モノマネマスク

ジャメヴ

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冤罪

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  優勝報告を舞にしたかったが、放送終了後、いろんな人から祝福され、所属先等色々話があり、テレビ局を出る時には、24時を回っていた。舞から着信もあったが、報告はちょっと出来そうに無い。起きてからにしようと木村は思った。
  勿論終電は終わっていて、テレビ局から家までタクシーで1時間ぐらい掛かったが、タクシー代はテレビ局が出してくれた。


翌日

  起きると午後3時を回っていた。10時間以上寝ていたようだ。緊張や疲労で相当疲れていたという事だろう。取り敢えず外へ出る準備まで終えたところで……。

ピンポーン

  玄関のチャイムが鳴った。木村はゆっくりと玄関に向かい、ドアを開けると、ガタイのいいスーツの男性が2人立っていて、木村の顔を見るなり少しのけぞった。初対面の時、木村の顔を見た人の反応は大体同じだ。木村は何かの営業で訪れた、上司と部下だと感じた。
  上司であろう男性は、30代前半に見え、中背で恰幅が良く、胸板がかなり厚い。パワー系のスポーツをやっていたのだろうか?  真っ黒な短髪をオールバックにしており、強面という印象だ。
  部下であろう男性は少しだけ背が高く、20代半ばに見える。刈り上げられた短髪の黒髪で、少しだけ顎髭が伸びている。眉毛はつり上がるように整えているが、タレ目だ。色黒で、やや、すきっ歯の為か、あまり賢そうには見えない。

「はい?  どちら様ですか?」
「木村一郎さんですね」
「はい」
「警察です。お話良いですか?」
「警察?  何かありました?」
「昨日のモノマネ見ました。優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
木村は警察と聞いて警戒していたが、おめでとう、というワードが出たので笑顔で対応する。
「木村さんは聞いた声を直ぐに真似できるそうですが本当ですか?」
「木村さんは聞いた声を直ぐに真似出来るそうですが本当ですか?」
木村は上司っぽい警察官の言った言葉を、おうむ返しでモノマネした。
「おお~」「お~、本当だったんですね」
部下っぽい警察官は、生で新人王のモノマネを見れたからなのか、興奮しているようだ。上司っぽい警察官も、強面の表情が崩れて驚きの表情に変わった。
「それで、何か協力出来る事はありますか?」
「協力というか、詐欺罪の容疑が掛かってます」
上司っぽい警察官は真剣な表情に戻って話した。
「はあ?  全く身に覚えが無いんですが……」
「最近、お年寄りからお金を騙しとる犯罪が多発してるのは、御存知ですよね?」
「オレオレ詐欺みたいなやつですか?」
「そうです。声紋鑑定の結果、そのグループの1人があなただという結果が出ています」
「はあ?」
「任意同行頂けますか?  署でお話しましょう」
「まあ、いいですけど……」

(何だか変な展開になってきたな。オレオレ詐欺?  確かに老人に孫がいたとして、その人の声真似は出来るから俺なら簡単に可能ではあるけど、それだけで犯人扱いするのはちょっと無理なんじゃないか?  声紋鑑定がなんとかって言ってたな。 いやよく分からない、でも冤罪ってなかなか解放してもらえないって聞いた事があるけど……)

「じゃあ、乗ってください。日吉!  木村さん見ててくれ、ちょっとコンビニまで飲み物買いに行ってくる」
「承知しました」

  ここからコンビニまでは50メートルぐらいあるが、駐車場の無いコンビニなので歩いて行くようだ。
  後輩であろう日吉は一旦運転席に腰掛けたが、タバコを吸うのか外に出た。ふと、助手席を見るとスマホが置いてある。日吉は少し離れたところで電子タバコを吸っている。木村はスマホを手に取り、操作してみた。ロックが掛かっていない。恐らく先輩のスマホであろう。電話検索をしてみると日吉の名前があった。ワンタッチで日吉に掛ける。
「お疲れ様です、どうしました?」
「日吉、ちょっとこっちへ来てくれ」
木村は先輩の声真似で話す。
「小牧さんどうしました?  木村はどうします?」
「有名人なんで逃げないだろ、直ぐに来てくれ」
日吉はダッシュでコンビニへ向かった。それを見て木村は車から飛び出し走った。
  木村は逃げ出したら罪が重くなるかな、とか少し思ったのだが、逃げ出すチャンスがあったので衝動的に逃げ出した。

