妖のツガイ

えい

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番じゃない1

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 蓮は呆れて言った。
 
「だから、何度も言ってるでしょ。番じゃないよ、拙は」
 
 宵藍が蓮と共に人前に現れた後、今はまで見向きもしなかった仙人たちがこぞってやってきた。七生と宝凛が門前払いしているが、それでも門の前でワイワイと盛り上がっている。
 あれだけ仲良くしているのだから、これはきっと番に違いない。そう見たままに勝手に判断した人間たちが蓮に取り入ろうとした。
 だけれど、 妖仙たちは確信を持ってしまった。蓮は宵藍の番ではない。蓮が持つ気は宵藍のそれではない。宵藍のお気に入りを、自分のものにできるかもしれない。
 それを聞いた蓮は笑った。
 
「人間も、妖も、随分勝手だなぁ」
 
 七生と宝凛は蓮に同情する。
 
「今、奥院から出るのはやめておいた方が良い。変に絡まれて殺傷沙汰になりたくない。そこの半妖は何人かすでに殴ってるからな。欲しいものがあれば言え。手配してやる」
 
 もともと宝凛は仙人側の持ち回り護衛だった。蓮と七生が慣れ親しんでいたおかげで、圧倒的に宝凛率が高かったが、固定にしてもらった。宝凛の師である宝禄は仙人側では実力者で並ぶ者はほとんどいないらしく、宝家の後押しもあり、宝凛は不本意ながらも七生と組んで護衛の名の下に、蓮の世話を焼いている。世話と言っても七生ほど小回りが利くわけではないが、宝家の下っ端ではあるのでたまに人間らしい気遣いを見せた。それに、宝凛は医者としての腕は良い。
 七生はやられたらやり返す精神で、すぐに剣を抜くが、宝凛は、極力肉体的な争いはしない性質だ。口だけであれば何十倍にして返すが。
 
「釣り行きたい。狩りがしたい」
「だめだ」
 
 現在、蓮は謹慎中である。火焔に戦場へ行ったことがバレたのだ。七生も絞られたらしく、むすっとしながら奥院に引きこもっている。
 蓮は2人にさらに言う。
 
「宵藍は好きにしろって言うよ」
「……だめだ」
 
 宵藍の名を出せば2人はぶれるが、ぎりぎり押し止まった。
 
「ぼくは、わかったことがある。大師父は世間に疎い。いまどういう状況かわかってないんじゃないか?」
 
 蓮はきょとんとした。
 
「今更?世間に疎いというか、人間のことはわからないし、あの様子だと妖のこともわかってないんじゃない?そもそも他に対して興味がない。拙のことは、子犬とか子猫とかそういう感じに見てるよ。絶対」
「愛玩かよ」
 
 七生は、やれやれと口を出す。
 
「妖なんざ、そんなもんだろ。妖仙はまぁ、人間側についた変わり者だ。姿は人間の型をとってるが、見かけだけ。火焔を見てみろよ。あんなどこぞの公子ですーっつーナリしてるが、中身は無慈悲冷血冷徹大妖怪サマ。要するにバケモノだ」
「そうなの?」
 
 2人は大きく頷いた。
 
「あいつ、平気で人間食うし。罪人だけだけど」
「大丈夫なの?瘴気とかあるんじゃないの?」
「その分、気も食うから。あいつ信者多いし、雑食だし」
「信者?雑食?」
「人とかの気食えば昇華される。人に害は、多分ない」
「もしかして、眼を合わせたりするそれ」
「眼が一番気づかれないように食える。あとは接触だ」
「あぁ、宵藍がよくやってる」
「なんで、それで番わねぇんだ?不思議なんだが」
「拙に聞かないでよ。きっぱりと番いたくないって言われてるよ拙」
 
 蓮と七生の会話に入れない宝凛が、机を叩く。
 
「蓮、おまえは?おまえは!どうしたいんだよ?大師父の、その番、になりたいとかなりたくないとかなんかこう意思表示!」
「なんでお前顔真っ赤なんだよ」
「う、うるさい」
 
 蓮は二人の言い合いを聞きながら少し考えては見る。
 そもそも、番になるという感覚がわからない。妖の習性だか説明されてもわからない。別に宵藍が何かしたいなら好きにしろだし、したくないならしなくて良いとしか答えようがない。気がほしいなら勝手に食べれば良いし、現に勝手に食べてる。だから何だと言うのか。
 
「妖ってのはな、結局、一番の好物は人間なんだ。番っつー機能で合法的にかつ、安全に食べられることができるようになったと思えば良い。番を持たない奴はその辺でつまみ食いしてるんだ。好みの人間の気をな」
「拙は今宵藍につまみ食いされてるってこと?それで良くないだめなの?」
「大将まで行くと、足りないんだろ。つまみ食いなんて……一口しか食えないんだからな」
「ご飯が足りないのか。それは由々しき問題。とっとと、拙を番にして、たくさん食べれば良いのにね?」
「………………人間と妖の感覚が一緒だとは思うなよ。番とはあれだ、ケッコン。人間で言うケッコンだよ。それよりももっとヒデェ……いや大変」
「ふぅん?」
 
 考えた結果、なんかこれと似たことに以前遭遇したことがある。そのときは当事者ではなかったが、これは。
 
「もしかして、今の状況って、外野から結婚するのしないの?って言われてる状態なのかな。ウワ……」
 
 それは宵藍でなくても嫌になる。
 宝凛が肘をついて七生を見る。
 
「なぁ、その気を食う奴って半妖のおまえもなの?」
「あ?」
「半妖の、おまえも、気ぃ食うのかって聞いてんの」
 
 七生は話しにくそうに、ガリガリと頭を掻いた。
 
「まぁ、半分は、妖だから、食うけどよ……」
 
 蓮と宝凛がハテナを浮かべながら七生を見る。
 
「俺は、一人で瘴気を昇華できないってのは、一人じゃ気を食えないって意味だ。補助が必要。以上だ」
「補助?赤ちゃんかよ?」
「っるせー」
 
 七生が宝凛に頭突きをして、そのまま眼を見た。
 
「俺に気ぃ寄越せ」
「はー?」
「良いから。気送るイメージしろ」
「半妖のくせに、偉そうに」
 
 宝凛はグチグチと言いながらも七生の言う通りにはしていた。
 
「七生、瞳孔開いてる。キモい」
「…………オマエ、黙れ」
 
 七生が宝凛の胸ぐらを掴んで下から睨んだ。
 
「フン。気ぃやっただろ。ちゃんと食えたか?赤ちゃん」
「――食えた。うん、食えた。……半妖の場合、相手に送ってもらわねぇと食えないから、つまみ食いできねぇ…………あ、だめだ。オマエの気、合わねぇわ。酔った」
 
 七生は視界をぐらつかせて床にステーンと転がった。
 
「せっかく食わせてやったのに、失礼だな」
「合う合わないがあるってやつね」
「安心しろ。不味くはねぇよ」
「なんの安心だよ」
「拙のは?」
 
 七生は視線を彷徨わせて言った。
 
「オマエのは食えねぇよ。その辺の妖のならまだいいが、オマエは大将のだ。番ではなくとも、大将のメシには変わりない」
「おまえら妖は言い方が失礼だぞ」
「人間に合わせて説明するとこうなんだよ」
 
 七生がズリズリと起き上がって机に突っ伏す。耳がへたっているのを宝凛が摘んでも、ピクピクと振るわせるだけで文句は言わなかった。
 蓮がぽんと手を叩いて言う。
 
「番=おいしいご飯たくさんってことで、番がなくなるとおいしいご飯なくなるってこと?」
「妖は番ができればそれしか食わなくなる。だから番がなくなる=メシがなくなる。だ」
「……なくなったら、次の番を作るとかできないの?複数の番を持つとかさ?死んじゃうじゃん」
「妖による。複数持つやつもいるし、番が死んだら次の番を作るやつもいるが、簡単じゃねぇ。ほとんどは番が死んだら死ぬし、自分が死んだら他の奴に奪われないように殺す。複数番を持つのは妖魔と、性癖がおかしいやつくらいだ」
 
 それから七生がぼんやりと言う。
 
「俺ならどれもごめんだな。複数なんざ面倒見切れねぇし、殺すのもぜってぇ嫌。目の前で死なれんのも嫌」
「おまえが言うとわがままに聞こえるんだけど、それが普通だろ。妖ってそういうの考えながら生きてんの?ダル」
 
 七生がじとりと宝凛を見て、何も言わずに突っ伏した。
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