HEAD.HUNTER

佐々木鴻

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Trash Land

 indestructible VI

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 研究員達はモニターを見た。其処には真っ白い顔のピエロと、黒い犬が映し出されている。

『大体なぁ、お前は反則なんだよ。大人しく時間制限を守れば良いのによ』

 黒い犬――カペルスウェイトの口から0と1の数字が吐き出される。

 それは敵を抹殺する為のプログラム。

〝サイバー・ワールド〟では、その数字が武器となる。

『何を言ってイるのです。僕は反則なんカしていまセんよ』

 白い顔のピエロが突然転び、乗っていた玉が吐き出された数字に当たり、対消滅する。
 転んだピエロは上半身を起こし、キョロキョロと周囲を見回してから何処からともなくボールを出してジャグリングを始めた。

『僕はそノように作られタのです。貴方だって知っテいる筈でシょう』

 そのボールがピエロの手から次々と零れて行き、黒い犬へと向かう。それら一つひとつには強力な破壊プログラムが込められていることは承知している。

 それはこのシステムに侵入した者、E・ヘッドが最も得意としている兵器。

 圧縮された破壊プログラム〝ディスインテグレーション・チェーン〟。

 数珠繋ぎに連なるボールが弾け、カペルスウェイトを襲う。

 だがそのプログラムを使いこなせるのは、何もE・ヘッドばかりではない。彼も同様に同じプログラムを放ち、相殺する。

〝サイ・デッカー〟の戦いにおいて、攻撃を躱すことは一切出来ない。

 何故ならそうすることにより、背後にあるデータが破壊されてしまうから。

 ハッキングを仕掛ける側とされる側とでは、そういう意味で条件は一緒だ。

 そして背後のデータが破壊されるということは、最悪の状況として帰還不能になってしまう。

 そうなると、待っているものは否応のない死だ。

『だ・か・ら、気に入らないんだよ』

 黒い犬が咆哮をあげる。そしてそれを皮切りに背後のメインコンピューターから0と1で構成された不定形の塊が無数に這い出て来る。

『俺が幾ら努力して自身の処理速度を上げようと、俺はお前に敵わない。どんなに強力なプログラムを作り出そうと、お前は絶対にそれを打ち破る。それは何故か? 答えは簡単だ、お前が【Vの子供達】だからじゃねぇ。お前が〝サイ・デッカー〟の中で最も非常識で、最も人に遠い存在だからだ』

 その不定形のものは、ゆっくりとピエロを囲み始める。それに対して再びボールを出し、周りに次々と放つ。だがその不定形のものはそれを飲み込み、逆に大きくなる。
『……君のソフト開発技術ハ賞賛すべきもノがあるね。そんな所にイないで、大人しくそレを販売すれば一生オ金に困らないト思うよ』

 腰に手を当てて、困った様に首を傾げながらピエロが言う。もう殆ど囲まれているというのに、動揺した様子は全くない。
 その余裕に根拠があるということが、痛いほど身に染みて判っているカペルスウェイトだった。

『言ってろ。それにそうした所で、即座にお前がアンチソフトを作り出すだろうが』
『アンチソフトを作リ出すことは、案外簡単だカらね』

 不定形のものに完全に囲まれ、ピエロは背後にあるデータバンクと完全に遮断された。即ち、帰還不能になったのである。

「〝エクスキューショナー〟の再構成進化型アンチプログラム、〝マーダー〟。どうかな、閉じ込められた感想は?」

 黒い犬が消え、カペルスウェイトが起き上がって首のプラグを抜いた。

 時刻は16.54タイム。もうじき3分が経とうとしている。

 そして〝サイ・デッカー〟が「ダイブ」していられる時間は、3分。

『良くなイね』
「ま、良い奴ぁいねぇだろうなぁ」

 言いながらキーボードを弾き、データのバックアップを取り始めた。そして研究員たちにもそうするように指示する。

「え? でももうバックアップする意味は……」

 研究員の一人がそう言い掛けたが、

「研究を無駄にしたくなかったらやれ」

 睨まれて、指示に従った。だが彼が慌てている理由が判らない。既に侵入者を閉じ込め、時間が過ぎれば自動的に消滅する筈だ。
 消滅する際に多少の抵抗あるだろうが、あれだけのアンチソフトに囲まれているために、大した衝撃は来ないだろう。精々時計が狂う程度だ。

 研究員の多くがそう思っていた。だが……。

「……遅かったか……」

 舌打ちをし、カペルスウェイトはキーボードを弾く。そして残った全てのデータを消去し始めた。

「な、何をしているのですか!?」

 慌てて止めようとする研究員達を無視して作業を続ける。そしてその意味を知らせるために、彼はモニターを指差した。

 其処には閉じ込められたピエロが――いなかった。

 代わりに人形が一体いるだけである。

「E・ヘッドの二次形態。一次形態のままある程度の時間が経つと発動する。『ホワイト・フェイス』のときにバックアップを済ませたかったが……もう無理だ。このシステムは全て消去する。済まない、研究が無駄になった」
「どういうことですか?」

 質問する研究員を尻目に、彼の作業は続いた。そして……

『yyyyyYYYYYYYAHAAAAAAAAAaaaaaaaaaAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa―――――――!!』

 スピーカーから、狂気じみた雄叫びが聞こえて来る。そしてモニターに映る人形が動き始めた。

「『オート・マータ』――始まったか……」

 本社に続く回線を遮断し、カペルスウェイトは舌打ちをする。

 時刻は、16.56タイムを指していた。
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