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美形男子とのやり取りはあの日で終わらなかった。
今日もじめじめとして小雨の降る不快指数100%の夕方に美形男子はやってきた。相変わらずじめじめを浄化するかのようなさわやかさで登場してくる。しかも外は雨だってのにパリッとしたスーツに雨粒なんてこれっぽっちも付いていない。
「藤野くん、こんにちは。今日は図書カードを作りたいんだけど」
俺がカウンターで仕事をしていると美形男子は声を掛けてきた。
「あー、どうもっす。図書カード‥」
え?作るの?図書カード‥。別にいいけどさ。なんかこの美形男子はタブレットで経済本とか読んでそうなイメージなんだよね。まあ、図書館の経済本でもいいけどさ。まさに経済的だし。いや?わざわざ図書館に借りに来るんだから非効率か?この人くそ高そうなスーツ着てるけど本買う金無いのかな?時間も午後5時ちょっと前。いくらなんでもまだ仕事してる時間だろ。ふつう。
おしゃれ高級スーツはニートとかやってるの?それか金持ちの女のヒモとかやってるとか?ヒモ、本買う金もねえのかな?それとも節約家なのか?ヒモなのに?でもまあ節約は大事だよな。
「あ、えーと、じゃあこの用紙の太枠部分を記入して、あと身分証お願いします」
まあなんでもいっか。こいつは昼から高級スーツで図書館にぶらり節約しに本を借りに来る節約高級スーツニートなんだな、とりあえず。ヒモがどうかは知らんが。あと昼に暇にしてる高級スーツって言えばホストとか思いつくけど、ホストとかヒモってこの人には似合わないイメージだよなあ。
なんか品があるからどこぞの御曹司ですって言われたほうがしっくりくる。
『田宮文具、田宮唯継』
そうそうこういう感じ。田宮文具とかそれっぽいわ。
て、名刺じゃん。これ。
「あー、いや、名刺じゃダメなんですよ。身分証で」
と思ったら名刺の下には運転免許証もあった。なぜ名刺も出す?田宮よ。
「名刺は藤野くんに持って貰いたくて」
「え、なんですか??」
俺は田宮さんに顔を向けず、書いてもらった用紙を見ながら図書館利用者のデータベースの必要欄を埋めて行く。
田宮唯継、年齢は28か。住所、電話番号。っと。
「ほら、こないだの本。怒られたりしていない?連絡ほしくて」
「あー‥」
ま、少しざわついたけどあの本のことはお咎めなしで終わった。
「あれ、処理終わりましたから。もう気にしないでください」
責任感の強い田宮さんにちょっと感動しつつ、彼が気にしないよう、俺はフルスマイルで身分証と名刺を返した。
「あ、ああ」
なぜか俺をしばらく見つめ、すこし残念そうに肩を落とす田宮さん。なぜだ?この美形男子はたまに謎の行動を取る。
「田宮さんって田宮文具で働いてるんですか?営業とか?こんな時間に暇してるなんて」
しょうがないからこっちから話題を振る。田宮文具って言ったら俺でも知ってる老舗文具メーカーだ。
「祖父の会社なんだ。私も働かせてもらってる」
「え?!じゃあ本当に御曹司??」
「本当か嘘かで言えば本当に御曹司だよ」
別に疑ったわけではなくて。まあ田宮さんに何が本当なのかわかるはずもない。てかニートとかヒモとかホストとか言ったやつ出てこいよ。
「あー‥、なんか、すいません」
自分のバカな発想に居た堪れなくなってちょっと顔を赤くした。田宮さん、恥ずかしいからそんなに凝視すんなよ。悪かったって。
「かわい‥。あ、えっと、じゃあこれ今日は借りてっていいかな」
田宮さんは一冊の本を俺に渡す。
『あの子と知り合いになりたい!なんでも交友術!!』
なんかさー、田宮さんさー、こう言っちゃ悪いけど、御曹司ならこんな本くらい買えよ。この人変わってんな。それとも金持ちほどケチくさいってやつか?
「人付き合い苦手で」
俺の視線をどう受け取ったのか、そんなこと微塵もなさそうな堂々とした口調で田宮さんは言う。本当か??振る舞いが人たらしっぽいんだけどな。まあ勝手に人をイメージで決めつけるの良くないな。昼に図書館に来てるからヒモかニートとかさ。俺はさっき学んだばかりだ。
それに俺も人付き合い苦手だから、この本ちょっと共感。
「わかります」って笑ったら、田宮さんはすかさず胸ポケットからスマホを出してきた。
「連絡先交換しようよ。身近に理解してくれる人がいて嬉しい。この本の感想、君と話したい」
「え」
まじか。田宮さんすごい積極的じゃん。この本必要?
「あー、すんません、スマホロッカーなんで‥」
「そっか。就業中だもんね。ごめんごめん」
「いえいえ」
俺は明るく、じゃあ、さようなら。お疲れ様です。って雰囲気出したけど田宮さんは気にせず言葉を続けた。
「今日は閉館まで?そこのカフェで待っててもいいかな。これ、読んで待ってるから」
いやいやいやいや。仕事をしなさいよ、御曹司。あとその交渉術の本何書いてる知らないけど、田宮さんは読む必要なんかない気がする。
「仕事、しなくていいんすか?」
俺はちらっと田宮さんを上目遣いで見る。まあこの身長差だとしょうがないよね。田宮さんもなぜか目力が強い。
「社内も社外も人との付き合いはどこにでもあるからね。交渉術、あらためて勉強するよ」
さぼりじゃん。カフェでもう身についてるであろう交渉術の本読みながら、感想言いたがために図書館のスタッフの出待ちすんだろ?あんがいぼんくら御曹司なのかも。ちょっと親近感。てか本の感想話したいとか、田宮さん友達いねえの?そんだけ美形で?彼女とかさ。
俺は田宮さんに少し興味が湧いてきて「じゃあ、終わったらカフェに行きます」って頷いた。
今日もじめじめとして小雨の降る不快指数100%の夕方に美形男子はやってきた。相変わらずじめじめを浄化するかのようなさわやかさで登場してくる。しかも外は雨だってのにパリッとしたスーツに雨粒なんてこれっぽっちも付いていない。
「藤野くん、こんにちは。今日は図書カードを作りたいんだけど」
俺がカウンターで仕事をしていると美形男子は声を掛けてきた。
「あー、どうもっす。図書カード‥」
え?作るの?図書カード‥。別にいいけどさ。なんかこの美形男子はタブレットで経済本とか読んでそうなイメージなんだよね。まあ、図書館の経済本でもいいけどさ。まさに経済的だし。いや?わざわざ図書館に借りに来るんだから非効率か?この人くそ高そうなスーツ着てるけど本買う金無いのかな?時間も午後5時ちょっと前。いくらなんでもまだ仕事してる時間だろ。ふつう。
おしゃれ高級スーツはニートとかやってるの?それか金持ちの女のヒモとかやってるとか?ヒモ、本買う金もねえのかな?それとも節約家なのか?ヒモなのに?でもまあ節約は大事だよな。
「あ、えーと、じゃあこの用紙の太枠部分を記入して、あと身分証お願いします」
まあなんでもいっか。こいつは昼から高級スーツで図書館にぶらり節約しに本を借りに来る節約高級スーツニートなんだな、とりあえず。ヒモがどうかは知らんが。あと昼に暇にしてる高級スーツって言えばホストとか思いつくけど、ホストとかヒモってこの人には似合わないイメージだよなあ。
なんか品があるからどこぞの御曹司ですって言われたほうがしっくりくる。
『田宮文具、田宮唯継』
そうそうこういう感じ。田宮文具とかそれっぽいわ。
て、名刺じゃん。これ。
「あー、いや、名刺じゃダメなんですよ。身分証で」
と思ったら名刺の下には運転免許証もあった。なぜ名刺も出す?田宮よ。
「名刺は藤野くんに持って貰いたくて」
「え、なんですか??」
俺は田宮さんに顔を向けず、書いてもらった用紙を見ながら図書館利用者のデータベースの必要欄を埋めて行く。
田宮唯継、年齢は28か。住所、電話番号。っと。
「ほら、こないだの本。怒られたりしていない?連絡ほしくて」
「あー‥」
ま、少しざわついたけどあの本のことはお咎めなしで終わった。
「あれ、処理終わりましたから。もう気にしないでください」
責任感の強い田宮さんにちょっと感動しつつ、彼が気にしないよう、俺はフルスマイルで身分証と名刺を返した。
「あ、ああ」
なぜか俺をしばらく見つめ、すこし残念そうに肩を落とす田宮さん。なぜだ?この美形男子はたまに謎の行動を取る。
「田宮さんって田宮文具で働いてるんですか?営業とか?こんな時間に暇してるなんて」
しょうがないからこっちから話題を振る。田宮文具って言ったら俺でも知ってる老舗文具メーカーだ。
「祖父の会社なんだ。私も働かせてもらってる」
「え?!じゃあ本当に御曹司??」
「本当か嘘かで言えば本当に御曹司だよ」
別に疑ったわけではなくて。まあ田宮さんに何が本当なのかわかるはずもない。てかニートとかヒモとかホストとか言ったやつ出てこいよ。
「あー‥、なんか、すいません」
自分のバカな発想に居た堪れなくなってちょっと顔を赤くした。田宮さん、恥ずかしいからそんなに凝視すんなよ。悪かったって。
「かわい‥。あ、えっと、じゃあこれ今日は借りてっていいかな」
田宮さんは一冊の本を俺に渡す。
『あの子と知り合いになりたい!なんでも交友術!!』
なんかさー、田宮さんさー、こう言っちゃ悪いけど、御曹司ならこんな本くらい買えよ。この人変わってんな。それとも金持ちほどケチくさいってやつか?
「人付き合い苦手で」
俺の視線をどう受け取ったのか、そんなこと微塵もなさそうな堂々とした口調で田宮さんは言う。本当か??振る舞いが人たらしっぽいんだけどな。まあ勝手に人をイメージで決めつけるの良くないな。昼に図書館に来てるからヒモかニートとかさ。俺はさっき学んだばかりだ。
それに俺も人付き合い苦手だから、この本ちょっと共感。
「わかります」って笑ったら、田宮さんはすかさず胸ポケットからスマホを出してきた。
「連絡先交換しようよ。身近に理解してくれる人がいて嬉しい。この本の感想、君と話したい」
「え」
まじか。田宮さんすごい積極的じゃん。この本必要?
「あー、すんません、スマホロッカーなんで‥」
「そっか。就業中だもんね。ごめんごめん」
「いえいえ」
俺は明るく、じゃあ、さようなら。お疲れ様です。って雰囲気出したけど田宮さんは気にせず言葉を続けた。
「今日は閉館まで?そこのカフェで待っててもいいかな。これ、読んで待ってるから」
いやいやいやいや。仕事をしなさいよ、御曹司。あとその交渉術の本何書いてる知らないけど、田宮さんは読む必要なんかない気がする。
「仕事、しなくていいんすか?」
俺はちらっと田宮さんを上目遣いで見る。まあこの身長差だとしょうがないよね。田宮さんもなぜか目力が強い。
「社内も社外も人との付き合いはどこにでもあるからね。交渉術、あらためて勉強するよ」
さぼりじゃん。カフェでもう身についてるであろう交渉術の本読みながら、感想言いたがために図書館のスタッフの出待ちすんだろ?あんがいぼんくら御曹司なのかも。ちょっと親近感。てか本の感想話したいとか、田宮さん友達いねえの?そんだけ美形で?彼女とかさ。
俺は田宮さんに少し興味が湧いてきて「じゃあ、終わったらカフェに行きます」って頷いた。
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