  無実の罪で容疑者と思われてしまった時の対応は難しい。木村は電車での痴漢冤罪が頭を過った為、逃げ出した。電車での痴漢は、無実の立証が難しく、最悪、泣き寝入りして、犯人と言ってしまった方が得とまで考えられる事もあるからだ。さらに、痴漢は基本的に現行犯逮捕の為、あまり良い方法では無いが、逃げ出すという選択肢もゼロでは無い。だが今回、木村の詐欺罪のケースは現行犯で無くても逮捕できる。逃げ出したところで、後でゆっくり捕まえればいい話だ。要するに、逃げるのは詐欺グループの一味と思われるばかりでなく、罪も重くなり、デメリットでしかない。

  木村が適当に真っ直ぐ走ったところ、偶々たまたま、舞とディナーをした「アランチョ」が見えた。その前に「ダンデライオン」という喫茶店がある。木村は取り敢えず店の中なら当分見つからないなと考え「ダンデライオン」の扉を開け、中に入った。
「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
「はい」
「ご案内いたします。こちらの席へどうぞ」
店内は奥に4人組のおばさんがいるだけだった。
「えーっと、ロイヤルミルクティーをホットでお願いします」
「えっ?  ホットで宜しいですか?」
「あ、お願いします」
息を切らしながら汗だくで走ってきて、ホットのミルクティーとか訳の分からない注文をしてしまった後、舞へ電話を掛けた。
「おめでとー、イエーイ!  木村さんなら絶対優勝だと思って……」
「舞ちゃんゴメン、ちょっと聞いて」
木村は周りを気にして小声で話す。
「ん、また得意の冗談?」
「ゴメン、違うんだ。今すぐ『アランチョ』の前の『ダンデライオン』って喫茶店に来てくれないかな」
「えっ?」
「ゴメン、理由は後で。直ぐ来てくれる?」
「10分以内に行きます」
「ありがとう、待ってるよ」
木村は電話を切った。
(舞ちゃんは賢いから何か気付いてくれるかもしれない。とにかく、俺には訳が分からないから、端的に説明するために整理しておこう。あっ!)
木村は呼び鈴を押した。

「店員さん、オレンジジュース2つ、今から友人が1人来ます」

  5分程経っただろうか、舞がやってきた。
「いらっしゃいませ。あ、舞ちゃん」
「こんにちは」
店員は舞を知っているようで、話をする雰囲気だったが「舞ちゃん」と後ろから木村が発したのを聞き、空気を読んでくれたようでキッチンへ戻った。

