7 / 8
謎
しおりを挟む「お久しぶりです旦那サマ。
もうすっかり記憶から抹消されているでしょうが、一応、戸籍上はあなたの妻のメルシェです。
永のお勤めご苦労様でした。では早速ですが、離婚届をお持ちしました。も・ち・ろ・んサインをして頂けますわよね?」
わたしメルシェ=アズマ(20)は
長く待ち侘びたこの瞬間に胸躍る気持ちを隠せないまま、満面の笑みを浮かべて戸籍上の配偶者であるジラルド=アズマ(23)にそう申し出た。
「…………………へ?」
わたしがこの場に現れるなど…いや、わたしという存在すら忘れていたであろうジラルドが間の抜けた素っ頓狂な声を出して呆然とわたしを見つめている。
今この場にはジラルドの仕事仲間達とジラルドの大切なバディが居るが、そんな事お構いナシだ。
こいつの体面なんて知ったこっちゃない。
今を逃せば次にいつ、この男を捕まえられるか分からないから。
ジラルドはしばし呆然とわたしを見つめてから、
やがてはっとして声を発した。
「もしかしてメル!?」
やっぱり顔を忘れていやがったか。
いや、わたしはこの2年で別人になったと自分でも思う。
ノーメイクでどこかまだ“おぼこ”かった18歳のわたしと違って、今のわたしはメイクも服装もヘアスタイルも洗練されたオトナのオンナになったからだ。
自分で言うのはなんか虚しいけど。
ただでさえあのジラルド=アズマの妻になったというだけでも色々と噂されるというのに、
この上“旦那に放ったらかしにされてる惨めでイケてない女”にだけにはなりたくなくて、自分なりに頑張って己を磨いてきたのだ。
しかし……チクショウ、クソったれ。
あ、ちなみはわたしは旦那への鬱屈したストレスを発散させる為に食堂のおじさんに下町の悪い言葉を教えて貰っている。
そして覚えた悪い言葉遣いで散々旦那を罵ってスッキリさせているのだ。
わたしはその食堂のおじさんを、
「スラングティーチャーロム」と呼んでいる。
と、話が逸れてしまったが、
相変わらずジラルドは美しい顔立ちをしていた。
頑張って自分磨きをしたわたしの2年間が虚しくなるほどに。
チクショウ、クソったれ!(やり直し)
隣に座るジラルドのバディ、
魔術師のレディクレメイソンの美貌と並んでも全く遜色ない。
ていうか二人並ぶと歌劇の一幕のような光景だ。
はいはい、お似合いですわよ。
わかってますわよ。
夫婦よりも強い絆で結ばれているんですよね。
今から自由にしてあげるから、とっとと公私共に完璧なパートナー同士になってください。
わたしは極上の笑顔を浮かべながら、ジラルドの前に離婚届を叩きつけてやった。
「おめでとう、よかったですね。これでお互い晴れて自由の身ですわ。離婚届にサインしたら、さっさと役所に届けといて下さいませね。あ、ちなみにあなたが結婚して一晩だけ住んだ家はもう引き払ってありませんのであしからず。それではご機嫌よう。サヨウナラ、どうかお元気で」
わたしは自分でもよく回るなと感心するほど饒舌に捲し立てた。
ジラルド=アズマは呆気に取られた顔をして離婚届とわたしとを交互に見つめている。
わたしは最後にもう一度だけ微笑んだ。そして踵を返し、その場を後にする。
あぁ……終わった。
ホントこの2年、なんだったんだ。
ようやくわたしにも家族が出来ると思っていたのに。
ようやく帰るべき場所を手に入れられたと思っていたのに。
「おはよう」「いただきます」「ありがとう」
「おやすみ」そんな言葉を交わし合える家族が出来たと思っていたのに。
「サヨウナラ」
結局、それだけしか言えなかった。
途端に目頭が熱くなる。
でも絶対泣くもんか。
これは新しい人生の門出なのだ。
あんな旦那の為に流す涙が勿体ない!
