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Trash Land
stage of struggle VII
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『第一幕、白亜の獣!!』
結界内の空間が歪み、そして結界壁に漆黒の穴が浮かび出る。
空間が変化し、透明な筈の足元が剥き出しの地面に変わった。
空中から雪のように白いなにかが降って来る。それがその剥き出しの地面に着いた瞬間、其処から急激に木が生える。
だがその木は、普通の樹木ではない。そして降っているもの、それは胞子だ。
そう――生えた木は、シダの木。
一方、結界壁に現れた漆黒の穴からは、巨大ななにかが這い出て来た。
硬い皮膚に包まれた巨大な足が、大きな一歩を踏み出す。
足に続いて、巨大な顔が出た。その口には鋭い牙が並び、大抵の獣ならば容易に噛み千切り磨り潰すことも可能だろう。
続いてその顔には似つかわしくない小さな手が出た、顔に相応しい巨大な胴体が出た。最後に、ヒトの胴体など遙かに凌駕するほど太い尾が出た。
『さぁ! この獣はなんだぁ!?』
司会が絶叫し、それに呼応するように観衆が吠える。
それはまるで、闘技場で命懸けで闘う剣闘士を見物して楽しんでいる者どものようだった。
事実、この状況はその通りになっているが。
その獣――T-REXはリケットを見下ろし、威嚇のためか咆哮を上げた。
そして獲物に狙いを定めるかのように身を沈め、リケット目掛けて突進する。
その瞬間、リケットの両足のモーターが唸りを上げた。
降り続く胞子がリケットの身体に付着し、そして小さな炎を上げて燃え尽きる。
今リケットの身体に埋め込まれている機械は、彼自身が発する膨大なエネルギーを処理しきれずに帯電し、それが全身を包んでいた。
だが〝サイバー〟のエネルギー源である体脂肪で、それほどのエネルギーを放出することは、絶対に不可能。
高速で移動するリケットを追い、T-REXは急激に成長したシダの木を薙ぎ倒しながら突進する。
だが、リケットには追い付けない。その身体に似つかわしくない小さな眼で追うのがやっとだ。
そしてリケットは左手で蛮刀を抜き、逆手に持って跳躍する。
それを叩き落とそうと、T-REXは腕を振り上げた。だがリケットはそれに蛮刀を突き立て、そのまま横に払う。
超高速で振動し高熱を発するそれは、T-REXの腕を易々と焼き斬った。
その傷口から血は流れない。焼き斬るとはそういうことだから。
腕を斬り落とされた苦痛に吼え、だが即座に次の行動に移る。それが白亜紀最強と謂われる所以。
斬り落とされた腕が地面に落ちるよりも速く、T-REXはその巨大な尾を動かし、まだ空中にいるリケットを薙ぎ払う。
その尾に、右腕から撃ち出した鋼の鞭が絡み付く。だがそれだけで止まるものではなく、リケットの身体は空高く飛ばされた。それでも、鞭は解かれていない。
リケットは素早くそれを巻き取って尾の上に立ち、即座にその身体を駆け上がる。
あれほどの巨体を持つものを相手にするときに必要なのは、一度接近したら離れないことだ。
超至近距離では、巨体は意味を成さないから。あの巨体にとって最大の驚異となる距離、それは中間距離。
一般的に考えれば、そうなる。
T-REXの身体を駆け上り、そして一気に頭を叩き割ろうとしていたリケットの全身を、凄まじい衝撃が襲った。
T-REXの全身が振動し、衝撃波が発生する。それが周囲に生えているシダの木を吹き飛ばし、地面を抉る。
そしてリケットもシダの木を何本もへし折りながら吹き飛ばされ、結界壁に叩き付けられた。
それだけで凄まじい轟音が響き、観客が悲鳴を上げる。
結界壁に叩き付けられたリケットは、だがそのまま何事もなかったかのように地面に降り立つ。そして突進して来るT-REXを見た。
その表情は、ない。