「木村さん、何かあったんですか?」
「落ち着いて聞いてね。今日、オレオレ詐欺?  の容疑で警察官が家までやって来て、捕まりそうになったから逃げてきたんだ」
「逃げてきたんですか?  詐欺なんてやってないのに?」
「冤罪が怖かったんだ。逃げるチャンスがあったから、衝動的に飛び出しちゃったんだよ」
「それで?」
「どうして俺にオレオレ詐欺の容疑が掛かったのかを考えてもらおうと思って」
「私に?!  私、探偵じゃないですよ!!」
「相談出来るのが舞ちゃんしかいなかったんだ。舞ちゃんピンチをチャンスに変える能力あるじゃない」
「いやいや、大ピンチ過ぎでしょ!」
「俺の声真似能力が関係有ると思うんだけど……」
「最近どこかで録音とかしました?」
「テレビとかはずっと録音してるだろうけど……」
「そうじゃなくて、お金持ってきてとか、事故ったから示談金が必要だとか言いました?」
「いや、そんなシーン……。あーっ!!!」
4人組のおばさんと店員が木村をジロッと見る。
「録音したよ、ラジオのプロデューサーからの仕事で」
「それで、素人っぽい男の声真似で金銭を要求するシーンがあったんですね」
「あった。事業に失敗したからお母さん300万円貸してくれないかなって」
「じゃあ、その偽プロデューサーが詐欺師決定ね」
(他に頼る人が居なかったから舞ちゃんに相談したけど一瞬で犯人を突き止めた。この子凄い!!)
「じゃあ、どうしよう。プロデューサーに電話すれば良いかな?」
「ちょっと待って呼び出すにしても作戦練った方が良いと思う」
その時、木村の電話が鳴った。誰だ?  と思いながらスマホを見ると米山の名前が表示されている。
「米山さん、偽プロデューサーからだよ、どうしよう」
「取り敢えず出て、流れに任せてみれば?  多分仕事の依頼で何処かに来てって話じゃない?」
「分かった」
木村は電話に出た。
「もしもし、木村です。お疲れ様です」
「もしもし、米山です」
「米山さん、昨日の見てくれました?」
「見たよ、おめでとう。ビックリしたよ。まあ、あなたの実力だと当然だけど、あの仮面は見事だよね。感心した」
「ありがとうございます。で、今日もお仕事の依頼ですか?」
「木村さん、焦り過ぎ」
舞は小声で木村に話す。だが、木村は米山の話に集中していて、舞が言った事は耳に入っていない。
「そうなんだ、また、違う社長からの依頼でね、同じように5人の新人から決めるそうだ。今回は優勝祝いに20万円でお願いするよ」
「そんなに頂けるんですか。ありがとうございます」
「俺も、あなたが優勝して鼻が高いよ。社長にも紹介しやすいし」
「承知しました。今からオフィスへ向かえば良いですか?」
「直ぐ来る事出来る?」
「30分ぐらいで着くと思います」
「待ってるよ」
「承知しました。失礼します」
木村は電話を切った。
「よし」
「上手くいったね」
「じゃあ、駅に向かうよ」
「駄目よ。逃げてきたのに駅なんか絶対見張ってるわ」
「じゃあ、どうしよう」
「もうすぐお母さんがここに車で来てくれるから、それで行きましょう。そんな事だろうと思って、呼んでおいたから」
その時、ちょうど舞の母親が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ。あ、こんにちは」
「こんにちは」
「あっ、お母さん早かったね」
店員は舞の母に気付いたが、舞が話し始めたので空気を読んで距離をとる。
「早かったね、じゃないわよ。どうしたの、血相を変えて出ていって。」
「取り敢えず、隣町まで送って欲しいの」
舞が母親に話している時に、母親は木村に気付いた。
「あっ、木村さん。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「いや、ちょっと立ち話してる暇ないのよ。お会計お願いします」
木村と舞は冷めたロイヤルミルクティーを尻目にオレンジジュースを一気に飲み干した。

  車を走らせて10分、オフィスビルから少し離れたところで2人は車から降りた。
「お母さん、ありがとう。帰りは電車で帰るね」

  木村は米山のオフィスの方を指差しながら話す。
「あの、オフィスビル2階の部屋なんだ」
「分かったわ。あとは、私から警察へ連絡するから時間稼いどいて、まあ、普通に録音してれば大丈夫」
「分かった」
(若い女性なのに無茶苦茶頼りになる。よし、ラスボスと対面だ)

  木村は1人で事務所の前まで来た。

コンコンコン

「こんにちは、失礼します!」
「やあ、木村さん。改めておめでとう。自分の事のように嬉しいよ」
「ありがとうございます」
「失礼ながら、あなたの顔だとラジオしか無理だと思ってたけど、仮面を付けるなんて方法があるとはね」
「モノマネマスクって言うんです」
「モノマネマスクか、カッコいいな。まあ、成功すれば何でも格好良く聞こえるから不思議だよな」
「そうですね」
「で、今回も要領は同じなんでテンポ良く行こうか」
「そうですね」

