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Trash Land
the last battle VII
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「ええい、クソ、使えねぇ!」
吐き捨て、折れ曲がっている左足を引き千切って捨てる。そして上空にいるリケットを睨み、全身から発生させた無数の重力塊を支離滅裂に打ち出す。
それは中央公園にも飛来して弾け、其処にいる人々は混乱した。
その場からいち早く離れようとする人々が折り重なり、倒れた者を踏み潰していく。
絶叫、悲鳴、怒声、罵声、その全てが大きなうねりとなって人々をますます混乱させる。
落ち着かせようと番組のスタッフが大声を張り上げているが、それは全く意味を成さない。
そしておそらく、そのスタッフ達も解っていたのだろう。
やがて静止する声は途絶え、其処は逃げようとする人々によって戦場と化していった。
不幸なことに、武器は文字通り売るほどある。
それらを手に取り、人々は我先にと逃げ出していった。
「終わりだ……」
眼下で展開されている混乱を努めて見ないようにし、司会のDJロッディは呆然と呟いた。
こんなことが起きてしまっては、もう二度と自分に大きな仕事は来ないだろう。
地道に積み重ねてきた実績という道。
それが全て崩れ落ちるのは、何故これほど早いのだろうか。
高いギャラに釣られて、こんな番組に出てしまった己の迂闊さを呪えと言われればそれまでだが、それにしてもこれは酷過ぎる仕打ちだ。
「許さないぞ……」
上空を見上げたまま、ロッディは呟いた。
その双眸は、破滅した者のみが見せる狂気が浮かんでいる。
「私の全てを賭けてでも、あの男……リケットを殺してやる……」
呟いている彼の上を、そのリケットが高速で飛翔し、その場を放れて行く。
それを睨み、彼はリケットへの復讐を誓った。
――だがその後を、全身に重力塊を纏ったバグナスが追い、その重力塊の一つがロッディに触れた。
膨大なエネルギーが発生し、生身のロッディはそれに巻き込まれ、身体が四散し絶命した。
彼の復讐が叶うことは、最早ない。
飛翔するリケットの後を追い、バグナスは次々と重力塊を放つ。
それを躱して突き進むリケット目掛け、諦めずに何度も何度も攻撃を加えた。
その逸れた重力塊は、付近のビルを直撃して破裂する。その被害だけでも甚大なものなのだが、バグナスはそのことを全く気にしていない。
彼の頭の中にあること、それはリケットの破壊のみ。
リケットは破壊され崩れていくビルを一瞥し、だが進路はそのままで飛翔を続けた。ビルが破壊されようとどうなろうと、彼にとってはどうでも良いことだから。
リケットは南へと向かっている。そしてその方向には、ファウル・ウェザー病院がある。
それが解っていたが、それでも進路の変更をしなかった。
何故ならファウル・ウェザー病院には強力な〝結界〟が張り巡らされており、それを破れる人物は二人しかいないからだ。
その二人とは、ハズラット・ムーンと『魔導士ギルド』のマスターであるイグドラシル。
リケットは迷わず、ファウル・ウェザー病院の上空を通過する。
そして、見た。
屋上で長い銀色の髪を風に吹かれるまま佇んでいる女性を。
そして彼女の空色の瞳と、リケットの冷たい青になっている瞳の視線が一瞬だけ合った。
たったそれだけなのに、リケットも彼女も、お互いに誰であるかを理解した。
口元に微笑みを浮かべ、リケットはファウル・ウェザー病院の上空に舞い上がり、そして静止した。
その首に提げてあるネックレスが不思議な輝きを放ち、三日月のペンダントヘッドが脈動する。
『心配かけて、ごめんなさい。私はもう、大丈夫だから』
リケットの頭に直接その言葉が響き、リケットの表情が安らいだものになる。
その表情を、暫く忘れていた。
