願いを叶えてくれる悪魔

ジャメヴ

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  何だって?!  

  その人物の汚い声は心なしか笑っているように感じとれた。
  俺の身体に悪寒が走る。脳を急速に回転させ、何が起こったのかを考える。
  人間を操る能力!  悪魔は俺の母さんを操っていたのか?!  何て事を……。俺は助けなきゃいけない母さんを自分の手で殺してしまった……。

「さあ、どうするんだい?  母親を生き返らせようか?」

  俺は自分のとんでもない失敗で、生きる気力を失ってしまった。

「……お願いします」
俺は力無く小さな声で言った。

  自分を犠牲にして母さんの難病を治した父さん、自分を犠牲にして俺の難病を治した母さん。俺は誰も救えないどころか母さんを自ら殺してしまった……。もう、俺はどうなっても良い……。

  その後、身体が徐々に痛み出した。ジンジンと全身が熱くなる。両手を見るとボコボコに爛《ただ》れ出しているようだ。暗闇の為、色目は分からないけど、黒ずんでいるような気がする。悲しい……。悔しい……。腹立たしい……。俺は涙が頬を伝うのを感じながら、呆然とその場に立ち尽くした。

「ぎゃあああ!!」
「?!」
洋館2階辺りから断末魔が聞こえてきた。俺が驚いて上を見ると、ドロドロに溶けている物体がある。どういう事だ?!
「狩野!  大丈夫か?!」
右後ろから中村の声がしたので振り向くと、安っぽいマシンガンのような物を持って中村が立っていた。
「中村……どうして?」
「いや、俺も記憶が曖昧なんだけど、狩野が今日もここにくると思って助けに来たんだと思う」
「それは?」
「これはウォーターガンだよ。聖水が入っている」
「と言う事は、中村が悪魔を倒してくれたのか?」
「ああ、タイミング良く悪魔がお前に術を掛けているのが見えたからな。こいつでおもいっきり聖水をぶっ掛けてやったよ」
中村はウォーターガンを自慢気に見せながら言った。
「ありがとう。助かったよ」
俺はホッとして自分の両手を見ると、先程まで爛れていた手が綺麗に治っていた。その時、俺が刺し殺した筈の老婆がゆっくりと起き上がろうとしていた。
「母さん?」
こっちを見た人物は焦って黒のマントで顔を隠した。ただ、明らかに先程より細くなっている。
「母さん、悪魔の術は解けたんだよ!」
母さんは自分の両手を見た後、自分の身体と顔を触って確認した。
せい……わあああああ」
母さんは俺の右足に抱きついて泣き出した。
「星、ありがとう」
館の奥から聞き覚えのある声がした。暗闇の上、黒いマントで身体を覆っているので、見た目では誰か分からないけど、久し振りに聞いたその声は、紛れもなく父さんの声だった。
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