  レコーダーから1人目の声が流れてきた。
(米山との普通の会話だが、相手の話し方が素人過ぎる。先入観があるからか?)
「あ、台本」
「ああ、忘れてた。もう何回もやってるから覚えてるんじゃない?」
「ははは、そうですね」
(そうだ。たしか、これが7回目なんだ。一言一句は覚えていないが、ダメ息子が事業に失敗して、母親から300万を借りるというシーン。オレオレ詐欺の典型的なやつじゃないか。しかも、人気の連続ラジオドラマだって?    面白く無さすぎる。こんな事に気付かないなんて……)
淡々と声を聞いてセリフを言うの繰り返し、同じ事過ぎてテンポが良過ぎた。4人終わって30分も経っていない。
「すみません、何か飲み物とか有りますか?  ちょっと喉が渇いちゃって」
「コーヒーとか淹れようか?」
「いえ、コーヒー飲めないんで」
「あ、確かそうだった、ミルクティー頼んでたよね」
「水でも良いですよ」
「ミネラルウォーターがあるよ、ペットボトルのままでいい?」
「大丈夫です」
(しまった……。コーヒー淹れさせれば時間稼げたじゃないか、なにやってんだ)
木村はミネラルウォーターを飲んだ。気持ちゆっくりめで……。

「では、ラストお願いします。」
最後の1人の声を再生しているときに、周りが騒々しくなった。

コンコンコン

「失礼します」
米山はドアを開けようと近づいたが、それより早く、外からドアを開け、男性が入って来た。警察官の小牧だ。
「どうしました?」
米山は急な来客に驚きを隠せない。
「警察です。ちょっとお話良いですか?」
米山は瞬時に状況を把握した。
「!!  木村、お前!」
「米山さん、3日やそこらで1,000万円以上荒稼ぎしたんですか?  凄いですね。その1,000万の年貢、今、納める時ですよ」
「お前……覚えてろよ!」
米山は今では誰も言わないような捨て台詞を吐いたかと思うと、窓際まで走り、窓を開け、2階にもかかわらず窓から飛び降りた。
「!!」
それを見た小牧が窓までダッシュし、大声で叫ぶ。
「日吉~!!  逃げたぞ、追え~!!」
下で警察官の日吉がちょうど待っていて、追い掛け出した。米山との差は10メートルぐらいか。
「あれぐらいの差なら日吉なら直ぐ追い付くな。日吉は現役のプロボクサーだ」
「いや、追い付かないですよ」
その場に居た1人の警察官が意外な事をつぶやいた。全員が何を言っているんだという表情で彼を見る。
「俺、陸上やってたから知ってるんですけど、米山って、今年引退した1,500メートルの元日本チャンピオンです」


  小牧は木村に話す。
「木村さん、私の連絡先教えておきます。まさか、無いとは思いますけど、逆恨みで襲われたりする事も稀にありますから」
「ありがとうございます」
(そうだ、舞ちゃんに連絡しないと)

  木村は小牧達警察官と別れ、舞に電話を掛ける。
「もしもし、舞ちゃん?」
「木村さん、どうなりました?  偽プロデューサー捕まりました?」
「それが……残念な事に逃げられたんだよ」
「えっ?  逃げられた?!  どういう事?」
「2階から飛び降りて逃げたんだよ」
「容疑者に2回も逃げられるって……。減給は避けられないんじゃない?」
「ほんとだね」
「木村さんの祝勝会も出来ずに変な揉め事に巻き込まれちゃいましたね」
「ほんと、そうだね。でも、今回の件は舞ちゃんに助けられたよ。今頃、冤罪で刑務所行きだったかも」
「まあ、それは良かったですけど……」
「米山が逃げたのがなあ……。俺、気になったら眠れないタイプだから」
「そうなんですね」
「ちょっと、1人でゆっくり休みたい。気分が晴れたら、またデートしてくれるかな?」
「もちろんです!  色々大変でしたもんね。ゆっくり休んでください」