巨大な口を開け、リケットを噛み砕こうと頭から突進し、そしてそのまま地面に激突する。
正確には地面はなく、結界壁に、だが。
激突したT-REXの横に移動し、起き上がろうとするその首へと撃ち出した鋼の鞭を巻き付ける。
そして――空気が白色に輝いた。
一瞬にして10万ワットの電流が発生し、T-REXの全身を駆け巡る。だがその電流は、表皮を滑って地面に流れ落ちただけだった。
その反応を見て、リケットは斬り落とした腕へと眼を移してから溜息を吐く。
T-REXの表皮は、30ミリメートルのラバースキンで出来ていた。
咆哮を上げつつ襲い掛かるT-REXから離れ、蛮刀の振動を解除して地面に突き刺す。
熱を保ったそれは、すぐには鞘に収めることが出来ない。余りの高熱のために鞘が熔けてしまう可能性があるから。
咆哮を上げて突っ込んでくるT-REXを一瞥し、懐から煙草を取り出して火を点ける。
そして軽く吸い込んでからゆっくりと吐き、その煙が霧散するより早く、リケットの身体が白色に輝いた。
咥えている煙草が口から零れ落ち、一瞬で蒸発する。
それは彼の身体が膨大なエネルギーを発して帯電している証拠。
「〝Equipment of Molecule Collapse by a High-pressure Electric Current〟」
左腕から鞭を打ち出し、それが突っ込んで来るT-REXの頭部に突き刺さる。
その瞬間――
「Good die」
T-REXの頭部が消滅し、そればかりかその巨体に大きな穴が穿たれる。
その効果、〈EM-C-HEC=Breaker!=〉。
だが突っ込んで来る勢いは止まらない。リケットは、土煙を上げて地面に激突するT-REXの巨体に、そのまま押し潰されて……いない。
リケットは漆黒のコートを靡かせて、空中に舞い上がっていた。
T-REXが突っ込んだ衝撃のためか、サングラスは外れている。
そしてコートを靡かせて宙を舞うその姿は、この上なく美しかった。
風に靡くコートを翼に例えたのならば、彼は漆黒の翼を以て宙を舞う天使か悪魔のようであった。
結界内の空間が歪み、そして結界壁に漆黒の穴が浮かび出る。
空間が変化し、透明な筈の足元が剥き出しの地面に変わった。
空中から雪のように白いなにかが降って来る。それがその剥き出しの地面に着いた瞬間、其処から急激に木が生える。
だがその木は、普通の樹木ではない。そして降っているもの、それは胞子だ。
そう――生えた木は、シダの木。
一方、結界壁に現れた漆黒の穴からは、巨大ななにかが這い出て来た。
硬い皮膚に包まれた巨大な足が、大きな一歩を踏み出す。
足に続いて、巨大な顔が出た。その口には鋭い牙が並び、大抵の獣ならば容易に噛み千切り磨り潰すことも可能だろう。
続いてその顔には似つかわしくない小さな手が出た、顔に相応しい巨大な胴体が出た。最後に、ヒトの胴体など遙かに凌駕するほど太い尾が出た。
『さぁ! この獣はなんだぁ!?』
司会が絶叫し、それに呼応するように観衆が吠える。
それはまるで、闘技場で命懸けで闘う剣闘士を見物して楽しんでいる者どものようだった。
事実、この状況はその通りになっているが。
その獣――T-REXはリケットを見下ろし、威嚇のためか咆哮を上げた。
そして獲物に狙いを定めるかのように身を沈め、リケット目掛けて突進する。
その瞬間、リケットの両足のモーターが唸りを上げた。
降り続く胞子がリケットの身体に付着し、そして小さな炎を上げて燃え尽きる。
今リケットの身体に埋め込まれている機械は、彼自身が発する膨大なエネルギーを処理しきれずに帯電し、それが全身を包んでいた。
だが〝サイバー〟のエネルギー源である体脂肪で、それほどのエネルギーを放出することは、絶対に不可能。
高速で移動するリケットを追い、T-REXは急激に成長したシダの木を薙ぎ倒しながら突進する。
だが、リケットには追い付けない。その身体に似つかわしくない小さな眼で追うのがやっとだ。
そしてリケットは左手で蛮刀を抜き、逆手に持って跳躍する。
それを叩き落とそうと、T-REXは腕を振り上げた。だがリケットはそれに蛮刀を突き立て、そのまま横に払う。
超高速で振動し高熱を発するそれは、T-REXの腕を易々と焼き斬った。
その傷口から血は流れない。焼き斬るとはそういうことだから。
腕を斬り落とされた苦痛に吼え、だが即座に次の行動に移る。それが白亜紀最強と謂われる所以。
斬り落とされた腕が地面に落ちるよりも速く、T-REXはその巨大な尾を動かし、まだ空中にいるリケットを薙ぎ払う。
その尾に、右腕から撃ち出した鋼の鞭が絡み付く。だがそれだけで止まるものではなく、リケットの身体は空高く飛ばされた。それでも、鞭は解かれていない。
リケットは素早くそれを巻き取って尾の上に立ち、即座にその身体を駆け上がる。
あれほどの巨体を持つものを相手にするときに必要なのは、一度接近したら離れないことだ。
超至近距離では、巨体は意味を成さないから。あの巨体にとって最大の驚異となる距離、それは中間距離。
一般的に考えれば、そうなる。
T-REXの身体を駆け上り、そして一気に頭を叩き割ろうとしていたリケットの全身を、凄まじい衝撃が襲った。
T-REXの全身が振動し、衝撃波が発生する。それが周囲に生えているシダの木を吹き飛ばし、地面を抉る。
そしてリケットもシダの木を何本もへし折りながら吹き飛ばされ、結界壁に叩き付けられた。
それだけで凄まじい轟音が響き、観客が悲鳴を上げる。
結界壁に叩き付けられたリケットは、だがそのまま何事もなかったかのように地面に降り立つ。そして突進して来るT-REXを見た。
その表情は、ない。
巨大な口を開け、リケットを噛み砕こうと頭から突進し、そしてそのまま地面に激突する。
正確には地面はなく、結界壁に、だが。
激突したT-REXの横に移動し、起き上がろうとするその首へと撃ち出した鋼の鞭を巻き付ける。
そして――空気が白色に輝いた。
一瞬にして10万ワットの電流が発生し、T-REXの全身を駆け巡る。だがその電流は、表皮を滑って地面に流れ落ちただけだった。
その反応を見て、リケットは斬り落とした腕へと眼を移してから溜息を吐く。
T-REXの表皮は、30ミリメートルのラバースキンで出来ていた。
咆哮を上げつつ襲い掛かるT-REXから離れ、蛮刀の振動を解除して地面に突き刺す。
熱を保ったそれは、すぐには鞘に収めることが出来ない。余りの高熱のために鞘が熔けてしまう可能性があるから。
咆哮を上げて突っ込んでくるT-REXを一瞥し、懐から煙草を取り出して火を点ける。
そして軽く吸い込んでからゆっくりと吐き、その煙が霧散するより早く、リケットの身体が白色に輝いた。
咥えている煙草が口から零れ落ち、一瞬で蒸発する。
それは彼の身体が膨大なエネルギーを発して帯電している証拠。
「〝Equipment of Molecule Collapse by a High-pressure Electric Current〟」
左腕から鞭を打ち出し、それが突っ込んで来るT-REXの頭部に突き刺さる。
その瞬間――
「Good die」
T-REXの頭部が消滅し、そればかりかその巨体に大きな穴が穿たれる。
その効果、〈EM-C-HEC=Breaker!=〉。
だが突っ込んで来る勢いは止まらない。リケットは、土煙を上げて地面に激突するT-REXの巨体に、そのまま押し潰されて……いない。
リケットは漆黒のコートを靡かせて、空中に舞い上がっていた。
T-REXが突っ込んだ衝撃のためか、サングラスは外れている。
そしてコートを靡かせて宙を舞うその姿は、この上なく美しかった。
風に靡くコートを翼に例えたのならば、彼は漆黒の翼を以て宙を舞う天使か悪魔のようであった。
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