いや、意図的にしないようにしていた。
五年前のあの日、彼女が『ジェシカ・V』になったときか。
彼女――シーリー・コートの声にその微笑みのみで答え、
「final seal release」
彼は自身に施されている最後の封印を解いた。
封印は二つ。もう一つは、既に解除してある。
『ジェシカ・V』が助けを求めたときに。
その封印とは、埋め込まれてある〝タイム・チャージ〟を高速稼動させるために必要な〝能力〟。
そして、今解除したもう一つの封印――それは自分の肉親より代々受け継がれているもの。
遙けき太古より脈々と受け継がれている秘法。
「面白ぇぞ、テメエ」
空中で静止しているリケットの正面に、重力塊を従えたバグナスが笑いながら立つ。
そして冷徹な表情に戻っている彼に鋭い視線を向けた。
「あのときはテメエが余りに甘っちょろくて反吐が出たが、今は違うみてぇだぁ。誰が死のうが関係ねぇってツラぁしてやがる。良いねぇ、それでこそ殺し甲斐があるってモンよ」
発生させた重力塊同士が共鳴し、耳を塞ぎたくなる不快な音が響く。
そしてそれが、破壊されたビルから脱出しようと混乱している人々の頭上に木霊するが、それに気付く者は誰一人としていなかった。
皆、自分が逃げるのに精一杯だから。
「っくぜオラぁ!」
絶叫し、バグナスは重力塊を放った。それを躱し、間合いを詰めようと両下腿から圧縮空気を打ち出す。だがその背後から、先程放たれた重力塊が襲い掛かる。
コートの切れ端を千切り、追い掛けてくるそれに放り投げる。それが重力塊に触れ、破裂した。
そしてその現象を目の当たりにしても、リケットは動揺しない。
あの重力塊はバグナスの〝能力〟で作り出されたものである以上、それを彼がコントロール出来るのは至極当然。
バグナスの双眸が深紅に発光し、全身からその重力塊が際限なく発生してリケットを包んで行く。
それで終わりではない。その上下に巨大な重力力場が発生し、リケットの逃げ道を遮断した。
「〝重力結界〟。まんまなのが気に入らんが、効果的だろう?」
吐き捨て、折れ曲がっている左足を引き千切って捨てる。そして上空にいるリケットを睨み、全身から発生させた無数の重力塊を支離滅裂に打ち出す。
それは中央公園にも飛来して弾け、其処にいる人々は混乱した。
その場からいち早く離れようとする人々が折り重なり、倒れた者を踏み潰していく。
絶叫、悲鳴、怒声、罵声、その全てが大きなうねりとなって人々をますます混乱させる。
落ち着かせようと番組のスタッフが大声を張り上げているが、それは全く意味を成さない。
そしておそらく、そのスタッフ達も解っていたのだろう。
やがて静止する声は途絶え、其処は逃げようとする人々によって戦場と化していった。
不幸なことに、武器は文字通り売るほどある。
それらを手に取り、人々は我先にと逃げ出していった。
「終わりだ……」
眼下で展開されている混乱を努めて見ないようにし、司会のDJロッディは呆然と呟いた。
こんなことが起きてしまっては、もう二度と自分に大きな仕事は来ないだろう。
地道に積み重ねてきた実績という道。
それが全て崩れ落ちるのは、何故これほど早いのだろうか。
高いギャラに釣られて、こんな番組に出てしまった己の迂闊さを呪えと言われればそれまでだが、それにしてもこれは酷過ぎる仕打ちだ。
「許さないぞ……」
上空を見上げたまま、ロッディは呟いた。
その双眸は、破滅した者のみが見せる狂気が浮かんでいる。
「私の全てを賭けてでも、あの男……リケットを殺してやる……」
呟いている彼の上を、そのリケットが高速で飛翔し、その場を放れて行く。
それを睨み、彼はリケットへの復讐を誓った。
――だがその後を、全身に重力塊を纏ったバグナスが追い、その重力塊の一つがロッディに触れた。
膨大なエネルギーが発生し、生身のロッディはそれに巻き込まれ、身体が四散し絶命した。
彼の復讐が叶うことは、最早ない。
飛翔するリケットの後を追い、バグナスは次々と重力塊を放つ。
それを躱して突き進むリケット目掛け、諦めずに何度も何度も攻撃を加えた。
その逸れた重力塊は、付近のビルを直撃して破裂する。その被害だけでも甚大なものなのだが、バグナスはそのことを全く気にしていない。
彼の頭の中にあること、それはリケットの破壊のみ。
リケットは破壊され崩れていくビルを一瞥し、だが進路はそのままで飛翔を続けた。ビルが破壊されようとどうなろうと、彼にとってはどうでも良いことだから。
リケットは南へと向かっている。そしてその方向には、ファウル・ウェザー病院がある。
それが解っていたが、それでも進路の変更をしなかった。
何故ならファウル・ウェザー病院には強力な〝結界〟が張り巡らされており、それを破れる人物は二人しかいないからだ。
その二人とは、ハズラット・ムーンと『魔導士ギルド』のマスターであるイグドラシル。
リケットは迷わず、ファウル・ウェザー病院の上空を通過する。
そして、見た。
屋上で長い銀色の髪を風に吹かれるまま佇んでいる女性を。
そして彼女の空色の瞳と、リケットの冷たい青になっている瞳の視線が一瞬だけ合った。
たったそれだけなのに、リケットも彼女も、お互いに誰であるかを理解した。
口元に微笑みを浮かべ、リケットはファウル・ウェザー病院の上空に舞い上がり、そして静止した。
その首に提げてあるネックレスが不思議な輝きを放ち、三日月のペンダントヘッドが脈動する。
『心配かけて、ごめんなさい。私はもう、大丈夫だから』
リケットの頭に直接その言葉が響き、リケットの表情が安らいだものになる。
その表情を、暫く忘れていた。
いや、意図的にしないようにしていた。
五年前のあの日、彼女が『ジェシカ・V』になったときか。
彼女――シーリー・コートの声にその微笑みのみで答え、
「final seal release」
彼は自身に施されている最後の封印を解いた。
封印は二つ。もう一つは、既に解除してある。
『ジェシカ・V』が助けを求めたときに。
その封印とは、埋め込まれてある〝タイム・チャージ〟を高速稼動させるために必要な〝能力〟。
そして、今解除したもう一つの封印――それは自分の肉親より代々受け継がれているもの。
遙けき太古より脈々と受け継がれている秘法。
「面白ぇぞ、テメエ」
空中で静止しているリケットの正面に、重力塊を従えたバグナスが笑いながら立つ。
そして冷徹な表情に戻っている彼に鋭い視線を向けた。
「あのときはテメエが余りに甘っちょろくて反吐が出たが、今は違うみてぇだぁ。誰が死のうが関係ねぇってツラぁしてやがる。良いねぇ、それでこそ殺し甲斐があるってモンよ」
発生させた重力塊同士が共鳴し、耳を塞ぎたくなる不快な音が響く。
そしてそれが、破壊されたビルから脱出しようと混乱している人々の頭上に木霊するが、それに気付く者は誰一人としていなかった。
皆、自分が逃げるのに精一杯だから。
「っくぜオラぁ!」
絶叫し、バグナスは重力塊を放った。それを躱し、間合いを詰めようと両下腿から圧縮空気を打ち出す。だがその背後から、先程放たれた重力塊が襲い掛かる。
コートの切れ端を千切り、追い掛けてくるそれに放り投げる。それが重力塊に触れ、破裂した。
そしてその現象を目の当たりにしても、リケットは動揺しない。
あの重力塊はバグナスの〝能力〟で作り出されたものである以上、それを彼がコントロール出来るのは至極当然。
バグナスの双眸が深紅に発光し、全身からその重力塊が際限なく発生してリケットを包んで行く。
それで終わりではない。その上下に巨大な重力力場が発生し、リケットの逃げ道を遮断した。
「〝重力結界〟。まんまなのが気に入らんが、効果的だろう?」
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