  舞は米山を逃がしたのは警察のせいだと思っているようだが、9割方木村のミスだ。余計な事を言わなければ小牧と周りの警察官で取り抑えていただろう。


夜11時
  
  木村は寝る準備をして、自宅のベッドに入り、目を瞑って今日1日を振り返る。
(本当に舞ちゃんには助けられてばっかりだ。あの子がいなかったら、今頃、脱走犯扱いをされて逃げ回っていたかも知れない。そんな事より米山が問題だ。まさか、あの状態から逃げ切るだなんて……。陸上の元日本チャンピオンだって?  そんな偶然があるなんて運が無さ過ぎる。絶対捕まると思って、調子に乗り米山を挑発してしまった……。まだ、捕まって無いのだろうか……。まさか、俺を殺しに来たりしないだろうな……)

  誰でも、1人ぐらいには恨みを持たれた事があるだろう。金銭トラブルだったり、恋愛トラブルだったり、仕事のトラブルだったり……。神経質な人なら、自分を殺しに来るかも、とまで思った事があるかも知れない。だが、実際にはそんな事は起こらない。何故なら、相手は普通の人だから……。普通の人であれば、「殺してやる!」と思っても、実際には殺したりはしない。だが、米山はもう普通の人では無い。特殊詐欺の実行犯として、指名手配されているのだから……。そんな人物から恨みを買うと何をされるか分からない。木村は早く捕まってくれ、と願っていたが、今のところ、そのようなニュースは無い。殺しに来るかも知れないという恐怖と、元々の神経質な性格との相乗効果で、予想通り、眠りにつけなかった。


翌日

  朝早い時間だったが、刑事日吉に電話が掛かってきた。知らない番号のようだ。
「もしもし?」
「やあ、日吉さん」
「どなたですか?」
「自分が逃がした男の声も覚えてないんですか?  まあ、貴方とは話をしてませんけど」
日吉は職業柄、直ぐに録音をタッチ出来た。
「お前米山か?  何故電話番号を知ってる?」
「貴方、ボクシングで結構有名なんですね。警察官ボクサーって中々いないですもんね。調べたら電話番号が出回ってましたよ」
「それは良いとして俺に何か用があるのか?  出頭する気にでもなったのか?」
「ハハハ、御冗談を。木村を連れて来て欲しいんですよ。あいつだけは許せない。岬に廃工場が有りますよね?  そこに1時間後集合で、では」
「待て、1時間後って、それは……」
電話を切られた。ここから廃工場まで、車で急いでも40分ぐらい掛かる。
  日吉は先輩小牧に電話を掛ける。
「もしもし」
「お疲れ様です」
「どうした?  こんな早くから」
「米山から電話があったんですよ」
「何だって!  内容は?」
「木村を連れて、岬の廃工場へ来いとの事です」
「木村を連れて?」
「やはり逆恨みしているようです」
「取り敢えず、車で迎えに来てくれ。俺は木村に連絡する」
「承知しました」
小牧は木村に電話を掛ける。
「もしもし?」
木村が電話に出た。小牧は木村が生きていたのでホッとした。
「警察官の小牧です。昨日はご迷惑お掛けしました。今、御自宅ですか?」
「そうですが、御用件は?」
「昨日逃げた米山から連絡があったんですよ」
「米山から連絡が?!」
「で、木村さんを逆恨みしているようなので、今から護衛に参ります」
「了解しました」
「では、後程」
小牧は電話を切った。

ピンポーン

「小牧さーん」
日吉が小牧の自宅に着いたようだ。
「今行く」
小牧はトレードマークのオールバックにする間も無く、自宅を飛び出した。日吉も同じで、ボサボサの頭をセットせず、無精髭が生えている。
  2人は日吉の車に乗り込んだ。
「木村のアパートへ」
「承知しました」
小牧は日吉の車に乗り込むと、直ぐに上司野々村へ電話を掛けた。
「もしもし?」
「野々村さん、お疲れ様です、小牧です」
「どうかしたか?」
「昨日逃がした米山から日吉へ連絡があったようなんです」
「何だって?  用件は?」
「木村を連れて、50分以内に岬の廃工場へ来いとの事です」
「分かった。上に連絡しておく。お前達は木村の所へ向かってるのか?」
「そうです」
「よし。お前達は木村を護衛しろ。俺達が廃工場に向かう」
「承知しました」
2人は木村の自宅に到着した。急いで車を降りる。

ピンポーン
「木村さーん」
ガチャ
「わざわざ、護衛ありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそ色々御迷惑をお掛けしてます。そうだ、日吉、電話を再生できるか?」
「分かりました」
「ちょっと、待て。再生している時に、米山から電話が掛かってきたら出られるのか?」
「大丈夫です。出られます」
「よし。再生だ」
男の声が再生された。日吉は小牧に伺う。
「どうですか?」
「似ているように聞こえる。が、俺は少し聞いただけだから……。木村さんどうですか?」
「間違いなく本人です」
「やはり、そうか。狙いは何だ?」
「もちろん、木村さんが狙いでは?」
「いや、そんな訳は無い。一応護衛には来たが、本当に木村さん狙いであれば、宣言なんてしない」
「じゃあ、狙いは?」
「もし、俺達や警察が狙いなら、廃工場に集めて爆発とかさせれば一網打尽にできる」
「なるほど」
「まあ、俺なら注意を廃工場に集めて、海外へ逃げるかな。あいつは1,000万以上の金を持っている」
「なるほど。それが本命ですかね」
「もちろん、野々村さんは、その辺を分かってくれている。爆破の可能性も少しあるが、危険を冒してくれているし、空港の警戒は解かないはず。だから、最小限の人数で行っているだろう。上に連絡すると言っていたが、単独行動かも知れない。野々村さんはそういう人だ」


30分後

  野々村から小牧に電話が掛かってきた。
「もしもし?  どうでした?」
「……死んでいた……」
「は?  米山がですか?」
「そうだ。今、上に報告した」
「やっぱり単独で行動されてたんですね」
「そうだ」
「で、死因は?」
「出血死だ。背中を包丁で刺されている。いや、背中に包丁が刺さっている」
「……と言う事は、自殺の可能性も否定できないと言う事ですね?」
「そうだ、包丁を立てて後ろ向きに倒れれば、自殺も出来る。あとは、包丁に指紋が残っているかだが……」
「取り敢えず、鑑識待たないと分からないですね」
「注目を集めて、それから死んだと言う事は、やはり自殺が本命だな。詐欺師だから恨まれる要因は有り余る程あるが、日吉への電話の後に殺されるような偶然は、ほぼゼロだからな」
「そうですね」


翌日

  小牧は野々村に話し掛ける。
「野々村さん!  鑑識の結果が出たようですよ」
「どうだった?」
「1番謎なのは、包丁に指紋が付いていないんです」
「指紋が付いていない?  米山は手袋をしていなかった。となると他殺じゃないか?  日吉に電話があって、俺が辿り着くまでに40分位だと思うが、その間に誰かに殺されたって言うのか?  無理過ぎるだろ」
「あと、手にマスクを握ってたんです」
「マスク?  気付かなかったな。それなら、マスクで指紋をつけないようにする事が出来るかもな。発信履歴はあったのか?」
「それが……スマホは何処にも見当たらなかったんです」
「まあ、あんなもの海に投げ捨てれば終わりだしな。所持品は?  金は?  強盗の可能性は?」
「金は自宅に1,000万円以上ありました」
「そうか……自殺が本命だとは思うが、結局のところ分からない。流石は3日やそこらで1,000万円以上騙し取った詐欺師だな、訳の分からない死に方をする。それとも……他殺なのか?」


木村の自宅

(ふう。米山が逃げてから、気になって一睡も出来なかった)
「これでようやくグッスリ眠れるな」
木村はそう呟いて、返り血の付いたシャツをバスタブに投げ入れ、火を点けた。

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