「今度はもっとイイ男を見つけてやる!」
わたしは向かい風をものとせず、力強く歩いて行った。
もうすっかり記憶から抹消されているでしょうが、一応、戸籍上はあなたの妻のメルシェです。
永のお勤めご苦労様でした。では早速ですが、離婚届をお持ちしました。も・ち・ろ・んサインをして頂けますわよね?」
わたしメルシェ=アズマ(20)は
長く待ち侘びたこの瞬間に胸躍る気持ちを隠せないまま、満面の笑みを浮かべて戸籍上の配偶者であるジラルド=アズマ(23)にそう申し出た。
「…………………へ?」
わたしがこの場に現れるなど…いや、わたしという存在すら忘れていたであろうジラルドが間の抜けた素っ頓狂な声を出して呆然とわたしを見つめている。
今この場にはジラルドの仕事仲間達とジラルドの大切なバディが居るが、そんな事お構いナシだ。
こいつの体面なんて知ったこっちゃない。
今を逃せば次にいつ、この男を捕まえられるか分からないから。
ジラルドはしばし呆然とわたしを見つめてから、
やがてはっとして声を発した。
「もしかしてメル!?」
やっぱり顔を忘れていやがったか。
いや、わたしはこの2年で別人になったと自分でも思う。
ノーメイクでどこかまだ“おぼこ”かった18歳のわたしと違って、今のわたしはメイクも服装もヘアスタイルも洗練されたオトナのオンナになったからだ。
自分で言うのはなんか虚しいけど。
ただでさえあのジラルド=アズマの妻になったというだけでも色々と噂されるというのに、
この上“旦那に放ったらかしにされてる惨めでイケてない女”にだけにはなりたくなくて、自分なりに頑張って己を磨いてきたのだ。
しかし……チクショウ、クソったれ。
あ、ちなみはわたしは旦那への鬱屈したストレスを発散させる為に食堂のおじさんに下町の悪い言葉を教えて貰っている。
そして覚えた悪い言葉遣いで散々旦那を罵ってスッキリさせているのだ。
わたしはその食堂のおじさんを、
「スラングティーチャーロム」と呼んでいる。
と、話が逸れてしまったが、
相変わらずジラルドは美しい顔立ちをしていた。
頑張って自分磨きをしたわたしの2年間が虚しくなるほどに。
チクショウ、クソったれ!(やり直し)
隣に座るジラルドのバディ、
魔術師のレディクレメイソンの美貌と並んでも全く遜色ない。
ていうか二人並ぶと歌劇の一幕のような光景だ。
はいはい、お似合いですわよ。
わかってますわよ。
夫婦よりも強い絆で結ばれているんですよね。
今から自由にしてあげるから、とっとと公私共に完璧なパートナー同士になってください。
わたしは極上の笑顔を浮かべながら、ジラルドの前に離婚届を叩きつけてやった。
「おめでとう、よかったですね。これでお互い晴れて自由の身ですわ。離婚届にサインしたら、さっさと役所に届けといて下さいませね。あ、ちなみにあなたが結婚して一晩だけ住んだ家はもう引き払ってありませんのであしからず。それではご機嫌よう。サヨウナラ、どうかお元気で」
わたしは自分でもよく回るなと感心するほど饒舌に捲し立てた。
ジラルド=アズマは呆気に取られた顔をして離婚届とわたしとを交互に見つめている。
わたしは最後にもう一度だけ微笑んだ。そして踵を返し、その場を後にする。
あぁ……終わった。
ホントこの2年、なんだったんだ。
ようやくわたしにも家族が出来ると思っていたのに。
ようやく帰るべき場所を手に入れられたと思っていたのに。
「おはよう」「いただきます」「ありがとう」
「おやすみ」そんな言葉を交わし合える家族が出来たと思っていたのに。
「サヨウナラ」
結局、それだけしか言えなかった。
途端に目頭が熱くなる。
でも絶対泣くもんか。
これは新しい人生の門出なのだ。
あんな旦那の為に流す涙が勿体ない!
「今度はもっとイイ男を見つけてやる!」
わたしは向かい風をものとせず、力強く歩いて行った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる