1875

ジャメヴ

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ボート

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  七音だ! あまりに騒がしいので起きたのだろう。 俺の作戦が取り敢えず成功した事になるけど、状況が状況だけに「よし!」という気持ちにはならなかった。
「ど、どうしたんですか?!」
「犯人を捕まえたんだよ」
「七音、誤解なんだ。助けてくれ」
「犯人って?」
「殺人犯だよ!」
「双六が?  それより荒川さん、どうしてスタンガンなんか持ってるんですか?」
七音は遠目から、荒川がスタンガンを持っていると指摘した。恐らく、部屋の中でスパーク音を聞いたから直ぐに理解したのだろう。七音は俺より荒川の方を疑っているのかもしれない。
「知らない奴が集まるっていうから護身用として持ってきてたんだよ。持ってきて大正解だった」
「荒川さん聞いてください!  七音もちょっと聞いてくれ!」
俺は寝たまま半身で荒川の方を向き、目を見て話す。
「荒川さん、俺はあなたの弟なんです」
「はあ?  何を言ってるんだ?」
「七音も聞いてくれ!  荒川さんと俺と七音は異母兄弟なんだ!」
「異母兄弟?」
「そんな無茶苦茶な嘘で助かろうって言うのか?」
「嘘じゃ無いんです。今から1875の謎を説明します」
俺は荒川と七音に1875の謎を解説した。俺達が18.75%同血の近親兄弟だという事。進行役は俺達の父親だという事。それを聞いて荒川が質問する。
「仮に、それを信用するとして、俺を縛った奴は誰なんだ? 父親なのか?」
「・・・それは・・・まだ、分かってないんだけど・・・」
「お前の説なら、ここには兄弟しか居ないんだろ? 俺を縛った奴は兄弟の誰かって事になる。じゃあ、お前でもおかしくないぞ」
「・・・」
確かにそうだ。兄弟だから縛らないっていう理論は、今回の事件に当てはまらない。俺は完全に論破されてしまった。
ガチャン! ♪♪♪~
その時、玄関のドアが激しく開けられ、音楽が流れた。全員が玄関を見る。四葉だ。何故か四葉が外から中に入ってきた。
「皆! 佐々木さんが逃げるわ!」
「えっ?!」
佐々木が逃げる? どういう意味だ?
「とにかく見に来て!」
七音は何も言わず俺と荒川の方を見た後、階段を下りて四葉の方へ駆け寄る。それを見た荒川は俺を見た後、七音を追い掛ける。四葉は俺が来ない状況を不審に見ていたけど、急いでいる為か、七音と荒川が来たのでドアを開けて外へ出た。俺はほったらかしかよ! と思ったけど、とにかく助かってホッとした。両手と両足を縛られている状態ながら、俺は上体を起こした。一人取り残された薄暗い別荘内で座ったまま考える。
  佐々木が逃げる? よく分からない。ビビって逃げ出したのか? だいたい、どうやって逃げれるんだ? 筏でも作ったのか? それより荒川は佐々木を殺していなかったという事。そもそも、俺を犯人扱いしていたのだから、殺人犯の訳が無い。じゃあ、荒川が言っていたのは全て本当の事だったんだな。進行役の父さんが隣の部屋の男性を殺し、荒川を縛ってボートで逃げた。そして今、佐々木は殺される可能性を感じて、筏か何かを作り、島から逃げ出したという訳か。・・・ん? 佐々木ってビビって逃げ出すようなタイプか? ・・・何か違うような気がする。四葉が見たのは本当に佐々木か?
  俺は何とか立ち上がり、佐々木の部屋のドアノブを右肘で押した。
ガチャ
開いた! そのまま身体をドアに押し付け、部屋に入ろうとした時、玄関のドアが開き、音楽が流れた。
「双六! 大丈夫か?」
七音が1番に帰って来て、俺の方へ駆け寄る。その後、四葉と荒川も帰って来た。七音は縛られた紐を確認して俺に言う。
「ちょっと無理だな。包丁を取って来るよ」
七音は1階のキッチンへ向かう。
ガチャ
その時、宮本の部屋が開いた。この騒ぎでようやく起きたようだ。眠そうな感じで言う。
「どうしたんだ? あっ!」
宮本は縛られている俺を見て驚いたようだ。眠気も吹っ飛んだだろう。そこに四葉が近寄ってきた。
「大丈夫、双六君?!」
「ああ、何とか」
「荒川さんには説明しといたから」
「ごめん、俺にも説明してくれるかな」
「殺人犯は佐々木さんだったのよ」
「えっ?! そうなのか?」「えっ?! 」
話を聞いていた宮本も驚く。
「佐々木君に縛られたのか?」
「いや、これは違うんですけど・・・」
俺はそう言いながら荒川を見る。それを聞いていた荒川が遠めの位置から謝る。
「速水君、悪かった」
「酷いですよ、荒川さん・・・。そのスタンガンってヤバいですね」
「申し訳無い、許してくれ」
「まあ、俺達も無実の荒川さんを縛ってたから、おあいこにしましょうか」
「どういう事だ? 荒川君が速水君を縛ったのか?」
宮本は困惑して質問した。俺が答える。
「俺を殺人犯だと勘違いしたみたいなんです。それより四葉さん、佐々木さんが犯人って言ったよな?」
「ええ、さっきボートで島を出たわ」
「ボートは何処にあったんだ?」
「最初にあったボートを隠していたのよ」
「隠していた?」
「ええ。今日のお昼に双六君と一緒に砂浜を歩いたでしょ。その時、桟橋から森の方へ何か砂で消したような跡が長々とあったのよ。だから、ボートを引っ張ってどこかに隠したのだと分かったわ」
納得。俺は、七音が四葉へ想いを書いて消した跡だとか、トンチンカンな想像をしていたのに、四葉はボートを引きずった跡だと感じていたと知った。四葉は続けて言う。
「もしかすると今晩、犯人が島を脱出するかもしれないと、テントの中で見張っていたのよ」
「テントの中で?! そんな危険な事・・・」
「そうでもないのよ。『五』の部屋が開けられていたって事は犯人はマスターキーを持っている可能性が高いって事。だから、実は部屋の中の方が危険だったのよ」
「なるほどねえ」
その時、七音が包丁を持って帰って来た。
「双六、動くなよ」
七音は両手、両足の紐を切ってくれた。
「ありがとう。そう言えば、佐々木さんの部屋が開いたんだ。何か残しているかもしれない」
「入ろう」
七音はそう言うと、我先にと佐々木の部屋に入り、電気を点けた。俺達も続いて中に入る。部屋の中は綺麗に整頓されており、何も残ってないようだ。立つ鳥跡を濁さずとは、こういう事を言うのだろう。
「あっ、これ」
四葉が何かに気付いたようだ。メモ帳をめくっている。俺達も近付き、メモ帳を覗き込む。そこには、びっしりと何枚にも及び、文字が書き綴られていた。俺達は黙読する。
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