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第3部 天の碧落
第6章 砂丘の摩天楼 1
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二日西に進むと、その場所は見えてきた。
アレクシスの言葉通り砂丘の只中にそれはあった。既に雪は小さく空から落ち始めていて、風を切る馬での道のりはトリニティの想像以上に厳しいものだった。
「砂丘って言葉だけは知っていたけど……こんなに砂ばかりなの?」
「すぐ近くに山や海が見えるなら、単に砂浜とだけ言うんじゃないか?」
「そりゃ、そうだけど……」
アレクシスにさらりと言われたトリニティは軽く吐息をついて、周囲をぐるりと見渡した。
360度見渡す限り砂のみ。
馬上で切る風は驚くほどに冷たい。これだけの防寒着を着こんでなお、手も足も千切れそうに冷えていた。
これほどの砂のみの世界で、アレクシスは何を目印に歩いているのだろうか。トリニティが訝っていると、後ろからアレクシスが声を掛けてきた。
「そろそろ見えるはずだ」
「見える──?」
何を、と言いかけて止めた。自分達が魔王のダンジョンを目指して旅している以上、それ以外の答えはありえない。
トリニティは馬の背に揺られる苦痛を根気よく我慢した。そしてじきに──アレクシスの言うとおり──それは見え始めた。
トリニティは思わず息を飲んだ。
「何──あれ……」自然と声が掠んだ。「凄い」
雪煙の向こう。それは煙るようにして姿を現した。再び口にする。
「凄い……」
そんな言葉でしかその光景を表現することが出来なかった。それ程の光景が、砂の丘の下に広がっていた。
巨大な建造物の群れ。
それは太古の文明の遺産だろうか。
トリニティが見たこともない巨大な塔が幾つも幾つも群がっていた。それらは、その殆どが砂に埋もれ、傾ぎ、崩れている。それでもなお、砂の上に突き出た塔は天を突くほどに聳えていた。
「信じられない……」
トリニティは震える声で、吐息のように呟いた。此処からでもこれだけの大きさに見えるということは、塔の群れの実際の巨大さ、高さはどれ程のものだろう。
塔の群れの向こうに、微かに灰色に霞むうねりの様な景色が広がって見えた。
「あれが海だ」
「海?」
「海を見たのは初めてか?」
問われたトリニティは力を込めて頷いた。海も。遺跡も。信じられないような光景がそこには広がっている。この世にこんな場所が存在していたなど、想像さえしたことがなかった。
激しい衝撃を受けたように目前に広がる光景に見入っているトリニティに、アレクシスは苦笑しながら言った。
「近づけばもっと驚くことになる」
「あれ──あれは、何っ?」
トリニティは咳き込むように尋ねた。
「さあな」アレクシスにとっては見慣れた景色だからだろうか──さして感慨深げでもなくさらりとそう言って、肩を竦めた。「古い時代の遺跡らしい。数千年は前のもののようだ」
「あそこにダンジョンがあるの?」
「そうだ」──今度は、その声が堅く緊張したものに変わった──「あの塔の一つに、ダンジョンがある……。魔王のダンジョンは一から作り上げたものではなく、元からあった遺跡を利用して作られたものなんだ」
「利用?」
「ああ」
アレクシスは馬の手綱を握り締めた。馬がその歩みを速めた。
「塔はその殆どが砂に埋もれている。地下に向かって何十階と伸びているんだ。最も深く巨大な塔の地下の、さらに下に……魔王の守護石(アミュレット)を収める場所がある」
「場所がある……って、じゃあ、もうダンジョンは完成しているの?」
アレクシスの言葉を聴きとめたトリニティは思わず聞いてしまった。アレクシスが頷き、少し沈んだ口調で答えた。
「ああ。ダンジョンの外形そのものは完成したといっていいだろう。後は強力な結界と、ダンジョンに侵入者が入れないようにするためのトラップとを張り巡らせるだけだ」
それを聞いたトリニティの頬が紅潮した。
「じゃあ──。それであなたは晴れて自由の身なの? 一族は魔王から開放されるの?」
アレクシスの口から何度か聞いた、ダンジョンマスターの重い定め。だがトリニティの質問にアレクシスが答える事はついになかった。
二人は押し黙ったまま、降りしきる雪の中遺跡群の中へ足を踏み入れた。
群れるように狭い間隔で並び、崩壊している巨大な塔の遺跡。塔はそのどれもが四角く、一辺が信じられないくらいの長さがあった。風化してしまったのか、外観に装飾らしいものは何もない。ただ……等間隔に並ぶ窓の造形美だけが、これらの塔の装飾といえばそうなのだろう。窓の並び方はどれも横に一直線なものが何層にも重なっているのだが、それは塔ごとに違っており、よく見れば四角いばかりの塔もそれぞれ微妙にデザインが異なっていた。
そのうちの一つにアレクシスは馬ごと中に入った。
暗い。
おそらくは遺跡の中央辺りの塔だと思われる。外界の暗さに比例して、塔の中も暗かった。外から微かに差し込んでくる心もとない明かり。そして風に流されて吹き込んでくる粉雪。差し出された手に縋りつき、トリニティは馬を下りた。
倒壊した塔は傾いでおり、幾つもの窓から光と粉雪が舞い込んでいた。
「すごい……」
我知らず、ささやくように呟くトリニティの先で馬の手綱を引くアレクシスが振り返った。
「こっちだ」
「あ──待って!」
慌てて後をついていく。
「何処へ行くの? その──ここが、ダンジョン?」
疑問が次々と口を突いてでる。他にも聞きたい疑問はあった。
「そうだ」アレクシスが短く答えた。「下へ行く」
「……馬を連れて?……」
馬鹿な質問だと口に出した後に思った。質問なら他にまだ幾らもあるだろうに。トリニティと同じことを思ったのか、アレクシスが振り返った。
「──そうだ」
それから、こう付け加える。
「お前──前からそうだが──相変わらず変わった奴だな……」
トリニティが顔を赤くした。
「失礼ねっ! ……どうせねっ!……」
再び振り返ったアレクシスが小さく笑った。
「いや──その方がいい」
思わず顔を赤らめたトリニティの目の前で、アレクシスは腰の鞄から変わった筒を取り出した。二重に重なっていた筒を抜くと、周囲に明かりが広がった。
魔法の光彩にも似た不思議な光。
「きれい──」
「これも太古の遺物だ。単なる光だが。……馬を連れて下の階へ行く。地下三階に冬を過ごす為の場所がある。そこに古い資料の類も色々あるから……そこで手掛かりがないか探すことになるな」
トリニティが顔をあげるとアレクシスが頷いた。
「そこに──そこに、呪いを解く方法があるかも知れないのね?」
「そうだ。──あるいは、だが。三百年前からの古い資料が多く、魔王がらみの物も多い。この国の中で魔王の呪いを解こうというのなら……その方法がこの場所以外で見つかる事はないだろう」
トリニティの翡翠の瞳が力強く耀いた。
しっかりと頷く。
遂にきたのだ。望みを繋ぐ場所へと。
(続く)
+-----------------------------+
| 「語バラ(裏)」
+-----------------------------+
「突入! 大詰め撮影現場」
ルイス:「皆さんこんにちは。わたくし、本日のリポーターを勤めさせていただきます、ルイス・バーグです。カメラ担当は勇者ワーナーです!」
勇者:「今のところ出番がないので、カメラマンをしています」
ルイス:「さて、今日は第3部の最終章撮影開始ということで、撮影現場に来ております! あ! 撮影はいよいよ大詰めの場面を迎えているようです! あちらではトリニティ王女とアレクが最後のシーンを撮影しているようですよ! ちょっと、行ってみましょう!」
(カット、カットー! もう一回やり直し!)
トリニティ:「ちょっとアレク! しっかりしてよ、もう!」
アレクシス:「……駄目だっ! 俺にはこんな恥ずかしいシーン出来んっ!」
トリニティ:「そりゃ、あたしだって恥ずかしいわよっ? でも、やらなきゃ話が進まないじゃない!」
アレクシス:「そんな事言ってもだなっ……!」
ルイス:「駄目じゃんアレク、ちゃんと演技しなきゃ。いつもみたく、しかめっ面して黙ってカメラに向かってりゃいいんだよ!」
アレクシス:「お前な~。無責任だぞその台詞」
ルイス:「まあ、第3部最大の山場……つまりは、ラブシーンだもんな──忘れがちだけど、この話って恋愛物語だから」
アレクシス:「うっ……」
ルイス:「まあ。まあ。そう気負うなって。あんま堅くなってると、できる演技も出来なくなるぜ?」
ディーバ:「ほれ」
ルイス:「おっ! 飲み物の差し入れとは気が利くね! さすがは従者。……さ、これでも飲んで、気を落ち着けなよ!」
アレクシス:「……サンキュ……ゴクリ……って、なんだか変な味が……って、これ──何か入って……クッ……苦し……」
ルイス:「……」
ディーバ:「……」
ルイス:「よしよし、効いてきたな。さすが従者、気が利くぜ!」
ディーバ:「ま、こんな時には息もピッタリだな!」
トリニティ:「ちょっと! あんたたち、アレクに何したのよ! 脂汗ながして、悶えて……すごく苦しそうなんだけどっ?」
ルイス:「大丈夫だって。ま、深く追求せずに……ね!」
トリニティ:「ねっ……て! ちょっと!?」
セリス:「さ、お姉さま。今のうちですわ! 毎晩積んできた特訓の成果を試すときが来ましたのよっ!」
ルイス:「……なんだそれ……なんの特訓だよ?」
セリス:「思いのままに男を手に入れる特訓ですわっ!」
トリニティ:「きゃー、きゃー、きゃー、それ、言っちゃダメ~!」
ルイス:「……女って、コエー……」
アレクシス:「ググゲゲ……ゴゴ……」
ルイス:「とにもかくにも、だな……。さっさと監督呼んで来い! 俺たちゃ退散だ。カメラのフレームから出ろっ! じゃっ! 姫さん、健闘を祈る!(ビシっ!)」
トリニティ:「ビシって、何の健闘よっ、何のっ!」
ディーバ:「何って、そいつを襲うなら今って話題だろ!」
トリニティ:「襲うっ!?」
セリス:「失礼なっ! せめて撮影のための演技と仰って下さいな!」
ルイス:「現実的に何をするかは変わんねーじゃん?」
セリス:「女にはしたない表現は控えてくださいませっ! では、お姉さまっ! 上手くやるのですわよっ!」
トリニティ:「あんたが一番はしたないわよ……って。ねえ! 皆、置いてかないでよー!」
アレクシス:「……うう……」
トリニティ:「ア、アレク! ど……どうしよう……あああああっ!」
(はーい、続き撮影はいりまーす! 3、2、1……)
(ガチンコ!)
ルイス:「何処のシーンの撮影だったかは、今後の連載を見て当ててくださいね! それではっ、撮影現場からでした! 皆さん、さーよーうーなーらー!」
(完)
アレクシスの言葉通り砂丘の只中にそれはあった。既に雪は小さく空から落ち始めていて、風を切る馬での道のりはトリニティの想像以上に厳しいものだった。
「砂丘って言葉だけは知っていたけど……こんなに砂ばかりなの?」
「すぐ近くに山や海が見えるなら、単に砂浜とだけ言うんじゃないか?」
「そりゃ、そうだけど……」
アレクシスにさらりと言われたトリニティは軽く吐息をついて、周囲をぐるりと見渡した。
360度見渡す限り砂のみ。
馬上で切る風は驚くほどに冷たい。これだけの防寒着を着こんでなお、手も足も千切れそうに冷えていた。
これほどの砂のみの世界で、アレクシスは何を目印に歩いているのだろうか。トリニティが訝っていると、後ろからアレクシスが声を掛けてきた。
「そろそろ見えるはずだ」
「見える──?」
何を、と言いかけて止めた。自分達が魔王のダンジョンを目指して旅している以上、それ以外の答えはありえない。
トリニティは馬の背に揺られる苦痛を根気よく我慢した。そしてじきに──アレクシスの言うとおり──それは見え始めた。
トリニティは思わず息を飲んだ。
「何──あれ……」自然と声が掠んだ。「凄い」
雪煙の向こう。それは煙るようにして姿を現した。再び口にする。
「凄い……」
そんな言葉でしかその光景を表現することが出来なかった。それ程の光景が、砂の丘の下に広がっていた。
巨大な建造物の群れ。
それは太古の文明の遺産だろうか。
トリニティが見たこともない巨大な塔が幾つも幾つも群がっていた。それらは、その殆どが砂に埋もれ、傾ぎ、崩れている。それでもなお、砂の上に突き出た塔は天を突くほどに聳えていた。
「信じられない……」
トリニティは震える声で、吐息のように呟いた。此処からでもこれだけの大きさに見えるということは、塔の群れの実際の巨大さ、高さはどれ程のものだろう。
塔の群れの向こうに、微かに灰色に霞むうねりの様な景色が広がって見えた。
「あれが海だ」
「海?」
「海を見たのは初めてか?」
問われたトリニティは力を込めて頷いた。海も。遺跡も。信じられないような光景がそこには広がっている。この世にこんな場所が存在していたなど、想像さえしたことがなかった。
激しい衝撃を受けたように目前に広がる光景に見入っているトリニティに、アレクシスは苦笑しながら言った。
「近づけばもっと驚くことになる」
「あれ──あれは、何っ?」
トリニティは咳き込むように尋ねた。
「さあな」アレクシスにとっては見慣れた景色だからだろうか──さして感慨深げでもなくさらりとそう言って、肩を竦めた。「古い時代の遺跡らしい。数千年は前のもののようだ」
「あそこにダンジョンがあるの?」
「そうだ」──今度は、その声が堅く緊張したものに変わった──「あの塔の一つに、ダンジョンがある……。魔王のダンジョンは一から作り上げたものではなく、元からあった遺跡を利用して作られたものなんだ」
「利用?」
「ああ」
アレクシスは馬の手綱を握り締めた。馬がその歩みを速めた。
「塔はその殆どが砂に埋もれている。地下に向かって何十階と伸びているんだ。最も深く巨大な塔の地下の、さらに下に……魔王の守護石(アミュレット)を収める場所がある」
「場所がある……って、じゃあ、もうダンジョンは完成しているの?」
アレクシスの言葉を聴きとめたトリニティは思わず聞いてしまった。アレクシスが頷き、少し沈んだ口調で答えた。
「ああ。ダンジョンの外形そのものは完成したといっていいだろう。後は強力な結界と、ダンジョンに侵入者が入れないようにするためのトラップとを張り巡らせるだけだ」
それを聞いたトリニティの頬が紅潮した。
「じゃあ──。それであなたは晴れて自由の身なの? 一族は魔王から開放されるの?」
アレクシスの口から何度か聞いた、ダンジョンマスターの重い定め。だがトリニティの質問にアレクシスが答える事はついになかった。
二人は押し黙ったまま、降りしきる雪の中遺跡群の中へ足を踏み入れた。
群れるように狭い間隔で並び、崩壊している巨大な塔の遺跡。塔はそのどれもが四角く、一辺が信じられないくらいの長さがあった。風化してしまったのか、外観に装飾らしいものは何もない。ただ……等間隔に並ぶ窓の造形美だけが、これらの塔の装飾といえばそうなのだろう。窓の並び方はどれも横に一直線なものが何層にも重なっているのだが、それは塔ごとに違っており、よく見れば四角いばかりの塔もそれぞれ微妙にデザインが異なっていた。
そのうちの一つにアレクシスは馬ごと中に入った。
暗い。
おそらくは遺跡の中央辺りの塔だと思われる。外界の暗さに比例して、塔の中も暗かった。外から微かに差し込んでくる心もとない明かり。そして風に流されて吹き込んでくる粉雪。差し出された手に縋りつき、トリニティは馬を下りた。
倒壊した塔は傾いでおり、幾つもの窓から光と粉雪が舞い込んでいた。
「すごい……」
我知らず、ささやくように呟くトリニティの先で馬の手綱を引くアレクシスが振り返った。
「こっちだ」
「あ──待って!」
慌てて後をついていく。
「何処へ行くの? その──ここが、ダンジョン?」
疑問が次々と口を突いてでる。他にも聞きたい疑問はあった。
「そうだ」アレクシスが短く答えた。「下へ行く」
「……馬を連れて?……」
馬鹿な質問だと口に出した後に思った。質問なら他にまだ幾らもあるだろうに。トリニティと同じことを思ったのか、アレクシスが振り返った。
「──そうだ」
それから、こう付け加える。
「お前──前からそうだが──相変わらず変わった奴だな……」
トリニティが顔を赤くした。
「失礼ねっ! ……どうせねっ!……」
再び振り返ったアレクシスが小さく笑った。
「いや──その方がいい」
思わず顔を赤らめたトリニティの目の前で、アレクシスは腰の鞄から変わった筒を取り出した。二重に重なっていた筒を抜くと、周囲に明かりが広がった。
魔法の光彩にも似た不思議な光。
「きれい──」
「これも太古の遺物だ。単なる光だが。……馬を連れて下の階へ行く。地下三階に冬を過ごす為の場所がある。そこに古い資料の類も色々あるから……そこで手掛かりがないか探すことになるな」
トリニティが顔をあげるとアレクシスが頷いた。
「そこに──そこに、呪いを解く方法があるかも知れないのね?」
「そうだ。──あるいは、だが。三百年前からの古い資料が多く、魔王がらみの物も多い。この国の中で魔王の呪いを解こうというのなら……その方法がこの場所以外で見つかる事はないだろう」
トリニティの翡翠の瞳が力強く耀いた。
しっかりと頷く。
遂にきたのだ。望みを繋ぐ場所へと。
(続く)
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| 「語バラ(裏)」
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「突入! 大詰め撮影現場」
ルイス:「皆さんこんにちは。わたくし、本日のリポーターを勤めさせていただきます、ルイス・バーグです。カメラ担当は勇者ワーナーです!」
勇者:「今のところ出番がないので、カメラマンをしています」
ルイス:「さて、今日は第3部の最終章撮影開始ということで、撮影現場に来ております! あ! 撮影はいよいよ大詰めの場面を迎えているようです! あちらではトリニティ王女とアレクが最後のシーンを撮影しているようですよ! ちょっと、行ってみましょう!」
(カット、カットー! もう一回やり直し!)
トリニティ:「ちょっとアレク! しっかりしてよ、もう!」
アレクシス:「……駄目だっ! 俺にはこんな恥ずかしいシーン出来んっ!」
トリニティ:「そりゃ、あたしだって恥ずかしいわよっ? でも、やらなきゃ話が進まないじゃない!」
アレクシス:「そんな事言ってもだなっ……!」
ルイス:「駄目じゃんアレク、ちゃんと演技しなきゃ。いつもみたく、しかめっ面して黙ってカメラに向かってりゃいいんだよ!」
アレクシス:「お前な~。無責任だぞその台詞」
ルイス:「まあ、第3部最大の山場……つまりは、ラブシーンだもんな──忘れがちだけど、この話って恋愛物語だから」
アレクシス:「うっ……」
ルイス:「まあ。まあ。そう気負うなって。あんま堅くなってると、できる演技も出来なくなるぜ?」
ディーバ:「ほれ」
ルイス:「おっ! 飲み物の差し入れとは気が利くね! さすがは従者。……さ、これでも飲んで、気を落ち着けなよ!」
アレクシス:「……サンキュ……ゴクリ……って、なんだか変な味が……って、これ──何か入って……クッ……苦し……」
ルイス:「……」
ディーバ:「……」
ルイス:「よしよし、効いてきたな。さすが従者、気が利くぜ!」
ディーバ:「ま、こんな時には息もピッタリだな!」
トリニティ:「ちょっと! あんたたち、アレクに何したのよ! 脂汗ながして、悶えて……すごく苦しそうなんだけどっ?」
ルイス:「大丈夫だって。ま、深く追求せずに……ね!」
トリニティ:「ねっ……て! ちょっと!?」
セリス:「さ、お姉さま。今のうちですわ! 毎晩積んできた特訓の成果を試すときが来ましたのよっ!」
ルイス:「……なんだそれ……なんの特訓だよ?」
セリス:「思いのままに男を手に入れる特訓ですわっ!」
トリニティ:「きゃー、きゃー、きゃー、それ、言っちゃダメ~!」
ルイス:「……女って、コエー……」
アレクシス:「ググゲゲ……ゴゴ……」
ルイス:「とにもかくにも、だな……。さっさと監督呼んで来い! 俺たちゃ退散だ。カメラのフレームから出ろっ! じゃっ! 姫さん、健闘を祈る!(ビシっ!)」
トリニティ:「ビシって、何の健闘よっ、何のっ!」
ディーバ:「何って、そいつを襲うなら今って話題だろ!」
トリニティ:「襲うっ!?」
セリス:「失礼なっ! せめて撮影のための演技と仰って下さいな!」
ルイス:「現実的に何をするかは変わんねーじゃん?」
セリス:「女にはしたない表現は控えてくださいませっ! では、お姉さまっ! 上手くやるのですわよっ!」
トリニティ:「あんたが一番はしたないわよ……って。ねえ! 皆、置いてかないでよー!」
アレクシス:「……うう……」
トリニティ:「ア、アレク! ど……どうしよう……あああああっ!」
(はーい、続き撮影はいりまーす! 3、2、1……)
(ガチンコ!)
ルイス:「何処のシーンの撮影だったかは、今後の連載を見て当ててくださいね! それではっ、撮影現場からでした! 皆さん、さーよーうーなーらー!」
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