10番目の同級生

ジャメヴ

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試合開始

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「あっ!  出てきましたよ!」
小牧さんが教えてくれたので、選手入場口を見ると、全身真っ赤な日吉さんが登場した。
「日吉さ~ん!  頑張って~!」
三橋さんの声援に気付いた日吉さんは右手を上げて応える。反対サイドから、対戦相手の佐藤選手も登場した。
「日吉~勝てよ~!」
「日吉~頑張れ~!」
観客が日吉さんへ声援を送ったので、俺は野々村さんに質問する。
「日吉さんの知り合いですか?」
「いや、にわかファンだろう。警察官ボクサー日吉はプチ有名人だからな」
「日吉さん頑張って~」
三橋さんは両手を目の前で握り、祈っている。俺は、三橋さんと自分との感情移入の違いに驚いた。日吉さんには勝ってもらいたいが、こんなには入り込めない。

「ラウンドワン!  ファイッ!」
カーン!
試合が始まった。と、同時に日吉さんのラッシュ!!
「おおお!」
「日吉さ~ん!」
俺は日吉さんのラッシュを見て思わず声を上げた。三橋さんもテンションが上がっている。日吉さんは絶好調のようだ。佐藤のガードの上からガンガン打ち込む。
「日吉さん調子良いですね」
俺は試合を見ながら野々村さんに言った。
「だが、全部ガードの上だ」
日吉さんはインファイターでもアウトボクサーでも無く、ミドルレンジを得意とするようだ。ラッシュの後、少し呼吸を整える。
  対する佐藤選手はインファイターらしく、足をほとんど使わない。ガードを固めてジリジリ寄ってくる。日吉さんは左のジャブを2発打った後、得意の右ボディー!! 
「入った!」と俺が言うと小牧さんも「入ったな!」と興奮している。
「だが、少し浅い」
野々村さんが言うように、佐藤は効いてない素振りを見せる。
「いや、確実に効いてますよ」
「次の右ボディーか右アッパーが鍵になるな」
俺の言葉に小牧さんが予想して返した。それに対して野々村さんが言う。
「だが、それは佐藤も分かっている」
佐藤選手は、まだ1発もパンチを出していない。自分の距離に入れないようだ。日吉さんの攻勢が続く。ガードの上からだが、良いパンチが当たっている。
  1ラウンドも終わりかと思った、その時。日吉さんが動く!  佐藤選手をコーナーに追い詰め、パンチを放つ。
  右ジャブ、左フック……
「!」
俺は必殺の右ボディーが来たと思った。その刹那!
ドスッ!!

「ダウーーン!!」
「キャーー!!」
三橋さんの声は歓喜の黄色い声援では無く、絶望の悲鳴だった……。
 リングでは、日吉さんが前のめりに跪いていた……。
  日吉さんが必殺の右を放とうとした瞬間、お株を奪う佐藤選手の右ボディーがカウンターで炸裂していた。素人の俺にも分かるタイミングのパンチは、プロにとってはバレバレだったという事なのだろう。日吉さんは痛みのせいでダウンしたのでは無く、呼吸ができずに悶絶しているように見える。

「……ナイーン、テン!」
カンカンカンカーン!

  ゴングが鳴った。佐藤選手が繰り出したのは、たった1発。そのパンチで試合が終わった。警察官ボクサー日吉さんの連勝は3でストップした。
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