69 / 75
Trash Land
the last battle VIII
しおりを挟む 自分の周囲に展開しているその〝重力結界〟を見回す。
上下の力場は丁度その重力を相殺する位置にあり、僅かでも動いたのならリケットを引き込み圧死させるだろう。
そして横を取り囲んでいる重力塊は、言うまでもなく触れるもの全てを破壊する。
「何やらマーヴェリー達はお前の機能を欲しがっているらしいが、俺はテメエの機能なんざぁ全く興味がねぇ。そもそもあの野郎共は気に入らねぇんだよ。オリジナルに勝てるわきゃあねぇくせに気位だけ高くてよぉ。ま、今回のことで三人も減ったから暫く大人しくなるだろうかな」
そう言い指を鳴らそうとするが、手が機械仕掛けの為に鳴らず、露骨に眉を顰めるバグナスだった。
だがそれが合図となり、重力塊の一つがリケットへ一直線に向かう。身動き一つ出来ないリケットは、それを躱すことが出来なかった。
だがその代わりに右腕から鞭を打ち出し、それに触れた瞬間切り離す。重力塊は鞭を一瞬のうちに吸い込み、そして爆発した。
その爆風がリケットを包むが、彼はその場から微動だにしなかった。
いや、出来ないし動けないのだ。
爆風が収まり、その中から両腕で頭を庇って入るリケットが姿を現す。
両腕の人工皮膚が破れ、人工筋肉が抉り取られて人工骨が露わになっている。
痛みはない。爆風を受けた瞬間に神経を切り離したから。
だがそうすると、感覚までも無くなってしまう。そして感覚の消失した腕は、使い物にならない。
リケットは持っているブレードをベルトに差し込み、その両腕を切り離した。両腕は上下にある力場の影響でその場に静止している。
「へぇ、そうきたか。どうでぇ、両腕をなくした気分は? なかなか出来る体験じゃねぇぞ」
そう言うと、遊びは終わりと言わんばかりに一斉に重力塊を動かす。
単一だけでも充分な殺傷力を誇るそれを無数に受けたなら、一瞬で消滅するだけでは済まない。
次元が歪み、この一帯全てが消し飛んでしまうかも知れない。
重力塊がリケットを包み、そして膨大な破壊力を発して弾けた。
その破壊エネルギーはリケットを包んだだけでは止まらず、真横にも放出される。だがそれを、上下にある重力力場が吸い込み、そして互いに吸収して押し潰す。
その中にあるもの全てを圧縮し尽くし、対消滅していった。
リケットはそれに飲み込まれ、そして全ての重力塊と共に消滅する筈だった。
だが彼は全くの無傷で、その場に佇んでいる。
その首からぶら下げているネックレスが蒼白い輝きを発し、三日月のペンダントヘッドが脈動していた。
「……え、えーと……」
今のはバグナス必殺の攻撃だったのだが、それが全く効いていないことで動揺していたのか、それともどうしようかと思案しているのか、彼は頭を掻きむしって素っ頓狂な声を上げた。
それを余所に、リケットは天を見上げてぶつぶつと何かを呟いている。
それが呪文であることに、バグナスは気付かない。
彼にはそのような知識がないから。
「まぁ、しゃーねぇな」
あの攻撃が効かなかった程度で戦意を喪失するほど、バグナスは脆弱な神経を持ち合わせていない。
どちらかというと、その逆だ。
再び全身に重力塊を纏い、今度はそのままリケットへと突っ込む。
「とことん面白ぇよ、リケットぉ!」
重力塊を持ち、それをリケットに叩き付けようと振り上げる。
それを、輝く『右手』で受け止めた。
なんと、リケットの両腕が再生している。
そしてベルトに差しているブレードが消えていた。
その腕は、〝サイコ・マター〟で作り出したもの。
そしてバグナスの重力塊を以てしても破壊出来ない、究極の物質。
それの持ち主はリケットとフィンヴァラのたった二人しかいない。
腕が再生しているのを目の当たりにしても全く動揺せず、バグナスは続けざまに重力塊を叩き付けようとする。
戦っているうちに解ったのだ。
理屈どうこうではなく、リケットは『なんでもあり』なのだと。
そしてそれが、楽しくて仕方ない。
邪悪に笑いながら重力塊を叩き付け続けるバグナスから素早く離れようとリケットは後退を続ける。その口は、途切れることなく呪文を紡いでいた。
だがそれを許さず、バグナスは離れない。本能的にそうしたかったから、バグナスはリケットとの距離を縮めている。
焦燥感や危機感などは、彼にはない。
ただ、今が楽しければそれで良いのだ。
そしてその楽しみを与えてくれる人物、それがリケットだったのである。
最初は、憎くて仕方なかった。
彼が贔屓にしている犯罪組織がリケットによって潰され、その敵討ちのつもりだった。
だが最初に戦い、リケットの強さに惚れ込み、自分の手で壊したいと思った。
リケットによって両腕と両足を失ったバグナスは、義肢を調整している間中そのことばかりを願ったのである。
そしてそれが、遂に叶う。
バグナスの放つ重力塊が、リケットの頭部へと迫る。
〝サイコ・マター〟の腕は間に合わない。
その重力塊はリケットの頭を直撃し――そのまま擦り抜けた。
上下の力場は丁度その重力を相殺する位置にあり、僅かでも動いたのならリケットを引き込み圧死させるだろう。
そして横を取り囲んでいる重力塊は、言うまでもなく触れるもの全てを破壊する。
「何やらマーヴェリー達はお前の機能を欲しがっているらしいが、俺はテメエの機能なんざぁ全く興味がねぇ。そもそもあの野郎共は気に入らねぇんだよ。オリジナルに勝てるわきゃあねぇくせに気位だけ高くてよぉ。ま、今回のことで三人も減ったから暫く大人しくなるだろうかな」
そう言い指を鳴らそうとするが、手が機械仕掛けの為に鳴らず、露骨に眉を顰めるバグナスだった。
だがそれが合図となり、重力塊の一つがリケットへ一直線に向かう。身動き一つ出来ないリケットは、それを躱すことが出来なかった。
だがその代わりに右腕から鞭を打ち出し、それに触れた瞬間切り離す。重力塊は鞭を一瞬のうちに吸い込み、そして爆発した。
その爆風がリケットを包むが、彼はその場から微動だにしなかった。
いや、出来ないし動けないのだ。
爆風が収まり、その中から両腕で頭を庇って入るリケットが姿を現す。
両腕の人工皮膚が破れ、人工筋肉が抉り取られて人工骨が露わになっている。
痛みはない。爆風を受けた瞬間に神経を切り離したから。
だがそうすると、感覚までも無くなってしまう。そして感覚の消失した腕は、使い物にならない。
リケットは持っているブレードをベルトに差し込み、その両腕を切り離した。両腕は上下にある力場の影響でその場に静止している。
「へぇ、そうきたか。どうでぇ、両腕をなくした気分は? なかなか出来る体験じゃねぇぞ」
そう言うと、遊びは終わりと言わんばかりに一斉に重力塊を動かす。
単一だけでも充分な殺傷力を誇るそれを無数に受けたなら、一瞬で消滅するだけでは済まない。
次元が歪み、この一帯全てが消し飛んでしまうかも知れない。
重力塊がリケットを包み、そして膨大な破壊力を発して弾けた。
その破壊エネルギーはリケットを包んだだけでは止まらず、真横にも放出される。だがそれを、上下にある重力力場が吸い込み、そして互いに吸収して押し潰す。
その中にあるもの全てを圧縮し尽くし、対消滅していった。
リケットはそれに飲み込まれ、そして全ての重力塊と共に消滅する筈だった。
だが彼は全くの無傷で、その場に佇んでいる。
その首からぶら下げているネックレスが蒼白い輝きを発し、三日月のペンダントヘッドが脈動していた。
「……え、えーと……」
今のはバグナス必殺の攻撃だったのだが、それが全く効いていないことで動揺していたのか、それともどうしようかと思案しているのか、彼は頭を掻きむしって素っ頓狂な声を上げた。
それを余所に、リケットは天を見上げてぶつぶつと何かを呟いている。
それが呪文であることに、バグナスは気付かない。
彼にはそのような知識がないから。
「まぁ、しゃーねぇな」
あの攻撃が効かなかった程度で戦意を喪失するほど、バグナスは脆弱な神経を持ち合わせていない。
どちらかというと、その逆だ。
再び全身に重力塊を纏い、今度はそのままリケットへと突っ込む。
「とことん面白ぇよ、リケットぉ!」
重力塊を持ち、それをリケットに叩き付けようと振り上げる。
それを、輝く『右手』で受け止めた。
なんと、リケットの両腕が再生している。
そしてベルトに差しているブレードが消えていた。
その腕は、〝サイコ・マター〟で作り出したもの。
そしてバグナスの重力塊を以てしても破壊出来ない、究極の物質。
それの持ち主はリケットとフィンヴァラのたった二人しかいない。
腕が再生しているのを目の当たりにしても全く動揺せず、バグナスは続けざまに重力塊を叩き付けようとする。
戦っているうちに解ったのだ。
理屈どうこうではなく、リケットは『なんでもあり』なのだと。
そしてそれが、楽しくて仕方ない。
邪悪に笑いながら重力塊を叩き付け続けるバグナスから素早く離れようとリケットは後退を続ける。その口は、途切れることなく呪文を紡いでいた。
だがそれを許さず、バグナスは離れない。本能的にそうしたかったから、バグナスはリケットとの距離を縮めている。
焦燥感や危機感などは、彼にはない。
ただ、今が楽しければそれで良いのだ。
そしてその楽しみを与えてくれる人物、それがリケットだったのである。
最初は、憎くて仕方なかった。
彼が贔屓にしている犯罪組織がリケットによって潰され、その敵討ちのつもりだった。
だが最初に戦い、リケットの強さに惚れ込み、自分の手で壊したいと思った。
リケットによって両腕と両足を失ったバグナスは、義肢を調整している間中そのことばかりを願ったのである。
そしてそれが、遂に叶う。
バグナスの放つ重力塊が、リケットの頭部へと迫る。
〝サイコ・マター〟の腕は間に合わない。
その重力塊はリケットの頭を直撃し――そのまま擦り抜けた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~
ロクマルJ
SF
百万年の時を越え
地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時
人類の文明は衰退し
地上は、魔法と古代文明が入り混じる
ファンタジー世界へと変容していた。
新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い
再び人類の守り手として歩き出す。
そして世界の真実が解き明かされる時
人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める...
※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが
もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います
週1話のペースを目標に更新して参ります
よろしくお願いします
▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼
イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です!
表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました
後にまた完成版をアップ致します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる