするね?」

そういやソープでシャワー浴びたな。

あっ、あー‥‥、もしかしてこれ、言い訳ができないやつですかね‥?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...